公開日:2022.11.02
両親が高齢になってきた、離れて住む高齢の親がひとりで暮らしている、などという人は、 介護のことが身近な問題として気になり始めるのではないでしょうか。
高齢による身体機能の衰えや、認知症などの病気やケガなどにより介護が必要となったときには、介護サービスを提供する公的な介護保険制度を利用することができます。
家族や親族の高齢化により気になることが増えてきたら、介護保険の認定申請についてそろそろ考えたほうがよい時期かもしれません。
病気や障害、高齢のために家族を介護する必要が生じたなら、日常生活における起き上がり、移動、食事、排泄や入浴など、身体的な支援だけではなく、精神的な支援も必要です。介護をするうえで、どんな方針を立てて取り組めばいいのかをよく考えて実行していきましょう。
介護される人の多くは、住み慣れた地域や住まいで暮らし続けたい、可能な限り自宅で暮らしたいと願っています。自分で立てたスケジュールに沿って日常生活を営み、起床や就寝時間も自分の都合や体調に合わせ、食事も自分の自由にできる暮らしがしたいのです。
つまり、生活全般にわたってできるだけ長く「その人らしく暮らしていくことができる」ように支援の仕方を考えていくことが大切です。介護が必要な人の尊厳を保ちながら生活の質を高め、できるだけ自立した生活ができるように、押しつけではなく寄り添うような支援をすることが介護の基本になります。
介護をする際は、精神的な満足度や価値観の尊重、社会参加など、その人がその人らしくあるために望むことが可能な限りできているかどうかを、ときどきチェックしてみましょう。また、介護をする人がなるべく無理をせず、負担がかかりすぎないようにすることも大切です。
すべての重荷をひとりで背負い込まず、周囲に介護を頼める人がいれば遠慮をすることなくお願いし、利用できるサービスがあれば積極的に活用していきましょう。大切なことは、介護についての手続きや知識、役立つ情報などをよく調べ、自身の健康や生活面を犠牲にせず済むように工夫することです。
介護が必要になると特別な献立が必要になったり、食事に時間がかかることなどから、介護される人はひとりで食事を済ますことが多くなりがちです。ひとりきりの食事は味気なく、食欲の減退につながります。
食事の時間は食べることを楽しむ時間であるばかりでなく、家族と一緒の時間を過ごすことができる大切な時間です。本人が家族の一員であることが実感できるように、食事はできるだけ一緒にとるようにしましょう。
コミュニケーションを心がけることで、介護される人であっても楽しみや生きがいをもって生活することができます。ときにはお茶を飲みながら、昔の思い出話や相手が好きな話題についておしゃべりしたり…。そうした団らんの時間を持つことが、とても大切です。
別居していたり、施設へ入居している場合には、日々の忙しさに紛れてコミュニケーションがおろそかになりがちです。定期的に訪問することが難しい場合は、電話をかけて会話をしたり、介護をしてくれている人に積極的に連絡を取りましょう。
1日に5分でも電話で家族の声を聞くだけで「自分のことを気にかけてくれている」と、介護される人も喜んでくれるはずです。介護が必要な人は、思うように動けないことで、不安や寂しさを感じながら日々を過ごしています。そんな中で「自分を支えてくれる家族の存在」があれば、心強く感じて安心することができるのではないでしょうか。
多くの人が望んでいるのが、介護が必要になっても、住み慣れた自宅や地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けたいということです。その望みを実現するには、家族などの協力が欠かせません。
兄弟や配偶者、子ども、友人などの協力者がチームを組むことや、介護サービスを上手に利用していくことが求められます。
介護が必要な人の最も身近にいる人が介護のリーダーになることで、スムーズな介護を行うことができます。ケアマネジャーや介護事業所への連絡や家族の話し合い、介護サービスの依頼や管理、介護に必要なお金の出し入れなどを、リーダーになる人が責任を持って行いましょう。
少子化や核家族化、晩婚化、共働きなどにより、家族を取り巻く状況はさまざま。また、子どもの教育費がかかる、住宅ローンを組んでいるなど、介護を担う側もいろいろな事情を抱えています。介護費用のことや介護内容、今後のことなどについて、よく話し合っておくことが大切です。
それぞれの役割分担や協力体制について、具体的に決めておきましょう。遠くに住んでいて介護の手助けができない場合には、金銭的負担をしたり、時間がとれる週末だけ介護を受け持ったり、毎日の電話による安否確認などを担当しましょう。自分にできること、できないことを率直に話し合って分担していきます。不公平感のない分担を目指すことが大切です。
普段から風邪や腹痛などで診てもらっている身近なかかりつけ医は、気軽に相談できる存在です。既往歴や現在の疾患、生活実態などを把握したうえで、健康管理のアドバイスもしてくれます。かかりつけ医の多くは入院設備を持たないクリニック(医院)で、検査などが必要になれば、入院設備を持つ一般病院や高度な治療を行う専門の病院の紹介も可能です。緊急時には往診もしてくれる体制があると、より安心です。
どのようなサービスが利用できるのか、居住地の市区町村役場に積極的に問い合わせてみましょう。介護保険制度によるサービスを受けるには、要介護認定の申請を行います。そのほか、介護保険制度以外の各自治体独自の福祉サービスもあります。
有償ボランティア団体が提供するサービスなど、さまざまな民間支援サービスがあります。家事代行や配食などのサービスを活用することで、介護の負担を減らすことができます。
介護をする人もされる人も、親しいご近所の人の存在は心強いものです。気持ちのよいおつきあいが継続できるよう、隣り近所の人たちに声をかけ、普段からコミュニケーションを心がけるようにしましょう。また、地域によっては、ゴミ出しや見守りなど、ちょっとしたサービスを行っていることがあります。老人クラブや自治会、ボランティア、NPOなどの情報を集め、自治会や民生委員など相談しやすいところへ積極的に声をかけ、利用できるサービスを探しましょう。
高齢者など介護や医療が必要な人へ、切れ目のない介護・医療サービスを提供するための「地域包括ケアシステム」。その内容を充実させるための取り組みが各自治体で進められています。
地域包括ケアシステムにより、住まい・医療・介護・生活支援・介護予防が一体的に提供され、要介護となっても住み慣れた地域で暮らしを続けることが可能になっていきます。今後、増加が見込まれる認知症高齢者の生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築は重要です。このシステムは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(中学校区)を単位として構築することとされています。
各自治体によりその進み度合いは異なりますが、主に次の❶〜❺のサービス構築が推進されています。
住み慣れた地域で「要介護2」までなら、必要なときに手を貸してもらえば一人暮らしを続けることはそれほどむずかしくはありません。日中なら、ホームヘルプサービスやデイサービスを利用していれば人の出入りもあります。
しかし、さまざまな介護サービスの利用が必要になると、「家の中で転んでケガをして起き上がれなかったら、誰にも気づいてもらえないのではないか」といった不安が大きくなってきます。
要介護度が重度化して「要介護3」になると、「一人暮らしの限界」となります。個人差はありますが、一般的には「ひとりでトイレに行けなくなる」と、一人暮らしは厳しくなると考えられます。しかし、施設ではなく、可能な限り住み慣れた環境の中で今までと変わらない生活を続けたいという願いを持つ人は多く、昨今、居住型サービスへの関心が高まっています。
そして、そのような背景から在宅に「365日・24時間の安心」を届けることのできる新しい在宅介護サービスの仕組みが注目されています。その内容は、日中の通いや一時的な宿泊、夜間や緊急時の訪問サービス、介護スタッフが居住するといった「通う」「泊まる」「訪問を受ける」「住む」などの複数のサービスが、介護が必要な人や家族の要望に応じて提供されるというものです。
要介護者の心身の状態を継続的に把握しているスタッフによって継続的なサービスの提供が行われることにより、本人の「在宅で過ごしたい」という希望をかなえることが可能になります。このような切れ目のないサービスを利用者の生活圏域で行うには、一体的・複合的に提供できる小規模・多機能サービス拠点が整備されていくことが必要です。
出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行
『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用