更新日: / 公開日:2019.04.09
住宅ローンなどの不動産を担保にするローンを組むためには、担保不動産に抵当権を設定しなければなりません。不動産を担保にローンを組む前に、抵当権がどういった権利かを正しく理解しておきましょう。
この記事では、抵当権と、混同しやすい根抵当権も含めて解説します。
抵当権とは、金融機関(=債権者)が融資をする際、ローンを借り入れる人(=債務者)が所有する不動産に設定をする権利のことです。抵当権を設定することで、債務者がローンの返済ができなくなったときに、債権者が不動産を競売にかけて、売却代金から優先的に返済を受けられます。。なお、法律上では、お金を借り入れる債務者が「抵当権設定者」と呼ばれ、お金を貸す債権者が「抵当権者」と呼ばれます。
抵当権が設定されても、所有者はその不動産を使用することができます。住居として使っていれば住み続けることができ、賃貸物件として使っていれば、家賃収入などを得ることができます。
住宅ローンなど、不動産を担保としているローンの返済を滞納してしまうと、抵当権が実行され、競売によって担保不動産を強制的に売却されてしまいます。売却資金で住宅ローンの残債を弁済することになりますが、競売による売却価格(落札価格)は、基本的に市場価格を下回るため、最悪の場合は債務が残る恐れもあります。
競売を避ける方法として、金融機関と相談のうえで担保不動産を売却する「任意売却」があります。任意売却であれば基本的に通常の不動産取引と同じような売買が可能なので、市場価格に近い価格で売却できる可能性があります。
抵当権の設定と抹消は、どちらも法務局で行います。それぞれ順に解説します。
抵当権の設定手続きは法務局が行っており、不動産の登記簿に抵当権を登記することで設定が完了します。登記すべき内容には、主に以下のようなものがあります。
また、登記をするには「登録免許税」がかかり、その税額は融資額に0.4%の税率を掛けた額になります。融資額が1,000万円であれば登録免許税は4万円になる計算です。なお、このほかの費用としては、「抵当権設定契約書」に貼る収入印紙代や、手続きを代行する司法書士に支払う報酬などがあります。
ローンの返済が終了すれば、金融機関が有する抵当権の権利は無くなります。しかし、抵当権を抹消する手続きをとらないと、登記簿には抵当権が記載されたままになります。抵当権が残ったままだと、その不動産を売却するときなど、支障が生じる恐れがあるので、速やかに抹消の手続きを取った方がよいでしょう。
抵当権の抹消は、法律上の抵当権設定者である債務者が行います。抹消の手続きについても、法務局で登記簿に「抹消したこと」を登記することが必要です。この手続きにも登録免許税がかかり、税額は不動産1件につき1,000円です。
したがって、土地と建物の抵当権を抹消するには合計で2,000円になります。なお、手続きは、司法書士に代行を依頼することが一般的ですが、抹消手続きは抵当権の設定手続きに比べると簡単なので、自分で行うこともできるでしょう。
根抵当権(「ねていとうけん」と読みます)は抵当権の一種です。債務者がローンの返済ができなくなったときに、担保不動産を競売にかけて、その売却代金から優先的に返済を受けられるところは、抵当権と同じです。一方で、抵当権は〝特定〟の債権にのみ有効であるのに対して、根抵当権は〝不特定〟の債権にも有効になる点が異なります。
抵当権は1つのローン契約にのみ有効なので、そのローンが完済されれば権利は消滅します。一方、根抵当権に基づいた契約は、あらかじめ融資をする金額の上限を決めておいて、その範囲内で〝何回でも〟融資ができるようになります。したがって、根抵当権が設定されれば、1つのローンが終了しても根抵当権は消滅せず、権利は残ったままになります。
不動産担保ローンのように、複数回借りる可能性のあるローンについては、根抵当権を設定しておくことで、融資の度に登記の手続きをして抵当権を設定する、ということが避けられます。これは手間と費用(登録免許税や収入印紙代、司法書士への報酬など)の省略につながります。
実際の手続きなどは、抵当権とほぼ同じと考えてよいのですが、登記簿に登記する内容に違いがあります。根抵当権の場合、主に登記するのは以下の三点で、この中でも極度額が重要です。
根抵当権の極度額とは、根抵当権を設定するときに定められる担保の限度額です。あらかじめ融資額の限度を決めておいて、その範囲内なら、何回でも融資ができます。例えば、極度額が3,000万円であれば、最初に1,000万円を借り、その返済が終了する前に、追加で1,000万円を借りる、といったことが可能です。その追加で融資を受ける際、わざわざ手間と費用をかけて法務局で手続きをする必要はありません。
なお、根抵当権は、債務者と債権者の合意があれば抹消をすることができます。事業の運転資金を借り入れる場合、追加融資を受けることは珍しくありません。そうしたケースでは、融資を受ける側にとって、根抵当権は使い勝手がよいといえるでしょう。
そもそも、団体信用生命保険(以下、団信)に加入していれば、債務者が死亡したときに支払われる保険金で残債が完済となるため、相続時点で抵当権が抹消されます。一方で、団信に加入していなかった場合は、抵当権付きの不動産を相続することになります。
抵当権付きの不動産を相続する場合、ローンの返済義務を相続人が引き継ぎます。また、相続の際には、通常の不動産と同じように相続税が課税されます。このとき、抵当権が設定されているからといって、不動産自体の相続税評価額が下がる、といったことはありませんが、相続税額を計算する際に、相続をする財産の全体から残債分を差し引くことになります。
抵当権付きの不動産であっても、売却することは可能です。その場合、売主である債務者が、売却によって得た代金でローンを完済し、抵当権の抹消手続きを行うことになります。
抵当権は、登記簿謄本で確認できます。不動産登記の情報が記載されている不動産登記簿謄本のうち、権利部(乙区)というところに抵当権の内容が記載されています。詳細は以下の記事で解説しています。
抵当権を実行されると、担保としている不動産を手放さなければならなくなります。不動産を担保にローンを組む場合は、無理のない返済が可能かを確認したうえで契約を進めるようにしましょう。また、抵当権の設定登記や抹消登記は、必要書類の準備など手間がかかります。債権者である金融機関や専門家に相談しながら、正確に手続きを進めるようにしましょう。
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