自宅を購入するとき、住宅に欠陥や不具合がないか気になるのではないでしょうか。安心して住宅を購入できるように、「瑕疵(かし)保険」という仕組みがあります。瑕疵とは、本来あるべき性能や品質を持っていないことです。住宅の場合、建築基準法に定められた基準を満たしておらず、重大な欠陥がある状態などを指します。 この記事では、瑕疵保険の仕組みや種類について解説します。 瑕疵保険とは 瑕疵保険とは、住宅の検査と保証がセットになった保険制度です。国土交通大臣が指定した住宅専門の保険会社である住宅瑕疵担保責任保険法人が保険を引き受けることで、制度が成り立っています。新築、中古住宅ともに、建築士による検査に合格することで、加入できる保険です。 住宅購入後に欠陥が見つかった場合に、買主は無償で直してもらうことができ、専門の建築士による検査を受けるため、売主は購入者に安全性をアピールできます。 住宅瑕疵担保責任保険法人一覧 2024年8月現在の国土交通大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人は以下のとおりです。 ■住宅瑕疵担保責任保険法人一覧 株式会社住宅あんしん保証 住宅保証機構株式会社 株式会社日本住宅保証検査機構 株式会社ハウスジーメン ハウスプラス住宅保証株式会社 (一財)住宅保証支援機構 保険法人からの再保険契約の引受け。事業者(建設業者及び宅地建物取引業者)からの引受けは不可。 ※2024年8月現在 出典)国土交通省 住宅瑕疵担保責任保険法人 瑕疵保険の仕組みと概要 瑕疵保険に加入する際、新築住宅と既存住宅では加入の要件や内容が異なります。ここからは新築住宅と既存住宅に分けてそれぞれ説明します。 新築住宅 新築住宅は瑕疵保険の加入は「義務」となっています。2007年に住宅瑕疵担保履行法が成立・公布され、住宅購入者の利益保護を目的に新築住宅の売主に対して「保証金の供託」または「保険加入」が義務付けられました。 新築住宅の瑕疵保険の仕組みと加入の流れは以下のとおりです。 出典)国土交通省「住宅瑕疵担保責任保険について」 新築住宅の建設を請負う建設業者または販売する宅建業者が瑕疵担保責任を履行した場合に、保険法人がその損害をてん補します。事業者が倒産等により瑕疵担保責任を履行できない場合には、住宅購入者(買主)に対して直接保険金を支払います。 出典)国土交通省「住宅瑕疵担保責任保険について」 新築住宅の場合、瑕疵保険の加入は、売買契約時などに瑕疵保険の説明や書類への記入があるので、詳細はその場で確認するようにしましょう。また、引き渡しの際に保険の証明書を受け取る必要があるので、忘れないようにしましょう。 中古住宅 中古住宅の瑕疵保険は、新築とは異なり「任意加入」です。原則として1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた、いわゆる「新耐震基準」に適合している住宅が対象となります。 ただし、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた住宅の場合、耐震基準適合証明書等の取得および提出などにより保険の加入が可能となる場合もあります。 出典)一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会「既存住宅の個人間売買に安心を!」Q3 中古住宅の売買契約は、売主が「宅建業者」と「個人」の2種類です。売主が宅建業者の場合は、宅建業法上の瑕疵担保責任の義務に対応するため、2年間の保証が付くのが一般的です。 一方で、不動産仲介による売買を含む個人が売主となる場合、保証なしで売買されることも多いため、特に売主が個人の場合の売買において、瑕疵保険の必要性が高いといえるでしょう。 一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会では、瑕疵保険を利用する登録事業者等の検索サイトがあります。保険加入実績の確認や、個人間売買で検査会社を選ぶ場合にも利用できるので活用してみると良いでしょう。 瑕疵保険の種類 続いて、保険の種類について確認していきましょう。 新築住宅 新築住宅の瑕疵保険は「住宅瑕疵担保責任保険」といい、住宅瑕疵担保責任保険は、「住宅瑕疵担保責任保険(1号保険)」と「住宅瑕疵担保責任任意保険(2号保険)」の2種類に分かれます。 1号保険は、住宅瑕疵担保履行法に定める建設業者・宅建業者の資力確保義務に対応する保険で、2号保険は、売主に資力確保義務がない場合に加入する保険です。 いずれも加入にあたり、事業者は建築士の検査を受けて合格する必要があります。新築住宅に瑕疵があった場合、補修等を行った事業者に対して保険金が支払われるため、購入者は無償で直してもらえます。請負契約や売買契約の際に業者から説明が行われるので、内容を確認しておきましょう。 中古住宅 中古住宅に対する瑕疵保険の正式名称は「既存住宅売買瑕疵保険」と言います。既存住宅の瑕疵保険は以下の4種類に分かれます。 既存住宅売買瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険 大規模修繕工事瑕疵保険 延長保証保険 既存住宅売買瑕疵保険 既存住宅売買瑕疵保険は中古住宅の売買における瑕疵保険で、売主が「宅建業者の場合」と「宅建業者以外の場合」に分かれ、宅建業者以外の場合では、さらに「検査事業者保証」と「仲介事業者保証」に分かれます。 宅建業者が売主の場合は宅建業者が保険に加入し、個人が売主の場合は仲介業者や検査事業者が保険に加入する仕組みです。新築と同じく、保険に加入するには専門の建築士による検査を受けて合格しなくてはなりません。 リフォーム瑕疵保険 リフォーム瑕疵保険は、リフォーム時の検査と保証がセットになった保険です。リフォームの工事中や工事完了後に、第三者である建築士の現場検査が行われます。工事後に欠陥が見つかった場合、補修等を行った事業者に対して保険金が支払われる仕組みです。 関連記事はこちらリフォーム瑕疵保険とは?加入方法や適用条件を解説 大規模修繕工事瑕疵保険 大規模修繕工事瑕疵保険はマンションの大規模修繕における瑕疵保険であるため、個人の方が利用する機会はないでしょう。 延長保証保険 延長保証保険は、新築住宅の引き渡し後10年間の瑕疵担保責任期間が経過後に検査・補修した場合の保険です。延長保険契約時の現況検査やメンテナンス工事の実施が加入要件となります。 出典)国土交通省「消費者の方向け情報」 瑕疵保険の対象 続いて、瑕疵保険の対象部分について確認していきましょう。 新築住宅 新築住宅で瑕疵保険の対象となるのは、住宅の中でも特に重要な部分である、構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分です。これらの瑕疵に対して、10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。 出典)国土交通省「新築住宅に関する法制度」 新築住宅では、住宅瑕疵担保履行法で定められている最低限の支払限度額は2,000万円です。マンションの場合は1住戸あたりとなります。また、全保険法人5社で新築の瑕疵保険の対象となる部分は原則同じです。 ただし、提供するサービスや料金等は異なるので、確認しておきましょう。 出典) ・一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会「新築住宅かし保険についてよくあるご質問」Q.11 ・国土交通省「新築住宅に関する法制度」 中古住宅 既存住宅の瑕疵保険の対象は新築住宅と同様、構造体力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分です。宅地建物取引業者が売主となっている場合は宅地建物取引業法により2年以上の瑕疵担保責任期間が義務付けられていますが、個人が売主(宅地建物取引業者による「媒介」)となる場合、長くて数か月、物件によっては保証なしの場合もあります。 なお、既存住宅売買瑕疵保険の場合であれば、瑕疵担保責任期間は最長5年間となっているので、確認してみましょう。 出典)一般社団法人 住宅瑕疵担保責任保険協会「かし保険全般に関するご質問」Q.6 また、住宅瑕疵担保責任保険法人5社の保証に関する主な内容は共通していますが、料金など異なっている部分もあります。住宅瑕疵担保責任保険法人ごとに定めている内容もあるので事前に確認しておくとよいでしょう。 中古住宅は築年数や使用状況によって品質に差が生じるため、物件購入後に欠陥や不具合が見つかるかもしれません。安心して中古住宅を購入するために、購入前に建物状況調査を受けることもおすすめです。 関連記事はこちら建物状況調査とは?メリット・デメリットと手続きの流れを解説 保険金の請求 住宅に瑕疵が見つかった場合は、売主である事業者に補修依頼をします。売主が倒産している場合は、保険法人に補修費用を直接請求できます。保険の証明書を確認して連絡をとりましょう。 個人が売主の場合は、検査事業者に補修依頼をします。売主が事業者の場合と同じく、検査事業者が倒産している場合は保険法人に補修費用を直接請求できます。 売主との間でトラブルが発生した場合は、「住宅紛争処理支援センター」に相談できます。申請手数料1万円を支払えば、「住宅紛争審査会」に申請して、「あっせん」「調停」「仲裁」を受けることも可能です。 まとめ 自宅を購入する場合、瑕疵保険に加入している住宅なら欠陥が見つかっても無償で直してもらえます。特に売主が個人である中古住宅を取得する場合は、瑕疵保険の有無を確認してから購入しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 マンション管理適正評価制度とは?メリット・デメリットを解説 2022年4月から「マンション管理適正評価制度」が開始されました。本制度は適切に維持管理されているマンションが、市場で評価されるための新たな仕組みです。同じ時期に国の「マンション管理計画認定...記事を読む
住宅を購入するときは、「住宅ローン控除」をはじめとしたさまざまな優遇制度が用意されています。一方で、どのような優遇制度があるのか詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。 この記事では、住宅購入で得られるさまざまな優遇制度について詳しく解説します。 住宅ローン控除 住宅ローンを借りて住宅を購入する場合は、住宅ローン控除が利用できる可能性があります。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、住宅取得者の住宅ローン金利負担の軽減を図るための制度です。住宅ローン年末残高の0.7%が10年間所得税から控除され、控除額と納税額に応じて所得税が還付されます。所得税から控除しきれない場合は、住民税から控除することも可能です。 関連記事はこちら【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 印紙税の軽減措置 住宅を購入する際は、売買契約書に収入印紙を貼付して印紙税を納めなくてはなりません。不動産売買契約書の印紙税は、軽減措置によって税率が引き下げられています。2024年3月31日までに作成される契約書については、以下の軽減税率が適用されます。 表 印紙税の軽減措置(単位:円) 契約金額 本則税率 軽減税率 100万円超 500万円以下 2,000 1,000 500万円超 1,000万円以下 10,000 5,000 1,000万円超 5,000万円以下 20,000 10,000 5,000万円超 1億円以下 60,000 30,000 1億円超 5億円以下 100,000 60,000 5億円超 10億円以下 200,000 160,000 印紙税は、物件価格(契約金額)が高くなるほど税負担も増える仕組みです。軽減措置の適用期間中に売買契約を締結すれば、印紙税の節税になります。 出典)国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」 登録免許税の軽減措置 登録免許税とは、購入した住宅(土地、建物)の登記を行うときに納める税金です。課税標準額(固定資産税評価額)に税率を掛けて税額を計算します。 購入した住宅の所有権を設定するため、新築住宅は所有権保存登記、中古住宅の場合は所有権移転登記を行わなくてはなりません。住宅ローンを利用する場合は、抵当権設定登記も必要です。 住宅購入に関する登録免許税の軽減措置は以下のとおりです。 表 登録免許税の軽減措置(単位:%) 登記の書類 本則税率 軽減税率 土地の所有権移転登記 2.0 1.5 住宅用家屋の所有権保存登記 0.4 0.15 住宅用家屋の所有権移転登記 2.0 0.3 抵当権設定登記 0.4 0.1 土地は2023年3月31日、住宅用家屋と抵当権は2022年3月31日まで軽減税率が適用される予定でしたが、令和5年度の税制改正により、その適用期限がが令和8年3月31日まで3年延長されました 出典)国税庁「登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」 不動産取得税の軽減制度 不動産取得税とは、住宅などの不動産を取得したときに課される税金です。税額は、課税標準額(固定資産税評価額)に税率を掛けて計算し、税率は土地・家屋ともに3.0%です。 住宅購入では、土地・家屋にかかる不動産取得税の軽減制度があります。2024年までに取得した土地については、課税標準額が1/2となり、「土地を取得後3年以内に住宅が新築されている」などの要件を満たすと、さらに税額が軽減されます。家屋については、以下の床面積要件を満たす新築住宅を購入した場合、課税標準額から1,200万円が控除されます。 表 新築住宅の床面積要件 住宅の種類 床面積要件 一戸建て 50㎡以上 240㎡以下 一戸建て以外(マンションなど) 40㎡以上 240㎡以下 中古住宅についても同様の軽減措置がありますが、現行の耐震基準に適合していることが要件です。住宅が新築された日に応じて、100万円から1,200万円の間で課税標準額から控除されます。 固定資産税の軽減制度 住宅を所有すると、毎年固定資産税が課税されます。固定資産税の税額は、土地・家屋ともに課税標準額(固定資産税評価額)の1.4%です。ただし、住宅用地には課税標準の特例措置があり、小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡までの部分)は課税標準額の1/6、一般住宅は課税標準額の1/3で税額を計算します。 家屋については、新築住宅で「50㎡以上 280㎡以下」という床面積要件を満たす場合、固定資産税額の2分の1が減額されます。減額期間は一戸建てが3年間、マンションが5年間で、2022年3月31日までに新築された住宅が対象となります。 なお、税制改正により、2024年3月31日までに延長されました。 出典)国土交通省「新築住宅に係る税額の減額措置」 住宅取得等のための資金にかかる贈与税非課税措置 父母や祖父母などの直系尊属から自ら居住する住宅の新築・購入、増改築のために金銭の贈与を受けた場合、以下の金額まで贈与税が非課税になります。 一般住宅:1,000万円 質の高い住宅:1,500万円 本措置を申請する受贈者(贈与を受ける人)は、下記の要件を満たす必要があります。 贈与年の1月1日で20歳以上 贈与年の合計所得金額が2,000万円以下 贈与年の翌年3月15日までにその家屋に居住する また、対象となる家屋は、床面積50㎡以上240㎡以下で中古住宅は耐震基準に適合するものである必要があります。なお、「質の高い住宅」とは下記のような要件を満たす住宅です。 断熱等性能等級4又は一次エネルギー消費量等級4以上の住宅 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上又は免震建築物の住宅 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上の住宅 本措置を受けるには、確定申告時に税務署に申請する必要があります。申請の際は「受贈者の戸籍謄本」「贈与年の所得金額を証明する書類」「売買契約書」「登記事項証明書」などが必要です。手続きの詳細は税務署に確認しましょう。 出典)国土交通省「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」 まとめ 個人の住宅取得を後押しするため、国はさまざまな優遇制度を用意しています。この記事で紹介した優遇制度を利用すれば、住宅購入費用の負担軽減が期待できます。なお、それぞれの制度には終了期限が設けられているので、常に最新の情報をチェックするようにしてください。住宅購入を検討しているなら、優遇制度を最大限に活用しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 住宅ローン控除(住宅ローン減税ともいいます)とは、住宅ローンを利用して住宅の新築、取得又は増改築等をした場合に利用できる、所得税額等を控除する制度です。住宅ローン控除を利用する場合、自身の状...記事を読む
中古住宅は新築より割安な価格で購入できるのが魅力です。しかし、元の所有者の維持管理や築年数などによって、品質に差が生じるため、購入する際には、性能や品質に問題がないか不安を感じるのではないでしょうか。そのような時、建物状況調査を利用すれば、購入前に建物の状況や不具合を確認することができます。 この記事では、建物状況調査の概要や診断項目、メリット・デメリットについて詳しく解説します。 建物状況調査とは 建物状況調査とは、宅建業法で定められた基準をもとに実施する検査のことです。一定以上の知識や技術力を有する「既存住宅状況調査技術者」が実施します。既存住宅状況調査技術者とは、国の定める講習を修了した建築士のことです。 建物状況調査が生まれた背景 建物状況調査は2018年の宅建業法改正に伴い、従来の「ホームインスペクション」とは一線を画す形で生まれました。宅建業法改正により、中古住宅の売買に関する手続きについて、以下3つが宅建業者に義務付けられています。 媒介契約締結時に建物状況調査のあっせんに関する書面を依頼者に交付する 買主に対して建物状況調査の結果を重要事項として説明する 売買契約成立時に売主と買主の双方が確認した事項を書面で交付する 宅建業者に義務付けられているのは、あくまでも「説明」や「あっせん」です。「実施」が義務付けられているわけではないので、注意しましょう。 建物状況調査の診断項目 建物状況調査の診断項目は、「構造耐力上主要な部分」と「雨水の侵入を防止する部分」の2つに分かれます。たとえば、木造2階建ての戸建て住宅の場合は以下のとおりです。 <構造耐力上主要な部分> 基礎 壁 柱 小屋組 土台 斜材 床版 屋根版 横架材 <雨水の侵入を防止する部分> 屋根 外壁 開口部 国土交通省の定める基準に従い、検査機器を使用して目視や非破壊検査を行います。物件の状態や規模によりますが、所要時間は3時間程度が一般的です。 建物状況調査とホームインスペクションの違い 建物状況調査に関連して、ホームインスペクションという言葉があります。ホームインスペクションとは、住宅に関する検査全般を意味する言葉で、業者によって検査員の資格の有無や検査内容が異なります。 一方で、建物状況調査は、既存住宅状況調査技術者の資格を有している検査員が、宅建業法で定められた基準に基づく検査内容を行います。つまり、広義の住宅検査全般をホームインスペクションと言い、有資格者による一定の基準に基づいて行われる検査を建物状況調査と言います。 建物状況調査のメリット 中古住宅の売買に建物状況調査を活用することには、売主と買主の双方にメリットがあります。 買主のメリット 買主には、以下のようなメリットがあります。 安心して購入できる 購入後のメンテナンスの予定が立てやすい 専門家からアドバイスを受けられる 専門家の調査によって、建物の状況や不具合の有無を確認できるので、安心して物件を購入できます。あらかじめ修繕の必要性を把握することで、購入後のリフォームや修繕といったメンテナンスや、費用の見積もりが立てやすくなるでしょう。調査結果に応じて、専門家からアドバイスを受けることも可能です。 売主のメリット 売主には、以下のようなメリットがあります。 引渡し後のトラブル回避が期待できる 競合物件との差別化につながる 建物状況調査の結果を買主に伝えてから売却できるので、引渡し後のトラブルを回避しやすくなります。建物状況調査を実施したことをアピールすれば、(調査を受けていない)競合物件との差別化にもつながるでしょう。 建物状況調査のデメリット 一方で、建物状況調査には以下のようなデメリットもあります。 買主のデメリット 調査費用を買主が負担する場合、コストがかかるのがデメリットです。また、建物状況調査は、あくまで目視や非破壊検査で行われるため、壁の中などの見えないところまで細かく調査することはできません。建物状況調査の結果に問題がなかったとしても、全く不具合がないと保証できるわけではない点に注意が必要です。 売主のデメリット 調査費用を売主が負担する場合は、物件売却で得られる収益が減少します。また、建物状況調査を実施すると、物件に不具合が見つかるかもしれません。調査結果によっては、補修費用の負担や値下げの必要性が生じる場合があります。 建物状況調査の利用方法 建物状況調査を利用する場合は、「既存住宅状況調査技術者検索サイト」で調査実施者を探します。不動産業者が提携している調査実施者がいる場合は、あっせんを希望する旨を伝えて対応してもらう方法もあります。 調査実施者を選定したら、見積もりをとって診断内容や料金を確認しましょう。見積もりの内容に問題がなければ、診断日時を決定します。検査当日までに、以下のような書類が必要です。 間取り図 販売図面 確認済証 検査済証 住宅性能評価証 新耐震基準適合証明書 また、マンションの場合は、上記に加えて管理規約や長期修繕計画の写しなども必要です。調査を依頼する業者に確認して準備を進めましょう。 検査当日は基本的に依頼者も立ち合い、その場で説明を受けます。後日報告書が送られてくるので、不明点があれば問い合わせて確認しましょう。 出典)住宅リフォーム推進協議会「既存住宅状況調査技術者検索サイト」 まとめ 建物状況調査を活用すれば、取引前に建物の状況を把握できるので、中古住宅を安心して売買できます。広義のホームインスペクションとの違いを理解したうえで、依頼する調査実施者を探しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 マンション管理計画認定制度とは?メリット・デメリットを解説 2022年4月から「マンション管理計画認定制度」がスタートします。マンション管理適正化の推進を目的に創設された制度で、マンションの管理や資産価値などに影響を与える可能性があります。 本制度の...記事を読む
iDeCoと住宅ローン控除はともに税金対策としてメリットがあります。しかし、両者には、「税額控除」と「所得控除」という違いがあることをご存じでしょうか。 この記事では、iDeCoと住宅ローン控除を併用する際の、注意点について解説します。 iDeCoの掛金は「所得控除」 個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」は原則60歳まで(2022年5月からは原則65歳まで)加入できる老後資金を準備するための制度です。拠出した掛金は「所得控除」の対象となり、所得税と住民税の税金対策になる点がメリットの1つとされています。拠出したお金は投資信託や、預金や保険などの元本確保型商品で運用できます。 自営業者や会社員、公務員等の区分によって、拠出できる掛金には上限があります。下図は、所得税の課税額算出の流れです。所得税は、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し税額を計算します。 図:課税所得算出の流れ iDeCoで拠出した掛金は所得控除に当たるので、所得税と住民税(所得割額)を算出する課税所得から控除できます。例えば、所得税率10%の人が毎月23,000円のiDeCo積立を行った場合、年掛金276,000円に対し、年55,200円(所得税27,600円、住民税27,600円)の税金対策となります*。 ※あくまで概算です。 関連記事はこちらiDeCo(イデコ)の仕組みとは?メリット・デメリットを解説 住宅ローン控除は「税額控除」 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを借りてマイホームを取得・リフォームした場合に、一定要件を満たせば、所得税から控除できる仕組みです。年末のローン残高に応じて、定率を所得税額から控除できます。 控除できる上限は、物件が新築か中古かで適用となる年数が異なるほか、2022年以降は、物件が認定住宅かどうかによっても変わります。「図:課税所得算出の流れ」のとおり、住宅ローン控除は算出された所得税から控除できる税額控除です。控除額が所得税を上回った場合は、翌年の住民税から一定額まで控除することもできます。 出典)国税庁 No.1213 認定住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除) 関連記事はこちら【令和5年版】住宅ローン控除とは?取得した住宅の状況に分けて解説 そもそもどのような人がiDeCoを活用すべき? ところで、そもそもどのような人がiDeCoを活用すべきなのでしょうか。iDeCoは、原則60歳まで(2022年5月からは原則65歳まで)が加入できる制度で、国民年金加入者(第1号~第3号)であれば加入できます。「iDeCoを活用すべき人」を明確にするために、まず、iDeCoに加入できない人や、iDeCoが向かない人を整理してみましょう。 iDeCoに加入できない人 iDeCoに加入できない人は以下の3通りです。 国民年金の未納がある人 年齢要件を満たさない人 勤務先が企業型年金との併用を認めていない人 iDeCoはあくまで公的年金を補完する役割であるため、国民年金保険料を支払っていることが条件となります。また、加入のためには20歳以上60歳未満(2022年10月からは65歳未満)という年齢制限があります。 他にも会社員の場合には勤務先の企業年金の規約を確認する必要があります。勤務先によっては企業型年金とiDeCoの併用を認めていない場合があり、その場合にはiDeCoへの加入ができません。 iDeCoが向かない人 また、iDeCoに加入できたとしても向いていない人もいます。 20代や30代前半の専業主婦(夫) 配偶者の扶養の範囲で働くパート主婦(夫) 結婚資金や子どもの教育資金などを先に貯める必要がある人 上記のように、収入が少なく所得控除の恩恵を受けづらい人や、老後資金の準備よりも目先でまとまったお金が必要になる人は、中途解約や引き出しのできないiDeCoは向いていません。 これらの人で資産形成を考えているのであれば、当面は必要な時に引き出せる「NISA」の方が向きます。30代後半や40代になり、本格的に老後資金作りを進める際には、iDeCoが候補になります。所得控除による恩恵がない主婦(夫)等でも、口座維持手数料が低い金融機関を選べば、運用益は非課税、受取時は所得控除の適用対象などのメリットは享受できます。 他にも、毎月の収支に余裕がない人や、金利の高い借り入れがある人は、まずは家計の正常化を図ることが先決です。 住宅ローン控除とiDeCoの併用時の注意点 住宅ローン控除とiDeCoはいずれも税金対策になるものの、支払う所得税や住民税の上限を超えてしまうと、税金対策としてのメリットは受けられません。たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。 iDeCo既加入者が住宅ローン控除を利用する場合 住宅ローン控除対象者がiDeCoに加入する場合 iDeCo既加入者が住宅ローン控除を利用する場合 すでにiDeCoを利用している30代後半の共働き夫婦が、マイホーム購入を検討しているケースです。夫が1人で住宅ローンを組んで、住宅ローン控除を利用しようとしたところ、iDeCoと住宅ローン控除の両方が重なることで、所得税と住民税の納税額を控除額が越えることになりました。 このようなケースでは、iDeCoの拠出額の見直しを検討しましょう。iDeCoは国民年金の加入区分ごとに上限金額が決まっていますが、いずれの区分でも最低金額は5,000円からの拠出が可能です。ただし、iDeCoは原則途中解約ができない点や、掛け金の変更は年に一回までです。 住宅ローン控除対象者がiDeCoに加入する場合 住宅ローンは単独で夫が組み、住宅ローン控除を受けている30代半ばの正社員夫婦がiDeCoを始めようと検討しています。税金対策になるか試算したところ、夫はiDeCoによる節税金額が少ないと判明しました。このようなケースでは、以下のような加入を検討しましょう。 妻がiDeCoに加入をする 夫が所得控除のメリットがある範囲内で掛金を設定する 当面のiDeCoの加入を見送る 夫の控除額が少ないのであれば、妻が加入をするか、所得控除のメリットがある範囲内での加入が良いでしょう。住宅ローン控除で受けられる控除額は年々減っていくうえ、受けられる期間も決まっているので、当面は加入を見送るというのも選択肢の一つです。 まとめ iDeCoをうまく活用することで節税効果が見込める一方で、住宅ローン控除と併用した際には思ったよりも効果が得られない場合もあります。また、加入できたとしてもiDeCoを活用することがベストな選択肢とならない人もいるでしょう。単に運用益の非課税メリットだけで考えるのであれば、iDeCoよりも流動性が高いNISAを活用することをおすすめします。 執筆者紹介 豊田 眞弓( Mayumi Toyoda ) マネー誌ライターを経て、94年より独立系ファイナンシャルプランナー。 個人相談、講演・研修講師、コラム寄稿などを行う。座右の銘は「笑う門には福もお金もやってくる」。趣味は講談、投資。 <主な著書> 「夫が亡くなったときに読む本」(日本実業出版社)、「親の入院・介護が必要になるときいちばん最初に読む本」(アニモ出版)、ほか著書多数。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む
2022年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が新設されました。雇用保険に加入できる条件が緩和されたため、非正規社員として短時間の勤務をする場合でも、失業に備えることが出来るようになりました。 この記事では、雇用保険マルチジョブホルダー制度の概要や適用要件、失業給付についてわかりやすく解説します。 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは 雇用保険マルチジョブホルダー制度とは、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、2つの事業所において一定の要件を満たす場合に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になれる制度です。 従来の制度では、65歳以上の労働者が雇用保険に加入するには「労働時間週20時間以上、かつ31日以上の雇用期間」などの条件を満たす必要がありました。 現在は少子高齢化が進み、「老後資金の確保」「労働力不足の解消」が課題となっています。雇用保険の加入条件緩和によって高齢者の労働機会が増加すれば、勤労収入を老後の生活費を充てられます。また、若年層だけでは足りない労働力を補う効果も期待できます。 出典)厚生労働省「マルチジョブホルダー制度とは」 雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用要件 雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること 2つの事業所の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満) 2つの事業所それぞれの雇用見込みが31日以上であること 3つ以上の事業所で勤務している場合は、労働時間や賃金などを考慮して、マルチ高年齢被保険者として申出をする本人が2つの事業所を選択します。 加入後の取扱いは通常の雇用保険と同じで、原則として任意脱退はできません。上記の適用要件を満たさなくなった場合を除き、加入する事業所を任意に切り替えることもできないので注意しましょう。 雇用保険マルチジョブホルダー制度の資格取得手続きの流れ 通常の雇用保険は、事業主が資格取得・喪失の手続きを行います。一方、雇用保険マルチジョブホルダー制度では、適用を希望する本人が手続きをする必要があります。手続きの流れは以下のとおりです。 ハローワークまたは厚生労働省HPから「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届(マルチ雇入届)」などを入手する 2つの事業所にマルチ雇入届の記入、確認資料(雇用契約書など)の交付を依頼する 本人の住居所を管轄するハローワークへ必要書類を提出する ハローワークから本人および2つの事業所に通知される ハローワークで申請内容を確認のうえ、問題がなければ申出日に被保険者の資格を取得します。必要書類の入手方法や手続きのやり方がわからない場合は、ハローワークに問い合わせて確認しましょう。 ハローワークに提出する書類一覧 手続きの際は、ハローワークへ以下の書類を提出します。 事業主から交付されたマルチ雇入届と確認資料(2社分) 個人番号登録・変更届 被保険者資格取得時アンケート 本人確認資料・個人番号の確認できる資料 また、事業所に依頼する主な確認資料は以下のとおりです。 賃金台帳 出勤簿(記載年月日の直近1ヵ月分) 労働者名簿 雇用契約書 労働条件通知書 雇入通知書 雇用主との関係(親族の会社に勤めているなど)によっては、別途確認資料が必要になる場合があります。 雇用保険マルチジョブホルダー制度のメリット 雇用保険マルチジョブホルダー制度は事業主と労働者の双方にメリットがあります。 事業主のメリット 事業主は、雇用保険資格の取得・喪失手続きが簡便化されるのがメリットです。雇用保険マルチジョブホルダー制度では労働者自身が手続きを行うため、事業主は必要事項の記載や証明などを行うだけで済みます。 労働者のメリット マルチ高年齢被保険者であった労働者が失業した場合、一定の要件を満たすと高年齢求職者給付金を一時金で受給できます。給付額(基本手当日額×支給日数)は以下のとおりです。 <基本手当日額> 離職以前6ヵ月の賃金合計÷180×(50~80%) <支給日数> 被保険者期間1年未満:基本手当日額の30日分 被保険者期間1年以上:基本手当日額の50日分 「離職日以前1年間に被保険者期間が通算6ヵ月以上あること」が受給要件です。2つの事業所のうち、1つのみを離職した場合でも受給できます。 ただし、3つ以上の事業所で勤務している場合、3つ目の事業所と併せてマルチ高年齢被保険者の要件を満たす場合は、被保険者期間が継続されるので受給できません。 また、2つの事業所のうち1つのみを離職した場合、基本手当日額の計算に離職していない事業所の賃金は含まれないので注意しましょう。 雇用保険マルチジョブホルダー制度の注意点 雇用保険マルチジョブホルダー制度では、資格取得の日から雇用保険料の納付義務が発生します。申出日より前にさかのぼって被保険者となることはできません。 事業主には、手続きの際に必要な証明を行う義務があります。申出を理由に労働者に対して不利益な取り扱い(解雇、雇止め、労働条件の不利益変更など)を行うことは認められません。もし事業主の協力を得られない場合はハローワークに相談しましょう。 まとめ 65歳以上で2つ以上の事業所で働いている場合、一定の条件を満たせば雇用保険に加入できます。また、短時間勤務で働いている場合であっても、雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用できるように別の企業で働くことで、雇用保険に加入できます。より安心して働き続けるために、本制度の積極的活用をおすすめします。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 老齢年金の受給開始年齢が近づいてくると、受給開始年齢の繰り上げや繰り下げを検討する人も多いのではないでしょうか。受給開始年齢を変更することで、受け取れる年金の見込み額は大きく変わります。 こ...記事を読む
不動産の賃貸借契約には、「定期借家契約」と「普通借家契約」があります。しかし、両者は契約の更新方法などに違いがあるので、賃貸住宅に安心して住めるように、それぞれの契約の仕組みを理解しておくことが大切です。 この記事では、定期借家契約と普通借家契約の違いについて詳しく解説します。 定期借家契約と普通借家契約の概要 定期借家契約とは 定期借家契約とは、正式名称を定期建物賃貸借契約といい、契約期間があらかじめ決められている賃貸借契約のことです。契約の更新がないため、契約期間が満了すると借主は退去しなくてはなりません。ただし、貸主と借主の双方が合意すれば、期間満了後の再契約は可能です。 定期借家契約の場合、貸主側の都合で契約期間が定められるため、普通借家契約に比べると割安な家賃で設定されることが多いです。貸主側は定めた期間で借主に退去してもらえるため、「一時的に不在となる物件を賃貸に出す」「現在空き家の実家を自分が住むまで賃貸に出す」といった場面での活用ができます。 普通借家契約とは 普通借家契約は、一般的な不動産賃貸で利用される賃貸借契約です。上述の定期借家契約と区別するため、通常の建物賃貸借契約を意味する形で「普通」という言葉が使われています。 契約期間は通常2年で設定され、期間満了後も借主が希望すれば契約は更新されるため、長く住み続けることが可能です。借主が手厚く保護される契約形態であるため、貸主からの一方的な都合による退去はありません。 普通借家契約の場合、貸主側の都合で契約期間を定められますが、借主が希望する限り更新を拒むことができません。そのため、貸主側が短期間で退去してほしい場合には、適していません。 定期借家契約と普通借家契約の主な違い 定期借家契約と普通借家契約の主な違いは以下の2つです。 契約の更新 前述のとおり、定期借家契約は期間満了によって契約が終了します。貸主と借主の双方で合意できた場合のみ再契約が可能なので、借主が住み続けたいと思っても、貸主が再契約を認めなければ退去する必要があります。 一方で、普通借家契約は借主が希望する限り、契約を更新し、住み続けることができます。「建物に問題がある」、「借主が契約を違反する」などの正当事由がない限り、貸主は契約更新を拒絶できません。 賃料の増減額請求権 賃料の増減額請求権とは、現在支払っている、または受け取っている家賃が賃料相場と比較して不相当となった場合に、賃貸借契約の相手方に対して家賃の減額、増額を請求できる権利です。 賃貸住宅の賃料相場は、景気動向や需供バランスによって変動します。そのため、同じ物件に長く住んでいると、入居時に定めた家賃が賃料相場と合わなくなることがあります。 定期借家契約と普通借家契約ともに、原則として賃料の増減額請求権が認められます。ただし、定期借家契約は賃料の増減額請求権を排除する特約を定めることが可能です。(借地借家法第38条) 一方で、普通借家契約は賃料の増減額請求権を排除する特約は無効ですが、家賃を増額しないことについての特約のみ認められます。(借地借家法第32条) 定期借家契約と普通借家契約のその他の違い 定期借家契約と普通借家契約は、以下のような点でも違いがあります。 契約方法や説明 普通借家契約を締結するには口頭でも可能ですが、定期借家契約は公正証書などの書面で行う必要があります。また、定期借家契約は賃貸借契約書とは別に、契約の更新がないことを書面で交付して説明しなくてはなりません。 契約期間や通知義務 普通借家契約は1年以上で設定する必要があり、1年未満の賃貸借契約の場合は、期間の定めのない賃貸借とみなされます。一方で、定期借家契約は契約期間に制限がなく、1年未満の契約も有効となります。 1年以上の定期借家契約の場合、貸主は契約期間満了の1年から6ヵ月前までに借主に対して契約終了を通知する義務があります。通知をしない場合、貸主は契約終了を借主に対抗できません。借主は、通知の日から6ヵ月を経過するまでは同条件で住み続けられます。 中途解約 普通借家契約は一般的に中途解約に関する条項が記載されており、借主からの中途解約はその条項の範囲内で可能ですが、貸主からの場合は正当事由が必要です。一方で、定期借家契約では、貸主と借主のどちらも中途解約は原則認められません。 ただし、床面積200㎡未満の居住用建物でやむを得ない事情がある場合は、借主からの中途解約は可能です。なお、普通借家と定期借家ともに、中途解約に関する特約がある場合はその定めに従うこととなります。 定期借家契約と普通借家契約の違い一覧 定期借家契約と普通借家契約の違いは下表のとおりです。 定期借家契約と普通借家契約の違い 定期借家契約 普通借家契約 契約方法 公正証書等の書面* 口頭、書面 更新の有無 期間満了により終了し、更新がない (ただし、再契約は可能) 正当事由がない限り更新 期間を1年未満とする 賃貸借の効力 1年未満の契約も有効 期間の定めのない賃貸借とみなされる 賃料の増減請求 特約の定めに従う 特約にかかわらず、請求可能 賃借人の中途解約の可否 ・床面積200㎡未満の居住用建物でやむを得ない事情がある場合は、 借主からの中途解約が可能 ・中途解約に関する特約があればその定めに従う 中途解約に関する特約があればその定めに従う ※賃貸人は「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書等とは別に、予め書面を交付して説明しなければならない 出典)国土交通省「定期借家制度」 定期借家契約と普通借家契約の利用割合 国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」によると、定期借家契約は普通借家契約と比較してほとんど利用されていません。 出典)国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」P.32 また、同調査では令和5年度に民間賃貸住宅に住み替えた世帯の定期借家制度の認知度が「知っている」が14.9%、「名前だけは知っている」が27.5%に留まっており、半数以上が「定期借家契約」を知らないまま、賃貸住宅に住み替えていたことも分かっています。 出典)国土交通省「令和5年度住宅市場動向調査」P.32 定期借家契約は利用数、認知度ともに低いのが現状ですが、知らなければ後々トラブルの原因になる恐れもあります。 定期借家契約の注意点とやめたほうがいい理由 家を借りる際に、以下のように考えている場合は最初から定期借家契約を避けた方が無難です。 その物件に長く住み続けたい 定期借家契約の期間中に引っ越す可能性がある 家賃などの条件を交渉したい 定期借家契約は契約満了時に一度終了し、普通借家契約のように自動更新されません。契約満了後も住み続けたい場合は、貸主と借主の双方が同意すれば再契約が可能ですが、必ずしも合意が得られる保証はありません。気に入った物件に長く住みたい方には普通借家契約を選ぶ方が良いでしょう。 転勤や結婚などで契約期間中に引っ越す可能性がある場合も注意が必要です。定期借家契約では原則途中解約ができず、やむを得ない理由があっても解約料が発生することが一般的です。予定が不確実な場合は、柔軟に対応できる普通借家契約の方が安心です。 また、家賃や契約条件の交渉が難しい点も注意が必要です。契約期間が定められており、貸主が柔軟に対応するケースは少ないため、条件に柔軟性を求める方には不向きです。 ただし、上述の国土交通省の調査によると定期借家はそもそも物件数自体が少ないため、避けられる可能性が高いといえるでしょう。長期的に住む計画がある方やライフスタイルに変化が生じやすい方には、普通借家契約を検討するのが賢明です。 まとめ 定期借家契約は貸主の合意を得られなければ再契約ができず、退去する必要があります。短期間の入居なら家賃が安く済むかもしれませんが、長く住むには不向きです。賃貸住宅を借りたり、リースバックを利用したりする場合は、定期借家契約と普通借家契約の違いを理解しておきましょう。 さっそく仮査定を申し込む SBIスマイルのリースバックをご紹介します。仮査定は無料で受け付けています。※SBIスマイルのHPに遷移します。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 終身建物賃貸借契約とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説 終身建物賃貸借契約は、高齢者が安心して賃貸住宅に居住できる仕組みです。老後も賃貸暮らしを続けるなら、終身建物賃貸借契約に対応している賃貸住宅も選択肢のひとつです。この記事では、終身建物賃貸借...記事を読む
マイホームは「人生で最も高い買い物」といわれます。購入時には住宅ローンを利用できますが、頭金や諸費用としてある程度のお金を準備しなくてはなりません。また、ローン返済は長期にわたるため、購入すべきか悩むのではないでしょうか。 この記事では、マイホーム購入の必要性やメリット・デメリットについて詳しく解説します。 マイホーム購入の必要性とは?購入するメリット マイホーム購入には以下のようなメリットがあります。 住居費の負担が小さい マイホーム購入は、賃貸で暮らすよりも住居費の負担が小さい傾向にあります。購入すると住宅ローンの返済が始まりますが、昨今の低金利環境下であれば、月々の家賃に比べて毎月の住宅ローンの返済の支払い額が少なくなることも珍しくないほか、完済後は毎月の支出が抑えられます。また、住宅ローン減税などの税制優遇制度を利用することで、金利負担の軽減も可能です。 一方で、賃貸は一生家賃を払い続ける必要があるので、老後に住居費の負担が重くなります。 内装や間取りなどの自由度が高い マイホーム購入は自由度が高いのもメリットです。注文住宅であれば、一から自分好みの内装・間取りで建築できます。また、分譲住宅であってもライフスタイルの変化に合わせて建て替えやリフォームも可能です。 一方で、賃貸物件は、オーナーの許可なく内装や間取りを変えることはできません。また、許可を得られたとしても最低限のリフォームに限られるケースが多いでしょう。 安心感・満足感を得られる マイホームを購入すると、「自分の家を持つことができた」という安心感や満足感を得られます。「一生暮らしたい」と思える家や場所を見つけても、賃貸の場合は建物の老朽化や所有者の都合で退去しなくてはならないケースもあります。 マイホームであれば、「一生住み続けられないかもしれない」という不安を抱えることなく安心して住み続けられるでしょう。 マイホーム購入のデメリット 一方で、マイホーム購入には以下のようなデメリットもあります。 ライフスタイルの変化に対応しづらい 人生には急な転勤や子どもの独立、パートナーとの死別・離別など、ライフスタイルが変化する時期があります。 自由に引っ越しができる賃貸なら、ライフスタイルの変化に合わせて住まいを変えられます。たとえば、子育て中は広い家に住み、夫婦二人の生活になったら小さな物件に引っ越すといった具合です。 しかし、マイホームで住み替えるには物件を売却しなくてはなりません。売却には時間がかかるだけでなく、住宅ローンが残っていれば売却資金でローンを完済する必要があるため、簡単には引っ越しできないでしょう。 経年に伴い住居費の負担が増加する マイホーム購入をすると、建物や設備が経年劣化するので、築年数が古くなると修繕費の負担が増加します。たとえば、設備は15年も経てば不具合が出て修理や交換が必要になるほか、マンションであれば管理費や修繕積立金は築年数が古くなるほど増加します。 ただし、立地や物件のグレードなどによっては、賃貸物件より経済的にメリットがあるので、コストが増加することが一概にデメリットとも言い切れないでしょう。 災害リスクを抱える マイホームは地震や台風、水害といった災害リスクがあります。マイホームが被災した場合、修繕や建て替えの費用は自分で負担しなくてはなりません。保険で備えることもできますが、必ずしも保険でカバーできるとも言い切れないでしょう。 一方で、賃貸なら建物が被災しても修繕費用はオーナー負担となるので、経済的な負担は小さく済みます。また、被害が大きい場合には転居するという選択肢のハードルもそれほど高くないかもしれません。 マイホーム購入は必要なのか マイホーム購入と賃貸にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、マイホーム購入と 賃貸の選択に正解はありません。マイホーム購入の必要性は、個人の嗜好やライフスタイル(子どもの人数、転勤の有無・頻度など)に応じて変わってきます。 マイホーム購入の必要性が高い人 マイホーム購入の必要性が高い人の特徴は以下のとおりです。 損をしたくない人 自由度の高い家を持ちたい人 賃貸で住みたい家がない人 マイホーム購入には住宅ローン減税のような税制優遇制度があり、ローン完済後は住居費の負担が軽減されます。「簡単に引っ越しできない」「災害リスクがある」といったデメリットを許容してでも金銭的なメリットを受けたいなら、マイホーム購入がいいでしょう。 「自分好みの間取りで家を建てたい」「リフォームやリノベーションをしたい」など、自由度の高い家を持ちたい人もマイホームが向いています。 また、賃貸は借主がつきやすいように汎用的な間取りや仕様であることが多い傾向にあります。「希望条件の物件がない」、「戸建てに住みたいが賃貸物件がほとんどない」など、賃貸で住みたい家がない人もマイホーム購入の必要性は高いといえます。 ただし、マイホーム購入にはまとまったお金が必要です。属性(収入、勤務先、勤務年数など)によっては、住宅ローンの審査に通らない可能性もあります。「そもそも購入できるか」「いくらの家なら購入できるか」といった視点を持つことも大切です。 マイホームを購入した際の活用方法 高齢化により老後の期間が長くなっています。長生きリスクへの備えとして、老後資金を確保しておく必要があります。マイホームがあれば、いざというときには不動産を活用した資金調達が可能です。 老後の生活費が足りない場合、マイホームを売却するという選択肢だけでなく、需要の高い物件であれば賃貸に出して家賃収入を得ることも可能です。同じ家に住み続けたい場合は、不動産担保ローンやリースバックを利用する方法もあります。 まとめ マイホームは、必ず購入しなくてはならないものではありません。しかし、賃貸に住み続けると、老後の住居費負担が重くなる傾向にあります。マイホームは内装や間取りの自由度が高く、いざというときには不動産を活用した資金調達も可能です。 持ち家と賃貸のメリット・デメリットを比較したうえで、マイホーム購入の必要性を検討してみましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 自宅購入はより安全で優れた不動産投資!? 不動産投資といえば、マンションやアパートを貸し出して家賃収入を得ることをイメージするのではないでしょうか。しかし、考え方によっては賃貸暮らしの家賃支出をなくし、ローンの返済とともに資産を増や...記事を読む
個人事業主の中には、「事業が赤字で税金を払わなくてもいいから、確定申告は必要ないだろう」、「赤字申告だと融資を受けられなくなるから、確定申告をするのをやめよう」などと考えている方がいらっしゃるかもしれませんが、それは間違いです。この記事では、赤字でも確定申告をするメリットや、赤字決算でも可能な資金調達法をご紹介します。 確定申告とは? 確定申告は、毎年1月1日から12月31日の1年間に生じたすべての所得金額と、所得税額を計算して納税する制度のことです。納税者本人が税金を計算して納税することから、「申告納税制度」と呼ばれています。 確定申告の期間は、毎年2月16日から3月15日の約1カ月間で、申告期限が土日・祝日の場合は、その翌日が期限になるのが一般的です。期間内には原則として確定申告書の提出と、所得税の納付をしなければなりません。なお、別途手続きが必要ですが、口座振替納税も選択することが可能です。 関連記事はこちらリースバックの契約までの流れと必要書類、注意点を解説 確定申告のルール 確定申告はルールを守ってスムーズに終わらせましょう。その際の主なポイントは次の3つです。 申告書の作成時に必要な書類とは? 確定申告では、申告内容に応じてさまざまな書類の添付や提示が必要になります。国税庁が公開しているチェックリストを参考にして、事前に準備しておきましょう。 出典)国税庁HP 『申告書に添付・提示する書類』 申告書の提出方法は? 作成した申告書の提出方法は、税務署に直接持参・郵送する方法と、e-Taxを使って提出する方法があります。それぞれ以下で解説します。 1.税務署に直接持参・郵送する 税務署に直接持参する場合には、確定申告の書類一式に加えてマイナンバーカードか、マイナンバーが分かる書類と運転免許証などの身分証の提示、郵送する場合は、それぞれの写しを添付する必要があります。 出典)国税庁HP 『申告書に添付・提示する書類』 2.e-Taxを使って提出する e-Taxを使って提出する場合には、マイナンバーカードを読み込むICカードリーダライタが必要です。ICカードリーダライタは家電量販店などで販売されていますので、事前に購入してセットアップしておきましょう。また、令和3年分の確定申告から、パソコン上に表示された2次元バーコード(QRコード)をスマホで読み取れば、ICカードリーダライタを使わなくてもe-Tax送信ができるようになりました。スマホで申告をする場合には、お持ちのスマホが対応機種なのかもチェックしておきましょう。 ペナルティに注意しよう! 確定申告で注意しなければならないのは、ルールを守らないとペナルティがあることです。 たとえば、確定申告書を提出しても、期限内に税金を納付しなかった場合、残高不足等で口座振替ができなかった場合は延滞税が課せられることがあります。また、確定申告をしなければならない人が正当な理由なく申告しなかった場合や、申告期限を過ぎてから申告した場合は、延滞税だけでなく加算税が課せられてしまいます。 もし、確定申告書の提出後間違いに気付いたら、申告期限内であれば訂正した申告書を提出すればペナルティ対象にはなりません。申告期限を過ぎてしまった場合でも、申告内容を修正できますが、税額を少なく申告していたときには延滞税や加算税が課せられることがあります。間違いに気付いたら早めに修正申告をしましょう。 そのほか、決算書類や帳簿、領収書などは、「確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならない(白色申告の場合、所得金額などによって異なる)」などのルールもあり、保存をしていないと、税務調査を受けたときに支出を証明することが難しくなってしまうので、注意が必要です。 赤字申告をするメリット 確定申告は手間がかかるので、「赤字決算だし、納付する税金もないから申告をするのはやめよう」と考えてしまうかもしれません。しかし実は、赤字決算でも確定申告をすると次のようなメリットがあります。 損失を繰り越して、翌年以降の黒字と相殺できる 確定申告には「青色申告」と「白色申告」があり、青色申告の場合には赤字決算でも申告をすれば次の年から3年間にわたって損失を繰り越すこと(純損失の繰り越し)ができます。また、前年も青色申告をしていれば、損失の繰り越しのかわりに、前年分の所得税から還付を受けること(純損失の繰り戻し)もできます。 一方、白色申告には、青色申告のような損失の繰り越し・繰り戻しの制度はありませんが、漁業や水産物の養殖など、年によって大きく変動する可能性がある変動所得や、災害などによって被害を受けた被災事業用資産の損失については、損失の繰り越しが認められています。 各種証明書が入手できる 事業資金の融資やローンの審査、クレジットカード申し込みの際などには所得証明が必要になることがありますが、確定申告をしていないと所得証明書を発行してもらえません。また、所得証明書と同様に、課税証明書も確定申告をしないと発行してもらえません。税金を納めていないから、課税証明書は発行されないと思うかもしれませんが、課税額が「0円」であることの証明書が発行されます。 国民健康保険の保険料優遇が受けられる 個人事業主が加入する国民健康保険は、保険料を正しく計算するために、所得の申告が必要です。確定申告をしないと、収入がなくても保険料の軽減措置を受けられなかったり、高額療養費の自己負担限度額が高くなったりする場合があります。 赤字申告の場合、お金は借りられるのか? 銀行など金融機関は、確定申告書や決算書をもとに融資の審査をします。そのため、黒字決算、赤字決算に限らず、確定申告をしていないことで融資自体を断られたり、確定申告をするよう求められたりすることがあります。 一方で、赤字申告だと新たに融資を受けるのは簡単ではありません。赤字申告が続いていると、すでに受けている融資の返済を求められることもあります。ただし、全くお金を借りられないというわけではなく、ビジネスローンや不動産担保ローンであれば、融資を受けられるかもしれません。また、リースバックの利用も検討してみましょう。 ビジネスローン ビジネスローンは事業者向けのローンで、主にノンバンクなどが取り扱っています。担保や保証人がなくても利用できるローンもあるため、赤字申告でもお金を借りられる可能性があります。 不動産担保ローン 不動産担保ローンは、土地や建物、マンションなどの不動産を担保にしてお金を借りられるローンです。不動産を担保にするため、まとまった金額を無担保ローンに比べて低い金利で借りられる可能性があります。 関連記事はこちら不動産担保ローンとは?メリット・デメリットを解説 リースバック リースバックは、不動産を所有している方が利用できる資金調達法です。自宅をリースバック運営会社に売却し、その会社と賃貸借契約を締結することで、売却した後も同じ家に住み続けることができます。 関連記事はこちらリースバックとは?仕組みやメリット・デメリットを解説 まとめ 個人事業主は、原則として毎年確定申告をしなければなりません。また、ご紹介したように、赤字決算でも確定申告をするメリットがあるため、ルールに従って期日までに申告をしましょう。さらに、赤字申告であっても全く融資を受けられないわけではないので、それぞれの状況に合った方法を検討しましょう。 執筆者紹介 菊地 則夫(Norio Kikuchi)/税理士法人スマートシンク代表税理士 成城大学経済学部卒、日本大学大学院法学研究科税法松澤智研究室卒。 得意分野は相続税や不動産税務。「不動産所得」と「住まいと暮らしの税金」のプロフェッショナル集団、税理士法人スマートシンクの代表として日々、土地・建物の税金問題に取り組む。 <主な著書> 「住宅ローン&マイホームの税金がスラスラわかる本2021」エクスナレッジ、「相続の手続と節税が全部わかる本」あさ出版、「不動産税務の手引別巻」大成出版、「不動産実業の手引き別巻」清文社、その他雑誌「家主と地主」、「賃貸Life」新聞など著書多数 赤字決算で法人税はどうなる?資金調達は可能? 営利目的で事業を行う企業や個人事業主は、売上アップや経費削減に取り組むことで利益の確保(黒字決算)を目指します。しかし、不況の煽りを受けて資金繰りが厳しくなり、赤字決算となってしまうこともあ...記事を読む
近年「老後2,000万円問題」など、老後に対して不安を覚える情報が様々なメディアで取り沙汰されています。しかし、実際に老後資金としていくら必要と考えているのか、いくら用意できているのかは三者三様です。 そこで今回は、持ち家がある50歳以上の男女200名を対象に、老後の生活資金や持ち家の所有・管理についてどのような不安を抱いているのか、アンケート調査を実施しました。 老後の不安は「健康」「老後の生活資金」「介護」 Q1:老後の暮らしに不安がありますか?不安がある方は、どのようなことに不安を感じているか、選んでください。 老後の不安に対する調査をしたところ、91.0%が不安を感じていました。「健康面で不安がある」が51.5%で一番多く、「老後の生活資金について不安がある」が48.5%、「介護について不安がある(自身・配偶者・親など)」が41.5%と続いていました。老後の不安を解消するには、健康だけでなく、お金の面でも十分な準備をしておく必要がありそうです。 老後資金は「2,000万円以上」あると安心 Q2:老後の不安を解消するため、いくらくらいの老後資金があれば安心と考えていますか?(厚生年金などの年金を考慮しない場合) 老後の不安を解消するため「2,000万円以上必要」と回答した方は58.0%いました。価格帯別では「2,000万円以上~3,000万円未満」が21.0%と最も多く、「4,000万円以上~5,000万円未満」が12.5%、「3,000万円以上~4,000万円未満」が11.5%と続いています。 かつて、金融庁の報告書で「老後30年間で約2,000万円が不足する」と受け取れる試算が示され、大きな話題になりましたが、「わからない」を除くと約8割が2,000万円以上あれば安心と考えていることがわかりました。 老後資金を思うように準備できていない人は約6割 Q3:老後の資金について、現時点でいくらくらい準備できていますか? 老後資金を現時点で2,000万円以上準備できている方は27.0%にとどまっています。一方で、27.0%が「全く準備できていない」と回答したほか、14.5%が「500万円未満」と回答するなど、老後資金を思うように準備できていない方が6割近くになりました。 Q4:持ち家とその借入を除く、現金、預貯金、有価証券、不動産などの資産はどのくらいですか?なお、計算する際には、老後資金として準備している金額(Q3)も含めてください。 また、持ち家とその借入を除く資産額を調査したところ、2,000万円以上の資産を保有している方は27.0%にとどまりました。さらに気になるのは、32.5%の方が「わからない」と回答したことです。老後不安を解消するためには、必要な生活資金を早めに確保しておきたいところです。そのためにも、まずは自身の資産状況を把握しておきましょう。 持ち家に住み続けたいがリフォームに関して約半数が不安 Q5:今後、持ち家をどのように利用する予定ですか? 現在の持ち家を「住み続ける」と回答した方は66.5%で、そのほかには「売却する」が7.0%や「生前のうちに子どもに譲る」が5.5%など、具体的なプランをお持ちの方がいました。一方で13.5%が「考えたことがない」と回答しています。持ち家に長く住み続ける予定の方が多数を占めましたが、一方で約8割が持ち家に対して何らかの不安を抱いていました。 Q6:持ち家の今後についてどのような不安を抱いていますか? 具体的な不安として、最も多かったのは「修繕費やリフォーム代、固定資産税など維持をするための費用が心配」の48.5%でした。そのほかには「家は残したいが、誰も継いでくれない」が12.5%や「費用以外の問題で、今の家に住み続けるのが難しくなりそう」が11.0%など、切実な悩みを抱えている方もいました。 持ち家に資産価値がある人は過半数 Q7:持ち家はどのような経緯で取得しましたか? 持ち家を「住宅ローンで購入し、現在も返済中」と回答した方は19.5%でした。一方で、持ち家に抱いている不安は、6.5%が「住宅ローンを完済できるか心配」と回答しています。これらを重ね合わせてみると、住宅ローン返済中の3人に1人が「完済できるか不安」と感じており、家計が厳しい方も少なくないようでした。 約半数が持ち家の資産価値を「わからない」と回答 また、持ち家の資産価値を「住宅ローン残高のほうが多い」と回答した方は2.5%とわずかで、27.5%が住宅ローン残高を差し引いた資産価値で「1,000万円以上ある」と回答するなど、半数以上の方が持ち家に資産価値があると考えていました。 なお、持ち家を現金化できる方法を提示したところ約12人に1人が老後の不安が軽減したと回答しました。老後の不安の程度は「変わらない」が多数を占めましたが、持ち家を現金化することで不安が和らぐと考えている方は一定数いるようです。 一方で、持ち家を現金化できるかどうか以前に、持ち家の資産価値を把握していない方が約半数を占めていました。いざという時に持ち家を有効活用するため、自宅の資産価値を把握しておくことで、不安が解消される可能性もあると考えられそうです。 まとめ 老後の暮らしに多くの方が不安を抱いているものの、計画的に老後資金を用意できていない方は多いようです。一方、持ち家を使って老後資金を調達できれば、老後不安の解決につながると感じている方もいました。老後の暮らしや持ち家に対する考え方・悩みはそれぞれ違いますが、暮らし方やニーズが一致すれば、不動産を有効活用することで老後不安を解消できるかもしれません。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 住宅ローンを完済したがお金がない!そんな時の持ち家活用術とは? 50代になると、子どもの教育費もピークを迎えます。また、親も70代を超え、入院したり、介護が必要になったりすることも。あるいは、不動産投資や事業を始める資金が必要になるケースもあるかもしれま...記事を読む
リースバックは、自宅を売却した後も同じ家に住み続けられるサービスです。売却先であるリースバック運営会社と賃貸借契約を締結しますが、契約の種類によって退去の条件が変わります。リースバックの賃貸借契約では、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。 この記事では、リースバックにおける退去について詳しく解説します。 リースバックで強制退去させられる? リースバックにおける退去について考えるとき、サービスを利用する際に締結する賃貸借契約が重要です。リースバック利用時に締結する賃貸借契約は、一般的な賃貸借契約と同じで、普通賃貸借契約か定期借家契約を締結します。契約内容や状況次第では、入居者が希望したとしても、賃貸借契約を更新、もしくは再契約できるとは限りません。状況によっては、以下のような理由で強制退去させられることがあります。 賃貸借契約の違反 建物の状態の悪化 契約期間の満了 それぞれ詳しく確認していきましょう。 賃貸借契約の違反 賃貸借契約に違反した場合、貸主である運営会社から強制退去させられる恐れがあります。運営会社が裁判所へ強制退去を申し立て、請求が認められれば退去しなくてはなりません。一般的な契約違反として、長期間の家賃滞納、近隣への騒音や悪臭、ペットによるトラブル、無断転貸、などが考えられます。 建物の状態の悪化 経年劣化や地震などにより建物が老朽化、損壊することで入居者や隣家に被害が及ぶ恐れがある場合には、貸主は退去を申し出ることができます。なぜなら、建物の瑕疵や修繕義務の違反によって入居者が負傷した場合、賃貸物件の所有者である運営会社が賠償しなければならないためです。また、所有している建物の瑕疵が原因で隣家などに何らかの損害を与えた場合も、運営会社はその損害を賠償しなくてはなりません。 契約期間の満了 前述のとおり、普通借家契約と定期借家契約のどちらかを締結します。どちらも契約期間が定められていますが、普通借家契約は入居者が希望すれば契約更新が可能です。 一方で、定期借家契約は更新がなく、貸主と借主の双方が合意できなければ再契約できません。そのため、運営会社が再契約を認めなければ退去する必要があります。 関連記事はこちら定期借家契約と普通借家契約の違いとは? 退去時に費用はかかる? 退去時に費用がかかるかどうかは、リースバック運営会社によって異なります。契約書に退去時の費用について記載されていますが、サービスを利用する前に、退去時の費用の有無や内容を確認しておきましょう。 また、退去に伴い転居する際にも、新居を購入したり、借りたりする際の初期費用や引っ越し費用がかかります。あくまで間接的にかかる費用ですが、見積もっておくと安心でしょう。 「退去時に現金を払う」と説明された場合の注意点 リースバックでは、退去時に現金を払うことをうたっている運営会社もあります。その名目は「引っ越しサポート費用」など、運営会社によってさまざまです。 サービス利用時に「退去時に現金を払う」と説明されたとしても、対象期間や支払金額などの条件が契約書に明記されているかを必ず確認しておきましょう。 リースバックの退去に関するよくある質問 ここでは、リースバックの退去に関するよくある質問とその回答を紹介します。 自主的に退去することはできる? 自主的に退去したい場合は、貸主であるリースバック運営会社に申し出をすることで退去できます。どれくらい前に申し出ればよいかは契約内容によって異なるため、契約時に確認しておきましょう。 入居者が死亡したら親族はどうなる? リースバックで入居者が死亡した場合、その賃貸借契約は相続の対象です。そのため、親族が賃貸借契約を相続した場合は、そのまま住み続けることができます。 運営会社(物件の所有者)が変わったらどうなる? 運営会社が変わっても退去する必要はありません。賃貸借契約は新しい所有者に引き継がれ、賃貸人が変わるだけです。ただし、定期借家契約の場合は、これまでと同様に再契約を断られるリスクがあります。 退去後の買い戻しはできる? 運営会社は退去後に物件を売却するため、基本的に退去後の買い戻しはできません。交渉次第ではできるかもしれませんが、「買い戻しはできない」と考えておくほうがいいでしょう。リースバックで売却した自宅の買い戻しを想定している場合は、事前に買い戻し条件を確認したうえで退去前に申し出ることが大切です。 まとめ リースバックは自宅を売却してまとまった資金を手に入れた後も、家賃を払うことで同じ家に住み続けられるのがメリットです。 しかし、定期借家契約の場合は再契約が認められず、退去となるリスクがあるほか、普通借家契約でも、契約違反や建物の老朽化などの理由で退去せざるを得ないこともあります。リースバックを利用する前に、賃貸借契約の種類や退去について理解を深めておきましょう。 ご相談・仮査定はこちら リースバックのご相談・仮査定を無料で受け付けています。まずはお気軽にお問い合わせください。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 リースバックのトラブル事例と後悔しないためのポイントを解説 リースバックは一般的な不動産売買にはないメリットがある一方で、契約にあたって思わぬトラブルに巻き込まれる恐れもあるため、商品を調べていく中で「やばい」「やめたほうがいい」などの記事を見ること...記事を読む