用語・制度のことが知りたい

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「用語・制度」の記事一覧

  • 相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説

    相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説

    「維持管理の費用がかかる相続した土地を手放したい」と悩んでいませんか。相続土地国庫帰属法の成立により、今後は相続した不要な土地を国に引き取ってもらえるようになります。ただし、対象となる土地には要件があるため、制度の内容を理解しておくことが大切です。 この記事では、相続土地国庫帰属法の概要やその制度を利用する際の条件、相続放棄との違いなどを解説します。 相続土地国庫帰属法とは 相続土地国庫帰属法とは、2022年4月28日に交付された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」のことです。相続した不要な土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。2023年(令和5年)4月27日に施行されます。 相続土地国庫帰属法が成立した背景 相続土地国庫帰属法が成立した背景には、「相続した不要な土地を手放したい」というニーズの増加があります。 都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、相続によって望まない土地を取得したことで所有者の負担感が増し、管理不全を招くケースが増加しています。増加傾向にある所有者不明土地の発生を抑制するため、相続土地の所有権を国庫に帰属させることが可能となりました。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 相続放棄との違い 不動産を相続したくない場合は、相続放棄をするのも選択肢のひとつです。しかし、相続放棄ははじめから相続人ではなかったとみなされるため、相続財産(資産および負債)のすべてを放棄する必要があります。そのため、不要な土地・建物だけを放棄することはできません。 また、相続放棄をすれば土地の管理義務がなくなるというわけではありません。他の相続人が管理を始められるようになるまでは管理義務を負うことになります。 一方、相続土地国庫帰属制度は相続放棄と異なり、「相続開始を知ったときから3ヵ月以内」といった制限はありません。制度を利用するために負担金を払う必要はありますが、相続土地を国庫に帰属させれば管理義務はなくなります。 相続土地国庫帰属制度の概要 相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする制度です。土地の管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードを防止するため、一定の要件を設定し、法務大臣が要件審査をすることとなっています。 承認申請できる人 単独所有の土地は、相続等により土地の全部または一部を取得した人が申請権者です。 複数人で共有している土地は、共有者全員で共同して承認申請を行います。共有者のうち、1人が相続等により持分を取得していれば、共同して承認申請が可能です。 対象となる土地の要件 相続土地国庫帰属制度を利用し、土地を手放すためには、「通常の管理・処分をするにあたり、過分の費用や労力を要する土地」に該当しないことが必要です。 具体的には、以下5つに該当する土地は承認申請が却下されます。 建物のある土地 担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地 通路など他人による使用が予定される土地 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地 境界が明らかでない土地、その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地 たとえば、建物が残っている場合は取り壊して更地にしなくてはなりません。抵当権が残っていると申請できない点にも注意が必要です。 関連記事はこちら抵当権とは?根抵当権との違いや設定・抹消登記について解説 また、以下5つに該当する土地は不承認処分とされます。 崖がある土地で、通常の管理に過分の費用または労力を要するもの 土地の通常の管理・処分を阻害する工作物、車両または樹木などが地上にある土地 除去しなければ土地の通常の管理・処分ができない有体物が地下にある土地 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理・処分ができない土地 上記のほか、通常の管理・処分に過分の費用または労力を要する土地 このように、相続した土地を国庫に帰属させるには一定の要件を満たす必要があります。却下・不承認処分のいずれも、行政不服審査・行政事件訴訟により不服申立てが可能です。 相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリット 相続土地国庫帰属制度は、相続で取得して管理や処分に困っている土地を国に引き取ってもらえることがメリットです。土地の所有権が国庫に帰属されれば、相続した土地の管理から解放され、固定資産税の負担もなくなります。維持費のみがかかり、処分がしづらい山林なども制度対象です。 一方で、相続した不要な土地を引き取ってもらうには、10年分の土地管理費相当額の負担金が発生します。粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円が目安です。 また、制度対象となる土地が限定されるのもデメリットです。建物がある状態では引き取ってもらえないため、更地にしなくてはなりません。建物の構造や広さ、土地の状況によってはまとまった費用負担が生じる可能性があります。 相続土地国庫帰属制度の利用手続き 相続土地国庫帰属制度の利用手続きの流れは以下のとおりです。 承認申請 法務大臣(法務局)の要件審査・承認 負担金の納付 国庫帰属 まずは承認申請書と政令で定める額の手数料を納めましょう。法務大臣には調査権限があり、必要に応じて実地調査が行われます。申請が承認されたら、承認通知を受けた日から30日以内に負担金を納付します。期限までに納付しないと承認が取り消されるので要注意です。 まとめ 相続土地国庫帰属法の成立により、相続後に処分に困っていた土地を国に帰属させることができます。相続放棄とは異なり、土地だけに限定して処分ができることから、要件を満たせば維持管理に負担がかかる不要な土地を手放すことができるかもしれません。 相続した土地を手放したい場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。 出典)法務省「相続土地国庫帰属制度について」 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 不動産相続について徹底解説!知っておきたい手続きや費用 不動産を相続することになった場合、さまざまな手続きが必要になります。不動産相続では、相続税や遺産分割で、トラブルが発生することもあります。不動産相続をスムーズに進めるには、手続きの流れを理解...記事を読む

    2022.07.27制度
  • 長期優良住宅とは?認定制度の概要やメリット・デメリット、申請手続きの流れを解説

    長期優良住宅とは?認定制度の概要やメリット・デメリットを解説

    住宅を購入しようとするときに、「長期優良住宅」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。長期優良住宅であることで、税制優遇措置や住宅ローンの金利引き下げなどのメリットがあるため、これから住宅を購入するなら選択肢の1つとなります。 この記事では、長期優良住宅の概要やメリット・デメリット、申請手続きの流れについて解説します。 長期優良住宅とは 長期優良住宅とは、長期にわたって良好な状態で使用するための措置が講じられた住宅です。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて、2009年6月から「長期優良住宅認定制度」が開始されました。 背景には「ストック重視の住宅政策への転換」があります。環境負荷の低減や建て替え費用の負担軽減のため、従来の「作っては壊す」スクラップ&ビルド型の社会から、「いいものを作って、きちんと手入れをして、長く大切に使う」社会への移行を目指しています。 長期優良住宅の認定を受けるには、必要な措置を講じたうえで所管行政庁に申請する必要があります。一度認定を受けたら終わりではなく、工事完了後も維持保全計画に基づく点検などが求められます。 出典)国土交通省「長期優良住宅のページ」 長期優良住宅の認定状況 長期優良住宅の認定戸数の累計は、令和2年度末で120万戸以上(新築と増改築の合計)です。全体の約98%は戸建て住宅が占めています。認定戸数は年間10万戸程度で推移しており、新築戸建ての約4戸に1戸は長期優良住宅の認定を取得しています。 出典)住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」 長期優良住宅の認定基準 長期優良住宅として認定されるためには、定められている認定基準を満たす必要があります。新築戸建ての主な認定基準をまとめました。 項目認定基準の内容 劣化対策数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できる 耐震性耐震性能が高く、地震の振動に耐えられる 維持管理構造躯体に比べて耐用年数が短い内装・設備について、維持管理を容易に行うことができる 省エネルギー性断熱性を高めることで冷暖房負荷を軽減できる 居住環境良好な景観の形成、地域における居住環境の維持・向上に配慮している 住戸面積良好な居住水準の確保に必要な規模を有する 保持保全計画将来を見据えて定期的な点検・補修等に関する計画が策定されている 災害配慮自然災害による被害の発生・防止・軽減に配慮されている 「耐震性は耐震等級2以上」「住戸面積は75㎡以上」など、それぞれの項目について一定の基準が設けられています。 共同住宅(マンションなど)については、上記に加えて以下の基準もあります。 項目認定基準の内容 可変性居住者のライフスタイルの変化等に応じて間取りの変更が可能 バリアフリー性共用部分について将来のバリアフリー改修に対応できる 長期優良住宅のメリット 長期優良住宅のメリットは以下のとおりです。 補助金を受けられる 長期優良住宅を取得する際は、「地域型住宅グリーン化事業」の補助金を受け取られます。本事業の採択を受けた中小工務店などが整備する木造住宅を建築することが要件です。 令和4年度の場合、長寿命型の住宅は最大140万円、ゼロ・エネルギー住宅型は最大150万円が補助されます。 出典)地域型住宅グリーン化事業「令和3年度事業からの変更点」 税制優遇措置が設けられている 長期優良住宅の認定を受けた新築住宅には、以下の税制優遇措置が設けられています。 税目優遇措置の内容 所得税控除対象限度額を5,000万円に引き上げ(一般住宅は3,000万円)※ 登録免許税所有権保存登記の税率を0.1%に引き下げ(一般住宅は0.15%) 固定資産税減税措置(1/2に減額)の適用期間を戸建て5年間、マンション7年間に延長(一般住宅は戸建て3年間、マンション5年間) 不動産取得税課税標準からの控除額を1,300万円に増額(一般住宅は1,200万円) 住宅ローン減税は2023年12月31日までの入居、その他は2024年3月31日までの入居が要件です。 出典)住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」 フラット35の金利が下がる 住宅金融支援機構のフラット35Sが適用されると、フラット35の借入金利から年0.25%引き下げられます。金利引き下げ期間は住宅の技術基準レベルによって異なり、Aプランが当初10年間、Bプランが当初5年間です。 出典)住宅金融支援機構「【フラット35】S」 地震保険料の割引がある 長期優良住宅は、住宅の耐震性に応じて地震保険料の割引を受けられます。耐震等級を有している建物の場合、割引率は耐震等級2が30%、耐震等級3が50%です。免震建築物の割引率は50%となっています。 出典)住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」 長期優良住宅のデメリット 一方で、長期優良住宅には以下のようなデメリットもあります。 認定を受けるために費用がかかる 長期優良住宅は、認定を受けるための費用がかかります。具体的には、図面・計算書の書類作成費用や認定申請手数料、申請代行費用などです。所管行政庁や建築会社によって費用は異なるため、いくらかかるかを事前に確認しておきましょう。 一般住宅より建築コスト高い 長期優良住宅は、耐震性や省エネルギー性などの認定基準を満たなくてはなりません。品質の高い材料を使ったり、基準を満たす設計を行ったりする必要があるため、一般住宅よりも建築コストは高い傾向にあります。 住宅の維持保全に手間がかかる 長期優良住宅は、工事完了後に計画的な点検の実施、適切な補修・改良、記録の保存などが必要です。10年に一度の定期点検などを怠った場合、認定を取り消される場合もあります。 長期優良住宅の認定手続きの流れ 長期優良住宅の認定手続きの流れは以下のとおりです。 認定基準を満たすように設計を行う 登録住宅性能評価機関に審査を依頼する 必要書類を準備して所管行政庁に認定申請をする 認定通知書が届く(着工開始) 認定申請は着工前までに行う必要があります。申請手続きは施行事業者が代理で行うことも可能です。工事完了後は維持保全計画書に基づいて定期的に点検を実施し、必要に応じて調査・修繕・改良を行います。 まとめ 長期優良住宅は長期にわたって快適に住み続けることができ、取得する際は補助金や税制優遇制度、住宅ローンの金利引き下げなどを受けられます。一方で、建築コストが比較的高く、維持保全に手間がかかるというデメリットもあります。メリット・デメリットを比較したうえで、長期優良住宅の取得を検討しましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 低炭素住宅とは?認定基準、メリット・デメリットを解説 環境問題への意識の高まりから、マイホームの建築・購入の際に「低炭素住宅」を選ぶ人が増えています。環境にやさしい住宅であり、税制優遇を受けることもできますが、認定を受ける際の注意点もあります。...記事を読む

    2022.07.06制度
  • マンション管理適正評価制度とは?仕組みや評価項目、メリット・デメリットを解説

    マンション管理適正評価制度とは?メリット・デメリットを解説

    2022年4月から「マンション管理適正評価制度」が開始されました。本制度は適切に維持管理されているマンションが、市場で評価されるための新たな仕組みです。同じ時期に国の「マンション管理計画認定制度」も開始されましたが、どのような違いがあるのでしょうか。 この記事では、マンション管理適正評価制度の仕組みやメリット・デメリット、マンション管理計画認定制度との違いについて解説します。 マンション管理適正評価制度とは マンション管理適正評価制度とは、2022年4月に開始された、マンションの管理状態や管理組合運営の状態を評価する仕組みです。 日本国内で築年数の古いマンションが増加傾向にあり、維持管理に課題を抱えています。このようなマンションの老朽化抑制や、維持管理の適正化を図るため、一般社団法人マンション管理業協会が不動産関連団体と協力して、全国共通の評価基準を創設しました。マンション管理適正評価制度ではマンションの状態が6段階で評価され、評価結果は毎年更新されます。 なお、国土交通省の資料によると、令和2年末で築40年超のマンションは103.3万戸です。10年後には約2.2倍の231.9万戸、20年後には約3.9倍の404.6万戸に増加すると見込まれています。 出典) ・国土交通省「築後30、40、50年超の分譲マンション戸数」 ・一般社団法人マンション管理業協会 マンション管理適正評価制度の評価項目 マンション管理適正評価制度では、マンションの管理状態を5つのカテゴリーに分類し、30項目について評価します。カテゴリーと各評価項目は下表のとおりです。 カテゴリー評価項目 管理体制(20ポイント)管理者の設置総会の開催、議事録の作成

    2022.06.29制度
  • 都市計画法とは?概要や定められている内容を解説

    都市計画法とは?概要や定められている内容を解説

    都市計画法は、街づくりのルールを定めた法律です。都市の開発や利用に関するルールを設けることで、快適な都市生活を送れることは理解できるかもしれません。しかし、法律でどのような事項が定められているかはよくわからないのではないでしょうか。 この記事では、都市計画法の概要や定められている内容についてわかりやすく解説します。 都市計画法とは 都市計画法とは、都市計画に必要な事項について定めている法律です。都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため、土地利用や都市施設の整備、市街地の開発などに関するルールが設けられています。 都市計画法第1条では、本法律の目的を以下のように定めています。 この法律は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。 出典)都市計画法 第1条(e-Gov法令検索) 都市計画法の構成と概要 都市計画法の構成は以下のとおりです。併せて概要も紹介します。 総則(第一章) 都市計画法の目的、基本理念、国・地方公共団体や住民の責務、用語の定義が主な内容です。都市機能を確保するために、適正な制限のもとに合理的な土地利用を進めることを基本理念としています。 国・地方公共団体には都市計画の適切な遂行に努めること、住民には目的達成に協力することを求めています。 都市計画(第二章) 都市計画の内容や決定・変更に関する内容です。都市計画に定められる区域区分の詳細や都市施設などが説明されています。都市計画は都道府県や市町村が定めるとしており、計画の決定や変更に必要な手続きについても決められています。 都市計画制限等(第三章) 開発行為や特定地域内における建築などの規制に関する内容です。無秩序に開発や建築が行われることがないように、土地利用の制限について詳細に定められています。また、開発行為や建築の許可を受けなくてはならない基準なども説明されています。 都市計画事業(第四章) 都市計画事業の認可や施行に関する内容です。誰が事業の認可を行うのか、認可や施行に必要な手続きなどについて定められています。 その他(第五章~第九章) 都道府県や市町村が施設設備予定者と締結する都市施設等設備協定、市町村長が指定できる都市計画団体の内容について定められています。また、都市計画に関する審議会や立入検査、罰則に関する説明もあります。 都市計画法で定められている主な内容 都市計画法で定められている主な内容を、大きく2つに分けて解説します。 ①土地の区分に関する内容 都市計画法では、日本の国土を「都市計画区域」と「準都市計画区域」に分類しています。 都市計画区域は、都市として総合的に整備・開発が行われる地域のことです。原則として、都道府県が都市計画法に基づいて指定します。都道府県や市町村が策定した都市計画に基づき、都市施設の整備などが進められます。なお、2023年3月31日時点では、国土の約27%が都市計画区域に指定されており、全人口の約95%は都市計画区域内に居住しています。 「市街化区域」と「市街化調整区域」の違い 都市計画法では、無秩序な開発を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に区分しています。どちらにも区分されていない地域を「非線引き区域」といいます。 市街化区域では、優先的かつ計画的に市街化が行われます。一方で、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域と位置付けられており、原則として開発行為は禁止されています。 図:都市計画法による土地区分 ※筆者作成 市街化区域内に指定される用途地域 都市計画区域内の土地を利用目的によって区分し、建築物などのルールを決めて地域地区を指定しています。地域地区にはさまざまな種類がありますが、代表的なものが「用途地域」です。 市街化区域では、必ず用途地域を定めることになっています。大きく「住居地」「商業地」「工業地」の3つに区分したうえで、13種類の用途地域を定めています。各用途地域では建築物の用途や容積率、建ぺい率、高さなどが規制されており、これに反する建物は建築できません。 関連記事はこちら「用途」からみた土地の種類 ②都市施設・市街地開発事業に関する内容 都市施設とは、都市生活者の利便性向上や良好な都市環境の確保のために必要な施設です。具体的には、「道路」「公園」「ごみ焼却場」「下水道」などが該当します。都市計画で都市施設の整備が決定され、その区域内に建築規制が及びます。 市街地開発事業とは、市街地を面的・計画的に開発する事業のことです。土地収用や換地といった手法により、宅地や公共施設の整備などが行われます。代表的な事業の種類に「土地区画整理事業」「市街地再開発事業」などがあります。 都市施設の整備や市街地開発事業は都市計画によって決定され、その区域内に建築規制が及ぶことになります。 都市計画区域・準都市計画区域における開発許可 都市計画区域や準都市計画区域では、無秩序な開発を防ぎ、計画的かつ持続可能な都市の発展を図るために、開発行為には都道府県知事や市長の許可が必要です。この許可制度は、地域の自然環境や住民の生活環境を守る上で非常に重要な役割を果たしています。 開発行為の定義 都市計画法第4条第12項で定めている開発行為は以下のとおりです。 建築物の建築 第1種特定工作物(コンクリートプラント等)の建設 第2種特定工作物(ゴルフコース、1ha以上の墓園等)の建設を目的とした「土地の区画形質の変更」 出典)国土交通省「開発許可制度の概要」 第1種特定工作物とは、周辺の地域の環境の悪化をもたらす恐れがある工作物のことをいいます。また、第2種特定工作物とは、ゴルフコースや大規模な野球場や遊園地、墓地などで、建設に許可手続きが必要になります。 開発許可の規制対象規模 開発行為における規制の対象規模は、その地域によって異なります。(都市計画法第22条第2項、都市計画法施行令第19条) 詳細は下図のとおりです。 出典)国土交通省「開発許可制度の概要」 なお、図書館や公民館等の公益上必要な建築物のうち周辺の土地利用上支障がない建築を行う場合や、土地区画整理事業等の施行として行うものは規制の対象外となります。 出典)都市計画法第29条(e-Gov法令検索) 開発許可の基準 開発許可の基準には、2つの基準があります。 ・技術基準(都市計画法第33条) ・立地基準(都市計画法第34条) 技術基準は道路・公園・給排水施設等の確保、防災上の措置等に関する基準です。地方公共団体の条例で、一定の強化又は緩和、最低敷地規模に関する制限の付加が可能です。 それに対して、立地基準は市街化調整区域にのみ適用されます。市街化を抑制すべき区域であることから、許可できる開発行為を限定しています。例えば、次のようなものが挙げられます。 イ 周辺居住者の利用の用に供する公益上必要な施設又は日用品店舗等日常生活に必要な施設の用に供する目的で行う開発行為(第1号)ロ 農林水産物の処理、貯蔵、加工のための施設の用に供する目的で行う開発行為(第4号) ハ 地区計画等の内容に適合する開発(第10号) ニ 市街化区域に近隣接する一定の地域のうち、条例(開発許可権者が統轄す地方公共団体が定める。以下同じ。)で指定する区域において、条例で定める周辺環境の保全上支障がある用途に該当しない建築物の建築等を目的とする開発行為(第11号) ホ 開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認められる開発行為として、条例で区域、目的等を限り定めたもの(第12号) へ 開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認められる開発行為で、あらかじめ開発審査会の議を経たもの(第14号) 出典) ・都市計画法第33条、34条(e-Gov法令検索) ・国土交通省「開発許可制度の概要」 開発許可の手続きの流れ 開発許可申請の流れでは、事業者は計画書を提出し、地域の住民や関係機関からの意見も考慮されることが一般的です。 国土交通省や都道府県のWebサイトでは詳細な図が掲載されています。例えば、東京都の開発許可手続きの詳細は、都の都市整備局の資料に記載されています。 出典)東京都都市整備局「2. 開発許可の手続等」P.22 地域特性に基づく街づくり 都市計画とマスタープラン マスタープランとは、「長期的視点にたった都市の将来像を明確にし、その実現にむけての大きな道筋を明らかにするもの」とされています。都市計画法に基づき、都道府県が都市計画区域マスタープランを策定しています。 法定の都市計画マスタープランには2つの種類があります。 ・都市計画区域の整備・開発及び保全の方針(区域マスタープラン…都市計画法第6条の2) 都市計画区域や複数の都市計画区域を対象とし、都市計画の目標、区域区分の有無、主要な都市計画の決定方針等を定めるもの。 ・市町村の都市計画に関する基本的な方針(市町村マスタープラン…都市計画法第18条の2) 市町村の区域を対象とし、より地域に密着した見地から、その創意工夫の下に、市町村の定める都市計画の方針を定めるもの。 なお、都市計画区域内の都市計画は、マスタープランに即したものである必要があります。 市町村マスタープランは、市町村が属する都市計画区域マスタープランと市町村議会の議決を経た基本構想に即したものとなっています。 出典)都市計画マスタープラン リンク集 地区計画とは 地区計画とは、それぞれの地区の特性に応じて、良好な都市環境を形成するために定められる地区レベルの都市計画です。住民の意見を反映し、その地区独自の街づくりのルールを細かく定めます。地区計画で定められるルールは以下のとおりです。 地区施設の配置(生活道路、公園など) 建築物の規制(用途、容積率、建ぺい率など) 緑地の保全 地区計画は市町村が条例に基づき、土地所有者などに意見を求めて作成します。 出典) ・国土交通省 「土地利用計画制度 都市計画法制」P.11 ・東京都都市整備局「地区計画とは」 まとめ 都市計画法のおかげで無秩序な開発行為が行われることなく、都市の計画的な整備を進めることができます。不動産に関する基礎知識として、都市計画法の概要を理解しておきましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 市街化区域とは?市街化調整区域との違いを解説 住宅や土地の購入を検討している中で、「市街化区域」「市街化調整区域」という言葉を聞くことはないでしょうか。 どちらも都市計画法で定められた地域で、土地の使いみちや建築できる建物に制限がありま...記事を読む

    2022.06.22制度
  • 土地区画整理事業とは?概要や仕組み、事業の流れをわかりやすく解説

    土地区画整理事業とは?仕組みや事業の流れをわかりやすく解説

    土地区画整理事業は、住みやすい街づくりのために宅地や公共施設を整備する手法の一つです。言葉は聞いたことがあっても、実際にどんなことが行われるかはよくわからないのではないでしょうか。 この記事では、土地区画整理事業の概要や仕組み、事業の流れについて解説します。 土地区画整理事業とは? 土地区画整理事業とは、都市計画区域内で行われる市街地整備の代表的な手法の一つです。道路や公園などの公共施設と宅地の総合的な整備が可能となります。土地区画整理法では、土地区画整理事業を以下のように定義しています。 「土地区画整理事業」とは、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。 出典)土地区画整理法 第二条(e-Gov法令検索) 古い市街地は道路が狭く、複雑に入り組んで、境界線が曖昧になっているところがあります。下図のように、土地区画整理事業によって整備することで、快適で住みやすい街に生まれ変わります。 出典)小樽市「土地区画整理事業」 なお、土地区画整理事業はさまざまな場面で活用されており、施行面積は2020年3月末現在で約37万haとなっています。これは、東京23区面積の約6倍にもわたる面積です。 出典)公益社団法人 街づくり区画整理協会「土地区画整理事業とは」 土地区画整理事業の仕組み 土地区画整理事業では、道路や公園などが整備されていない区域の地権者から少しずつ土地を提供してもらい、公共用地に充てます。提供してもらった土地を売却し、移転や整備といった事業資金の一部に充当します。 地権者の宅地は、新たな区画に合わせて再配置されます。減歩で面積は減少しますが、地形や形状の改善によって従前の土地に見合う評価を得られます。なお、不均衡が生じる場合は金銭(清算金)で調整されます。 出典)成田市「区画整理のしくみ」 主な区画整理の用語 区画整理の仕組みを理解するために、主な用語の意味を確認しておきましょう。 保留地(ほりゅうち) 土地区画整理事業で整備された宅地のうち、施行者が換地と定めない宅地のことです。施行者は保留地を売却して事業資金の一部に充当します。 減歩(げんぶ) 土地区画整理事業のために地権者が土地の一部を提供することです。減歩には「公共減歩」と「保留地減歩」の2つがあります。公共減歩は公共施設の整備、保留地減歩は事業資金に充てるための減歩です。 換地(かんち) 土地区画整理事業で公共施設などが整備された後に、従前の土地に対して新しく置き換えられた土地のことです。 仮換地(かりかんち) 仮換地指定によって、区画整理前の土地から使用収益権が移行した土地のことです。建物の建築が可能で、通常はそのまま換地となります。 事業の施行者 土地区画整理事業では、以下6者が施行者になれます。 施行者定めるもの同意認可 個人施行規約全員同意知事の認可 組合施行定款2/3以上の同意知事の認可 会社施行基準議決権の過半数2/3以上の同意知事の認可 地方公共団体施行施工規程土地区画整理審議評議会評価員知事または国土交通大臣の認可 国土交通大臣施行 都市再生機構等施行 出典)公益社団法人 街づくり区画整理協会「土地区画整理事業とは」 国や地方公共団体だけでなく、宅地所有者または借地権者である個人、その個人が共同で設立した組合が施行者となることも可能です。ただし、規約や定款を定めたうえで、施行地区内の土地所有者の同意や知事の認可を得る必要があります。 事業の費用負担 土地区画整理事業に必要な費用は、保留地の売却によって賄われます。また、国からの補助金や地方公共団体の助成金、公共施設管理者負担金も活用されます。 公共施設管理者負担金とは、公共減歩された土地の用地費相当額について地方公共団体などの施設管理者に負担を求めるものです。 土地区画整理事業で期待できる効果 土地区画整理事業では以下のような効果が期待できます。 地域のコミュニティがそのまま生かされる 安全で快適な道路に生まれ変わる 公園が確保される(子どもの遊び場、憩いの場) 宅地が利用しやすくなる(形が整う、境界が明確になる) 上下水道、ガスなどのインフラ施設を一体的に整備できる 整備前の権利を保全しながら事業を行うので、地域のコミュニティを維持しながら、宅地や道路をより使いやすい形に整備できます。公園などの公共施設が確保され、インフラ施設も一体的に整備されるため、治安の向上や災害の防止・被害軽減などにつながります。 土地区画整理事業の流れ 土地区画整理事業の流れは以下のとおりです。 企画・調査 都市計画決定 事業計画 換地設計 仮換地指定 移転補償・工事 換地処分・登記 清算 施行者は住民参加の機会なども作りながら企画・調査を進め、土地区画整理事業を都市計画として定めます。設計内容や施行期間、資金計画などをまとめて、都道府県知事などに事業認可を申請します。 認可を得たら換地設計を行い、工程にあわせて仮換地の指定をして地権者に通知します。地権者と補償契約を締結し、地権者は期日までに建物の移転を行います。 換地処分によって従前地の権利が換地へ移行し、清算金の額などが確定すると、施行者が一括して全宅地の登記を行います。換地について不均衡が生じる場合は、清算金の徴収・交付によって調整します。 関連記事はこちら都市計画法とは?概要や定められている内容を解説 まとめ 土地区画整理事業で道路や公共施設、宅地が整備されることで、より快適で安全な街に生まれ変わります。お住まいの地域で土地区画整理事業の実績や実施状況、予定を知りたい場合は地方公共団体のホームページなどで確認してみましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 市街化区域とは?市街化調整区域との違いを解説 住宅や土地の購入を検討している中で、「市街化区域」「市街化調整区域」という言葉を聞くことはないでしょうか。 どちらも都市計画法で定められた地域で、土地の使いみちや建築できる建物に制限がありま...記事を読む

    2022.06.15制度
  • 生産緑地とは?制度概要やメリット・デメリット、2022年問題について解説

    生産緑地とは?制度のメリット・デメリットと2022年問題を解説

    生産緑地は、良好な生活環境を確保するために自治体が指定する農地です。生産緑地には「2022年問題」があり、今後の不動産価格に影響を与える可能性があります。住宅や賃貸不動産などの売買を検討している場合は、生産緑地について理解しておくことが大切です。 この記事では、生産緑地の制度概要やメリット・デメリット、2022年問題について詳しく解説します。 生産緑地とは 生産緑地とは、1992年の改正生産緑地法によって制定された農地のことです。無秩序な開発によって緑地が減少すると、住環境の悪化や土地機能の低下、災害発生などの恐れがあります。 そのため、良好な生活環境の確保に効用がある農地を「生産緑地地区」として都市計画に定め、都市部にある農地の計画的な保全を図っています。生産緑地には固定資産税などの税制優遇がある一方で、土地利用にさまざまな規制が設けられています。 国土交通省の調査によれば、2020年3月31日現在、全国の生産緑地は12,332.3haです。その半分以上を関東が占めており、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)や愛知、大阪といった都市部に集中しています。 出典)国土交通省「令和2年都市計画現況調査(生産緑地地区)」 生産緑地の指定要件 市街化区域内にある農地で、以下3つの要件に当てはまるものを生産緑地に指定できます。 良好な生活環境の確保に相当の効果があり、公共施設等の敷地に供する用地として適しているもの 500㎡以上の面積 農林業の継続が可能な条件を備えているもの 自治体が都市計画を決定し、生産緑地地区を定めます。 出典)国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 生産緑地のメリット 生産緑地のメリットは以下のとおりです。 固定資産税が軽減される 生産緑地に指定されると、固定資産税が軽減されます。固定資産税における農地区分は以下4つで、評価方法や課税方法が異なります。 農地区分評価方法課税方法 一般農地農地評価農地課税 市街化区域農地生産緑地地区農地農地評価農地課税 一般市街化区域農地宅地並評価農地に準じた課税 特定市街化区域農地宅地並評価宅地並課税 生産緑地は、固定資産税の評価や課税の取り扱いは一般農地と同様です。農林水産省の資料によれば、10aあたりの税額は一般市街化区域農地が数万円、特定市街化区域農地が数十万円であるのに対し、生産緑地は数千円に抑えられています。 出典)農林水産省「農地の保有に対する税金(固定資産税)」 相続税の納税が猶予される 農業を営んでいた者から生産緑地を相続し、その生産緑地で農業を続ける場合は相続税の納税が猶予されます。亡くなるまで一生農業を続けた場合は、猶予されていた相続税は免除となります。 ただし、あくまでも猶予である点に注意が必要です。「途中で農業をやめる」など納税猶予の要件を満たさなくなると、猶予されていた相続税に加えて、猶予期間に応じた利子税を納めなくてはなりません。 生産緑地のデメリット 生産緑地には以下のようなデメリットもあります。 30年間の営農義務が生じる 生産緑地に指定されると、30年間の営農義務が生じます。長期にわたって継続的に、農地として維持管理を行わなくてはなりません。また、生産緑地であることがわかるように掲示する必要もあります。 指定から30年経過後または主たる従事者の死亡・身体故障が生じた場合は、自治体に対して買取り申出が可能です。 行為の制限がある 生産緑地には行為の制限があり、建物の増改築や宅地の造成、土石の採取などを自由に行うことはできません。「公共施設の設置・管理に係る行為」「非常災害のために必要な行為」といった例外はありますが、基本的には自治体の許可が必要になります。 無断で開発行為をすると生産緑地の指定が取り消され、税制優遇を受けられなくなる恐れがあります。 出典)国土交通省 都市局 公園緑地・景観課 生産緑地の2022年問題とは 生産緑地の2022年問題とは、大量の生産緑地が2022年に指定解除されることで地価暴落の可能性があることです。 現在の生産緑地は1992年に一斉に指定されており、2022年に約8割の生産緑地が指定から30年を経過します。指定解除された生産緑地が宅地化されて大量に供給されることにより、地価暴落の発生が懸念されています。 ただし、この2022年問題に対応するため、2017年に生産緑地法は改正されています。主な改正内容は以下のとおりです。 面積要件を条例で300㎡まで引き下げ可能 行為の制限を緩和 特定生産緑地制度の導入 面積要件引き下げにより、これまで要件を満たさなかった小規模農地も生産緑地に指定可能となりました。また、一定の要件を満たす販売施設や農家レストランの設置も認められます。この法改正により、農地所有者の営農意欲や収益性の向上が期待できます。 所有者の意向をもとに、自治体が「特定生産緑地」として指定できる制度も導入されました。特定生産緑地に指定されると、買取り申出ができる期間が10年延期されます。10年経過後は、あらためて所有者の同意を得たうえで繰り返し10年の延長が可能です。 上記の対応により、2022年問題の影響緩和が期待できます。2022年4月時点で地価暴落は発生していませんが、今後の不動産価格の動向を注視する必要はあるでしょう。 出典)国土交通省 生産緑地制度 まとめ 生産緑地は税制優遇措置を受けられる一方で、30年間の営農義務や行為の制限が課されています。法改正により2022年問題の影響緩和が期待できますが、不動産価格への影響は不透明な部分もあります。不動産を売買する予定がある場合は、不動産価格の動向を確認しておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 都市計画法とは?概要や定められている内容を解説 都市計画法は、街づくりのルールを定めた法律です。都市の開発や利用に関するルールを設けることで、快適な都市生活を送れることは理解できるかもしれません。しかし、法律でどのような事項が定められてい...記事を読む

    2022.06.01制度
  • 市街化区域とは?市街化調整区域との違いを解説

    市街化区域とは?市街化調整区域との違いを解説

    住宅や土地の購入を検討している中で、「市街化区域」「市街化調整区域」という言葉を聞くことはないでしょうか。 どちらも都市計画法で定められた地域で、土地の使いみちや建築できる建物に制限があります。マイホームを購入してから後悔しないように、各区域の特徴を理解しておくことが大切です。 この記事では、市街化区域の概要や市街化調整区域の違いについて解説します。 市街化区域とは? 市街化区域とは、都市計画法で分類されている都市計画区域の1つです。都市計画区域は以下の3種類があります。 住宅を建てる際の制約が少ない 生活インフラが整っている 売却しやすい 都市計画税がかかる 市街化区域は、基本的に住宅を自由に建てることが可能です。電気や水道、交通といった生活インフラも整っているため、需要が高く、売却しやすい特徴があります。 一方で、市街化区域内に住宅(土地・家屋)を所有すると都市計画税がかかります。1月1日現在で住宅を所有している人が対象です。税額は「課税標準額×0.3%」で、固定資産税と併せて課税されます。 用途地域とは? 用途地域とは、市街化地域内の土地の用途を13種類に区分し、建築できる建物や規模などを制限するものです。大きくは「住居系」「商業系」「工業系」の3つに分けられます。各用途地域の特徴は以下のとおりです。 区分用途地域概要 住居第一種低層住居専用地域低層住宅のための地域。小規模な店舗兼用住宅、小中学校などが建てられる 第二種低層住居専用地域主に低層住宅のための地域。小中学校、150㎡以下の店舗などが建てられる 第一種中高層住居専用地域中高層住宅のための地域。病院や大学、500㎡以下の店舗などが建てられる 第二種中高層住居専用地域主に中高層住宅のための地域。病院や大学、1,500㎡以下の店舗などが建てられる 第一種住居地域住居の環境を守るための地域。3,000㎡以下の店舗やホテルなどは建てられる 第二種住居地域主に住居の環境を守るための地域。店舗やホテル、カラオケボックスなどは建てられる 準住居地域国道や幹線道路と調和した住居の環境を守るための地域。 田園住居地域農地や農業関連施設と調和した住居の環境を守るための地域。 商業近隣商業地域周辺住民が日用品の買い物などをするための地域。住宅や店舗、小規模工場なども建てられる 商業地域銀行や映画館、飲食店、百貨店などが集まる地域。住宅や小規模工場も建てられる 工業準工業地域主に軽工業の工場や施設が立地する地域。環境悪化のおそれがある工場以外はほぼ建てられる 工業地域どんな工場でも建てられる地域。住宅や店舗は建てられるが、学校や病院などは建てられない 工業専用地域どんな工場でも建てられる、工場のための地域。住宅や店舗、学校などは建てられない 市街化調整区域とは? 市街化調整区域は、都市計画法では「市街化を抑制すべき区域」と定義されています。原則として開発行為や都市施設の整備は行われず、基本的に住宅は建てられません。すでに建築されている物件の購入後のリフォームや、建て替えをする場合も自治体の許可が必要です。 市街化調整区域であっても、自治体によっては開発行為が一部認められるケースもあります。 市街化調整区域の特徴 市街化調整区域の主な特徴は下記のとおりです。 価格が割安な傾向にある 固定資産税が低い 都市計画税がない 建て替え、増改築などが制限される インフラ整備が進んでいないことがある 売却しにくい 住宅ローンが借りづらい 市街化調整区域は、市街化区域に比べると価格が安く、固定資産税が低い傾向にあります。都市計画税は課税されないため、取得費用や維持費用の軽減が期待できます。 一方で、住宅の建て替えや増改築を行うには自治体の許可が必要になるなどの制限があります。また、周辺のインフラ施設の整備が進んでおらず、生活するには不便を感じるかもしれません。このような事情から売却しにくく、住宅ローンを借りづらい傾向にあります。 非線引き区域とは? 非線引き区域は、都市計画法では「区域区分が定められていない都市計画区域」と定義されています。区域区分が定められていないため、土地利用の制限が緩いのが特徴です。ただし、自治体が土地利用方針を策定しているケース もあります。 出典)成田市「非線引き都市計画区域における土地利用方針」 非線引き区域の特徴 非線引き区域の特徴は以下のとおりです。 土地利用の制限が緩い 用途地域が指定されていることもある インフラ整備が進んでいないことがある 地域住民が望まない土地利用の恐れがある 売却しにくい 住宅ローンが借りづらい 非線引き区域は制限が緩いため、基本的には自由に土地利用が可能です。ただし、市街化地域と同じように用途地域が指定されていることもあります。 市街化区域とは異なり、積極的に開発行為や都市施設の整備が進められる地域ではないため、インフラ整備が進んでいない可能性があります。また、規制が緩い分、地域住民が望まない形で土地が利用される恐れがあるのもデメリットです。 このような事情から市街化調整区域と同様に売却しにくく、住宅ローンを借りづらい傾向にあります。 区域区分や用途地域の調べ方 区域区分や用途地域は、自治体のホームページで確認できます。住所を指定すると、その区域の詳細がわかる地図情報を提供している自治体もあります。 担当部署(例:都市計画課)に問い合わせて教えてもらうことも可能です。 住宅や土地を売買する際は、不動産業者に確認してもらうのも一つの方法です。 出典)成田市「都市計画情報(なりた地図情報等)について」 まとめ 住宅や土地を売買する場合、市街化区域であればスムーズに取引できます。マイホームの購入を予定しているなら、物件が市街化区域内にあるかを確認しておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 自宅購入はより安全で優れた不動産投資!? 不動産投資といえば、マンションやアパートを貸し出して家賃収入を得ることをイメージするのではないでしょうか。しかし、考え方によっては賃貸暮らしの家賃支出をなくし、ローンの返済とともに資産を増や...記事を読む

    2022.05.25用語
  • 住宅の瑕疵保険とは?必要性や種類、メリット・デメリットを解説

    住宅の瑕疵保険とは?保険の仕組みや種類について解説

    自宅を購入するとき、住宅に欠陥や不具合がないか気になるのではないでしょうか。安心して住宅を購入できるように、「瑕疵(かし)保険」という仕組みがあります。瑕疵とは、本来あるべき性能や品質を持っていないことです。住宅の場合、建築基準法に定められた基準を満たしておらず、重大な欠陥がある状態などを指します。 この記事では、瑕疵保険の仕組みや種類について解説します。 瑕疵保険とは 瑕疵保険とは、住宅の検査と保証がセットになった保険制度です。国土交通大臣が指定した住宅専門の保険会社である住宅瑕疵担保責任保険法人が保険を引き受けることで、制度が成り立っています。新築、中古住宅ともに、建築士による検査に合格することで、加入できる保険です。 住宅購入後に欠陥が見つかった場合に、買主は無償で直してもらうことができ、専門の建築士による検査を受けるため、売主は購入者に安全性をアピールできます。 住宅瑕疵担保責任保険法人一覧 2024年8月現在の国土交通大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人は以下のとおりです。 ■住宅瑕疵担保責任保険法人一覧 株式会社住宅あんしん保証 住宅保証機構株式会社 株式会社日本住宅保証検査機構 株式会社ハウスジーメン ハウスプラス住宅保証株式会社 (一財)住宅保証支援機構 保険法人からの再保険契約の引受け。事業者(建設業者及び宅地建物取引業者)からの引受けは不可。 ※2024年8月現在 出典)国土交通省 住宅瑕疵担保責任保険法人 瑕疵保険の仕組みと概要 瑕疵保険に加入する際、新築住宅と既存住宅では加入の要件や内容が異なります。ここからは新築住宅と既存住宅に分けてそれぞれ説明します。 新築住宅 新築住宅は瑕疵保険の加入は「義務」となっています。2007年に住宅瑕疵担保履行法が成立・公布され、住宅購入者の利益保護を目的に新築住宅の売主に対して「保証金の供託」または「保険加入」が義務付けられました。 新築住宅の瑕疵保険の仕組みと加入の流れは以下のとおりです。 出典)国土交通省「住宅瑕疵担保責任保険について」 新築住宅の建設を請負う建設業者または販売する宅建業者が瑕疵担保責任を履行した場合に、保険法人がその損害をてん補します。事業者が倒産等により瑕疵担保責任を履行できない場合には、住宅購入者(買主)に対して直接保険金を支払います。 出典)国土交通省「住宅瑕疵担保責任保険について」 新築住宅の場合、瑕疵保険の加入は、売買契約時などに瑕疵保険の説明や書類への記入があるので、詳細はその場で確認するようにしましょう。また、引き渡しの際に保険の証明書を受け取る必要があるので、忘れないようにしましょう。 中古住宅 中古住宅の瑕疵保険は、新築とは異なり「任意加入」です。原則として1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた、いわゆる「新耐震基準」に適合している住宅が対象となります。 ただし、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた住宅の場合、耐震基準適合証明書等の取得および提出などにより保険の加入が可能となる場合もあります。 出典)一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会「既存住宅の個人間売買に安心を!」Q3 中古住宅の売買契約は、売主が「宅建業者」と「個人」の2種類です。売主が宅建業者の場合は、宅建業法上の瑕疵担保責任の義務に対応するため、2年間の保証が付くのが一般的です。 一方で、不動産仲介による売買を含む個人が売主となる場合、保証なしで売買されることも多いため、特に売主が個人の場合の売買において、瑕疵保険の必要性が高いといえるでしょう。 一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会では、瑕疵保険を利用する登録事業者等の検索サイトがあります。保険加入実績の確認や、個人間売買で検査会社を選ぶ場合にも利用できるので活用してみると良いでしょう。 瑕疵保険の種類 続いて、保険の種類について確認していきましょう。 新築住宅 新築住宅の瑕疵保険は「住宅瑕疵担保責任保険」といい、住宅瑕疵担保責任保険は、「住宅瑕疵担保責任保険(1号保険)」と「住宅瑕疵担保責任任意保険(2号保険)」の2種類に分かれます。 1号保険は、住宅瑕疵担保履行法に定める建設業者・宅建業者の資力確保義務に対応する保険で、2号保険は、売主に資力確保義務がない場合に加入する保険です。 いずれも加入にあたり、事業者は建築士の検査を受けて合格する必要があります。新築住宅に瑕疵があった場合、補修等を行った事業者に対して保険金が支払われるため、購入者は無償で直してもらえます。請負契約や売買契約の際に業者から説明が行われるので、内容を確認しておきましょう。 中古住宅 中古住宅に対する瑕疵保険の正式名称は「既存住宅売買瑕疵保険」と言います。既存住宅の瑕疵保険は以下の4種類に分かれます。 既存住宅売買瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険 大規模修繕工事瑕疵保険 延長保証保険 既存住宅売買瑕疵保険 既存住宅売買瑕疵保険は中古住宅の売買における瑕疵保険で、売主が「宅建業者の場合」と「宅建業者以外の場合」に分かれ、宅建業者以外の場合では、さらに「検査事業者保証」と「仲介事業者保証」に分かれます。 宅建業者が売主の場合は宅建業者が保険に加入し、個人が売主の場合は仲介業者や検査事業者が保険に加入する仕組みです。新築と同じく、保険に加入するには専門の建築士による検査を受けて合格しなくてはなりません。 リフォーム瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険は、リフォーム時の検査と保証がセットになった保険です。リフォームの工事中や工事完了後に、第三者である建築士の現場検査が行われます。工事後に欠陥が見つかった場合、補修等を行った事業者に対して保険金が支払われる仕組みです。 関連記事はこちらリフォーム瑕疵保険とは?加入方法や適用条件を解説 大規模修繕工事瑕疵保険 大規模修繕工事瑕疵保険はマンションの大規模修繕における瑕疵保険であるため、個人の方が利用する機会はないでしょう。 延長保証保険 延長保証保険は、新築住宅の引き渡し後10年間の瑕疵担保責任期間が経過後に検査・補修した場合の保険です。延長保険契約時の現況検査やメンテナンス工事の実施が加入要件となります。 出典)国土交通省「消費者の方向け情報」 瑕疵保険の対象 続いて、瑕疵保険の対象部分について確認していきましょう。 新築住宅 新築住宅で瑕疵保険の対象となるのは、住宅の中でも特に重要な部分である、構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分です。これらの瑕疵に対して、10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。 出典)国土交通省「新築住宅に関する法制度」 新築住宅では、住宅瑕疵担保履行法で定められている最低限の支払限度額は2,000万円です。マンションの場合は1住戸あたりとなります。また、全保険法人5社で新築の瑕疵保険の対象となる部分は原則同じです。 ただし、提供するサービスや料金等は異なるので、確認しておきましょう。 出典) ・一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会「新築住宅かし保険についてよくあるご質問」Q.11 ・国土交通省「新築住宅に関する法制度」 中古住宅 既存住宅の瑕疵保険の対象は新築住宅と同様、構造体力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分です。宅地建物取引業者が売主となっている場合は宅地建物取引業法により2年以上の瑕疵担保責任期間が義務付けられていますが、個人が売主(宅地建物取引業者による「媒介」)となる場合、長くて数か月、物件によっては保証なしの場合もあります。 なお、既存住宅売買瑕疵保険の場合であれば、瑕疵担保責任期間は最長5年間となっているので、確認してみましょう。 出典)一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会「かし保険全般に関するご質問」Q.6 また、住宅瑕疵担保責任保険法人5社の保証に関する主な内容は共通していますが、料金など異なっている部分もあります。住宅瑕疵担保責任保険法人ごとに定めている内容もあるので事前に確認しておくとよいでしょう。 中古住宅は築年数や使用状況によって品質に差が生じるため、物件購入後に欠陥や不具合が見つかるかもしれません。安心して中古住宅を購入するために、購入前に建物状況調査を受けることもおすすめです。 関連記事はこちら建物状況調査とは?メリット・デメリットと手続きの流れを解説 保険金の請求 住宅に瑕疵が見つかった場合は、売主である事業者に補修依頼をします。売主が倒産している場合は、保険法人に補修費用を直接請求できます。保険の証明書を確認して連絡をとりましょう。 個人が売主の場合は、検査事業者に補修依頼をします。売主が事業者の場合と同じく、検査事業者が倒産している場合は保険法人に補修費用を直接請求できます。 売主との間でトラブルが発生した場合は、「住宅紛争処理支援センター」に相談できます。申請手数料1万円を支払えば、「住宅紛争審査会」に申請して、「あっせん」「調停」「仲裁」を受けることも可能です。 まとめ 自宅を購入する場合、瑕疵保険に加入している住宅なら欠陥が見つかっても無償で直してもらえます。特に売主が個人である中古住宅を取得する場合は、瑕疵保険の有無を確認してから購入しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 マンション管理適正評価制度とは?メリット・デメリットを解説 2022年4月から「マンション管理適正評価制度」が開始されました。本制度は適切に維持管理されているマンションが、市場で評価されるための新たな仕組みです。同じ時期に国の「マンション管理計画認定...記事を読む

  • 住宅購入時の優遇制度を解説、2022年以降の変更点も紹介

    住宅購入時の優遇制度を解説

    住宅を購入するときは、「住宅ローン控除」をはじめとしたさまざまな優遇制度が用意されています。一方で、どのような優遇制度があるのか詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。 この記事では、住宅購入で得られるさまざまな優遇制度について詳しく解説します。 住宅ローン控除 住宅ローンを借りて住宅を購入する場合は、住宅ローン控除が利用できる可能性があります。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、住宅取得者の住宅ローン金利負担の軽減を図るための制度です。住宅ローン年末残高の0.7%が10年間所得税から控除され、控除額と納税額に応じて所得税が還付されます。所得税から控除しきれない場合は、住民税から控除することも可能です。 関連記事はこちら【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 印紙税の軽減措置 住宅を購入する際は、売買契約書に収入印紙を貼付して印紙税を納めなくてはなりません。不動産売買契約書の印紙税は、軽減措置によって税率が引き下げられています。2024年3月31日までに作成される契約書については、以下の軽減税率が適用されます。 表 印紙税の軽減措置(単位:円) 契約金額 本則税率 軽減税率 100万円超 500万円以下 2,000 1,000 500万円超 1,000万円以下 10,000 5,000 1,000万円超 5,000万円以下 20,000 10,000 5,000万円超 1億円以下 60,000 30,000 1億円超 5億円以下 100,000 60,000 5億円超 10億円以下 200,000 160,000 印紙税は、物件価格(契約金額)が高くなるほど税負担も増える仕組みです。軽減措置の適用期間中に売買契約を締結すれば、印紙税の節税になります。 出典)国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」 登録免許税の軽減措置 登録免許税とは、購入した住宅(土地、建物)の登記を行うときに納める税金です。課税標準額(固定資産税評価額)に税率を掛けて税額を計算します。 購入した住宅の所有権を設定するため、新築住宅は所有権保存登記、中古住宅の場合は所有権移転登記を行わなくてはなりません。住宅ローンを利用する場合は、抵当権設定登記も必要です。 住宅購入に関する登録免許税の軽減措置は以下のとおりです。 表 登録免許税の軽減措置(単位:%) 登記の書類 本則税率 軽減税率 土地の所有権移転登記 2.0 1.5 住宅用家屋の所有権保存登記 0.4 0.15 住宅用家屋の所有権移転登記 2.0 0.3 抵当権設定登記 0.4 0.1 土地は2023年3月31日、住宅用家屋と抵当権は2022年3月31日まで軽減税率が適用される予定でしたが、令和5年度の税制改正により、その適用期限がが令和8年3月31日まで3年延長されました 出典)国税庁「登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」 不動産取得税の軽減制度 不動産取得税とは、住宅などの不動産を取得したときに課される税金です。税額は、課税標準額(固定資産税評価額)に税率を掛けて計算し、税率は土地・家屋ともに3.0%です。 住宅購入では、土地・家屋にかかる不動産取得税の軽減制度があります。2024年までに取得した土地については、課税標準額が1/2となり、「土地を取得後3年以内に住宅が新築されている」などの要件を満たすと、さらに税額が軽減されます。家屋については、以下の床面積要件を満たす新築住宅を購入した場合、課税標準額から1,200万円が控除されます。 表 新築住宅の床面積要件 住宅の種類 床面積要件 一戸建て 50㎡以上 240㎡以下 一戸建て以外(マンションなど) 40㎡以上 240㎡以下 中古住宅についても同様の軽減措置がありますが、現行の耐震基準に適合していることが要件です。住宅が新築された日に応じて、100万円から1,200万円の間で課税標準額から控除されます。 固定資産税の軽減制度 住宅を所有すると、毎年固定資産税が課税されます。固定資産税の税額は、土地・家屋ともに課税標準額(固定資産税評価額)の1.4%です。ただし、住宅用地には課税標準の特例措置があり、小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡までの部分)は課税標準額の1/6、一般住宅は課税標準額の1/3で税額を計算します。 家屋については、新築住宅で「50㎡以上 280㎡以下」という床面積要件を満たす場合、固定資産税額の2分の1が減額されます。減額期間は一戸建てが3年間、マンションが5年間で、2022年3月31日までに新築された住宅が対象となります。 なお、税制改正により、2024年3月31日までに延長されました。 出典)国土交通省「新築住宅に係る税額の減額措置」 住宅取得等のための資金にかかる贈与税非課税措置 父母や祖父母などの直系尊属から自ら居住する住宅の新築・購入、増改築のために金銭の贈与を受けた場合、以下の金額まで贈与税が非課税になります。 一般住宅:1,000万円 質の高い住宅:1,500万円 本措置を申請する受贈者(贈与を受ける人)は、下記の要件を満たす必要があります。 贈与年の1月1日で20歳以上 贈与年の合計所得金額が2,000万円以下 贈与年の翌年3月15日までにその家屋に居住する また、対象となる家屋は、床面積50㎡以上240㎡以下で中古住宅は耐震基準に適合するものである必要があります。なお、「質の高い住宅」とは下記のような要件を満たす住宅です。 断熱等性能等級4又は一次エネルギー消費量等級4以上の住宅 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物の住宅 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上の住宅 本措置を受けるには、確定申告時に税務署に申請する必要があります。申請の際は「受贈者の戸籍謄本」「贈与年の所得金額を証明する書類」「売買契約書」「登記事項証明書」などが必要です。手続きの詳細は税務署に確認しましょう。 出典)国土交通省「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」 まとめ 個人の住宅取得を後押しするため、国はさまざまな優遇制度を用意しています。この記事で紹介した優遇制度を利用すれば、住宅購入費用の負担軽減が期待できます。なお、それぞれの制度には終了期限が設けられているので、常に最新の情報をチェックするようにしてください。住宅購入を検討しているなら、優遇制度を最大限に活用しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 住宅ローン控除(住宅ローン減税ともいいます)とは、住宅ローンを利用して住宅の新築、取得又は増改築等をした場合に利用できる、所得税額等を控除する制度です。住宅ローン控除を利用する場合、自身の状...記事を読む

  • 建物状況調査とは?診断項目やメリット・デメリット、利用方法を解説

    建物状況調査とは?メリット・デメリットと手続きの流れを解説

    中古住宅は新築より割安な価格で購入できるのが魅力です。しかし、元の所有者の維持管理や築年数などによって、品質に差が生じるため、購入する際には、性能や品質に問題がないか不安を感じるのではないでしょうか。そのような時、建物状況調査を利用すれば、購入前に建物の状況や不具合を確認することができます。 この記事では、建物状況調査の概要や診断項目、メリット・デメリットについて詳しく解説します。 建物状況調査とは 建物状況調査とは、宅建業法で定められた基準をもとに実施する検査のことです。一定以上の知識や技術力を有する「既存住宅状況調査技術者」が実施します。既存住宅状況調査技術者とは、国の定める講習を修了した建築士のことです。 建物状況調査が生まれた背景 建物状況調査は2018年の宅建業法改正に伴い、従来の「ホームインスペクション」とは一線を画す形で生まれました。宅建業法改正により、中古住宅の売買に関する手続きについて、以下3つが宅建業者に義務付けられています。 媒介契約締結時に建物状況調査のあっせんに関する書面を依頼者に交付する 買主に対して建物状況調査の結果を重要事項として説明する 売買契約成立時に売主と買主の双方が確認した事項を書面で交付する 宅建業者に義務付けられているのは、あくまでも「説明」や「あっせん」です。「実施」が義務付けられているわけではないので、注意しましょう。 建物状況調査の診断項目 建物状況調査の診断項目は、「構造耐力上主要な部分」と「雨水の侵入を防止する部分」の2つに分かれます。たとえば、木造2階建ての戸建て住宅の場合は以下のとおりです。 <構造耐力上主要な部分> 基礎 壁 柱 小屋組 土台 斜材 床版 屋根版 横架材 <雨水の侵入を防止する部分> 屋根 外壁 開口部 国土交通省の定める基準に従い、検査機器を使用して目視や非破壊検査を行います。物件の状態や規模によりますが、所要時間は3時間程度が一般的です。 建物状況調査とホームインスペクションの違い 建物状況調査に関連して、ホームインスペクションという言葉があります。ホームインスペクションとは、住宅に関する検査全般を意味する言葉で、業者によって検査員の資格の有無や検査内容が異なります。 一方で、建物状況調査は、既存住宅状況調査技術者の資格を有している検査員が、宅建業法で定められた基準に基づく検査内容を行います。つまり、広義の住宅検査全般をホームインスペクションと言い、有資格者による一定の基準に基づいて行われる検査を建物状況調査と言います。 建物状況調査のメリット 中古住宅の売買に建物状況調査を活用することには、売主と買主の双方にメリットがあります。 買主のメリット 買主には、以下のようなメリットがあります。 安心して購入できる 購入後のメンテナンスの予定が立てやすい 専門家からアドバイスを受けられる 専門家の調査によって、建物の状況や不具合の有無を確認できるので、安心して物件を購入できます。あらかじめ修繕の必要性を把握することで、購入後のリフォームや修繕といったメンテナンスや、費用の見積もりが立てやすくなるでしょう。調査結果に応じて、専門家からアドバイスを受けることも可能です。 売主のメリット 売主には、以下のようなメリットがあります。 引渡し後のトラブル回避が期待できる 競合物件との差別化につながる 建物状況調査の結果を買主に伝えてから売却できるので、引渡し後のトラブルを回避しやすくなります。建物状況調査を実施したことをアピールすれば、(調査を受けていない)競合物件との差別化にもつながるでしょう。 建物状況調査のデメリット 一方で、建物状況調査には以下のようなデメリットもあります。 買主のデメリット 調査費用を買主が負担する場合、コストがかかるのがデメリットです。また、建物状況調査は、あくまで目視や非破壊検査で行われるため、壁の中などの見えないところまで細かく調査することはできません。建物状況調査の結果に問題がなかったとしても、全く不具合がないと保証できるわけではない点に注意が必要です。 売主のデメリット 調査費用を売主が負担する場合は、物件売却で得られる収益が減少します。また、建物状況調査を実施すると、物件に不具合が見つかるかもしれません。調査結果によっては、補修費用の負担や値下げの必要性が生じる場合があります。 建物状況調査の利用方法 建物状況調査を利用する場合は、「既存住宅状況調査技術者検索サイト」で調査実施者を探します。不動産業者が提携している調査実施者がいる場合は、あっせんを希望する旨を伝えて対応してもらう方法もあります。 調査実施者を選定したら、見積もりをとって診断内容や料金を確認しましょう。見積もりの内容に問題がなければ、診断日時を決定します。検査当日までに、以下のような書類が必要です。 間取り図 販売図面 確認済証 検査済証 住宅性能評価証 新耐震基準適合証明書 また、マンションの場合は、上記に加えて管理規約や長期修繕計画の写しなども必要です。調査を依頼する業者に確認して準備を進めましょう。 検査当日は基本的に依頼者も立ち合い、その場で説明を受けます。後日報告書が送られてくるので、不明点があれば問い合わせて確認しましょう。 出典)住宅リフォーム推進協議会「既存住宅状況調査技術者検索サイト」 まとめ 建物状況調査を活用すれば、取引前に建物の状況を把握できるので、中古住宅を安心して売買できます。広義のホームインスペクションとの違いを理解したうえで、依頼する調査実施者を探しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 マンション管理計画認定制度とは?メリット・デメリットを解説 2022年4月から「マンション管理計画認定制度」がスタートします。マンション管理適正化の推進を目的に創設された制度で、マンションの管理や資産価値などに影響を与える可能性があります。 本制度の...記事を読む

    2022.05.04制度
  • 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?適用要件や失業給付、手続きの流れをわかりやすく解説

    雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?内容をわかりやすく解説

    2022年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が新設されました。雇用保険に加入できる条件が緩和されたため、非正規社員として短時間の勤務をする場合でも、失業に備えることが出来るようになりました。 この記事では、雇用保険マルチジョブホルダー制度の概要や適用要件、失業給付についてわかりやすく解説します。 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、2つの事業所において一定の要件を満たす場合に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になれる制度です。 従来の制度では、65歳以上の労働者が雇用保険に加入するには「労働時間週20時間以上、かつ31日以上の雇用期間」などの条件を満たす必要がありました。 現在は少子高齢化が進み、「老後資金の確保」「労働力不足の解消」が課題となっています。雇用保険の加入条件緩和によって高齢者の労働機会が増加すれば、勤労収入を老後の生活費を充てられます。また、若年層だけでは足りない労働力を補う効果も期待できます。 出典)厚生労働省「マルチジョブホルダー制度とは」 雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用要件 雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること 2つの事業所の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満) 2つの事業所それぞれの雇用見込みが31日以上であること 3つ以上の事業所で勤務している場合は、労働時間や賃金などを考慮して、マルチ高年齢被保険者として申出をする本人が2つの事業所を選択します。 加入後の取扱いは通常の雇用保険と同じで、原則として任意脱退はできません。上記の適用要件を満たさなくなった場合を除き、加入する事業所を任意に切り替えることもできないので注意しましょう。 雇用保険マルチジョブホルダー制度の資格取得手続きの流れ 通常の雇用保険は、事業主が資格取得・喪失の手続きを行います。一方、雇用保険マルチジョブホルダー制度では、適用を希望する本人が手続きをする必要があります。手続きの流れは以下のとおりです。 ハローワークまたは厚生労働省HPから「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届(マルチ雇入届)」などを入手する 2つの事業所にマルチ雇入届の記入、確認資料(雇用契約書など)の交付を依頼する 本人の住居所を管轄するハローワークへ必要書類を提出する ハローワークから本人および2つの事業所に通知される ハローワークで申請内容を確認のうえ、問題がなければ申出日に被保険者の資格を取得します。必要書類の入手方法や手続きのやり方がわからない場合は、ハローワークに問い合わせて確認しましょう。 ハローワークに提出する書類一覧 手続きの際は、ハローワークへ以下の書類を提出します。 事業主から交付されたマルチ雇入届と確認資料(2社分) 個人番号登録・変更届 被保険者資格取得時アンケート 本人確認資料・個人番号の確認できる資料 また、事業所に依頼する主な確認資料は以下のとおりです。 賃金台帳 出勤簿(記載年月日の直近1ヵ月分) 労働者名簿 雇用契約書 労働条件通知書 雇入通知書 雇用主との関係(親族の会社に勤めているなど)によっては、別途確認資料が必要になる場合があります。 雇用保険マルチジョブホルダー制度のメリット 雇用保険マルチジョブホルダー制度は事業主と労働者の双方にメリットがあります。 事業主のメリット 事業主は、雇用保険資格の取得・喪失手続きが簡便化されるのがメリットです。雇用保険マルチジョブホルダー制度では労働者自身が手続きを行うため、事業主は必要事項の記載や証明などを行うだけで済みます。 労働者のメリット マルチ高年齢被保険者であった労働者が失業した場合、一定の要件を満たすと高年齢求職者給付金を一時金で受給できます。給付額(基本手当日額×支給日数)は以下のとおりです。 <基本手当日額> 離職以前6ヵ月の賃金合計÷180×(50~80%) <支給日数> 被保険者期間1年未満:基本手当日額の30日分 被保険者期間1年以上:基本手当日額の50日分 「離職日以前1年間に被保険者期間が通算6ヵ月以上あること」が受給要件です。2つの事業所のうち、1つのみを離職した場合でも受給できます。 ただし、3つ以上の事業所で勤務している場合、3つ目の事業所と併せてマルチ高年齢被保険者の要件を満たす場合は、被保険者期間が継続されるので受給できません。 また、2つの事業所のうち1つのみを離職した場合、基本手当日額の計算に離職していない事業所の賃金は含まれないので注意しましょう。 雇用保険マルチジョブホルダー制度の注意点 雇用保険マルチジョブホルダー制度では、資格取得の日から雇用保険料の納付義務が発生します。申出日より前にさかのぼって被保険者となることはできません。 事業主には、手続きの際に必要な証明を行う義務があります。申出を理由に労働者に対して不利益な取り扱い(解雇、雇止め、労働条件の不利益変更など)を行うことは認められません。もし事業主の協力を得られない場合はハローワークに相談しましょう。 まとめ 65歳以上で2つ以上の事業所で働いている場合、一定の条件を満たせば雇用保険に加入できます。また、短時間勤務で働いている場合であっても、雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用できるように別の企業で働くことで、雇用保険に加入できます。より安心して働き続けるために、本制度の積極的活用をおすすめします。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 老齢年金の受給開始年齢が近づいてくると、受給開始年齢の繰り上げや繰り下げを検討する人も多いのではないでしょうか。受給開始年齢を変更することで、受け取れる年金の見込み額は大きく変わります。 こ...記事を読む

    2022.04.20制度
  • 定期借家契約と普通借家契約の違いとは?

    定期借家契約と普通借家契約の違いとは?

    不動産の賃貸借契約には、「定期借家契約」と「普通借家契約」があります。しかし、両者は契約の更新方法などに違いがあるので、賃貸住宅に安心して住めるように、それぞれの契約の仕組みを理解しておくことが大切です。 この記事では、定期借家契約と普通借家契約の違いについて詳しく解説します。 定期借家契約と普通借家契約の概要 定期借家契約とは 定期借家契約とは、正式名称を定期建物賃貸借契約といい、契約期間があらかじめ決められている賃貸借契約のことです。契約の更新がないため、契約期間が満了すると借主は退去しなくてはなりません。ただし、貸主と借主の双方が合意すれば、期間満了後の再契約は可能です。 定期借家契約の場合、貸主側の都合で契約期間が定められるため、普通借家契約に比べると割安な家賃で設定されることが多いです。貸主側は定めた期間で借主に退去してもらえるため、「一時的に不在となる物件を賃貸に出す」「現在空き家の実家を自分が住むまで賃貸に出す」といった場面での活用ができます。 普通借家契約とは 普通借家契約は、一般的な不動産賃貸で利用される賃貸借契約です。上述の定期借家契約と区別するため、通常の建物賃貸借契約を意味する形で「普通」という言葉が使われています。 契約期間は通常2年で設定され、期間満了後も借主が希望すれば契約は更新されるため、長く住み続けることが可能です。借主が手厚く保護される契約形態であるため、貸主からの一方的な都合による退去はありません。 普通借家契約の場合、貸主側の都合で契約期間を定められますが、借主が希望する限り更新を拒むことができません。そのため、貸主側が短期間で退去してほしい場合には、適していません。 定期借家契約と普通借家契約の主な違い 定期借家契約と普通借家契約の主な違いは以下の2つです。 契約の更新 前述のとおり、定期借家契約は期間満了によって契約が終了します。貸主と借主の双方で合意できた場合のみ再契約が可能なので、借主が住み続けたいと思っても、貸主が再契約を認めなければ退去する必要があります。 一方で、普通借家契約は借主が希望する限り、契約を更新し、住み続けることができます。「建物に問題がある」、「借主が契約を違反する」などの正当事由がない限り、貸主は契約更新を拒絶できません。 賃料の増減額請求権 賃料の増減額請求権とは、現在支払っている、または受け取っている家賃が賃料相場と比較して不相当となった場合に、賃貸借契約の相手方に対して家賃の減額、増額を請求できる権利です。 賃貸住宅の賃料相場は、景気動向や需供バランスによって変動します。そのため、同じ物件に長く住んでいると、入居時に定めた家賃が賃料相場と合わなくなることがあります。 定期借家契約と普通借家契約ともに、原則として賃料の増減額請求権が認められます。ただし、定期借家契約は賃料の増減額請求権を排除する特約を定めることが可能です。(借地借家法第38条) 一方で、普通借家契約は賃料の増減額請求権を排除する特約は無効ですが、家賃を増額しないことについての特約のみ認められます。(借地借家法第32条) 定期借家契約と普通借家契約のその他の違い 定期借家契約と普通借家契約は、以下のような点でも違いがあります。 契約方法や説明 普通借家契約を締結するには口頭でも可能ですが、定期借家契約は公正証書などの書面で行う必要があります。また、定期借家契約は賃貸借契約書とは別に、契約の更新がないことを書面で交付して説明しなくてはなりません。 契約期間や通知義務 普通借家契約は1年以上で設定する必要があり、1年未満の賃貸借契約の場合は、期間の定めのない賃貸借とみなされます。一方で、定期借家契約は契約期間に制限がなく、1年未満の契約も有効となります。 1年以上の定期借家契約の場合、貸主は契約期間満了の1年から6ヵ月前までに借主に対して契約終了を通知する義務があります。通知をしない場合、貸主は契約終了を借主に対抗できません。借主は、通知の日から6ヵ月を経過するまでは同条件で住み続けられます。 中途解約 普通借家契約は一般的に中途解約に関する条項が記載されており、借主からの中途解約はその条項の範囲内で可能ですが、貸主からの場合は正当事由が必要です。一方で、定期借家契約では、貸主と借主のどちらも中途解約は原則認められません。 ただし、床面積200㎡未満の居住用建物でやむを得ない事情がある場合は、借主からの中途解約は可能です。なお、普通借家と定期借家ともに、中途解約に関する特約がある場合はその定めに従うこととなります。 定期借家契約と普通借家契約の違い一覧 定期借家契約と普通借家契約の違いは下表のとおりです。 定期借家契約と普通借家契約の違い 定期借家契約 普通借家契約 契約方法 公正証書等の書面* 口頭、書面 更新の有無 期間満了により終了し、更新がない (ただし、再契約は可能) 正当事由がない限り更新 期間を1年未満とする 賃貸借の効力 1年未満の契約も有効 期間の定めのない賃貸借とみなされる 賃料の増減請求 特約の定めに従う 特約にかかわらず、請求可能 賃借人の中途解約の可否 ・床面積200㎡未満の居住用建物でやむを得ない事情がある場合は、 借主からの中途解約が可能 ・中途解約に関する特約があればその定めに従う 中途解約に関する特約があればその定めに従う ※賃貸人は「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書等とは別に、予め書面を交付して説明しなければならない 出典)国土交通省「定期借家制度」 定期借家契約と普通借家契約の利用割合 国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」によると、定期借家契約は普通借家契約と比較してほとんど利用されていません。 出典)国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」P.32 また、同調査では令和5年度に民間賃貸住宅に住み替えた世帯の定期借家制度の認知度が「知っている」が14.9%、「名前だけは知っている」が27.5%に留まっており、半数以上が「定期借家契約」を知らないまま、賃貸住宅に住み替えていたことも分かっています。 出典)国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」P.32 定期借家契約は利用数、認知度ともに低いのが現状ですが、知らなければ後々トラブルの原因になる恐れもあります。 定期借家契約の注意点とやめたほうがいい理由 家を借りる際に、以下のように考えている場合は最初から定期借家契約を避けた方が無難です。 その物件に長く住み続けたい 定期借家契約の期間中に引っ越す可能性がある 家賃などの条件を交渉したい 定期借家契約は契約満了時に一度終了し、普通借家契約のように自動更新されません。契約満了後も住み続けたい場合は、貸主と借主の双方が同意すれば再契約が可能ですが、必ずしも合意が得られる保証はありません。気に入った物件に長く住みたい方には普通借家契約を選ぶ方が良いでしょう。 転勤や結婚などで契約期間中に引っ越す可能性がある場合も注意が必要です。定期借家契約では原則途中解約ができず、やむを得ない理由があっても解約料が発生することが一般的です。予定が不確実な場合は、柔軟に対応できる普通借家契約の方が安心です。 また、家賃や契約条件の交渉が難しい点も注意が必要です。契約期間が定められており、貸主が柔軟に対応するケースは少ないため、条件に柔軟性を求める方には不向きです。 ただし、上述の国土交通省の調査によると定期借家はそもそも物件数自体が少ないため、避けられる可能性が高いといえるでしょう。長期的に住む計画がある方やライフスタイルに変化が生じやすい方には、普通借家契約を検討するのが賢明です。 まとめ 定期借家契約は貸主の合意を得られなければ再契約ができず、退去する必要があります。短期間の入居なら家賃が安く済むかもしれませんが、長く住むには不向きです。賃貸住宅を借りたり、リースバックを利用したりする場合は、定期借家契約と普通借家契約の違いを理解しておきましょう。 さっそく仮査定を申し込む SBIスマイルのリースバックをご紹介します。仮査定は無料で受け付けています。※SBIスマイルのHPに遷移します。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 終身建物賃貸借契約とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説 終身建物賃貸借契約は、高齢者が安心して賃貸住宅に居住できる仕組みです。老後も賃貸暮らしを続けるなら、終身建物賃貸借契約に対応している賃貸住宅も選択肢のひとつです。この記事では、終身建物賃貸借...記事を読む

    2022.04.13用語
  • マンション管理計画認定制度とは?認定基準やメリット・デメリットを解説

    マンション管理計画認定制度とは?メリット・デメリットを解説

    2022年4月から「マンション管理計画認定制度」がスタートします。マンション管理適正化の推進を目的に創設された制度で、マンションの管理や資産価値などに影響を与える可能性があります。 本制度の開始によって、具体的にどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。この記事ではマンション管理計画認定制度の概要や認定基準、手続きの流れについて詳しく解説します。 マンション管理計画認定制度とは? マンション管理計画認定制度とは、マンション管理計画が一定の基準を満たす場合に地方公共団体の認定を受けられる制度です。「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正により、2022年4月から開始されます。 マンションは重要な居住形態ですが、国土交通省によると、2022年末時点で、築40年超のマンションは125.7万戸あります。10年後には260.8万戸(約2.1倍)、20年後には445.0万戸(約3.5倍)に増加する見込みです。築年数が古いマンションが増加傾向にあり、維持管理には多くの課題があります。 マンション管理計画認定制度の創設は、マンション管理の適正化を推進することが目的です。マンションの管理水準を底上げするため、必要に応じて地方公共団体が管理組合に指導や助言、勧告を実施します。 なお、認定を受けることができるのは、地方公共団体が「マンション管理適正化推進計画」を作成している地域にあるマンションです。 マンション管理計画の認定基準 マンション管理計画認定制度の創設を踏まえ、2021年9月には「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な指針(管理適正化指針)」が策定されました。本指針では、管理計画認定制度の認定基準などが定められています。主な認定基準は以下のとおりです。 修繕その他管理の方法 修繕その他の管理にかかる資金計画 管理組合の運営状況 管理適正化指針・市区独自の管理適正化指針に照らして適正なものであること 「長期修繕計画の計画期間が一定期間あるか」「計画に基づいて修繕積立金が設定されているか」「定期的に総会を開催しているか」といった点が審査されます。また、管理適正化指針や市区独自の指針に照らして、管理計画が適正なものであるかも判断されます。 助言・指導・勧告の判断基準の目安 地方公共団体は、管理適正化指針や市区独自の指針に基づき、必要に応じて管理組合の管理者などに助言や指導、勧告を行います。助言・指導・勧告の判断基準の目安は以下のとおりです。 助言・指導・勧告の判断基準の目安 判断項目助言・指導・勧告の判断基準の目安 管理組合の運営管理者が定められていない総会が開催されていない 管理規約管理規約が存在しない 管理組合の経理管理費と修繕積立金額が区分されていない 長期修繕計画の作成および見直し修繕積立金が積み立てられていない その他組合員名簿、居住者名簿がない 上記のような状況の場合、マンション管理が不適切と判断される恐れがあります。 マンション管理計画認定制度のメリット マンション管理計画認定制度のメリットは以下のとおりです。 マンション管理水準の維持向上につながる 市場評価・地域価値の向上が期待できる 購入希望者がマンション管理状況を把握しやすくなる 金利優遇を受けられる(新築の場合) 管理者や区分所有者のマンション管理に対する意識が高まり、管理水準の維持向上につながります。地方公共団体の認定を受けたマンションであることをアピールすれば、市場評価や立地している地域価値の向上も期待できるでしょう。 現在は、購入希望者がマンションの管理状況を把握するのは簡単ではありません。しかし、今後は認定の有無を確認すれば、一定の管理水準を満たしているかを把握できるようになります。 また、中古だけでなく、新築マンションにも管理計画を認定する制度が開始される予定です(予備認定)。予備認定を受けた新築マンションを取得する場合は、住宅金融支援機構の「フラット35」の金利が一定期間引き下げられます。 出典)住宅金融支援機構 「【フラット35】令和4年4月の制度変更事項のお知らせ」より マンション管理計画認定制度のデメリット マンション管理計画認定制度のデメリットは、マンション管理組合の事務負担が増えることです。 認定を受けるには認定申請書や長期修繕計画を作成し、必要書類を準備して地方公共団体に申請しなくてはなりません。一度認定を受けたら終わりではなく、5年ごとの更新もあります。管理水準の底上げは期待できますが、管理組合の負担は大きなものになるでしょう。 ただし、マンション管理センターによる「管理計画認定手続き支援サービス(オンライン申請)」を利用すれば、事務負担の軽減が期待できます(詳細は後述)。 マンション管理計画認定の流れ マンション管理計画の認定申請方法は、「オンライン申請」と「窓口への直接申請」の2つがあります。オンライン申請の流れは以下のとおりです。 マンション管理センターへ認定申請依頼 マンション管理士の事前確認 事前確認適合通知(適合証)の発行 地方公共団体へ認定申請 認定(マンション管理センターの閲覧サイトで公表) オンライン申請でマンション管理士の事前確認を受けて適合証が発行されると、地方公共団体が審査の事務手続きを省略できる仕組みになっています。オンライン申請のほうが、申請手続きをスムーズに進められるでしょう。 窓口への直接申請は地方公共団体によって手続きの流れが異なるため、申請する地方公共団体に直接確認してください。事前確認や認定申請では手数料がかかる可能性もあるので、申請前に確認しておくことが大切です。 認定申請の必要書類 認定申請に必要な書類は以下のとおりです(神奈川県の場合)。 認定申請書 総会議事録の写し 管理規約の写し 貸借対照表 収支決算書 各戸の修繕積立金滞納額がわかる書類 長期修繕計画の写し 組合員・居住者の名簿の保証書 必要書類を準備する際は、記載内容や事業年度などの諸条件を地方公共団体に確認しておきましょう。神奈川県の場合、長期修繕計画については「計画期間30年以上」「残存期間内に大規模修繕工事2回以上含まれている」といった要件があります。 マンション長寿命化促進税制が与える影響 令和5年度税制改正の大綱にて、マンション長寿命化促進税制の創設が決定しました。この制度は、一定の条件を満たしたマンションを所有する区分所有者の固定資産税を減額できる制度です。 マンション長寿命化促進税制の適用を受けるには、マンションと管理計画の面で、条件を満たす必要があります。マンション管理計画認定制度の認定を受けることで、管理計画の面での適用条件を満たすことができます。 マンション長寿命化促進税制の創設により、マンション管理計画認定制度利用件数の増加が期待されます。 関連記事はこちらマンション長寿命化促進税制とは?概要やメリットを解説 まとめ マンション管理計画認定制度を利用して地方公共団体から認定を受けると、マンションの価値向上につながるかもしれません。ただし、認定基準はマンションを適切に維持管理するうえで最低限の基準を定めているものなので、認定を受けることが必ずしも価値の向上に寄与するとは限りません。 マンション管理組合の事務負担が増えるデメリットがあり、認定制度の効果には不透明な部分もあります。認定制度創設の影響は冷静に見極める必要があるでしょう。 出典) ・神奈川県県土整備局「マンション管理計画認定制度管理組合向け説明会」 ・国土交通省 「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」の策定について 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ DINKsマンションとは?メリットや注意点を解説 ここ数年、”DINKsマンション”や”コンパクトマンション”の供給戸数が再び増加しており、今後さらに人気が高まる可能性があります。DINKsマンションを購入するメリットがある一方で、購入する...記事を読む

    2022.03.02制度
  • 確定申告とは?手続きの流れとやり方をわかりやすく解説

    確定申告とは?手続きの流れや方法を解説

    個人で事業を営んでいなくとも、「副業収入がある」「ふるさと納税をした」などの際に、確定申告が必要になることもあります。一方で、どのような時に、どのような手続きが必要なのか、正確に理解していない人も多いかもしれません。 この記事では確定申告の概要や手続き、申告方法を解説します。 確定申告とは 確定申告とは、定められた期間内に確定申告書を提出する手続きです。確定申告書には、1月1日から12月31日の1年間に生じた、すべての所得金額と所得税額を記載する必要があります。確定申告をすることで、源泉徴収された税金や予定納税で納めた税金と、実際に納めるべき税金との過不足が調整されます。 このように、納税者自らが税金を計算して納税するため、「申告納税方式」と呼ばれます。確定申告期間は、毎年2月16日から3月15日であり、申告期限が土日祝日の場合は、その翌営業日が期限となります。 確定申告と還付申告の違い 確定申告と似たような言葉に「還付申告」があります。還付申告とは、納めすぎた税金を受け取るための申告です。納めた税金が不足している場合、確定申告は義務が生じますが、還付申告に義務は生じません。また、確定申告期間とは関係なく、1月1日から5年間提出することが可能です。 出典)国税庁「No.2030 還付申告」 確定申告が必要な人 確定申告は、「確定申告をしなければならない人」と「確定申告をしなくてもよい人」に分かれます。ここでは、どのような人が確定申告をする必要があり、どのような人が確定申告をする必要がないか、を説明します。 確定申告をしなければならない人 まずは、確定申告をしなければならない人について、「会社員」「年金受給者」「それ以外の人(個人事業主等)」に分けて説明します。 会社員 会社員は勤務先で年末調整を受けられるので、基本的には確定申告は不要です。ただし、以下の要件に当てはまる人は、確定申告をする必要があります。 年収が2,000万円を超える人 給与を1か所から受けていて、かつ、給与所得以外(副業など)の所得が年20万円を超える人 給与を2カ所以上から受け取り、かつ、年末調整をされなかった給与収入と給与所得以外(副業など)の所得の合計が20万円を超える人 副業をしている場合でも、所得が20万円を超えなければ、確定申告は不要です。また、給与を2か所以上から受け取っていても、所得が20万円を超えるか否か、が境界線となります。 年金受給者 年金受給者は確定申告不要制度が設けられているため、多くの人が確定申告をする必要がありません。ただし、以下の要件に当てはまる場合は、確定申告をする必要があります。 公的年金等の収入金額(2か所以上ある場合は合計額)が400万円超 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円超 年金受給者も、会社員と同様に、公的年金以外の所得が20万円を超えるか否か、が境界線となります。ただし、異なる点として、公的年金等の収入が400万円を超えた場合にも、確定申告が必要となります。 出典)政府広報オンライン「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」 それ以外の人(個人事業主等) 会社員、年金受給者以外の人は、基本的に確定申告をする必要があります。具体的には以下のような人です。 事業所得や不動産所得などがある人 退職所得がある人 個人事業主やフリーランスなど、事業所得がある人は、原則として毎年確定申告をしなければなりません。退職金については「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、源泉徴収による課税が済みます。ただし、外国企業から受け取った退職金など、源泉徴収されないものがあるので注意しましょう。 出典)国税庁「確定申告が必要な方」 確定申告をしなくてもよい人 確定申告をしなくてもよい人は、前述の「義務がある人」以外の人を指します。しかし、その中には、「確定申告をしたほうが良い人」が存在します。「確定申告をしたほうが良い人」とは、一口に言うなれば、確定申告をすることで、経済的なメリットがある人です。たとえば、以下のような人が該当します。 医療費が10万円を超えた人 寄附やふるさと納税をした人 住宅ローンを借りた人 事業で赤字を出した人 FXや株で損を出した人 医療費控除や寄付金控除は、所得控除に該当し、所得が減少することで減税できます。住宅ローン控除は、税額控除に該当し、所得税や住民税から直接的に減税されます。事業赤字や投資の損失は、損失の繰越控除ができるため、翌年以降の利益を圧縮できる場合があります。 確定申告の方法 確定申告は以下の手続きで進めます。順に説明していきます。 必要書類の準備 確定申告書の作成 確定申告書の提出 納税、還付手続き 必要書類の準備 まずは確定申告に必要な書類を準備しましょう。主な必要書類は以下のとおりです。 確定申告書(AまたはB) 源泉徴収票 各種控除証明書 金融機関の口座情報 マイナンバーカード 確定申告書はAとBの2種類があります。確定申告書Aは、申告できる所得が限定されている簡易版です。確定申告書Bは、すべての所得の申告に使用できます。会社員や年金受給者が医療費控除などを受ける場合は、確定申告書Aを使うといいでしょう。 確定申告書の作成 必要書類が準備できたら、書類の内容に基づいて確定申告書を作成します。主な作成方法は以下のとおりです。 国税庁の確定申告書等作成コーナーで作成する 会計ソフトで作成する 確定申告会場や税務署で作成する 税理士に依頼する 給与所得者などが、医療費控除や寄付金控除などを行う場合は、国税庁の確定申告書等作成コーナーが便利です。個人事業主やフリーランスの人は、市販の会計ソフトを使うと帳簿や青色申告決算書なども一緒に作成できます。 自分で作成することが難しいときは、確定申告会場や税務署で、作成方法を教えてもらうこともできます。また、申告内容が複雑な場合などは、税理士の代行サービスを検討しましょう。 確定申告書の提出 確定申告書の作成が完了したら税務署に提出します。提出方法は以下3つです。 郵送 税務署に持参 e-Tax(電子申告) パソコンやスマホの操作に慣れている人にとっては、e-Taxが最も手軽な方法です。紙で作成した場合など、所管の税務署に持参や郵送する方法もあります。いずれの方法においても、申告期間は毎年2月16日から3月15日です。 納税、還付手続き 納税義務がある人は、納税手続きを行いましょう。納税方法は以下6つです。 ダイレクト納付 インターネットバンキング等 クレジットカード納付 コンビニ納付 振替納税 窓口納付 個人で事業を営んでいる人など、毎年確定申告を行う場合は振替納税が便利です。一度手続きを行うと、次回以降も振替納税とすることができます。一度限りや、毎年するわけではないという人は、e-Taxを利用して、パソコンやスマホから納税することも可能です。 納税ではなく還付の場合は、確定申告書に記入するだけで、別途手続きは不要です。確定申告書に記入した口座に還付金が振り込まれます。通常、還付手続きまでは1か月から1か月半程度かかりますが、e-Taxの場合は3週間程度で処理されることもあります。 出典)国税庁「[手続名]国税の納付手続(納期限・振替日・納付方法)」 確定申告の注意点 申告義務がある人は、必ず期限内に確定申告を行いましょう。確定申告をしないと。無申告加算税や延滞税が課されることがあります。また、申告義務がなくとも確定申告をすることで、減税や損失の繰越控除が利用できる人も、申告をするようにしましょう。 確定申告の内容に間違いがあった場合は、「修正申告」をする必要があります。税額を少なく申告をしているときは、必要な税額に延滞税が上乗せされて課されることもあります。一方で、税額を多く申告しているときは、「更正の請求」を行いましょう。請求内容が認められると、納めすぎた税金が還付されます。 まとめ 確定申告の義務がある人は、必ず期限内に、正しく申告しましょう。また、義務がなくとも、減税メリットがある人もいます。まずは、自身が確定申告の必要があるのか、ない場合でも受けられる控除はないか、などを確認するところから始めてみましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 納税証明書とは?種類ごとの記載事項や取得方法などを解説 融資や自治体のサービス、車検などを申し込むとき、納税証明書を求められることがあります。そもそも、納税証明書とはどのような書類なのでしょうか。日常生活で納税証明書が必要になる場面は多くないので...記事を読む

    2022.01.19用語
  • 自営業者が加入可能な国民年金基金とは?

    自営業者が加入可能な国民年金基金とは?

    自営業者やフリーランスは、会社員に比べて年金が少ないと言われています。しかし、国民年金に上乗せして国民年金基金に加入すれば、年金額を増やすことが可能です。 国民年金基金について名前は聞いたことがあっても、どんな制度なのかはよくわからないのではないでしょうか。国民年金基金にはデメリットもあるため、加入する前に特徴を理解しておくことが大切です。 そこでこの記事では、国民年金基金の仕組みやメリット・デメリットについて詳しく解説します。 国民年金基金とは 国民年金基金とは、自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者が安心して老後を過ごせるように、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。掛金を納めた期間に応じた年金が将来支給されます。 国民年金のほかに厚生年金や企業年金に加入している会社員に比べると、国民年金のみに加入している自営業者の年金額は少ない傾向にあります。厚生労働省の資料によれば、2019年度の平均年金額は厚生年金が月額146,162円に対し、国民年金は月額56,049円です。 自営業者が国民年金基金に加入すれば、会社員との年金格差の解消が期待できます。 出典)厚生労働省「令和元年(2019年)度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 国民年金基金に加入できる人 国民年金基金の加入資格は以下のとおりです。 20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者 60歳以上65歳以下または海外居住者で、国民年金に任意加入している人 上記要件を満たしていれば、学生や主婦でも加入可能です。しかし、国民年金保険料を免除されている人は、国民年金基金には加入できません。 国民年金基金の成り立ち 1980年代後半に国会で「自営業者にも2階建ての年金を整備すべき」との議論が行われ、1989年に国民年金基金制度の導入が決定し、1991年に施行されました。当初は全国47都道府県で地域型国民年金基金、25の業種で職能型国民年金基金が設立されました。 その後の2019年には、加入員・受給者の利便性向上や運営基盤の安定性を図るために全国国民年金基金が成立し、全国47都道府県の地域型国民年金基金と22の職能型国民年金基金が合併しました。 国民年金基金の運営状況 2020年度末の国民年金第1号被保険者数(任意加入を含む)は1,449万人です。それに対して、国民年金基金の加入員数は2003年度末の約78万人をピークに減少が続いており、現存加入員数は約34万人にとどまります。 国民年金基金連合会の運用報告書によれば、2020年度の運用実績は国内外の株価上昇などもあって、年度ベースの収益率は24.44%で、1997年以降の累積実績では年率4.24%の収益率です。また、2021年3月末時点の積立金の運用残高は4兆6,679億円です。 足元の収益率の上昇の一方で、責任準備金は直近10年以上の不足が続いており、財政状況が好調とは言い難い状態が続いています。このまま加入員数の減少や財政運営の悪化が続くようであれば制度が破綻する可能性も低いとは言えなくなる恐れがあります。 出典) ・厚生労働省「令和2年(2020年)度の国民年金の加入・保険料納付状況P1」 ・国民年金基金「事業の概況・状況(現存加入員数の状況)」 ・国民年金基金連合会「2020年度 運用報告書」 国民年金基金のメリット 国民年金基金には以下3つのメリットがあります。 終身年金である 国民年金基金は、65歳から一生涯受け取れる終身年金が基本です。掛金によって将来受け取る年金額が確定するため、老後の資金計画を立てやすいでしょう。 終身年金のほかに、受取期間が決まっている確定年金も用意されています。終身年金に確定年金を組み合わせるなど、ライフプランに合わせて年金額や受取期間を自由に設計できます。 掛金の上限額は月額68,000円で、加入後も口数単位で年金額や掛金額の増減が可能です。iDeCo(個人型確定拠出年金)と併用できますが、その場合は国民年金基金とiDeCoを合わせて月額68,000円が掛金の上限額となります。 万が一のときには家族に一時金が出る 国民年金基金の掛金は掛け捨てではなく、万が一早期に亡くなったときには家族に遺族一時金が支給されます。年金受給前や保証期間中に亡くなった場合は、保証期間に応じた一時金を遺族に残すことができます。 税制優遇がある 国民年金基金には以下3つの税制優遇があります。 掛金は全額社会保険料控除の対象 受け取る年金も公的年金等控除の対象 遺族一時金は全額非課税 掛金は全額が所得控除の対象となるため、確定申告によって所得税・住民税が軽減されます。将来受け取る年金には「公的年金等控除」が適用され、一定額までは非課税で受け取れます。万が一のときに支給される遺族一時金も全額非課税です。 国民年金基金のデメリット・注意点 国民年金基金には以下のようなデメリット・注意点もあります。 任意脱退、中途解約ができない 国民年金基金への加入は任意ですが、自己都合での脱退や中途解約はできません。途中で掛金を払えなくなった場合は、払い込みの一時中断が可能です。年金額は未納期間に応じて減額されます。未納分は後から納付することも可能です(納付可能期間は2年以内)。 なお、自己都合の解約は認められませんが、国民年金第1号被保険者でなくなるなど、加入資格を失う場合は脱退となります。脱退した場合は加入期間の長さを問わず、納めた掛金は将来年金として給付されます。 加入期間中の死亡時には、遺族一時金が掛金を下回ることがある 国民年金基金は年金受給前や保証期間満了前に死亡すると、遺族に一時金が支給されます。しかし、遺族一時金の額は掛金を下回ることがあります。そのため、あらかじめ加入前に遺族一時金の額を確認しておきましょう。 破綻リスクがある 国民年金基金は国民年金法に基づいて運営されている公的な制度ですが、解散する可能性もあります。 上述のように好調な相場環境もあって、直近では収益率や積立金の額は上昇しています。しかし、加入者数は減少が続いており、ピーク時の半分程度に落ち込んでいます。財政運営も一時的に回復していますが、令和2年度の責任準備金の不足分は約8,000億円となっており、今後の状況によっては破綻リスクもゼロとはいえません。 もし解散する場合は、解散時点の残余財産を加入員および受給者で分配することになっており、分配額はそれまで支払った掛金額を下回ることがあります。 まとめ 国民年金基金は一生涯受け取れる終身年金であり、税制優遇を受けられるのが魅力です。国民年金に上乗せして加入できるので、自営業者やフリーランスの年金対策として活用できます。 ただし、任意脱退や中途解約はできないので、メリット・デメリットをよく比較した上で加入を検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...記事を読む

    2021.12.29制度年金

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