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  • <介護と保健ガイドブック>介護におけるコミュニケーション

    <介護と保健ガイドブック>介護におけるコミュニケーション

    介護におけるより良いコミュニケーションとは 介護される人の心理状態を理解しよう より良い介護を行うためには、介護される人、介護する人、この両者間のコミュニケーションが非常に大切なものになります。介護をされる人の心理状態を知っておくことはとても重要です。相手がどういう心理状態なのかを理解できれば対応の方法もわかり、お互いの関係を良好に保つことにつながります。 一見わがままだと思えることも、介護されることへの申し訳ないという思いや家族に負担をかけることへの罪悪感、今までできていたことができないことへのいら立ちなどからくるものなのかも知れません。ここでは介護を受ける人が一般的にどのような気持ちを持つことが多いのかを紹介します。 ただし、実際にはひとりひとりに個人差がありますので、紹介する心理状態が必ずしも当はまる訳ではありません。介護される人と介護する人がよく話し合い、お互いの気持ちを知り、思いやりを持って接することが大切です。 【介護を受ける人の心理状態】 それまで、できていたことができなくなることによるイライラ、焦り、不満などを抱えていることがある。 自由にできていたことが人の手を借りないとできなくなることによる欲求不満から、攻撃的になる場合もある。 介護してもらうことに申し訳ないという罪悪感を持っていたり、負い目を感じていたりする場合もある。 排泄や入浴などの介助を受ける場合、恥ずかしいという意識をもつ場合もある。 高齢者の一般的な心理背景 介護を受ける人との接し方のポイント 介護を受ける人と接する場合、具体的にどのようなことに配慮して、どのような心がまえ、態度で対応したらよいのでしょうか。そのポイントを紹介します。 傾聴、受容、共感が大事 相手の気持ちや考え、状態を理解するには、まず相手の話にじっくりと耳を傾ける「傾聴」が大事です。また、話を聞いたら否定せず、ありのままを受け入れる「受容」、そして、相手の喜怒哀楽に「共感」する姿勢を持つことも大切です。相づちを打ちながら聞く、相手の言ったことに質問をしたり、聞いた言葉をそのまま繰り返したりするなど、相手の話をよく聞いているということを示すようにしましょう。相手と目線の高さを合わせ、相手の表情も見ながら話すように心がけると、より良いコミュニケーションにつながります。 非言語コミュニケーションも大事 コミュニケーションは、言葉だけで行われるものではありません。例えば、声の大きさや発し方にも気を配りましょう。「高齢者は耳が遠いから大声で話す」と思いがちですが、十分に聞こえている人もいます。相手の状態を見て、声の大きさは調整するようにします。一般的に、少し低めの声で、ゆっくり、はっきりと話すと聞き取りやすいといわれています。また、言葉で説明するだけでは伝わりにくいと思う場合、身ぶりや手ぶりを交える、文字で書いて示す、現物を見せるなどの工夫も有効です。さらに、肩に手を置く、手を握るなど、スキンシップも有効な場合があります。このように相手の状態をよく観察しながら、上手にコミュニケーションがとれるように工夫しましょう。できるだけリラックスして話せるように静かな環境を整えることも大切です。 「できることは本人にやってもらう」のが基本 介護というと、なんでもかんでもお世話をするものと思いがちですが、手を出し過ぎるとその人の機能低下を招くことにもなりかねません。「できることは本人にやってもらう」のが基本です。そのためには、衰えた機能ばかりに目を向けるのではなく、その人ができることは何かを見つけて、その能力を引き出すような援助を心がけましょう。また、介護を受ける人は、それまで自力でできていたことが他人の手を借りなければできなくなっていることに負い目を感じている場合もあります。その人ができることを見つけ、何かの役に立っているという自己有用感を持ってもらうことも大切です。それが生きる喜び、生きたいという意欲にもつながります。いたずらに「頑張れ」と励ますだけではなく、その人の意に沿った具体的な目標を決め、達成できたらそれを一緒に喜び合うという姿勢を持ちましょう。 その人らしさ、その人らしい暮らしを大切に ここに挙げたのは一般的にいわれていることです。人にはそれぞれ個性があります。杓子定規に考えて決めつけることはせず、一人ひとりに合った対応を心がけましょう。本人の意志、その人らしい暮らし方を尊重することが、より良い関係を築くためにとても重要です。 よくある事例への対応 物を盗られたと訴える 物を盗られたと訴える「物盗られ妄想」は、アルツハイマー型認知症に多く見られる症状で、一番身近な介護者を疑うことも多いのです。このような場合、本人に理屈を説明しても納得してもらうことはむずかしく、介護者が見つけるとより疑いが強まる場合もあります。一緒に探し、本人が見つけるように誘導しましょう。 入浴や着替えをいやがる 服を脱がされることが恥ずかしくて拒否していることも考えられます。その場合は、同性の家族が一緒に服を脱いであげると抵抗感がなくなることもあります。また、入浴は浴室でするということにこだわらず、部分的な清拭を行ったり、ベッドサイドで足浴をしたりすることでもよいでしょう。無理をすると思わぬ事故につながることもあるので、介護サービスなどの入浴サービスを利用することも一案です。 知らない間に出て行き、帰れなくなる 昔住んでいた家や思い出深い場所に行ってみたくなり、知らない間に出て行き、帰る場所がわからなくなって徘徊し保護されるケースも…。このような場合は無理に止めず、一緒に出かけて近所を一周すると落ち着くこともあります。また「今日はもう遅いので、明日にしましょう」などと声がけをし、延期してもらうことで落ち着くこともあります。声がけで止めるのがむずかしい場合、玄関などにセンサーをつけておく、夜間などは二重ロックをかけるなどの対応策をとることも考えましょう。 介護をする人自身が健康を損なわないように まじめな人ほど、介護の手を抜いたり他人任せにすることに罪悪感を感じ、頑張ってしまいがちです。しかしそれが続くと、介護をする人が体調を崩したり、精神的に追い詰められたりしてしまいます。ここでは、介護をする人の心身を守るために心がけておきたいことを紹介します。 周りに協力を求め、一人で抱え込まない もっとも大切なのは、ひとりで抱え込まないことです。協力してくれる人を周りにたくさんつくっておくことで精神的な余裕が生まれます。家族内で分担をする、それが無理ならば離れている兄弟や近所の人、あるいは介護ヘルパーなどのプロの手もぜひ借りましょう。 介護を支援する制度をうまく利用する 介護保険制度だけではなく、その他の公的なサービスも徐々に増加しています。まずは自治体の窓口で、どのようなサービスが利用できるのかを相談してみましょう。各自治体ごとに提供されるサービスが異なりますので、情報収集をしっかりと行うことが大切です。また、福祉用具や機器の貸し出しなど、経済的な負担を軽減する制度もあるので上手に利用しましょう。 家族だからできる介護とは? 介護のための技術を習得しているプロの手を借りたほうが安全であったり、介護される人も気が楽だったりする場合もあるでしょう。しかし家族には、苦楽をともにしてきた経験や時間という、他人には共有できないものがあります。あるベテランのヘルパーは「私たちがどんなに頑張っても、家族の間でのやりとりから生まれる自然な笑顔を引き出すことはできない」と言います。公的サービスも大いに活用すべきですが、家族だからこそできることを同時に考えていくことが、より良い介護につながります。 広がり始めた「見守りサービス」 超高齢社会を迎え、一人暮らしの高齢者や高齢の夫婦のみといった「高齢者だけの世帯」が増えています。離れて暮らす家族にとって、高齢の親や親族の安否をつねに確認できることは、安心につながります。高齢者が住み慣れた土地で自立して暮らし続けるには、周囲の見守りが欠かせません。現在、地方自治体や多くの民間事業者などが、効果的な高齢者の「見守りサービス」に取り組んでいます。 見守りサービスには、安否の確認や通報、駆けつけを代行してくれるものなど、さまざまなタイプがあります。自治体が実施している見守り関連事業には「安否確認」「緊急通報システム」「配食サービス」「コミュニティ活動や学習活動」「サロンの運営・管理」などがあります。介護保険によるサービスに加え、多くの自治体では、民生委員や地域包括支援センターによる一人暮らしの高齢者への見守り活動、民間事業者と連携した支援の提供などに取り組んでいます。 サービスの情報 新型コロナウイルスの影響により、離れて暮らす高齢の家族を訪ねることが困難な状況の中で、カメラ型やセンサー型などの見守り装置の設置が注目されています。パソコンやスマホを使って、遠隔で家族を見守ることが可能です。 自治体が行う支援やサービスについては、内容や要件などが各自治体によってそれぞれ異なります。利用する際は、居住する市区町村の福祉課や地域包括支援センターなどに問い合わせてください。民間事業者が手がけるサービスについては、企業の公式サイトなどで情報を入手することができます。自治体と連携しているサービスでは、機器の設置などが助成対象になる場合があります。 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用

  • 中小企業退職金共済とは? 制度概要とメリット・デメリット、加入手続きの流れを解説

    中小企業退職金共済とは? 仕組みやメリット・デメリットを解説

    中小企業退職金共済(中退共)とは、中小企業のための退職金制度です。自社で退職金制度を持つのが難しい中小企業でも、中小企業退職金共済に加入することで、手軽に退職金制度を導入できます。 この記事では、中小企業退職金共済の仕組みやメリット・デメリット、加入手続きの流れについて解説します。 中小企業退職金共済とは 中小企業退職金共済とは、主に中小企業の常用労働者を対象とした退職金共済制度です。事業主が掛金を納付することによって、従業員に中小企業退職金共済から退職金が支払われます。 自社で従業員の退職金を管理・運用することが難しい中小企業でも、中小企業退職金共済に加入すれば簡単に退職金制度の導入が可能です。 制度開発の背景・目的 中小企業退職金共済は、1959年(昭和34年)に中小企業退職金共済法に基づいて設けられました。単独で退職金制度を持つことが困難な中小企業に対して、事業主の相互共済の仕組みと国の援助で退職金制度を設け、従業員の福利厚生の充実と雇用の安定を図ることによって、中小企業の振興・発展に寄与することを目的としています。 制度の仕組み 中小企業退職金共済制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構(中小企業退職金共済事業本部)によって運営されています。中小企業退職金共済の仕組みは以下のとおりです。 出典)厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度のしくみ」 事業主が中小企業退職金共済と退職金共済契約を結ぶ 事業主は毎月掛金を納付する 従業員が退職したときは、事業主が中小企業退職金共済に退職届を提出する 退職者本人からの請求により、中小企業退職金共済から直接退職金が支払われる 掛金は全額事業主負担であり、従業員に負担させることはできません。掛金月額は5,000円以上30,000円未満で従業員ごとに選択することができます。 加入条件 中小企業退職金共済に加入できるのは、「常用従業員数」または「資本金・出資金の額」のいずれかが次の範囲内である企業です。個人企業や公益法人等は常用従業員数で判断します。 業種 常用従業員数 資本金・出資金の額 一般業種(製造業、建設業など) 300人以下 3億円以下 卸売業 100人以下 1億円以下 サービス業 100人以下 5,000万円以下 小売業 50人以下 5,000万円以下 常用従業員には、一週間の所定労働時間が同じ企業に雇用される通常の従業員とおおむね同等で、「雇用期間の定めがない者」「雇用期間が2ヵ月超の者」も含まれます。中小企業退職金共済に加入するためには、短時間労働者等の従業員を除き、原則として従業員が全員加入する必要があります。 出典)厚生労働省「よくわかる中小企業退職金共済制度」 中小企業退職金共済のメリット 中小企業が中小企業退職金共済制度に加入するメリットは以下のとおりです。 掛金の一部を国が助成する 中小企業退職金共済には、掛金の一部を国が助成する制度があります。助成期間中は掛金月額から助成額を控除した額を納付するため、事業主の負担軽減が期待できます。国からの助成は次の2種類です。 助成の種類 助成額 助成期間 新規加入助成 (1)掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)(2)短期労働者の特例月額(2,000~4,000円)は、(1)に300~500円を上乗せ 加入後4ヵ月目から1年間 月額変更助成 18,000円以下の掛金月額を増額する場合、増額分の3分の1 増額月から1年間 ただし、同居親族のみを雇用する事業主などは助成の対象外となります。 掛金は非課税 中小企業退職金共済の掛金には、税法上の特典が設けられています。法人の場合は損金(税務上の費用)、個人事業の場合は必要経費として全額非課税となるため、事業主の税負担の軽減が期待できます。 管理に手間がかからない 中小企業退職金共済は、退職金制度の管理に手間がかからないのもメリットです。毎月の掛金は口座振替で、従業員ごとの納付状況や退職金の試算額は中小企業退職金共済が知らせてくれます。そのため、手間をかけずに退職金制度の導入・運営が可能です。 中小企業退職金共済のデメリット 一方で、中小企業退職金共済には以下のようなデメリットもあります。 掛金の減額は原則できない 中小企業退職金共済では、原則として掛金月額の減額はできません。掛金月額の減額が認められるのは、次のいずれかの場合に限られます。 従業員が同意した場合 現在の掛金月額の継続が著しく困難であると厚生労働大臣が認定した場合 掛金月額の増額変更はいつでもできます。しかし、減額は簡単にできないため、掛金月額の設定は慎重に行うことが大切です。 出典)厚生労働省「よくわかる中小企業退職金共済制度」 元本割れする恐れもある 中小企業退職金共済は、掛金の納付期間によっては元本割れする恐れもあります。 掛金の納付月数が11ヵ月以下の場合、退職金は支給されません。また、12ヵ月以上23ヵ月以下の場合は掛金納付総額を下回り、元本割れとなります。中小企業退職金共済で元本割れを避けるには、24ヵ月以上の掛金納付が必要です。 出典)中小企業退職金共済事業本部「従業員の退職金は中小企業退職金共済制度(9.退職金について)」 従業員しか加入できない 中小企業退職金共済に加入できるのは従業員のみで、経営者や役員は加入できません。経営者が老後の生活に備えるには、中小企業退職金共済以外の制度を利用して自分で退職金を準備する必要があります。 中小企業の経営者や役員は、一定の条件を満たせば「小規模企業共済」に加入できます。退職金の準備に活用できるため、必要に応じて検討しましょう。小規模企業共済については、以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら小規模企業共済とは?メリット・デメリットと加入までの流れを解説 中小企業退職金共済の加入手続きの流れ 中小企業退職金共済へ加入する場合は、事業主が手続きを行います。加入手続きの流れは以下のとおりです。 加入申込書に必要事項を記入して金融機関などに提出する 中小企業退職金共済本部と退職金共済契約を締結する 中小企業退職金共済本部から従業員ごとの「加入通知書」および「退職金共済手帳」が送付される 加入申込書は申込先の窓口に用意されています。銀行や信用金庫といった金融機関のほか、商工会議所などでも申込み可能です。常用従業員数が一定規模以上の場合は、「中小企業者であることの証明」の提出も求められます。 出典)中小企業退職金共済事業本部「手続きのご案内」 まとめ 退職金制度は、従業員にとっては退職後の生活の安定に不可欠なものです。従業員の意欲向上や雇用の安定につながるため、企業経営にもプラスの効果が期待できます。自社で退職金制度を持つのが難しい中小企業は、中小企業退職金共済への加入を検討してみてはいかがでしょうか。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...記事を読む

    2022.12.14制度
  • 資産承継と資金調達を同時に解決。「資産承継ローン」が次世代に残すもの

    資産承継と資金調達を同時に解決。「資産承継ローン」が次世代に残すもの

    総人口に占める65歳以上の割合が3割を超え、高齢者率が主要国の中で最高となった日本では、2025年には約800万人いる団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、国民の4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会を迎えます。労働人口は減っていく中、年金や老後2,000万円問題など老後の資金についての不安が高まっています。 また、資産に関しては土地や家屋などの不動産が相続財産全体の4割を占めていますが、遺産としての不動産は管理や分配が難しく、トラブルに発展するケースも少なくありません。 図:相続財産の金額構成推移 出典)国税庁(2020年) こうした悩みを抱える方々のために新生インベストメント&ファイナンスは、資産承継における問題解決を目的とした「資産承継ローン」を商品化しています。今回は、新生インベストメント&ファイナンス株式会社 代表取締役社長 山田茂様にお話を伺いました。 老後資金の調達と資産の承継を同時にできる新しい形の不動産担保ローン ―――新生インベストメント&ファイナンス様について教えてください 新生銀行グループ唯一の不動産ノンバンクとして、個人や個人事業主、中小企業のビジネスサポートや資産形成など多様なニーズにお応えしております。また、第二種金商業者として、グループの中で行われている投資ビジネスのストラクチャーやプラットフォームを提供するというユニークな機能も持ち合わせています。 私自身は不良債権回収や回収管理のシステム構築、外資系サービサーへの出向など債権管理に関するキャリアを積み、2000年以降は債権投資のビジネスに携わってまいりました。その後、新生銀行の不動産ファイナンス部、不動産リスク管理部で不動産ファイナンスの営業、リスク管理を担当し、2020年より現職についております。 ――資産承継ローンとはどのようなサービスですか? 高齢者が、負債の整理や老後の資金の確保、相続対策などを目的に、親族や親族が経営する法人に不動産を売却する際に利用できる不動産担保ローンです。信頼できる人に不動産を引き継ぎながら資金ニーズも満たすこともできる、これまでにない新しい形のサービスです。 ――どのような経緯から生まれたサービスなのでしょうか? 老後の資金や会社の負債整理など高齢のお客様が資金調達を考えるケースは多数あります。しかし、不動産を所有されていたとしても返済期間の設定などの問題もあり、不動産を担保に借入をするのは難しいのが現状です。不動産を利用した資金調達方法としては「セール&リースバック」「リバースモーゲージ」などもありますが、第三者に大切な家や事業所を売却してしまう寂しさ、賃料を払い続けることに不安を感じる方もいらっしゃいます。 こうしたお悩みを持つお客様に寄り添えるサービスが必要なのではないかということから「資産承継ローン」が誕生しました。 ―――サービス開始からこれまでにどれくらいの方が利用されていますか? 2021年8月のサービス開始から34件が成約しています。店舗・事務所が主体の商業ビルをお孫さんが設立した新設法人に売却することによる資産承継、資産管理会社に収益用の不動産を売却されて、事業資金を捻出されるなど様々なケースがあります。 不動産の価値を最大限に活かす”第三の選択肢” ――ほかの不動産担保ローンとの違いはどこにあるのでしょうか? 老後資金対策として利用されるサービスには「セール&リースバック」や「リバースモーゲージ」などがあります。「セール&リースバック」は不動産を売却後に賃貸契約を結び住居を確保しながら資金を調達するもの、「リバースモーゲージ」は不動産を担保に老後資金を借入し、死後に物件を売却し借入金を返済する仕組みになっています。 どちらも不動産を第三者に売却することが前提のため、資産を受け継ぐ人がいない場合の選択肢として有効だと思います。ただし、不動産価値が下がるリスクを踏まえ、資金調達額は実勢価格より低くなる傾向があります。「セール&リースバック」で7~8割、「リバースモーゲージ」なら5割程度となっています。 また、「老後の資金調達」が目的の場合、余命を考えて賃貸や借入の時期の設定を行うのは困難で、どちらのサービスも資金不足などの不安が残ることは避けられません。 一方で「資産承継ローン」は不動産担保ローンビジネスを展開してきた当社のノウハウから不動産価値を的確に見極め、実勢価格の8割の資金調達ができます。ローンの返済が完了すれば不動産は承継者の手元に残りますので、愛着のある不動産や事業所が第三者の手に渡ることもありません。 ――資産承継ローンの最大のメリットはどこでしょうか? 単なる資金調達ではなく、大切な資産を「未来に残す」ことができる点です。資金を承継する方が設立した法人に不動産を売却することもできるので、個人の負債にはなりません。リスクを不動産担保に集約することで、買い主様の負担を減らすことができるのは大きなメリットだと思います。 代表者の個人保証も原則不要ですので、買い主様が個人の住宅ローンを契約する場合にも影響しません。負債がある場合には売却する新設法人に名義を移して、債務と不動産の切り離しを行うこともできます。 大切な資産を未来につなぎ活用する ――資産承継ローンが向いているのはどのようなお客様でしょうか? 負債や老後資金に関して身近に相談できる人がいる、事業や資産を受け継いでくれる親族や社員がいるという方には最適なサービスです。事業法人から資産管理会社への不動産売買の際にもご利用できますので、本業と、収益不動産の管理を分けたいというニーズにも対応できます。相続対策としては、身近で自分の世話をしてくれている人に確実に不動産を残したい、財産分与の際のトラブルを未然に防ぐ方法として利用されるのも有効です。 ―――具体的な事例としてはどのようなものがあるのでしょうか? アパート経営をされているお客様で一時家賃収入が滞った際に契約したアパートローンの一括返済を求められてご相談いただいたケースがあります。「返済のためにアパートを売却するのは避けたい、子供たちに引き継ぎたい」とのご希望でした。現在はアパート経営も順調で、返済に関しても問題ないと判断し、資産承継ローンをご利用いただきました。 お子様に売却することで負債となっていたローンを完済でき、お客様が長年続けてきた事業であるアパート経営もお子様に引き継ぐことができました。 また他の事例として事業承継と資産承継を同時に実現できたケースもあります。 自社ビルを所有して学習塾を経営されていたお客様は、「事業は信頼できる従業員に引き継ぎ、所有しているビルは子供に引き継がせたい」というご希望があり、資産承継ローンをご利用いただきました。お子様2人を株主とする資産管理会社を設立し自社ビルを売却。学習塾とは長期の賃貸借契約を結び、安定収入を生む優良不動産を承継することができました。 そして、当初の想定にはなかったのですが、予想外に多かったのが離婚された際の住宅ローンに関するご相談です。ご夫婦がそれぞれに住宅ローンを契約していると離婚時に一括返済が必要になります。しかし、売却はせずにそのままどちらかが住み続けたいという場合には資産承継ローンの活用が有効です。ご夫婦どちらかの持ち分を売買するという形で一人が不動産を所有し、資産承継ローンを利用して返済していくことで、不動産を手放すことなく円満に解決できます。 時代とともに不動産担保ローンのニーズも変化していくことを考えると、こうした事例も増えていくのかもしれないと感じています。 サステナブルな社会のために 課題に応える商品に ――老後資金の不安や企業の事業承継が進まないなど社会問題についてはどうお考えでしょうか? 日本は65歳以上が3割を占める高齢化社会ですが、同時に「企業の高齢化」「不動産の高齢化」といった問題もあります。中小企業において休廃業は倒産件数と比べても高い水準が続いています。また、不動産も市場で取引される中古物件の平均築年数は右肩上がりになっています。 「人」「企業」「不動産」、この3つの高齢化の課題に、適切なソリューションを提供する金融機関が少ないことが、スムーズな事業・資産の承継を妨げている可能性があります。 老後資金の不安や承継者問題、築年数を経た不動産の活用など、人生や企業の最終局面で生まれる資金ニーズに対してどのように応えていくか。そのひとつとして不動産をより良い形で活用する手助けができるサービスを提供していくことが必要だと思っています。 ――資産承継ローンに関する想い、今後の展開について教えてください ご高齢の方が資金調達を考える時には不動産を売却するか、土地を担保に借入をするかといった選択がほとんどでした。しかし、身近に相談できる人や資産承継者がいる場合には、資産承継ローンを使えば、資金調達と同時に、大切な資産を引き継ぐという選択肢も生まれます。サステナブルな社会に貢献できるサービスとして資産承継ローンを育てていきたいと考えています。 新生インベストメント&ファイナンス社「資産承継ローン」についてはこちら 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 ”明るい廃業®”を掲げる新生銀行に ニッポンの経営者の本音を聞いた 日本には、2021年6月時点でおよそ367万4000社の企業があります。(総務省・経済産業省による発表)そのうち中小・小規模事業者の数は99.7%を占めるといいます。 そして、2017年に中...記事を読む

  • <介護と保健ガイドブック>家庭での介護

    <介護と保健ガイドブック>家庭での介護

    起き上がりと移動の介助 寝返りや起き上がり、ベッドから車イスへの移乗など、「移動」は、日常のさまざまな場面で必要となる介助です。力任せに動かそうとすると、介助する人が腰を痛める原因にもなってしまいます。無理な力を使わず、介護をする人にとっても介護をされる人にとっても安心で楽な方法を覚えましょう。 起きて座ることの意味 人にとって「起きる」ということは非常に重要な意味を持っています。まず、「起きて」「座る」ことは「食べる」「歩く」といった日常生活の基本となる行動です。起きて髪をとかす、座って食事をとるなど、自分でできることを自分で行えることは、自信の回復や生きる意欲にもつながります。 また、「起きて」「座る」ことは、意識を覚醒させるため、脳の活性化にもつながります。さらに、「起きる」ということは、重力に逆らって姿勢を保つ筋力を使います。寝たきりになってしまうと、この筋力が衰え、骨の弱化、換気障害なども起こしやすくなります。 体の一部にずっと重みが加わることによって褥瘡(床ずれ)の原因にもなります。生活にメリハリとリズムをつけるためにも、少しでも「起きて」「座って」過ごす時間を増やすような介助を行いましょう。 【2時間に1回を目安に】 寝返りの介助は、床ずれを防止するためにもとても大切です。できれば2時間に1回を目安に、こまめに体の向きを変えるようにしましょう。 【本人に動作を説明し、協力してもらう】 介助をされる人にも、始めようとする動作を説明し、協力してもらうとスムーズになり、お互い楽に動くことができます。 寝返りの介助-仰向けから横向きに 起き上がりの介助 生活の質を保つためには、できるだけ離床時間をつくることが大切です。近年は、介助する人が腰を痛めぬよう、高さの調整機能、背上げ機能があるベッドを利用することも多くなっています。自身で動ける場合はできるだけ自分の力で起き上がってもらうようにして、介助者は最低限の手助けをするようにします。 介助用ベッドを使用する場合 【動作と動作の変わり目には声がけを!】 「移動」は一気にしようとすると転倒などの恐れがあります。動作と動作の変わり目では必ず動きを止め、安定してから次の動作に移るようにしましょう。次の動作を言葉で伝えることも大切です。 【座ることは自立した生活への第一歩】 移動が楽にできるようになれば、ベッドで寝たまま過ごす時間が短くなり、生活の行動範囲も広がります。座ることによって大脳が刺激され、表情が生き生きとしてくることもあります。 【腰を痛めないコツと注意点】 起き上がりの介助は腰痛の原因になりがちです。腰痛を防ぐコツと注意点を紹介します。 足を広げて、重心を低くする。 腕の力や背筋の一部ではなく、全身の大きな筋肉を使う。力で動かそうとするのではなく、てこの原理を利用したり、体重移動で動かす。 水平移動、平行移動を心がけ、体を変な方向にねじらないようにする。 介助用ベッドを使用しない場合 ベッドから車いすに移乗する ベッドから車イスに移動する場合、少しでも自分で動ける場合はトランスファーボードの使用がおすすめです。全介助の場合はスライディングシートを使う方法もあります。 トランスファーボードを使った移乗 ベッドを車イスよりも5センチ程度高くし、ベッドに座ってもらう。この時、足の裏がしっかり床についているか確認。 車イスのアームバーは外しておく。 体を前に傾け、片方に体重をかけ、お尻を浮かせる。その隙間にトランスファーボードを差し込む。 骨盤を前傾させ、進行方向に体重を移動させる。 本人ができなければ、後ろから骨盤を持って移動を介助する。または、前から膝を押さえて移動を介助する方法もある。 ボードを抜く前に姿勢を直す。ボードを立てるようにして引き抜く。 これがコツ! 力まかせにしない!身体の自然な動きを考えよう。 動作と動作の間は、必ず1回止まってから! これから行う動作について、言葉で伝えることも大切! 【リフトで移動する福祉用具も上手に利用しよう】 持ち上げなければ移動が難しくなった場合、リフトを利用する方法もあり、介護者の腰痛防止にもなります。リフトにはベッド固定型、レール走行型、床走行型などがあり、目的、要介護者・介護者の状態、部屋の状況、費用などを考慮して選ぶことが大切です。 食事の介助 「食べること」は栄養をしっかりとることも大切な目的ですが、生きるうえでの大きな楽しみのひとつでもあります。加齢とともに噛む力や飲み込む力は低下しがちですが、食材選びや調理法をよく考え、楽しくおいしく食べられる工夫を心がけましょう。 気を付けたい「低栄養」と「過栄養」 高齢者で注意すべきポイントのひとつは「低栄養」です。低栄養とは身体に必要なエネルギーやたんぱく質などが不足している状態。それは噛めない、飲み込めない、偏食や食欲不振などにより食べる量が減る、また、あっさりした食事が中心で肉や卵、脂質が十分に摂取できていないことなどによって起こります。そしてもうひとつ注意したのは「過栄養」です。 加齢によりどうしてもエネルギー消費は低下し、過栄養となりがちです。過栄養は、肥満、脳卒中、心疾患を引き起こす要因にもなります。量よりも質を考えて、バランスのよい栄養を摂取することが大切です。 低栄養化どうかをチェック □最近、急に体重が減ってきた □食事がおいしいと感じない □食事はあっさりしたものが中心で、卵、肉はあまり食べない □脂っぽいもの、揚げものなどはあまり食べない □お菓子ばかり食べて、ちゃんとした食事をしていない □お酒とおつまみで食事を終えている □食事は好きなものばかり食べている □歯や歯茎が痛くて食べられない 食べる環境を整える 生活にメリハリをつけるためにも、食事はベッドから離れ、テーブルで食べるようにしたいもの。また、おいしく、楽しく食べるには姿勢も大切です。そのためにはテーブルやイス、食事の道具など、食べるための環境を整えることが重要です。そのポイントを紹介しましょう。 【注意したいポイント】 ・寝たままでの食事は、誤嚥の危険性あり!できるだけ上体を起こすように。 ・食器は手の届くところに置きましょう。 ・テーブルに置かれた食器と口との距離が遠い場合は、食器の下に台を置きましょう。 ・こぼしやすい場合には、ナプキンやタオルを。 【介護用の食器、道具をうまく活用しよう】 食事は使い慣れた食器、道具を使えれば良いのですが、つかみにくい、使いにくいなど、食べることがめんどうになってしまっては本末転倒。柄や色がきれいなものも増えていますので、介護用の食器、道具を上手に取り入れましょう。 食事をするときの姿勢 ・イスと背もたれの間にクッションなどを入れ、身体を安定させる ・姿勢は、イスの背にもたれず、少し前かがみがよい ※イスの背にもたれて食べると、食べ物が気管に入りやすくなるので注意 ・テーブルは、座ったときに肘をつけられる高さに調節する ・イスが高く、足が床に届かない場合は、雑誌や新聞などを重ねて置き、その上に足を置くようにすると安定する これはやっちゃダメ 食べるのが遅かったり、手が震えてこぼしたりしているのを見ると、つい、食べさせてあげたくなってしまうもの。でも、自分でできることは自分でしたほうが本人の機能維持にも役立ちます。自分のペースで食べられるよう、見守ることが大切です。 誤嚥を防ぐ  食事の介助でとくに気をつけたいのは「誤嚥」です。「誤嚥」は飲み込んだ食べ物が、食道ではなく気管に入ってしまうこと。肺炎や窒息の原因にもなりかねません。注意するポイントを紹介しましょう。 【誤嚥を防ぐためのポイント】 ポイント 1 ゆっくり噛んで食べるようにする。噛む力が落ちている場合、食材を細かくきざむ、すりつぶした状態にするなどの工夫をする。 ポイント 2 水のようにサラサラとしたものは誤嚥しやすい。食べ物にとろみをつける、すぐに飲み込まないで、一度、口の中にためてから飲み込むようにする。 ポイント 3 食べたものが逆流する場合もある。食後1〜2時間は上体を起こした姿勢にする。 嚥下体操 舌を出したり、引っ込めたりする。それを3回くらい繰り返す。 舌で左右の口角をさわるようにする。これも3回くらい繰り返す。 首をゆっくり左右に曲げる。3 回繰り返す。 顔をゆっくり左右に向ける。3 回繰り返す。 最後に唾をゴクンと飲み込んでみる。 出典)『今スグ役立つ!よくわかる!家庭の介護ハンドブック』(鎌田ケイ子監修、新星出版社) 食事中の事故への対応 食事中、急に元気がなくなり息が荒くなった、何を聞いても答えない、けわしい表情をしている、咳が止まらない…などの状態が見られたら誤嚥の可能性があります。その場合は次のように対処しましょう。 ・口を下に向ける。 ・口を大きく開き、咳や痰と一緒に吐き出すように促す。咳やむせを我慢させない。タオル やティッシュを渡して、咳や痰を吐くのを遠慮しなくてよいようにするという配慮も。 ・大きな咳払いを数回するように促す。 調理の工夫 飲み込む機能が低下している場合、選ぶ食材や調理法を工夫することによって、食べやすくすることができます。ただし、食べることは楽しみのひとつ。例えば、魚の場合は魚の形のままお皿にのせ、本人が食べやすい大きさを確かめながら、本人の前で切り分けるようにすることも一案です。 【嚥下障害のある人が食べにくいもの】 ・ベタベタと粘り気のあるもの  例)もち、団子 など ・水分がなくてパサパサとしたもの  例)パン、クッキー、ゆでたまご、のり など ・固くて噛み切りにくいもの  例)タコ、イカ、厚切りの肉、ゴボウ、寒天 など 【嚥下障害のある人が食べやすいもの】 ・のどごしがよいもの  例)ゼリー、プリン、卵豆腐、茶碗蒸し など ・とろみのあるもの  例)おかゆ、カレー、シチュー など ・口の中で、バラバラになりにくいもの  例)うどん ・適度な水分、油分が含まれているもの 飲み込みにくい症状のほか、「むせやすい」「口の中が乾いている場合」など、その人の状態によって食べやすいもの、食べにくいものがあります。避けたほうがよいものを挙げましょう。 ◎むせやすいとき  酢の物、麺類(すすって食べるのでむせやすい)  細かくきざんだもの ◎口の中が乾いているとき  パン、クッキー、ゆでたまご など 排泄の介助 排泄の介助は、介護する人にとっても介護される人にとっても精神的、肉体的に大きな負担になりがちなケアです。介護される人の尊厳を保ちつつ、介護する人の負担を軽減するためにも、適切な介助のポイントを心得ておきましょう。 トイレ介助のポイントとは? 「排泄」はデリケートな問題です。排泄の機能が正常で、トイレまで歩行や車イスによって移動が可能な場合は、できるだけトイレで排泄が行えるようにします。そのためには、トイレの環境を整え、トイレまで行きやすいようにすることを考えましょう。 一方、身体が不自由でベッドから動くことができない、排泄障害があるという場合は、排泄用 具を適切に選んで使用することを考えます。 排泄障害とは? 排泄障害とは、排便、排尿に関して、何らかの問題がある症状をいいます。具体的には「尿失禁」「便秘」「下痢」などの症状が挙げられます。「尿失禁」は加齢によって尿道を締める筋肉が弱まり、くしゃみやお腹に力を入れることで尿漏れを起こしてしまう、尿意が大脳に伝わらずに漏れてしまう…などのケースがあります。 「下痢」は神経性のもの、アレルギー性のもの、細菌によるものなど、さまざまな原因が考えられます。それぞれの原因によって適切な対応が必要です。「便秘」は加齢により腸の働き、腹筋などが弱くなることによって起きやすくなります。また、食事や水分、あるいは運動が少ないことでも起きやすくなります。 負担を軽減するために環境を整備する トイレまで行きやすいようにする環境整備 自力歩行ができる、車イスや介助があればトイレまで行けるという場合は、トイレまで行きやすくするための環境を整えましょう。下図に示すような点がポイントです。 トイレ内の環境整備 トイレの中で、立ったり、座ったりしやすいようにすることが大切です。例えば、下図に示すような点に気をつけましょう。 排泄用具を使う ポータブルトイレを使用する場合 ベッドから起き上がることはできるけれど、トイレまで行くことがむずかしい場合は、ポータブルトイレをベッドサイドなどに用意し、使用するとよいでしょう。 ・ひとりでズボンや下着を下ろせない場合、自分に寄りかかってもらい下ろしてあげる。あるいは、壁や手すりにつかまり立ってもらい、後ろから脱がせてあげる。 ・自分に寄りかかってもらい、抱きかかえるようにして便座の中央に座らせる。 ・ひとりで排泄ができる場合は、便座に身体が安定して座っているのを確認したら、カーテンや衝立などで囲い、排泄中はプライバシーが守れるようにする。排泄が終わったら声をかけてもらうようにする。 ベッド上で排泄する場合 腰のあたりに防水布を敷き、肛門の中央にくるように差し込み便器をあてがう。腰を浮かせることができない場合は、本人に横向きになってもらい、便器をあてて、仰向けになってもらう。 女性の場合は、尿が飛び散らないように、トイレットペーパーを股の間に挟んでおく。あらかじめ便器の中に2〜3枚、トイレットペーパーを入れておくと後始末がしやすい。 排便が終わったら陰部の洗浄をする。便器を取るときは、腰を浮かせることができる場合、声がけをして腰を上げてもらう。上げられない場合は、本人の膝を片方の手で手前に倒すようにして横に向ける。このとき、便器のふちをもう片方の手で押さえるようにすると、排泄物がこぼれない。 ここがポイント 陰部の洗浄は手際よく。尿でおむつが汚れた場合、 汚れたおむつの上でシャワーボトルにお湯を入れ て陰部を洗い流します。 便の場合は、ウェットティッシュで便を拭き取り、新しいパッドを敷いてから洗浄するとよいでしょう。 おむつの交換 まったく動けない、尿意がない、尿もれの量が多いなどの場合は、おむつの使用を考えます。使用する人の状態、尿の量、使用する時間帯、ベッドで過ごす時間の長さ、介助する人の負担などを考えて選びます。 おむつの種類 ・テープ式おむつ 寝たきり、あるいは介助があれば起き上がれる人の場合。 ・パンツタイプおむつ 介助があれば座れるが、昼間の排泄は主におむつでするという人の場合に使用する。中に尿取りパッドを重ねるとよい。介助があれば立てる、トイレまで行ける、ポータブルトイレで排泄ができるという人の場合も、パンツタイプのおむつを単体で使用する。心配な場合は、尿取りパッドを併用する。 ・軽失禁パッド 尿もれはあるが、量が少ない人 の場合に使用する。 【ニオイが気になるとき】 汚物は、確認したら手早く処理する。 部屋の換気も忘れずに。 差し込み便器、尿器、ポータブルトイレなどに、 あらかじめニオイを防ぐ薬剤などを入れておく。また、時間をおくとニオイがとれなくなるので、こまめに洗浄する。 使用済みのおむつは小さく丸め、テープで止めてから処理する。フタ付きの容器を使用するなどしてニオイを防ぐ。 消臭剤、脱臭剤などを活用する。 ここがポイント 排泄介助を受ける人は、恥ずかしい気持ち、申し訳ない気持ちを持っていることが多いもの。おむつ交換のときは、腰のあたりをバスタオルで覆うなどの配慮を。そして、作業は手早くすることが基本です。 パンツタイプのおむつ交換 テープ式おむつの交換 入浴の介助 入浴は身体を清潔に保つだけではなく、血行を良くしリラックス効果もあるため、介護される人にとっては楽しみのひとつです。しかし、急激な温度変化が身体に負担をかけたり、浴室内での転倒は大きなケガにつながる恐れもあります。つねに安全を保つよう、十分に配慮しましょう。 安全な環境づくり 【入浴をする前に気をつけること】 ・体調の確認をする(体温、脈拍、血圧、顔色、 呼吸数などをチェック。心配な点がある 場合は、取りやめる判断も大切)。 ・食前・食後の1時間は避ける。 ・お湯の温度を確認する。適温は40度ぐらい。 心臓病、高血圧がある場合は40度以下に。 ・入浴は体力を消耗するので、入浴時間は10〜 15分程度に。 ・すべり止めマットを敷くなどして転倒しないように気をつける。 ここがポイント ・あらかじめ浴槽のフタを開けておく。 ・温水のシャワーを流すなどして、浴室を前もって温めておく。 ・バスボードには、あらかじめお湯をかけておくとヒヤッとしないですみます。 ・浴槽内は浮力があるので、姿勢が不安定になる恐れがあります。頭が後ろにいくとバランスが崩れるので、足の裏を浴槽の壁に当ててもらいます。また、両手で風呂のふちを持ち、前かがみの姿勢になってもらうと安定します。 浴槽に入るときの介助 浴槽の横にシャワーチェアを置いて座ってもらう。片マヒがある場合、マヒのない側から入ってもらうようにする バスボードに腰を移す。介助する人は腰を支え、腰を回転させながら、片足ずつ湯船の中に入れる。 バスボードに腰を移す。介助する人は腰を支え、腰を回転させながら、片足ずつ湯船の中に入れる。 ! 出るときは逆の動作で。マヒした側を先に出すことになるので、介助する人は気をつけること。 湯船に入れないときは、シャワー浴や足浴も シャワー浴 浴槽に入れない場合や浴槽に入ると体力を消耗する場合など。 シャワーイスに座ってもらう。お湯を張ったバケツを用意し、足を入れてもらう。 肩、腰にタオルをかける。 シャワーのお湯は、手足にかけてから胴体へ。石けんで洗う場合、手が届く範囲は本人に。届かない部分は介助する。 足浴 お風呂まで行けず入浴できない場合、ベッドサイドでもできる。 バケツ、または洗面器にお湯を張る。 防水マットかタオルを敷き、その上にお湯を張ったバケツ・洗面器を置く。 足を入れてもらう。 身体の清潔のための介助 洗髪や洗顔、着替えなど、身体を清潔に保つための介助は衛生面だけではなく、介護される人にとって、さっぱりとした気持ちで心地よく過ごすためにもとても大切なケアです。上手なコツを覚えて、できるだけこまめなケアを心がけましょう。 洗顔(ベッドから起きることができない場合) 目頭から目尻に向かって拭く。 額と頬を顔の内側から外側に向かって拭く。 鼻は上から下に向かって拭く。鼻のわきも内側から外側に向かって拭き取るように。 口のまわりを円を描くように拭く。 ※仕上げに熱めの蒸しタオルを当てるとさっぱりする。 ※しわとしわの間、耳、あごの下も忘れずに。 ※耳の中もときどき掃除を。綿棒に植物油をつけて掃除をすると、耳垢がやわらかくなり掃除しやすい。 【蒸しタオルのつくり方】 タオルを水でぬらして軽く絞ってからポリ袋に入れて電子レンジで加熱(加熱時間の目安はハンドタオル1本の場合500Wで30秒程度)。相手の身体に当てる前に、必ず自分の手に当てて熱さを確かめましょう。 洗髪(ドライシャンプー) ケープをかけたり、タオルなどで肩から下を覆う。 蒸しタオルを1本用意し、頭部を覆う。 1〜2分蒸した後、ドライシャンプーを髪につけ、頭皮をマッサージするように洗う。 蒸しタオルでシャンプーを拭き取る。これを何度か繰り返す(頭部を蒸しタオルで蒸すのは最初だけでOK)。 最後に、乾いたタオルでよく拭き取る。 ブラシで整髪する。 ベッドから移動できない場合の洗髪は、用意する道具も多く大変です。通常は、入浴サービスのときに行うのがよいでしょう。家族が洗髪を行う場合は、お湯で流す必要のないドライシャンプーが手軽でおすすめです。 全身を拭く〜清拭〜 室温は22〜24度ぐらいにしておく。拭き始める前に、熱い蒸しタオルで身体を包み、温める。タオルの温度は43度ぐらいが適温。 仰向けになってもらい、顔→両腕→首〜胸〜腹→両足の順に拭いていく。手は指先から心臓に向かって拭く。指の間、脇の下も忘れずに。お腹は強く押さえず、下腹部は「の」の字を書くように拭く。 横向きになってもらい、背中→腰→臀部を拭く。背中は円を描くように、下から上に向かって拭く。臀部は、外側から円を描くように内側に向かって拭いていく。背中、腰、臀部は褥瘡(床ずれ)ができやすいので、マッサージも兼ねて拭くように心がけるとよい。 もう一度、仰向けになってもらい、足のかかと→下腿部→太もも→陰部を拭く。膝の後ろは汚れやすいのでていねいに拭く。 最後に乾いたタオルで水分を拭き取る。 ※拭いている部分以外は寒くないよう、また羞恥心を感じさせないよう、タオルで覆っておくとよい。 口腔ケア 口の中は雑菌が繁殖しやすい環境なので、朝と食後には、必ずケアを行いましょう。むし歯や歯周病を防ぐことはもちろん、繁殖した菌を食べ物、あるいは唾液と一緒に誤嚥し、肺炎を発症するリスクを減らすという目的もあります。 入れ歯の場合 毎食後外して、ブラシでしっかり水洗いをする。研磨剤が入っている練り歯みがきは使用しない。外すときは下から、装着するときは上から先に入れる 寝たまま行う口腔ケア 片側にマヒがある場合、マヒしている側に食べ物のカスが残っていることがあるので、割り箸にガーゼを巻いたものなどを用意し拭き取るようにする。 イスに座って行う口腔ケア 介護される人が上向きになると、あごが上がり、誤嚥の恐れがある。介護される人があごを引く姿勢になるように、介助する人は立つ位置を調節する。 介護される人の歯を磨くときは角度や方向などがむずかしく、少し時間がかかります。そんなときは短時間で上手に磨ける電動歯ブラシがおすすめです。また、使用する介護者にとっても楽な姿勢でブラッシングができ、腰痛などの予防にもなります。 介助される人が寝た状態でのシーツ交換 介助する人が立つ側と反対側に転落防止柵を立てる。介助される人には、介助する人と反対側のベッドの端に移動してもらう ベッドの手前側から、古いシーツをはずし、扇子折りにして介助される人の下に入れていく。 シーツをはがしたマットレスを掃除したら、その上に新しいシーツを広げ、マットレスと角を合わせてマットレスを包み込む。反対側の端は古いシーツの下に入れ込む。 手前の転落防止柵を上げてから、介助される人に新しいシーツの上に移動してもらう。古いシーツをはずし、マットレスを掃除してから新しいシーツを広げ、同じように角を合わせてマットレスを包み込む。 ここがポイント 新しいシーツが敷けたら各コーナー部分を持ち、対角線の方向に引っ張るようにするとしわが伸びます(シーツは角にゴムが入ったものを利用すると便利です)。 マットレスの掃除は、ガムテープを使うとほこりを立てずにゴミを取ることができます。 介助する人が腰を痛めないように、ベッドの高さを調整してから作業するとよいでしょう。 着替え ズボンをはかせる(寝たきりの場合) 仰向けになってもらい、扇子折りにしておいたズボンを足に通す。片足ずつ、かかとを支え、ひざまでズボンを上げる。 片手でズボンのすそをくるぶしの位置で押さえ、もう片方の手でズボンを足のつけ根まで引き上げる。反対側も同じように。 ひざを立て、ハの字になるように両足を開いてもらう。お尻の下に手を入れ、ズボンの後ろの中心線に沿って扇子折りにする。 介助される人に足でベッドを踏み込んでもらい、腰を浮かせる。その間にズボンをお尻の側から引き上げる。踏み込めない場合はひざをくっつけ、足のつま先の方に押すと腰を浮かせることができる。 座れる人の場合は、49ページで紹介した「パンツタイプのおむつ ! 交換」と同じ要領でズボンをはかせる。 服を着替えることは生活にメリハリをつけるためにとても大切です。寝ている間にも人はかなり汗をかくもの。着替えを行うことでベッド周りも清潔に保つことができます。なお、片マヒがある場合は、マヒのある側から着て、マヒのない側から脱ぐのが原則。マヒのない側がズボンやシャツなどに通っていない方が、動きが制限されにくいためです。 前あきのシャツを着る(寝たきりの場合) 袖を扇子折りにし、介助する人の腕に通してから介助される人と握手をするようにして袖を通し、肩まで上げる。 介助する人に背中を向ける姿勢で横になってもらい、シャツの中心線と背骨を合わせる。反対の身ごろを体の下に入れる。 介助する人の側に顔を向けてもらい、体の下に押し込んだ部分を引き出す。❶と同じように、袖に手を通す。 腕が通ったら仰向けになってもらい、ボタンを留める。両脇の下の部分を足の方向に斜めに引っ張ると、背中側に寄ったしわが伸びる。 【ここがポイント】 着替えは、マヒがあったり認知症だったりする場合、動作がゆっくりになりがちです。つい手伝いたくなることもありますが、時間がかかっても、本人ができたり、やる気があれば、できるだけ本人にやってもらうことが基本です。ボタンを留めたりする動作はリハビリにもなるので、必要以上に手伝わないことも大切です。 老老介護・認認介護 日本では、配偶者の介護をする高齢者夫婦や、年老いた子がより高齢の親を介護するというような高齢者が高齢者の介護を行うケースが増えています。65歳以上の要介護者を 65歳以上の人が介護している場合を、いわゆる「老老介護」といいます。 厚生労働省の「令和元年国民生活基礎調査」によれば、老老介護は 59.7%と介護全体の 5割を超えています。老老介護の増加は介護者と要介護者がともに高齢化しているためです。 主な介護者は配偶者で、全体の約4分の1を占めています。介護の担い手が高齢の場合は、経済的、肉体的な負担はもちろん、精神的にも大きなストレスを抱えてしまうことが多く、「生活の質」の維持が心配されます。 また、さまざまな事例がある老老介護の中には、認知症の高齢者を介護する高齢者自身が認知症になり、適切な介護ができなくなる「認認介護」もあります。この場合は、第三者による早急なケアが必要です。いずれにせよ、老老介護を続けるにはひとりで抱え込まないことが大切です。 介護者自身の健康を守るためにも、周囲の人に頼ったり、身近な公的機関を活用することが必要です。最近では、介護者や要介護者を支える在宅サービスの整備も進んできています。介護で困ったときは、地域包括支援センターに相談しましょう。 常駐しているケアマネジャーや保健師などの専門家から適切なアドバイスや支援策を受けることができます。必要に応じて、レンタル用品やデイサービスなどの介護サービスの情報提供もあります。相談する際は、介護の悩みや気づいたことなどを書いたメモを持参することが大切。専門家の視点により、問題を解決する方法が見つかる可能性が高くなります。 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用 お悩みや疑問は解決できましたか? SBIシニアの住まいとお金なら、住宅ローンのプロに、調べても解決できないお悩みや疑問を相談できます。

  • 不動産登記とは?概要や手続きの流れ、必要書類、費用を徹底解説

    不動産登記とは?概要や手続きの流れ、必要書類、費用を徹底解説

    不動産の売買や相続、住所変更などがあった場合は、不動産登記の手続きが必要です。しかし、「不動産登記」という言葉を聞いたことはあっても、詳細までは理解していないかもしれません。不動産登記の手続きは、自宅購入や相続の際に必ず必要になるので、基本的な仕組みを理解しておくことが大切です。 この記事では、不動産登記の概要や手続きの流れ、必要書類、費用について詳しく解説します。 そもそも登記とは? 登記(登記制度)とは、一定の事項を公開された公簿に記載することによって、第三者に対してもその権利の内容を明らかにし、取引の安全と円滑化を図ろうとするものです。この記事で解説する「不動産登記」以外にも、「商業登記」や「相続登記」など、様々な種類があります。 不動産登記とは 不動産登記とは、土地や建物などの不動産の一つ一つについて、「どこに」「どれくらいの広さで」「誰が持っているのか」といった情報をコンピュータに記録することをいいます。この作業は、法務局の職員である登記官によって、専門的な見地から正しいのかを判断された上で行われます。 不動産登記は不動産登記法に基づいて、以下のような事項が記録され、法務局に保管されています。 土地や建物の所在地や構造・種類 不動産の所有者歴 不動産に設定された権利 金融機関の借入金額や利率 つまり、不動産登記を確認すれば、不動産の所在地や所有者、どのような権利を誰が所有しているかなどの情報がわかります。 不動産登記の効力 不動産登記の大きな役割が、第三者に不動産の所有権を法的に主張できるということです。民法第177条では、不動産の権利について次のように定めています。 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。 出典)e-GOV 法令検索 民法第177条 つまり、登記がなければ不動産の所有者と法的には認められません。たとえば、不動産を相続した際、登記をせずに所有権が故人のまま、所有者が変更されていないと、相続人は売却ができません。 出典)法務局「不動産登記」 登記情報の見方 不動産登記の情報は、「登記簿謄本(登記事項証明書)」に記載されています。登記簿謄本の記載事項は以下4つに区分されます。 表題部 権利部(甲区) 権利部(乙区) 共同担保目録 1.表題部 表題部では不動産の所在地や面積、建物の種類・構造など、「どのような不動産であるのか」が記載されています。 2.権利部(甲区) 権利部は甲区と乙区に分かれます。甲区では、「誰が不動産の所有者か」が記載されています。具体的には所有者の住所や氏名、取得日、取得経緯などが記載されています。 3.権利部(乙区) 乙区では、抵当権や地上権といった所有権以外の権利について記載されています。例えば、住宅ローンを組む場合は、金融機関の名前や金額、金利などが記載されます。 4.共同担保目録 抵当権が複数の不動産に設定されている場合、この共同担保目録にその旨が記載されています。住宅ローンを組む場合は、一般的には購入する不動産を担保として抵当権が設定されます。この時、基本的に建物と土地の両方に抵当権が設定されるので、それぞれの共同担保目録に記載されます。 関連記事はこちら登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 不動産登記が必要な場面 不動産登記の手続きが必要になる主な場面は以下のとおりです。 不動産を購入したとき 不動産を相続したとき 所有者の住所や氏名が変わったとき 住宅ローンを完済したとき 建物を取り壊したとき マイホームなどの不動産を購入したときは、新築なら「建物表題登記」や「所有権保存登記」、中古の場合は所有権が売主から買主に移ったことを証明する「所有権移転登記」を行います。 不動産を相続したときは「相続登記」、結婚や転居などで所有者の氏名や住所が変わったときは「住所等変更登記」が求められます。この2つの登記は義務化されるので注意が必要です。 関連記事はこちら住所変更登記等の義務化はいつから?手続き方法や注意点も解説 住宅ローン完済時は「抵当権抹消登記」を行います。なお、住宅ローン完済時は火災保険の質権設定の解除等、ほかにもしなければいけない手続きがあります。詳しくは以下の記事で解説しています。 関連記事はこちら住宅ローン完済後の手続きについて解説 建物を取り壊したときは「建物滅失登記」が必要です。建物を解体してから1か月以内に行わなければならないため注意しましょう。 不動産登記手続きの流れ 不動産登記手続きは、基本的に以下の流れで行います。なお、自分で手続きを行うのが難しい場合は、司法書士に代行を依頼することも可能です。 1.必要書類を準備する 不動産登記を申請をするには、必要な事項を記載した申請書とその添付書類の準備が必要です。登記申請書は法務局のホームページから取得できます。添付書類については登記原因によって異なるので注意が必要です。 2.登記申請書と添付書類を法務局に提出する 法務局によって管轄区域が定められているため、どこの法務局に書類を提出するのか確認が必要です。管轄区域はこちら(法務局のホームページに遷移します)から確認できます。 3.登記識別情報と登記完了証を受け取る 必要書類が受理されたら、法務局で内容の審査が行われます。問題なく手続きが完了したら、登記識別情報と登録完了証が作成されます。登記申請書に用いた印鑑を持って法務局に行くと、登記識別情報と登録完了証を受領できます。 出典)法務局「○登記の申請はどのような方法でしなければならないのですか?」 不動産登記にかかる費用 不動産登記にかかる主な費用は以下のとおりです。 必要書類の取得費用 登記にあたり、登記簿謄本や住民票の写し、印鑑証明書、固定資産税評価証明書などを取得する場合は、1通につき数百円の手数料がかかります。 登録免許税 登録免許税額は、登記の種類や、不動産の種別によって異なります。売買の場合、土地、建物は評価額の2%(土地は2026年3月31日までは0.15%)です。建物が住宅用家屋に該当する場合は、0.3%になります。住宅用家屋を購入する場合は、他にも減税制度が適用されます。詳しくは以下の記事で解説しています。 関連記事はこちら住宅購入時の優遇制度を解説 司法書士への報酬(司法書士に依頼する場合) 司法書士に依頼する場合は、上記費用以外に報酬や交通費などが請求されます。報酬は司法書士によって異なるため、ホームページなどで金額を確認した上で依頼するといいでしょう。 出典)国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」 不動産登記をしていない場合のデメリットと注意点 実状に合った不動産登記がされていない場合には、主に次のようなデメリットがあります。 融資を受けられない 売却が難しくなる 手続きに時間と手間がかかる 金融機関から不動産を担保とする融資を受ける際に、登記がされていないと融資を受けられないため、売買が難しくなります。例えば、未登記の中古物件を売買する際は、売主・買主の双方に次のような不利益が生じることがあります。 売主側は売却前に土地家屋調査士や司法書士に依頼し、建物や土地の計測や登記申請を行うため費用と手続きに負担が生じます。あらかじめ登記していれば売却時の手間も少なくなるでしょう。 買主側は、不動産を現金で一括購入できる場合は資金面では問題ないかもしれませんが、ほとんどの場合が住宅ローンを組んで購入することになるため、円滑な売買ができなくなる恐れがあります。 また、何世代にもわたって未登記の場合は建物の図面や建築確認済証などが紛失している可能性もあり、より手続きに手間がかかるかもしれません。相続登記を行わず放置している間に、新たな相続が発生すると、さらに相続人が増えて権利関係がより複雑化し、次世代への負担を先送りすることになります。 出典)東京法務局「「長期間にわたり相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)」について」 このような問題を解決するため、令和6年4月1日より相続登記は義務化されました。詳細は以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 まとめ 第三者に対して不動産の所有権を法的に主張するには、不動産登記が必要です。登記手続きを怠ると不動産取引をスムーズに進められず、トラブルの原因となります。不動産登記が必要な事由が生じた場合は、忘れずに手続きを行いましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 登記簿謄本(登記事項証明書)は、登記記録の全部または一部の事項を証明する書類です。不動産の情報が記載されている「不動産登記簿謄本」と、法人の情報が記載されている「法人登記簿謄本」の2種類に分...記事を読む

    2022.11.23制度
  • 介護保険制度<介護と保健ガイドブック(2)>

    <介護と保健ガイドブック>介護保険制度

    制度の概要 介護保険制度について 高齢による身体機能の衰えや、病気やケガなどによって介護が必要となったときには、介護サービスを提供する公的介護保険制度を利用することができます。新たな社会保険制度として平成12 年4月にスタートしたもので、介護が必要な人とその家族をできる限り社会全体で支えるための公的なサービスです。 介護保険は自治体が保険者となって制度を運営しています。40歳以上の人が被保険者となって保険料を負担し、介護が必要と認定されたときに介護サービスを利用する仕組みです。 介護保険では、利用者がサービスの種類や事業者を選ぶことができます。利用料は利用限度額の範囲内であれば、1割(一定以上の所得者の場合は2割あるいは3割*)の利用者負担で介護サービスを受けることができます。 ※詳細は本記事内「2021~2023年度の主な改正内容」を参照ください。 必要な介護サービスを受けながら、住み慣れた地域で安心してその人らしい生活を実現していくために、上手に利用していきましょう。現在、介護サービスの基盤強化のために、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される「地域包括ケアシステム*」の構築に向けた取り組みが進められています。 ※詳細は「家族を介護する必要が生じたなら…<介護と保健ガイドブック(1)>『地域包括ケアシステム』を参照ください。 介護サービスを利用できる人は? 公的介護保険の介護サービスは、介護保険に加入し保険料を納めている被保険者の内、下図の条件を満たし要介護認定を受けた人が利用できます。なお、実際に介護サービスを利用する場合は、介護サービス事業者との契約が必要になります。また、介護保険料額は、居住地域や被保険者の所得によって各自異なります。 申請方法から要介護認定までの流れ 介護サービスを受けるには 介護サービスを受けるには、要介護認定の申請が必要です。要介護認定とは、介護を必要としている人が「どの程度の要介護状態、要支援状態にあるか」を判断するものです。保険者である市区町村が調査を行い、要介護度を判定します。家族を介護する必要を感じたら、申請の手続きをしましょう。 介護保険の申請方法 相談できる窓口 介護される人が居住の市区町村役場の窓口(介護保険課など)で申請を行います。申請時は、申請書、本人の介護保険証(40〜64歳の特定疾病の人は健康保険証)と個人番号(マイナンバー)の確認ができるもの、主治医意見書を依頼するための主治医の情報、印鑑などが必要です(※詳細は自治体に要確認)。 主治医の情報は、申請書に主治医の名前・医療機関名・所在地などを記入します。主治医がいない場合は役所に相談し、高齢者医療に理解がある医師を紹介してもらいましょう。申請は家族が代理で申請することもできます。「地域包括支援センター」で申請の受付や代行も可能なので、所在 を確認して相談しましょう。 訪問調査 申請後、本人のもとへ市区町村の「認定調査員」(指定居宅介護支援事業者などに委託していることが多い)が訪れ、心身の状況などについて聞き取り調査(認定調査)を行い、その結果および主治医意見書に基づくコンピュータ判定(一次判定)を行います。 介護認定審査会 一次判定データは、市区町村に設けられた介護認定審査会にかけられ、保健、医療、福祉の専門家などが一次判定、訪問調査の結果と主治医意見書を基に、どの程度の介護が必要かを全国一律の基準により審査します。 要介護・用支援の認定 申請日から30日以内に「認定通知書」と「被保険者証」が届きます。要介護度区分に合わせて、ケアマネジャーが介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作成していきます。 《主治医意見書について》 主治医意見書は、医学的な見地から認知症の有無や在宅介護で必要な配慮や介護の中身について、主治医が記入する書類です。主治医には、要介護者の普段の様子を把握している内科、老年内科、神経内科、整形外科などのかかりつけ医が適任です。区分の判定時に大きな影響を及ぼしますので、普段から主治医とのコミュニケーションを図っておきましょう。 要介護認定(要介護度の判定) 要介護認定について 要介護認定は、「非該当」と介護保険の対象となる「要支援1・2」「要介護1〜5」に区分されます。区分によって、受けられるサービスや利用限度額が異なります。要介護度認定は、どのくらい介護を必要としているかを判断するもので、本人の病気の重さと要介護度の重さが必ずしも一致しない場合があります。要介護認定の判定に不服がある場合は、再認定を要求することができます。 認定ごとの状態とサービス 非該当(自立) 歩行や起き上がりなどの日常生活上の基本的動作を自分で行うことが可能。薬の内服、電話の利用などの手段的日常生活動作を行う能力もある状態。社会的支援がなくとも生活ができる状態。介護保険を利用することはできないが、65歳以上であれば、市区町村で開催している一般介護予防事業に参加することができます。また、地域包括支援センターで基本チェックリストを用いた審査を受けることによって事業対象者と判定された場合には、介護予防・生活支援サービス事業を利用することができます。 要支援1・2 身体上または精神上の軽度の障害があるために、6か月継続して日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態。訪問看護や福祉用具のレンタル・購入などのサービスが利用できる。 要介護1~5 身体上または精神上の障害があるために、6か月継続して、日常生活における基本的な動作の全部または一部について常時介護を要すると見込まれる状態。在宅あるいは施設入所での介護サービスを利用することができる。 図:要介護状態の区分(心身の状態の一例) ケアプランを作成する ケアプランを作成 要介護認定の通知を受け取ったら、ケアプラン(サービス利用計画書)を作成します。ケアプランは「これからどのような生活を送りたいか」という目標を設定し、その目標達成のためにどんなサービスをどれくらい使うかを計画するものです。ケアプランは、民間業者である「居宅介護支援事務所」に所属する介護支援専門員であるケアマネジャーに依頼して作成してもらうことができます。 介護サービスを利用するには、このケアプランの作成が必要になります。ケアマネジャーは、毎月1回以上に自宅を訪問し、利用者の希望を聞き、症状の変化に合わせてケアプランを作成、変更してくれます。家族は、本人の普段の様子や家族の要望などを伝えましょう。なお、ケアプラン作成には利用者負担はありません。 セルフケアプランという方法 ケアプランは、ケアマネジャーに依頼して作成してもらうケースがほとんどですが、自分でも作成することができます。複雑なサービスをコーディネートする必要がない場合などは、利用する本人が各種の介護サービスを自ら選択して調整したケアプラン(いわゆるセルフケアプラン)を作成することが可能です。セルフケアプランはあらかじめ市区町村に届け出て、認められた場合に介護保険の給付が受けられます。 図:ケアプラン作成の流れ 介護サービスの種類 サービスの種類(在宅・施設・地域密着型) 介護保険で利用できる介護サービスは、介護を受ける場所によって、大きく3つのスタイルに分けることができます。ひとつは自宅で生活しながら利用できる在宅サービス、もうひとつは施設に入所して受ける施設サービスです。さらに、在宅と施設の両方で受けられる地域密着型サービスもあります。 在宅で利用できるサービス 住み慣れた自分の家で受けられる在宅サービスには、「訪問」「通所」「宿泊」の3つの柱があり、これに福祉用具貸与など、その他のサービスを組み合わせます。サービスを利用することで介護する側とされる側、両方の負担が軽減されます。 訪問系サービス ・訪問介護 訪問介護事業所のヘルパーが自宅を訪問。身体介護や生活援助など日常生活のサポートを受ける ・訪問リハビリテーション 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が訪問。自宅で機能回復訓練を受ける ・訪問入浴介護 専用浴槽や巡回入浴車で、入浴時のバイタルチェックも含め自宅での入浴をサポート ・居宅療養管理指導 医師や歯科医師、薬剤師などの専門家が自宅を訪問。指導やアドバイスを受ける ・訪問看護 看護師や保健師などの専門家が自宅を訪問。かかりつけ医の指示に合わせた医学的な世話や処置を受ける 通所系サービス ・通所リハビリテーション ・通所介護(デイサービス) 日帰りで施設に通い、食事や入浴など、日常生活上の介護や機能訓練などを受ける 短期滞在系サービス ・短期入所生活介護(ショートステイ) 短期的に施設へ入所し、日常生活の介護や機能訓練などの介護を受ける ・短期入所療養介護(医療型ショートステイ) 短期的に施設へ入所し、必要な医療を受けつつ日常生活の介護や機能訓練などを受ける 福祉用具をレンタル・購入するサービス 住宅の一部を改修したり、必要な福祉用具をレンタル・購入することで在宅での介護環境を整える ➡介護用品の支給や貸与(詳細はこちら) ➡住宅改修費の支給(詳細はこちら) 施設・居住系サービス ・特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウスなど) 介護が必要になった場合に、指定を受けた有料老人ホームなどの施設(自宅扱い)に入居したまま介護サービスを受ける 施設を利用できるサービス 介護保険制度で利用できる「施設サービス」には、さまざまな種類や入居の条件があります。専門家による介護を受けられることや、緊急時にも安心できる対応など、多様なニーズに応えています。 介護老人保健施設 老人保健施設、いわゆる「老健」。病状が安定期にあり、入院治療の必要はないが介護や医療を必要とする人を対象に、家庭復帰に向け介護、医療ケア、リハビリテーションを行う施設 介護老人福祉施設 特別養護老人ホーム、いわゆる「特養」。常に介護が必要で在宅介護が困難と認められた人のための生活施設。入浴、排せつ、食事などの介護、そのほかの日常生活上の世話、機能訓練、健康管理および療養上の世話を行う施設 介護療養型医療施設 病院または診療所であり、要介護者のために必要な医療などを提供する長期療養施設。療養病床などに入院する人に、療養上の管理、看護、医学的管理下での介護やケア、リハビリテーションなどの機能訓練、そのほか必要な医療を行うことを目的とする施設 介護医療院 長期療養が必要な人を対象とした施設で、2018年に創設。長期療養のための日常的な医学管理や看取り、ターミナルケアなどの医療機能と、日常生活上の世話(介護)を提供する生活施設としての機能を兼ね備えた施設。プライバシーに配慮した環境整備などが特徴 特定施設 該当する施設は、有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、養護老人ホーム、有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅。入居者を対象に特定施設入居者生活介護(日常生活上の世話や機能訓練、療養上の世話)が受けられる。特定施設入居者生活介護の指定を受ける特定施設を「介護付きホーム」という 地域密着型サービス 認知症高齢者や一人暮らしの高齢者が要介護状態になっても、できる限り住み慣れた地域で生活が継続できるように支援を行うサービスです。在宅と施設利用の両方のサービスがあり、地域密着で介護を支えます。居住している市区町村が提供しているサービスを利用することができます。 在宅サービス ・定期巡回、随時対応型訪問介護・看護 日中・夜間を通じて1日に複数回の定期訪問と随時対応を受けられる ・小規模多機能型居宅介護 日帰りの施設へのデイサービス、ショートステイ、訪問の3つのサービスを組み合わせて利用。自宅での生活の支援を受けられる ・看護小規模多機能型居宅介護 訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた、介護と看護を一体的に利用できるサービス。施設への「通い」を中心に、短期間の宿泊や訪問介護、訪問看護を利用者のニーズに応じて組み合わせて利用することができる。かかりつけ医との密接な連携のもと、医療行為も含めた多様なサービスが24時間365日受けられる ・夜間対応型訪問介護 夜間に定期的に自宅を訪問。おむつの交換やトイレ介助の支援を受けられる ・認知症対応型通所介護 日帰りで施設に通い、認知症に対応した介護や支援を受け、機能訓練を行う 施設サービス ・認知症対応型共同生活介護(グループホーム) 認知症の高齢者が9人以下の少人数で入居し、入居者同士の交流など家庭的な雰囲気の中で共同生活をしながら、入浴や食事などの介護や支援、機能訓練などを受けられる 生活環境を整えるサービス 福祉用具貸与(レンタル) 加齢や疾病などで身体機能が低下した際、歩行器や車椅子などが必要になります。介護保険では、ケアプランで必要とされている福祉用具に限り1割(一定以上所得者の場合は2〜3割)負担でレンタルすることができます。担当のケアマネジャーに相談して、福祉用具の利用を検討しましょう。レンタル料金は、その他の介護サービス提供費用と合算して計算されます。 レンタルできるもの ・手すり ・歩行器 ・車いす ・特殊寝台(介助用ベッド) ・床ずれ防止用具 ・認知症老人徘徊感知機器 ・自動排せつ処理装置 ・スロープ ・歩行補助つえ ・車いす付属品 ・特殊寝台付属品 ・体位変換機 ・移動用リフト 特定福祉用具の購入 直接肌に触れるシャワーチェアなど、レンタルに不向きなものは購入する必要があります。「特定福祉用具」に定められているものであれば、1割(一定以上所得者の場合は2〜3割)負担で購入できます。費用の限度額は年10万円(毎年4月1日から翌年3月31日まで)。10万円を超えた額については全額自己負担となります。また、同じ種目の用具の再購入は、用途や機能が異なる場合や破損した場合には可能です。 購入できるもの ・腰掛け便座 ・自動排泄処理装置の交換可能部品 ・入浴補助用具 ・簡易浴槽 ・移動用リフトの釣り具の部分 住宅改修 在宅で介護をする際に「バリアフリーにしたい」「段差を解消したい」「手すりをつけたい」という要望が出てきたら、要介護者がより安全・快適に生活できるよう住宅改修を検討しましょう。保険給付の対象となる住宅改修費の支給があり、利用が可能です。費用の限度額は20万円で、自己負担は1割(一定以上所得者の場合は2〜3割)。 費用を支払った後に、市区町村から給付費分が支給される、いわゆる「償還払い」が一般的です。要介護度が3段階以上重くなった場合や引っ越しした場合は、再度申請が可能です。 2021~2023年度の主な改正内容 今回の見直しの背景 介護保険制度は円滑に保険給付を実施していくため、3年ごとに見直しを行い、介護保険事業計画を策定、運営しています。新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で、2021年度からの制度改正が施行されました。 今回の見直しでは、日本の人口構造の急速な変化を見据えた対応がとられています。現在は75歳以上の高齢者の急増が目立ちますが、2025年以降には局面が変化し、現役世代の急減が予想されます。それは介護保険事業の支え手が減少していくことを意味します。高齢人口がピークを迎える2040年には、介護サービスの需要の増加が予想されます。 また、各地域の高齢化の状況は異なるため、利用者数の増減など個々の特性に 沿った対応も必要です。こうした状況に対応できるよう、3年に1度の見直しが行われています。 今期の改正のポイント 介護サービスを利用するうえで関わりの深い改正項目について、見ていきましょう。高齢化が進むなかで、負担の公平性と制度の持続可能性を高めるために、それぞれの状況に応じた負担を求める見直しが行われました。 介護保険施設における負担限度額の見直し 令和3年8月から、介護保険施設(介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型医療施設、介護医療院)や短期入所施設(ショートステイ)を利用する際の食費・居住費の助成制度が変更になりました。食費・居住費については自己負担が原則ですが、低所得の人への助成(補足給付)を行い、食費・居住費の負担が軽減されています。今回の改正で、助成の認定要件および食費の負担限度額が変更になりました。 『認定要件の変更』では、単身・夫婦それぞれの預貯金額が変更になりました。今回の変更により補足給付の対象外となる場合も、預貯金額が減少して認定要件を満たしたときは申請することで負担軽減の対象となります。負債(借入金・住宅ローンなど)は、預貯金額から差し引いて計算します。預貯金等に含まれるものがある場合は、申請書に預貯金や負債額を記載して、必要な書類を添付します。その後、保険者が必要に応じて金融機関などに照会を行います。預貯金等に含まれるものは以下の①〜⑤になります。 ①預貯金(普通・定期)は、通帳などの写しで確認(インターネットバンクであれば口座残高ページの写し) ②有価証券(株式・国債・地方債・社債など)は、証券会社や銀行口座残高の写しで確認(ウェブサイトの写しも可) ③金・銀(積立購入を含む)など購入先の口座残高によって時価評価額が把握できる貴金属の確認は、購入先の銀行などの口座残高の写しで確認(ウェブサイトの写しも可) ④投資信託は、銀行、信託銀行、証券会社などの口座残高の写しで確認(ウェブサイトの写しも可) ⑤現金は自己申告。なお、預貯金等に含まれないものは、生命保険、自動車、腕時計、宝石といった時価評価額の把握が難しい貴金属、絵画、骨董品、家財などになります。 また、不正に受給した場合には、それまでに受けた給付額に加え、最大2倍の加算金(給付額と併せて最大3倍の額)の納付を求められる場合があります。『食費の負担限度額の変更』では、施設入所者、ショートステイに対する助成が見直されました。 年金収入など一定額以上の収入や預貯金がある人は、食費の負担額が変更になりました。平均的な食事の費用額(基準費用額)は、1日1,392円から1,445円に変わりました。居住費の負担限度額は変更ありません。生活保護受給者や老齢福祉年金受給者等(第1段階)の負担限度額は、食費・居住費ともに変更ありません。 高額介護サービス費の負担限度額 介護サービスを利用した際は、自己負担割合に応じた利用料を負担しています。1か月に支払った利用料の合計が負担限度額を超えた場合は、高額介護サービス費として差額分が払い戻されます。 負担限度額は一般的な所得の人は月額44,400円です。令和3年8月から、医療保険の高額療養費制度の負担上限額に合わせて、負担限度額が見直され一部変更になりました。対象になるのは一定年収以上の高所得者で、介護サービスの利用者または同一世帯に課税所得380万円(年収約770万円)以上の65歳以上の人がいる場合です。 それ以外の市区町村民税非課税世帯の場合は、負担上限額に変更はありません。また、医療費や介護サービス費ともに高額で、高額介護合算療養費制度(年間の医療費・介護サービス費が負担限度額を超えた場合に払い戻しを行う制度)による払い戻しを受けている人の場合は、収入や介護サービス費などに変更がなければ、実質的な負担額は変わりません。 知っておきたい今期の見直し 介護報酬は0.7%引き上げ 法改正とともに、3年ごとに介護報酬改定が行われています。2021年4月に施行された改定では2期続く引き上げとなり、全体で0.7%のプラス改定となりました。そのうちの0.05%は、新型コロナウイルス感染症に対応するための経費として、2021年9月末までの半年間、介護サービス事業者を支援するものでした。 介護報酬とは、介護サービス事業者が利用者に、介護保険が適用されるサービスを提供した際に支払われる費用です。介護事業者は利用者からサービス費用の1割(原則)を受け取り、自治体に残りの9割分を請求、介護報酬が支払われます。介護報酬は利用者の状況やサービス提供体制に応じて、サービスごとに設定されています。介護報酬の引き上げによって利用者の負担額が増えるサービスもあり影響があります。 介護職員の賃上げがスタート 介護人材の確保は、介護保険制度を持続していくうえで非常に重要です。介護職員の離職防止・定着促進を図ることは喫緊の課題です。そのため介護の現場では、介護職員の処遇改善や職場環境の改善に取り組んでいます。 処遇改善については「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(2021年11月19日閣議決定)に基づいて、2022年2月から9月までの間「介護職員処遇改善支援補助金」により、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置が実施されます。10月分以降については、臨時の報酬改定を行い、収入を引き上げるための措置を講じる方向で調整が行われています。このほか、介護現場を革新するために、テクノロジーの活用や人員基準・運営基準を緩和することで業務を効率化し、負担の軽減を目指しています。 遠距離介護 離れて暮らす親の介護が必要になったときは、電話やビデオ通話などを使ってコミュニケーションを密にし、親の健康状態などに気を配ることが大切です。親の要介護度が進んだときには、食事介助やトイレ介助などの身体介護を誰がどのように担うのかといった問題が生じてきます。介護のために子どもが親元に戻るか親を呼び寄せるか、そんな悩みを抱える人も出てきます。親の介護に直面する世代は、40〜50代の働き盛りが中心です。 現在、介護を理由とする離職者が年間約10万人を超えています。国は、一億総活躍社会を実現するため、必要な介護サービスの確保や働く環境の改善、家族への支援を行い、介護離職ゼロを目指しています。育児・介護休業法で定められているのが「仕事と介護の両立のための制度」です。この制度を利用することによって、介護を行う期間だけでなく、仕事と介護が両立できる体制を整えるための期間にも介護休業を取ることが可能です。 介護保険サービスを受けるための準備期間への活用で、家族の介護をしながら仕事を続ける体制づくりが行えます。制度の内容には、通算して93日まで休業でき、休業前の賃金の67%が支給される「介護休業制度」、介護休業や年次有給休暇とは別に、時間単位で休暇の取得ができる「介護休暇制度」、短時間勤務や時差出勤が可能になる「介護のための短時間勤務等の制度」、残業を免除する「介護のための所定外労働の制限」があります。※ 育児・介護休業法は2021年に改正され、2022年4月から施行されます。雇用形態にかかわらず育児・介護休業を容易に取得できるよう、有期雇用労働者について「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が廃止されます。なお、労使協定を締結した場合は、雇用期間が1年未満の人は対象から除外されます。 ※育児・介護休業法に関する相談窓口:都道府県労働局雇用環境・均等部(室) 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用 お悩みや疑問は解決できましたか? 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  • 住所変更登記等の義務化はいつから?手続き方法や注意点も解説

    不動産所有者の氏名や住所などに変更があった場合の、法務局での住所等の変更登記はこれまで任意でしたが、不動産登記法の改正により登記申請が義務化されることになりました。変更登記をしないと罰則を科される恐れもあるため、制度内容を理解しておくことが大切です。 この記事では、住所変更登記等の申請義務化の概要や注意点について解説します。 住所変更登記等の申請義務化の概要 住所等の変更登記とは、不動産の所有者である登記名義人の氏名や住所などに変更があった際に行う登記手続きのことです。2021年(令和3年)4月に成立した不動産登記法の改正により、住所等の変更登記の申請が義務化されました。2023年11月現在も施行日は確定していませんが、2026年(令和8年)4月までに施行されることは決定しています。 申請が義務化された理由 住所等の変更登記の申請が義務化された背景には、所有者不明土地問題があります。近年では、所有者やその所在が分からない「所有者不明土地」が増加傾向です。 国土交通省の調査によれば、全国の土地のうち所有者不明土地は24%で、発生原因の33%を「住所変更登記の未了」が占めています。これまで住所等の変更登記は任意であり、そのまま放置されることが多くありました。そのため、所有者不明土地の解消や発生予防に向けて申請が義務化されました。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 申請義務の内容 所有不動産の売却や転居などにより、登記名義人の住所等に変更が生じた場合は、その住所等の変更日から2年以内に変更登記の申請をしなくてはなりません。正当な理由なく申請義務を怠った場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。 正当な理由の具体的な類型、過料を科す手続きの詳細については、通達や省令等で明確化される予定です。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要 P.2」 住所変更登記等の申請義務化の注意点 住所変更登記等の申請義務化については経過措置があり、施行日前に住所等の変更が発生していたケースについても適用されます。施行日前の住所等変更については、以下のように施行日から2年間が申請義務の履行期間となります。 施行日前に住所等の変更が生じた場合でも、申請義務が発生することに注意しましょう。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」 住所等の変更登記の手続き方法 住所等の変更登記は、自分で行うか司法書士に代行してもらうかの二択で手続きを進めます。自分で行う場合は、「登記簿謄本(登記事項証明書)」「住民票」「登記申請書」などの必要書類を準備して法務局で申請手続きをします。その際は、登録免許税額分の収入印紙も必要です。 関連記事はこちら登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 司法書士に代行してもらう場合は、手続きをすべて司法書士に任せることが可能です。ただし、司法書士報酬を支払う必要があるため、自分で行うよりもコストはかかります。司法書士によって報酬は異なるので、ホームページなどで料金を確認した上で、依頼するといいでしょう。 出典)法務局「不動産登記の申請書様式について」 法務局が職権で住所等の変更登記をする仕組みも導入される 法務局が職権で住所等の変更登記をする新たな仕組みも導入予定で、2026年(令和8年)4月までに施行されます。法務局の登記官が、個人の場合は「住基ネット」、法人の場合は「商業・法人登記システム」から取得した情報に基づき、職権で変更登記ができるようになります。職権で変更登記が行われた場合は、個人・法人ともに「住所変更登記等の申請義務は履行済み」とみなされます。 登記漏れや手続きにかかる手間などの理由から、基本的には職権による変更登記を了承しておくといいでしょう。一方で、詳細な手続きや費用について言及されていないので、今後の動向を注視しておきましょう。 職権による住所等の変更登記の手続き方法 個人はDV被害者等への配慮や個人情報保護の観点から、登記名義人の了解を得た場合に限り、職権による変更登記がされます。事前準備として、施行後に新たに登記名義人となる場合は、登記申請時に検索用情報を提供する必要があります。施行前に登記名義人であるケースでは、任意で検索用情報の提供が可能となる予定です。 一方、法人については、職権による変更登記の際に意思確認はありません。不動産登記法の改正に伴い、2024年(令和6年)4月1日から、登記名義人が法人の場合は会社法人等番号が登記事項となります。そのため、会社法人等番号を検索キーとして職権による変更登記を行うことが想定されています。 登記名義人への意思確認や検索用情報の提供など、具体的な手続き方法はインターネットの活用を含めて今後検討されます。現時点では、住所や氏名等の変更が生じる場合は自ら変更登記を行うと安心といえます。 出典)法務省「不動産登記法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について P.13~P.15」 まとめ 所有中の不動産について住所等の変更があった場合、今後は変更登記の申請が義務化されます。2026年(令和8年)4月までに施行される予定で、施行日前の変更も適用対象です。申請義務を怠ると罰則が科されるので、必要な場合は忘れずに手続きを行いましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説 「維持管理の費用がかかる相続した土地を手放したい」と悩んでいませんか。相続土地国庫帰属法の成立により、今後は相続した不要な土地を国に引き取ってもらえるようになります。ただし、対象となる土地に...記事を読む

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  • 家族を介護する必要が生じたなら...<介護と保健ガイドブック(1)>

    <介護と保健ガイドブック>家族を介護する必要が生じたなら…

    介護保険の利用を考える そろそろ介護が必要? 両親が高齢になってきた、離れて住む高齢の親がひとりで暮らしている、などという人は、 介護のことが身近な問題として気になり始めるのではないでしょうか。 高齢による身体機能の衰えや、認知症などの病気やケガなどにより介護が必要となったときには、介護サービスを提供する公的な介護保険制度を利用することができます。 家族や親族の高齢化により気になることが増えてきたら、介護保険の認定申請についてそろそろ考えたほうがよい時期かもしれません。 ☑「要介護」はここをチェック! □ 高齢者のみの世帯である □ 外出したがらない □ 歩行が困難になってきた □ よくつまずくようになった □ 食事の量が減っている □ 視力や聴力が衰えてきた □ 起き上がりや立ち上がりが難しい □ 入浴や排せつ、食事での介助が必要 □ 衣服の着脱で手伝いが必要 □ 物忘れやひきこもりなどの行動がある 介護に関して利用できる制度、サービス 介護をする側の心構え 自立支援を目指して 病気や障害、高齢のために家族を介護する必要が生じたなら、日常生活における起き上がり、移動、食事、排泄や入浴など、身体的な支援だけではなく、精神的な支援も必要です。介護をするうえで、どんな方針を立てて取り組めばいいのかをよく考えて実行していきましょう。 介護される人の多くは、住み慣れた地域や住まいで暮らし続けたい、可能な限り自宅で暮らしたいと願っています。自分で立てたスケジュールに沿って日常生活を営み、起床や就寝時間も自分の都合や体調に合わせ、食事も自分の自由にできる暮らしがしたいのです。 つまり、生活全般にわたってできるだけ長く「その人らしく暮らしていくことができる」ように支援の仕方を考えていくことが大切です。介護が必要な人の尊厳を保ちながら生活の質を高め、できるだけ自立した生活ができるように、押しつけではなく寄り添うような支援をすることが介護の基本になります。 介護をする際は、精神的な満足度や価値観の尊重、社会参加など、その人がその人らしくあるために望むことが可能な限りできているかどうかを、ときどきチェックしてみましょう。また、介護をする人がなるべく無理をせず、負担がかかりすぎないようにすることも大切です。 すべての重荷をひとりで背負い込まず、周囲に介護を頼める人がいれば遠慮をすることなくお願いし、利用できるサービスがあれば積極的に活用していきましょう。大切なことは、介護についての手続きや知識、役立つ情報などをよく調べ、自身の健康や生活面を犠牲にせず済むように工夫することです。 コミュニケーション、団欒を大切に 介護が必要になると特別な献立が必要になったり、食事に時間がかかることなどから、介護される人はひとりで食事を済ますことが多くなりがちです。ひとりきりの食事は味気なく、食欲の減退につながります。 食事の時間は食べることを楽しむ時間であるばかりでなく、家族と一緒の時間を過ごすことができる大切な時間です。本人が家族の一員であることが実感できるように、食事はできるだけ一緒にとるようにしましょう。 コミュニケーションを心がけることで、介護される人であっても楽しみや生きがいをもって生活することができます。ときにはお茶を飲みながら、昔の思い出話や相手が好きな話題についておしゃべりしたり…。そうした団らんの時間を持つことが、とても大切です。 別居していたり、施設へ入居している場合には、日々の忙しさに紛れてコミュニケーションがおろそかになりがちです。定期的に訪問することが難しい場合は、電話をかけて会話をしたり、介護をしてくれている人に積極的に連絡を取りましょう。 1日に5分でも電話で家族の声を聞くだけで「自分のことを気にかけてくれている」と、介護される人も喜んでくれるはずです。介護が必要な人は、思うように動けないことで、不安や寂しさを感じながら日々を過ごしています。そんな中で「自分を支えてくれる家族の存在」があれば、心強く感じて安心することができるのではないでしょうか。 介護者の役割分担 リーダーの下で介護を 多くの人が望んでいるのが、介護が必要になっても、住み慣れた自宅や地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けたいということです。その望みを実現するには、家族などの協力が欠かせません。 兄弟や配偶者、子ども、友人などの協力者がチームを組むことや、介護サービスを上手に利用していくことが求められます。 介護が必要な人の最も身近にいる人が介護のリーダーになることで、スムーズな介護を行うことができます。ケアマネジャーや介護事業所への連絡や家族の話し合い、介護サービスの依頼や管理、介護に必要なお金の出し入れなどを、リーダーになる人が責任を持って行いましょう。 介護分担はより具体的に決める 少子化や核家族化、晩婚化、共働きなどにより、家族を取り巻く状況はさまざま。また、子どもの教育費がかかる、住宅ローンを組んでいるなど、介護を担う側もいろいろな事情を抱えています。介護費用のことや介護内容、今後のことなどについて、よく話し合っておくことが大切です。 それぞれの役割分担や協力体制について、具体的に決めておきましょう。遠くに住んでいて介護の手助けができない場合には、金銭的負担をしたり、時間がとれる週末だけ介護を受け持ったり、毎日の電話による安否確認などを担当しましょう。自分にできること、できないことを率直に話し合って分担していきます。不公平感のない分担を目指すことが大切です。 協力者を考える かかりつけ医、地域の連携病院 普段から風邪や腹痛などで診てもらっている身近なかかりつけ医は、気軽に相談できる存在です。既往歴や現在の疾患、生活実態などを把握したうえで、健康管理のアドバイスもしてくれます。かかりつけ医の多くは入院設備を持たないクリニック(医院)で、検査などが必要になれば、入院設備を持つ一般病院や高度な治療を行う専門の病院の紹介も可能です。緊急時には往診もしてくれる体制があると、より安心です。 公的支援サービス どのようなサービスが利用できるのか、居住地の市区町村役場に積極的に問い合わせてみましょう。介護保険制度によるサービスを受けるには、要介護認定の申請を行います。そのほか、介護保険制度以外の各自治体独自の福祉サービスもあります。 民間支援サービス 有償ボランティア団体が提供するサービスなど、さまざまな民間支援サービスがあります。家事代行や配食などのサービスを活用することで、介護の負担を減らすことができます。 ご近所や地域の力も借りて 介護をする人もされる人も、親しいご近所の人の存在は心強いものです。気持ちのよいおつきあいが継続できるよう、隣り近所の人たちに声をかけ、普段からコミュニケーションを心がけるようにしましょう。また、地域によっては、ゴミ出しや見守りなど、ちょっとしたサービスを行っていることがあります。老人クラブや自治会、ボランティア、NPOなどの情報を集め、自治会や民生委員など相談しやすいところへ積極的に声をかけ、利用できるサービスを探しましょう。 介護の環境づくり 将来の介護を担う地域包括ケアシステム 高齢者など介護や医療が必要な人へ、切れ目のない介護・医療サービスを提供するための「地域包括ケアシステム」。その内容を充実させるための取り組みが各自治体で進められています。 地域包括ケアシステムにより、住まい・医療・介護・生活支援・介護予防が一体的に提供され、要介護となっても住み慣れた地域で暮らしを続けることが可能になっていきます。今後、増加が見込まれる認知症高齢者の生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築は重要です。このシステムは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(中学校区)を単位として構築することとされています。 地域包括ケアシステムの取り組み 各自治体によりその進み度合いは異なりますが、主に次の❶〜❺のサービス構築が推進されています。 受けられるサービス ❶医療との連携強化 ・24時間対応の在宅医療、訪問看護やリハビリテーションの充実強化 ・介護職員による痰(たん)の吸引などの医療行為の実施 ❷介護サービスの充実強化 ・特養などの介護拠点の緊急整備 ・24時間対応の定期巡回・随時対応サービスの創設等在宅サービスの強化 ❸予防の推進 ・要介護状態にならないための予防の取り組み ・自立支援型の介護の推進 ❹見守り、配食、買い物等多様な生活支援サービスの確保や権利擁護等 ・一人暮らしや高齢夫婦のみの世帯の増加、認知症の増加を踏まえ、さまざまな生活支援(見守り、配食などの生活支援や財産管理などの権利擁護)サービスを推進 ❺高齢期になっても住み続けることのできる高齢者住まいの整備(国土交通省・厚生労働省連携) ・一定の基準を満たした有料老人ホームと高齢者専用賃貸住宅を、サービス付高齢者住宅として高齢者住まい法に位置づけ 一人暮らしの人への介護 住み慣れた地域で「要介護2」までなら、必要なときに手を貸してもらえば一人暮らしを続けることはそれほどむずかしくはありません。日中なら、ホームヘルプサービスやデイサービスを利用していれば人の出入りもあります。 しかし、さまざまな介護サービスの利用が必要になると、「家の中で転んでケガをして起き上がれなかったら、誰にも気づいてもらえないのではないか」といった不安が大きくなってきます。 要介護度が重度化して「要介護3」になると、「一人暮らしの限界」となります。個人差はありますが、一般的には「ひとりでトイレに行けなくなる」と、一人暮らしは厳しくなると考えられます。しかし、施設ではなく、可能な限り住み慣れた環境の中で今までと変わらない生活を続けたいという願いを持つ人は多く、昨今、居住型サービスへの関心が高まっています。 そして、そのような背景から在宅に「365日・24時間の安心」を届けることのできる新しい在宅介護サービスの仕組みが注目されています。その内容は、日中の通いや一時的な宿泊、夜間や緊急時の訪問サービス、介護スタッフが居住するといった「通う」「泊まる」「訪問を受ける」「住む」などの複数のサービスが、介護が必要な人や家族の要望に応じて提供されるというものです。 要介護者の心身の状態を継続的に把握しているスタッフによって継続的なサービスの提供が行われることにより、本人の「在宅で過ごしたい」という希望をかなえることが可能になります。このような切れ目のないサービスを利用者の生活圏域で行うには、一体的・複合的に提供できる小規模・多機能サービス拠点が整備されていくことが必要です。 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用

  • 老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説

    老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説

    老齢年金は、老後の生活を支える重要な収入源です。公的年金に加入している人は、一定の年齢に達すると老齢年金を受け取れます。老齢年金はどんな仕組みで、いくら受け取れるのでしょうか。 この記事では、老齢年金の受給要件や年金額、請求手続きについて詳しく解説します。 老齢年金とは 老齢年金とは、公的年金制度の加入者だった人に対して老後の保障として給付される年金です。原則65歳から支給開始となり、一生涯受け取れます。ただし、保険料納付済期間と保険料免除期間などを足した資格期間が10年以上あることが受給要件となります。 老齢年金は、加入していた年金制度により、国民年金の「老齢基礎年金」と厚生年金保険の「老齢厚生年金」の2種類が支給されます。 老齢基礎年金 老齢基礎年金は、国民年金もしくは厚生年金保険や共済組合等に加入していた人が受け取れます。20歳から60歳になるまでの40年間の国民年金加入期間などに応じて年金額が計算されます。 国民年金保険料を納付した期間のほか、会社員として厚生年金に加入していた期間や保険料の免除を受けた期間も年金額の計算に含まれます。 原則65歳から受給開始ですが、60歳から75歳の間で受給開始年齢を選択する「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢厚生年金 老齢厚生年金は、会社員や公務員など厚生年金保険や共済組合等に加入していた人のみが対象です。厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて年金額が計算されます。老齢厚生年金も原則65歳から受け取ることができ、老齢年金と同様に「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢年金の受給要件(資格期間) 老齢年金を受給するには、10年以上の資格期間が必要となります。資格期間とは、以下3つを合計した期間のことです。 保険料納付済期間 保険料免除期間 合算対象期間 国民年金保険料を納めた期間や厚生年金加入期間はもちろん、国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた期間も資格期間に含まれます。厚生年金加入期間は、加入した月から加入をやめた日(退職日の翌日など)の前月までの月単位で計算します。 合算対象期間は、海外在住者が国民年金に任意加入しなかった期間、または任意加入したが保険料を納付しなかった期間などが該当します。保険料免除期間や合算対象期間は資格期間の対象にはなりますが、年金額には反映されない点に注意が必要です。 老齢年金の年金額 老齢年金の年金額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金で異なります。 老齢基礎年金は、保険料の納付状況に応じて年金額が決定され、20歳から60歳の40年間の保険料をすべて納めると、満額の年金を受け取れます。令和5年度(2023年度)の年金額(満額)は年795,000円(月66,250円)です。 老齢厚生年金は、「報酬比例部分」と「定額部分」の合計が年金額となります。 報酬比例部分は、平均報酬月額に一定の給付率と加入期間の月数を乗じて計算します。定額部分は「1,657円×被保険者期間の月数」で計算します。ただし、昭和31年4月1日以前に生まれた方は、1,652円となります。老齢厚生年金は基本的に収入が高く、加入期間が長い人ほど年金額は増えます。 令和3年度(2021年度)の老齢年金受給者の平均年金月額は、国民年金の56,479円に対し、厚生年金は145,665円です。 厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあるため、65歳から老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。国民年金のみの自営業者に比べて、厚生年金に加入する会社員の年金額は手厚い傾向にあります。 出典)厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 老齢年金の請求手続き 老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取るには請求手続きが必要です。手続きの流れは下記のとおりです。 「年金請求書」が自宅に届く 「年金請求書」を年金事務所や市区町村に提出する 「年金証書」「年金決定通知書」などが自宅に届く 1~2ヵ月後に年金の受け取りが開始される 老齢年金の受給権が発生する年の誕生月の約3ヵ月前に、日本年金機構などから年金請求書が届きます。必要事項を記入して、受給開始年齢の誕生日の前日以降に提出しましょう。 提出先は、年金加入期間が国民年金のみの人は住所地のある市区町村、それ以外の人は最寄りの年金事務所です。 請求時には、戸籍抄本や住民票などの添付書類が必要です。同封されているパンフレットを確認し、添付書類を準備しましょう。年金請求書の提出から1ヵ月程度で年金証書や年金決定通知書が届き、その約1~2ヵ月後に年金の受給が開始されます。 年金の請求をせず、年金を受けとれるようになったときから5年を過ぎると、5年を過ぎた分の年金については時効により受け取れなくなる恐れがあるので、注意しましょう。 出典)日本年金機構「年金の時効」 繰り上げ受給と繰り下げ受給 老齢年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば65歳より前に年金を受け取る「繰り上げ受給」、受給開始を65歳より後に受け取る「繰り下げ受給」も選択可能です。 繰り上げ受給は60歳から65歳の間に請求でき、「繰り上げた月数×0.4%」の年金額が減額されます。たとえば、60歳時点では最大で24%の減額となります。年金を早く受け取れますが、減額された年金額は生涯変わらない点に注意が必要です。 繰り下げ受給は65歳から75歳の間に請求でき、「繰り下げた月数×0.7%」の年金額が増額されます。たとえば、70歳時点では42%、75歳時点では84%の増額となり、増額された年金は生涯変わりません。65歳以降も一定の収入があり、当面は年金なしでも生活できるなら、繰り下げ受給を利用して年金額を増やすのも選択肢の一つでしょう。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 在職老齢年金 在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入して働きながら受け取る老齢厚生年金のことです。給与や賞与の額と老齢厚生年金の額によっては、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。 老齢厚生年金(比例報酬部分)の月額である「基本月額」と、給与や賞与をもとに計算する「総報酬月額相当額」の合計が48万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。 なお、「老齢基礎年金」は支給停止の対象外で全額支給されます。 まとめ 老齢年金は10年以上の資格期間が受給要件で、原則65歳から受け取れます。日本年金機構などから年金請求書が届いたら、忘れずに手続きを行うことが大切です。状況に応じて、繰り上げ受給や繰り下げ受給も検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む

  • 終活の認知は高いが、実際に行っている人は約1割

    終活の認知は高いが、実際に行っている人は約1割

    近年、「終活」という言葉は様々なメディアなどで取り上げられています。一方で、終活に実際に取り組んでいる人がどれくらいいるのか、わからない人も多いでしょう。 そこでこの記事では、現在持ち家所有者である20歳以上の男女321名を対象に、SBIエステートファイナンスが終活と住まいの終活に関するアンケートを実施した調査結果をご紹介します。 終活は認知度が高いが実際には行われていない Q1.終活という言葉を知っていますか? 終活という言葉は2009年に雑誌連載から生まれた言葉とされ、比較的新しい言葉にもかかわらず、認知度は93%と浸透していることがわかります。なお、表は省略していますが、すべて年代でほとんど違いはなく、90%程度の認知度となりました。 Q2.ご自身の終活は行っていますか? もしくは今後行いたいと思いますか? すべての年代で「今後行いたい」が最も多く、「すでに行っている」と答えた割合は約10%と大変少ないことがわかります。60代以上の人でも少ないことから、60歳を超えても自分事にできていないことがわかりました。 高齢になるほど終活を専門家に相談しない Q3. 終活について誰かに相談したことはありますか? 相談したことがないと回答した割合が約80%となっています。 Q4. 終活の相談をしたことがあると答えた人にお伺いします。実際に誰に相談しましたか?(複数回答可) 年代が下がるにつれて「親しい友人・知人」が多く、反対に年代が上がるにつれて「子ども」と答えた人が多くなり、60代以上では過半数を占めることがわかります。 Q5. 終活の相談をしたことがないと答えた人にお伺いします。今後、もしも相談するとしたら誰にしますか?(複数回答可) 40代以下と50代については「専門家」へ相談するとの回答が多く、60代以上では「子ども」が多いことがわかります。 【考察】 終活の相談をしたことがある人もない人も、年代が上がるにつれて「子ども」に相談する割合が増えています。これは自身や子どもの年齢が上がるにつれて、終活がより自分事になってくることや、子どもが相談相手として適任になってくるからと考えられます。 一方で、終活の相談をしたことがある人は年代が上がるにつれて「専門家」に相談する割合が増えていますが、相談をしたことがない人は年代が上がるにつれて割合が下がっています。この結果は、年代が上の人は親族への相談で解消できると考えていたが、実際は相談内容がより専門的な内容になることで親族や子どもでは問題を解消できずに、結果として専門家に相談せざるを得ない状況になったのではないでしょうか。 終活のきっかけは年を取ったと感じたとき Q7. 何がきっかけで終活に取り組むと思いますか?すでに取り組んでいる人は取り組んだきっかけを選んでください(複数回答可) 終活に取り組むきっかけはすべての年代で「自分が年を取ったと感じたとき」が最も多い結果となりました。終活と関連したイベントに「遺言書の作成」がありますが、遺言書に関する調査によると、「遺言書の作成」に取り組むきっかけは「自身の体調不良」が最も多いとされています※。遺言書は死に直面した際に行うもの、終活は健康なうちに行うものといった、意識の違いがあるのではないかと考えられます。 ※出典)公益財団法人日本財団「遺言書に関する調査」 Q8. ご自身が相続をする際、ご自宅をどのように相続させたいですか? 「不動産として相続させたい」がすべての年代で最も多いことがわかります。 Q9.ご両親の家の相続方法はどのように考えていますか? 大きな特徴は見られませんでしたが、高齢になるにつれて「相続することは考えていない」人が多くなることがわかりました。 【考察】 2世代にわたる家の相続方法を確認したところ、自分の家は「不動産として相続させたい」がすべての年代で1番多いことがわかりました。一方で、両親の家の相続については、年代が上がるにつれて「相続することは考えていない」が増えていくことがわかりました。 「不動産として相続させたい」が1番多い要因は、いずれの年代も子どもと過ごした持ち家には愛着があり、そのまま子どもに住んでほしいという想いがあるのではないでしょうか。 一方で、年代が上がるにつれて「相続をすることは考えていない」が多くなる要因は、自身も自立した生活を送っており相続を受ける必要がないため、両親が築いた資産は本人達が好きに利用すればよいという想いがあるからかもしれません。 まとめ 「終活」を認知しているものの、実際に行っている人は約1割ということがわかりました。また、相続をする側とされる側の認識の違いがあることも示唆される結果となりました。「終活」と聞くと身構えてしまう人もいるかもしれませんが、親子間で財産をどうするか話すだけでも立派な「終活」です。争続にならないためにも、親子で話し合う「終活」を行ってみてはいかがでしょうか。 参考)SBIエステートファイナンス 終活の認知度は9割、終活を行っているのは約1割、重い腰を上げるのは加齢への自覚~SBIエステートファイナンスが「終活と住まいの相続」に関するアンケート調査を実施~ 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 終活とは?終活では何を準備すればいい? 昔に比べて平均寿命が延びて老後の期間が長くなったことから、「終活」を行う人が増えています。終活と聞くと、葬儀やお墓、相続など自分が亡くなった後のことをイメージするかもしれません。しかし、実際...記事を読む