会社の経営が立ち行かなくなると、廃業を検討することもあるでしょう。「倒産」「破産」「特別清算」はいずれも廃業に関する用語ですが、廃業時に適切な方法を選択するためにも、用語の意味や違いを理解しておくことが大切です。 この記事では、「倒産」「破産」「特別清算」の意味やそれぞれの根拠法、違いについて解説します。 倒産とは 倒産は、中小企業倒産防止共済法第2条おいて、下記のいずれかに該当する場合と定義されています。 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立てがされること。 手形交換所において、その手形交換所で手形交換を行っている金融機関が金融取引を停止する原因となる事実についての公表がこれらの金融機関に対してされること。 電子記録債権法第二条第二項 に規定する電子債権記録機関において、その電子債権記録機関で電子記録債権を取り扱う金融機関が金融取引を停止する原因となる事実についての公表がこれらの金融機関に対してされること。 前三号に掲げるもののほか、過大な債務を負っていることにより事業の継続が困難となっているため債務の減免又は期限の猶予を受けることを目的とするものと認められる手続であって、その開始日を特定することができるものとして経済産業省令で定めるものがされること。 出典)中小企業倒産防止共済法(第2条) この条文から、倒産とは、法人や個人が破産手続・特別清算開始などの申立て、金融取引の停止、業績不振などによって経済的に破綻し、債務弁済や事業継続が困難な状態になることと言えます。 破産とは 破産とは、負債の整理方法の1つです。裁判所に破産手続開始の申立てをし、破産手続開始決定がされることで、債務者が支払不能の状態にあることを宣言します。なお、支払不能は破産法第2条において、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいうと定義されています。 出典)破産法(第2条) 破産手続開始決定の際は、原則として裁判所によって破産管財人(弁護士など)が選任されます。破産管財人は、債務者の全ての財産を現金化して債権者に分配します。破産管財人が選任されると、債務者は次のような制限を受けることがあります。 居住制限を受ける(転居・長期の旅行は裁判所の許可が必要) 郵便物が破産管財人に転送されることがある 破産管財人に対して財産状況の説明義務を負う 個人の場合は、破産手続開始の申立てをすると、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます。ただし、破産手続開始決定だけで債務の支払義務が免除されるわけではありません。事案に応じて免責判断が行われます。虚偽の説明をした場合など、事由によっては免責が認められないこともあります。法人には免責制度はありませんが、破産によって解散すると法人格を失い、債務が消滅するのが一般的です。 出典)裁判所「自己破産の申立てを考えている方へ」 特別清算とは 特別清算とは、債務超過の状態で解散した株式会社を清算するための法的手続きです。会社法第510条では、特別清算を開始する事由について下記のように記載されています。 清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること。 債務超過の疑いがあること。 出典)会社法(第510条) 特別清算は破産に比べると厳格な手続きを要求されず、簡易かつ迅速に会社を清算できるのが特徴です。特別清算開始の決定後、会社が選任した清算人が財産目録や協定案の作成、債権者集会の招集などを行います。 債権者集会において、「出席者の過半数」および「総債権額の3分の2以上」の同意を得られると協定案が可決されます。その後、裁判所の協定認可の決定により、特別清算手続きが実施されます。 協定案の内容は、債務者の間で平等であることが求められます。ただし、不利益を受ける債権者の同意がある場合などは、債権者の間で差を設けることも可能です。 倒産や破産、特別清算の違い 「倒産」「破産」「特別清算」は、それぞれ根拠法に違いがあります。 倒産は「中小企業倒産防止共済法」で定義されている用語です。破産は「破産法」、特別清算は「会社法」において、申立てや手続開始、効力などについて記載されています。 また、倒産の根拠法である「中小企業倒産防止共済法」の中で、破産手続開始や特別清算開始が倒産の状態に該当すると記載されています。このことから、倒産は法人・個人が債務弁済や事業継続が困難な状態にあることを意味する大きな概念であり、破産や特別清算は倒産の1つであることがわかります。なお、負債の整理方法として、破産や特別清算のほかに「任意整理」「特別調停」「個人再生」「民事再生」などの方法を選択することも可能です。 まとめ 「倒産」「破産」「特別清算」はいずれも廃業に関する用語ですが、根拠法が異なります。実際に廃業を選択する際には、弁護士などの専門家に依頼し、その意味を正しく理解したうえで手続きを進めるようにしましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 ”明るい廃業®”を掲げる新生銀行に ニッポンの経営者の本音を聞いた 日本には、2021年6月時点でおよそ367万4000社の企業があります。(総務省・経済産業省による発表)そのうち中小・小規模事業者の数は99.7%を占めるといいます。 そして、2017年に中...記事を読む
親の判断能力が低下した場合、子どもの判断で親の財産を運用・処分することはできません。親の認知症対策としては「成年後見制度」が一般的ですが、近年では新たな財産管理方法として「家族信託」が注目されています。家族信託とはどのような制度なのでしょうか。 この記事では、家族信託の仕組みやメリット・デメリット、手続き方法について解説します。 家族信託とは 家族信託とは、財産の管理・処分を家族に任せるための仕組みです。預貯金や不動産、有価証券のように換価できる財産を託すことができ、以下の三者で構成されます。 委託者(財産管理を任せる人) 受託者(委託者から任された財産を管理する人) 受益者(財産から生じる利益を受け取る人) 認知症などによる判断能力の低下に備えて、財産を管理する権限を家族(受託者)に与えます。本人(委託者)が判断能力を失った後は、本人の意向に沿って家族が財産管理を行います。家族信託では、委託者と受益者が同じ人になるケースが一般的です。 出典)家族信託普及協会「家族信託とは?(制度の概要)」 家族信託と成年後見制度の違い 成年後見制度とは、認知症などの理由で、財産管理や契約手続きなどを自分で行うのが難しい人を保護し、支援するための制度です。本人の判断能力が低下した後は、本人に代わって後見人が財産管理等の事務を行います。 成年後見制度は認知症対策として有効ですが、本人の財産保護の観点から、財産の運用や処分について柔軟に対応できないのがデメリットです。また、弁護士や司法書士などの専門職が後見人になる場合は、毎月2万円~6万円程度の支払いが発生し、原則として亡くなるまで続きます。 一方、家族信託は信託契約の内容を自由に決められるため、柔軟な財産管理と運用が可能です。 出典)東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」 家族信託と商事信託の違い 家族信託と商事信託の大きな違いは、「受託者」です。上述のとおり、家族信託では家族が受託者となるのに対し、商事信託は信託会社や信託銀行が受託者となります。 つまり、営利目的で業として行われる信託であるため、信託報酬や手数料等の費用が発生することになります。一方で、家族信託と違って専門家が適切に財産を管理してくれます。「家族に迷惑をかけたくない」、「専門家に適切な財産管理をお願いしたい」といった場合は、商事信託も検討してみましょう。 家族信託は商標登録されている 家族信託という言葉は、一般社団法人家族信託普及協会が以下の目的で商標登録をしている言葉です。 「家族信託」という言葉を使いながら、家族親族でない方が「業として」信託を引き受ける商品名にこの言葉を使用するなど、一般の方々に誤解を与えてしまう使い方をされないことを防止する目的 同協会によると、正しく「家族信託」の名称を使用する場合は、協会の許可等なく「家族信託」という名称を使用しても良いとされています。ただ、各種広告やホームページ等を見ると、商標登録されている「家族信託」という名称を避け、「民事信託」等の名称が用いられている場合もあります。 出典)一般社団法人家族信託普及協会「商標登録につきまして」 家族信託のメリット 家族信託には以下のようなメリットがあります。 認知症の親の財産を犯罪から守ることができる 認知症になると判断能力が低下するため、詐欺などの犯罪に巻き込まれる恐れがあります。判断能力があるうちに信託契約を締結することで、信頼できる家族に財産管理を任せることが可能です。また、親が認知症になった後も、本人の意向に沿って子どもが管理・運用できるため、財産を犯罪から守ることができます。 子どもの判断で親の財産の管理・運用・処分ができる 家族信託では、受託者が委託者の財産を管理します。親が認知症になった場合は、受託者である子どもの判断で親の財産の管理・運用・処分が可能です。介護費用などが必要になっても、親の財産を現金化できるので安心です。 相続対策として活用できる 家族信託では、契約で財産の承継順位を定めることが可能です。最初に指定した受益者が亡くなっても、次の受益者を誰にするかを指定できます。生前贈与や遺言には、このような機能はありません。 また、不動産を複数の相続人で共有する場合、賃貸経営や処分を行う際は共有者全員の同意が必要です。家族信託で共有者の1人に不動産の管理処分権限を与え、不動産から生じる収益は各共有者に公平に分配することによって、相続トラブルの防止が期待できます。 家族信託のデメリット 家族信託は信託財産の金額に応じて、弁護士や司法書士への報酬、公正証書の作成費用、登記費用などがかかります。専門家への報酬は基準がないため、事前に料金を確認した上で依頼することが大切です。 信託財産から年3万円以上の収益が発生する場合は税務署への書類提出が求められるなど、受託者は税務申告の手間がかかる恐れがあります。 また、信託財産から生じた損失は、信託財産以外から生じた所得との損益通算ができません。大規模修繕の予定がある不動産などがある場合は、信託契約を締結する前に税理士と相談しましょう。 家族信託の手続き方法 家族信託の手続きの流れは以下のとおりです。 ①家族信託の目的、信託財産、受託者と受益者の決定 まずは家族信託を利用する目的を明確にした上で、信託する財産の範囲や管理方法、受託者と受益者を誰にするかなどを決めます。信託や相続に関する専門知識も必要になるため、弁護士などの専門家に相談しましょう。 ②信託契約の締結・公正証書の作成 次に、信託契約書を作成して契約を締結します。信託契約の際は、金融機関で信託口口座を開設する際に提出が求められるため、公正証書を作成しましょう。契約時に公証人が意思確認を行うため、信託契約の有効性を証明することができます。 ③信託財産の名義変更 信託契約を締結したら、信託財産の名義を委託者から受託者に変更します。信託財産に不動産が含まれている場合は、「所有権移転登記」と「信託登記」の2つが必要です。 所有権移転登記は、不動産の名義を委託者から受託者に移転する手続きで、委託者と受託者が共同で申請します。 信託登記は、不動産が信託財産であることを第三者に対抗するための登記です。受託者等の住所・氏名や信託の目的、不動産の管理方法などを登録します。 ④信託口口座の開設 受託者には分別管理義務があり、受託者固有の財産と信託された財産を明確に分けて管理することが求められます。信託財産を分別管理するために、金融機関で信託口口座を開設します。信託口口座の財産は、信託契約で定めた目的に従って、受託者の判断で管理・運用が可能です。 まとめ 家族信託を利用すれば、家族に財産の管理や処分を任せられます。成年後見制度に比べると柔軟な財産管理が可能で、相続対策に活用できるのもメリットです。親の財産管理を行う予定がある場合は、家族信託を検討してみてはいかがでしょうか。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 相続争いを生まないためのリースバックという選択肢 自宅を所有していると、老後も住み続けられる安心感がある一方で、相続に不安を感じることもあるのではないでしょうか。不動産は実物資産であるため、相続人が複数いると簡単に分けられません。また、相続...記事を読む
中小企業退職金共済(中退共)とは、中小企業のための退職金制度です。自社で退職金制度を持つのが難しい中小企業でも、中小企業退職金共済に加入することで、手軽に退職金制度を導入できます。 この記事では、中小企業退職金共済の仕組みやメリット・デメリット、加入手続きの流れについて解説します。 中小企業退職金共済とは 中小企業退職金共済とは、主に中小企業の常用労働者を対象とした退職金共済制度です。事業主が掛金を納付することによって、従業員に中小企業退職金共済から退職金が支払われます。 自社で従業員の退職金を管理・運用することが難しい中小企業でも、中小企業退職金共済に加入すれば簡単に退職金制度の導入が可能です。 制度開発の背景・目的 中小企業退職金共済は、1959年(昭和34年)に中小企業退職金共済法に基づいて設けられました。単独で退職金制度を持つことが困難な中小企業に対して、事業主の相互共済の仕組みと国の援助で退職金制度を設け、従業員の福利厚生の充実と雇用の安定を図ることによって、中小企業の振興・発展に寄与することを目的としています。 制度の仕組み 中小企業退職金共済制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構(中小企業退職金共済事業本部)によって運営されています。中小企業退職金共済の仕組みは以下のとおりです。 出典)厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度のしくみ」 事業主が中小企業退職金共済と退職金共済契約を結ぶ 事業主は毎月掛金を納付する 従業員が退職したときは、事業主が中小企業退職金共済に退職届を提出する 退職者本人からの請求により、中小企業退職金共済から直接退職金が支払われる 掛金は全額事業主負担であり、従業員に負担させることはできません。掛金月額は5,000円以上30,000円未満で従業員ごとに選択することができます。 加入条件 中小企業退職金共済に加入できるのは、「常用従業員数」または「資本金・出資金の額」のいずれかが次の範囲内である企業です。個人企業や公益法人等は常用従業員数で判断します。 業種 常用従業員数 資本金・出資金の額 一般業種(製造業、建設業など) 300人以下 3億円以下 卸売業 100人以下 1億円以下 サービス業 100人以下 5,000万円以下 小売業 50人以下 5,000万円以下 常用従業員には、一週間の所定労働時間が同じ企業に雇用される通常の従業員とおおむね同等で、「雇用期間の定めがない者」「雇用期間が2ヵ月超の者」も含まれます。中小企業退職金共済に加入するためには、短時間労働者等の従業員を除き、原則として従業員が全員加入する必要があります。 出典)厚生労働省「よくわかる中小企業退職金共済制度」 中小企業退職金共済のメリット 中小企業が中小企業退職金共済制度に加入するメリットは以下のとおりです。 掛金の一部を国が助成する 中小企業退職金共済には、掛金の一部を国が助成する制度があります。助成期間中は掛金月額から助成額を控除した額を納付するため、事業主の負担軽減が期待できます。国からの助成は次の2種類です。 助成の種類 助成額 助成期間 新規加入助成 (1)掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)(2)短期労働者の特例月額(2,000~4,000円)は、(1)に300~500円を上乗せ 加入後4ヵ月目から1年間 月額変更助成 18,000円以下の掛金月額を増額する場合、増額分の3分の1 増額月から1年間 ただし、同居親族のみを雇用する事業主などは助成の対象外となります。 掛金は非課税 中小企業退職金共済の掛金には、税法上の特典が設けられています。法人の場合は損金(税務上の費用)、個人事業の場合は必要経費として全額非課税となるため、事業主の税負担の軽減が期待できます。 管理に手間がかからない 中小企業退職金共済は、退職金制度の管理に手間がかからないのもメリットです。毎月の掛金は口座振替で、従業員ごとの納付状況や退職金の試算額は中小企業退職金共済が知らせてくれます。そのため、手間をかけずに退職金制度の導入・運営が可能です。 中小企業退職金共済のデメリット 一方で、中小企業退職金共済には以下のようなデメリットもあります。 掛金の減額は原則できない 中小企業退職金共済では、原則として掛金月額の減額はできません。掛金月額の減額が認められるのは、次のいずれかの場合に限られます。 従業員が同意した場合 現在の掛金月額の継続が著しく困難であると厚生労働大臣が認定した場合 掛金月額の増額変更はいつでもできます。しかし、減額は簡単にできないため、掛金月額の設定は慎重に行うことが大切です。 出典)厚生労働省「よくわかる中小企業退職金共済制度」 元本割れする恐れもある 中小企業退職金共済は、掛金の納付期間によっては元本割れする恐れもあります。 掛金の納付月数が11ヵ月以下の場合、退職金は支給されません。また、12ヵ月以上23ヵ月以下の場合は掛金納付総額を下回り、元本割れとなります。中小企業退職金共済で元本割れを避けるには、24ヵ月以上の掛金納付が必要です。 出典)中小企業退職金共済事業本部「従業員の退職金は中小企業退職金共済制度(9.退職金について)」 従業員しか加入できない 中小企業退職金共済に加入できるのは従業員のみで、経営者や役員は加入できません。経営者が老後の生活に備えるには、中小企業退職金共済以外の制度を利用して自分で退職金を準備する必要があります。 中小企業の経営者や役員は、一定の条件を満たせば「小規模企業共済」に加入できます。退職金の準備に活用できるため、必要に応じて検討しましょう。小規模企業共済については、以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら小規模企業共済とは?メリット・デメリットと加入までの流れを解説 中小企業退職金共済の加入手続きの流れ 中小企業退職金共済へ加入する場合は、事業主が手続きを行います。加入手続きの流れは以下のとおりです。 加入申込書に必要事項を記入して金融機関などに提出する 中小企業退職金共済本部と退職金共済契約を締結する 中小企業退職金共済本部から従業員ごとの「加入通知書」および「退職金共済手帳」が送付される 加入申込書は申込先の窓口に用意されています。銀行や信用金庫といった金融機関のほか、商工会議所などでも申込み可能です。常用従業員数が一定規模以上の場合は、「中小企業者であることの証明」の提出も求められます。 出典)中小企業退職金共済事業本部「手続きのご案内」 まとめ 退職金制度は、従業員にとっては退職後の生活の安定に不可欠なものです。従業員の意欲向上や雇用の安定につながるため、企業経営にもプラスの効果が期待できます。自社で退職金制度を持つのが難しい中小企業は、中小企業退職金共済への加入を検討してみてはいかがでしょうか。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...記事を読む
不動産の売買や相続、住所変更などがあった場合は、不動産登記の手続きが必要です。しかし、「不動産登記」という言葉を聞いたことはあっても、詳細までは理解していないかもしれません。不動産登記の手続きは、自宅購入や相続の際に必ず必要になるので、基本的な仕組みを理解しておくことが大切です。 この記事では、不動産登記の概要や手続きの流れ、必要書類、費用について詳しく解説します。 そもそも登記とは? 登記(登記制度)とは、一定の事項を公開された公簿に記載することによって、第三者に対してもその権利の内容を明らかにし、取引の安全と円滑化を図ろうとするものです。この記事で解説する「不動産登記」以外にも、「商業登記」や「相続登記」など、様々な種類があります。 不動産登記とは 不動産登記とは、土地や建物などの不動産の一つ一つについて、「どこに」「どれくらいの広さで」「誰が持っているのか」といった情報をコンピュータに記録することをいいます。この作業は、法務局の職員である登記官によって、専門的な見地から正しいのかを判断された上で行われます。 不動産登記は不動産登記法に基づいて、以下のような事項が記録され、法務局に保管されています。 土地や建物の所在地や構造・種類 不動産の所有者歴 不動産に設定された権利 金融機関の借入金額や利率 つまり、不動産登記を確認すれば、不動産の所在地や所有者、どのような権利を誰が所有しているかなどの情報がわかります。 不動産登記の効力 不動産登記の大きな役割が、第三者に不動産の所有権を法的に主張できるということです。民法第177条では、不動産の権利について次のように定めています。 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。 出典)e-GOV 法令検索 民法第177条 つまり、登記がなければ不動産の所有者と法的には認められません。たとえば、不動産を相続した際、登記をせずに所有権が故人のまま、所有者が変更されていないと、相続人は売却ができません。 出典)法務局「不動産登記」 登記情報の見方 不動産登記の情報は、「登記簿謄本(登記事項証明書)」に記載されています。登記簿謄本の記載事項は以下4つに区分されます。 表題部 権利部(甲区) 権利部(乙区) 共同担保目録 1.表題部 表題部では不動産の所在地や面積、建物の種類・構造など、「どのような不動産であるのか」が記載されています。 2.権利部(甲区) 権利部は甲区と乙区に分かれます。甲区では、「誰が不動産の所有者か」が記載されています。具体的には所有者の住所や氏名、取得日、取得経緯などが記載されています。 3.権利部(乙区) 乙区では、抵当権や地上権といった所有権以外の権利について記載されています。例えば、住宅ローンを組む場合は、金融機関の名前や金額、金利などが記載されます。 4.共同担保目録 抵当権が複数の不動産に設定されている場合、この共同担保目録にその旨が記載されています。住宅ローンを組む場合は、一般的には購入する不動産を担保として抵当権が設定されます。この時、基本的に建物と土地の両方に抵当権が設定されるので、それぞれの共同担保目録に記載されます。 関連記事はこちら登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 不動産登記が必要な場面 不動産登記の手続きが必要になる主な場面は以下のとおりです。 不動産を購入したとき 不動産を相続したとき 所有者の住所や氏名が変わったとき 住宅ローンを完済したとき 建物を取り壊したとき マイホームなどの不動産を購入したときは、新築なら「建物表題登記」や「所有権保存登記」、中古の場合は所有権が売主から買主に移ったことを証明する「所有権移転登記」を行います。 不動産を相続したときは「相続登記」、結婚や転居などで所有者の氏名や住所が変わったときは「住所等変更登記」が求められます。この2つの登記は義務化されるので注意が必要です。 関連記事はこちら住所変更登記等の義務化はいつから?手続き方法や注意点も解説 住宅ローン完済時は「抵当権抹消登記」を行います。なお、住宅ローン完済時は火災保険の質権設定の解除等、ほかにもしなければいけない手続きがあります。詳しくは以下の記事で解説しています。 関連記事はこちら住宅ローン完済後の手続きについて解説 建物を取り壊したときは「建物滅失登記」が必要です。建物を解体してから1か月以内に行わなければならないため注意しましょう。 不動産登記手続きの流れ 不動産登記手続きは、基本的に以下の流れで行います。なお、自分で手続きを行うのが難しい場合は、司法書士に代行を依頼することも可能です。 1.必要書類を準備する 不動産登記を申請をするには、必要な事項を記載した申請書とその添付書類の準備が必要です。登記申請書は法務局のホームページから取得できます。添付書類については登記原因によって異なるので注意が必要です。 2.登記申請書と添付書類を法務局に提出する 法務局によって管轄区域が定められているため、どこの法務局に書類を提出するのか確認が必要です。管轄区域はこちら(法務局のホームページに遷移します)から確認できます。 3.登記識別情報と登記完了証を受け取る 必要書類が受理されたら、法務局で内容の審査が行われます。問題なく手続きが完了したら、登記識別情報と登録完了証が作成されます。登記申請書に用いた印鑑を持って法務局に行くと、登記識別情報と登録完了証を受領できます。 出典)法務局「○登記の申請はどのような方法でしなければならないのですか?」 不動産登記にかかる費用 不動産登記にかかる主な費用は以下のとおりです。 必要書類の取得費用 登記にあたり、登記簿謄本や住民票の写し、印鑑証明書、固定資産税評価証明書などを取得する場合は、1通につき数百円の手数料がかかります。 登録免許税 登録免許税額は、登記の種類や、不動産の種別によって異なります。売買の場合、土地、建物は評価額の2%(土地は2026年3月31日までは0.15%)です。建物が住宅用家屋に該当する場合は、0.3%になります。住宅用家屋を購入する場合は、他にも減税制度が適用されます。詳しくは以下の記事で解説しています。 関連記事はこちら住宅購入時の優遇制度を解説 司法書士への報酬(司法書士に依頼する場合) 司法書士に依頼する場合は、上記費用以外に報酬や交通費などが請求されます。報酬は司法書士によって異なるため、ホームページなどで金額を確認した上で依頼するといいでしょう。 出典)国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」 不動産登記をしていない場合のデメリットと注意点 実状に合った不動産登記がされていない場合には、主に次のようなデメリットがあります。 融資を受けられない 売却が難しくなる 手続きに時間と手間がかかる 金融機関から不動産を担保とする融資を受ける際に、登記がされていないと融資を受けられないため、売買が難しくなります。例えば、未登記の中古物件を売買する際は、売主・買主の双方に次のような不利益が生じることがあります。 売主側は売却前に土地家屋調査士や司法書士に依頼し、建物や土地の計測や登記申請を行うため費用と手続きに負担が生じます。あらかじめ登記していれば売却時の手間も少なくなるでしょう。 買主側は、不動産を現金で一括購入できる場合は資金面では問題ないかもしれませんが、ほとんどの場合が住宅ローンを組んで購入することになるため、円滑な売買ができなくなる恐れがあります。 また、何世代にもわたって未登記の場合は建物の図面や建築確認済証などが紛失している可能性もあり、より手続きに手間がかかるかもしれません。相続登記を行わず放置している間に、新たな相続が発生すると、さらに相続人が増えて権利関係がより複雑化し、次世代への負担を先送りすることになります。 出典)東京法務局「「長期間にわたり相続登記等がされていないことの通知(お知らせ)」について」 このような問題を解決するため、令和6年4月1日より相続登記は義務化されました。詳細は以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 まとめ 第三者に対して不動産の所有権を法的に主張するには、不動産登記が必要です。登記手続きを怠ると不動産取引をスムーズに進められず、トラブルの原因となります。不動産登記が必要な事由が生じた場合は、忘れずに手続きを行いましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 登記簿謄本(登記事項証明書)は、登記記録の全部または一部の事項を証明する書類です。不動産の情報が記載されている「不動産登記簿謄本」と、法人の情報が記載されている「法人登記簿謄本」の2種類に分...記事を読む
制度の概要 介護保険制度について 高齢による身体機能の衰えや、病気やケガなどによって介護が必要となったときには、介護サービスを提供する公的介護保険制度を利用することができます。新たな社会保険制度として平成12 年4月にスタートしたもので、介護が必要な人とその家族をできる限り社会全体で支えるための公的なサービスです。 介護保険は自治体が保険者となって制度を運営しています。40歳以上の人が被保険者となって保険料を負担し、介護が必要と認定されたときに介護サービスを利用する仕組みです。 介護保険では、利用者がサービスの種類や事業者を選ぶことができます。利用料は利用限度額の範囲内であれば、1割(一定以上の所得者の場合は2割あるいは3割*)の利用者負担で介護サービスを受けることができます。 ※詳細は本記事内「2021~2023年度の主な改正内容」を参照ください。 必要な介護サービスを受けながら、住み慣れた地域で安心してその人らしい生活を実現していくために、上手に利用していきましょう。現在、介護サービスの基盤強化のために、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される「地域包括ケアシステム*」の構築に向けた取り組みが進められています。 ※詳細は「家族を介護する必要が生じたなら…<介護と保健ガイドブック(1)>『地域包括ケアシステム』を参照ください。 介護サービスを利用できる人は? 公的介護保険の介護サービスは、介護保険に加入し保険料を納めている被保険者の内、下図の条件を満たし要介護認定を受けた人が利用できます。なお、実際に介護サービスを利用する場合は、介護サービス事業者との契約が必要になります。また、介護保険料額は、居住地域や被保険者の所得によって各自異なります。 申請方法から要介護認定までの流れ 介護サービスを受けるには 介護サービスを受けるには、要介護認定の申請が必要です。要介護認定とは、介護を必要としている人が「どの程度の要介護状態、要支援状態にあるか」を判断するものです。保険者である市区町村が調査を行い、要介護度を判定します。家族を介護する必要を感じたら、申請の手続きをしましょう。 介護保険の申請方法 相談できる窓口 介護される人が居住の市区町村役場の窓口(介護保険課など)で申請を行います。申請時は、申請書、本人の介護保険証(40〜64歳の特定疾病の人は健康保険証)と個人番号(マイナンバー)の確認ができるもの、主治医意見書を依頼するための主治医の情報、印鑑などが必要です(※詳細は自治体に要確認)。 主治医の情報は、申請書に主治医の名前・医療機関名・所在地などを記入します。主治医がいない場合は役所に相談し、高齢者医療に理解がある医師を紹介してもらいましょう。申請は家族が代理で申請することもできます。「地域包括支援センター」で申請の受付や代行も可能なので、所在 を確認して相談しましょう。 訪問調査 申請後、本人のもとへ市区町村の「認定調査員」(指定居宅介護支援事業者などに委託していることが多い)が訪れ、心身の状況などについて聞き取り調査(認定調査)を行い、その結果および主治医意見書に基づくコンピュータ判定(一次判定)を行います。 介護認定審査会 一次判定データは、市区町村に設けられた介護認定審査会にかけられ、保健、医療、福祉の専門家などが一次判定、訪問調査の結果と主治医意見書を基に、どの程度の介護が必要かを全国一律の基準により審査します。 要介護・用支援の認定 申請日から30日以内に「認定通知書」と「被保険者証」が届きます。要介護度区分に合わせて、ケアマネジャーが介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作成していきます。 《主治医意見書について》 主治医意見書は、医学的な見地から認知症の有無や在宅介護で必要な配慮や介護の中身について、主治医が記入する書類です。主治医には、要介護者の普段の様子を把握している内科、老年内科、神経内科、整形外科などのかかりつけ医が適任です。区分の判定時に大きな影響を及ぼしますので、普段から主治医とのコミュニケーションを図っておきましょう。 要介護認定(要介護度の判定) 要介護認定について 要介護認定は、「非該当」と介護保険の対象となる「要支援1・2」「要介護1〜5」に区分されます。区分によって、受けられるサービスや利用限度額が異なります。要介護度認定は、どのくらい介護を必要としているかを判断するもので、本人の病気の重さと要介護度の重さが必ずしも一致しない場合があります。要介護認定の判定に不服がある場合は、再認定を要求することができます。 認定ごとの状態とサービス 非該当(自立) 歩行や起き上がりなどの日常生活上の基本的動作を自分で行うことが可能。薬の内服、電話の利用などの手段的日常生活動作を行う能力もある状態。社会的支援がなくとも生活ができる状態。介護保険を利用することはできないが、65歳以上であれば、市区町村で開催している一般介護予防事業に参加することができます。また、地域包括支援センターで基本チェックリストを用いた審査を受けることによって事業対象者と判定された場合には、介護予防・生活支援サービス事業を利用することができます。 要支援1・2 身体上または精神上の軽度の障害があるために、6か月継続して日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態。訪問看護や福祉用具のレンタル・購入などのサービスが利用できる。 要介護1~5 身体上または精神上の障害があるために、6か月継続して、日常生活における基本的な動作の全部または一部について常時介護を要すると見込まれる状態。在宅あるいは施設入所での介護サービスを利用することができる。 図:要介護状態の区分(心身の状態の一例) ケアプランを作成する ケアプランを作成 要介護認定の通知を受け取ったら、ケアプラン(サービス利用計画書)を作成します。ケアプランは「これからどのような生活を送りたいか」という目標を設定し、その目標達成のためにどんなサービスをどれくらい使うかを計画するものです。ケアプランは、民間業者である「居宅介護支援事務所」に所属する介護支援専門員であるケアマネジャーに依頼して作成してもらうことができます。 介護サービスを利用するには、このケアプランの作成が必要になります。ケアマネジャーは、毎月1回以上に自宅を訪問し、利用者の希望を聞き、症状の変化に合わせてケアプランを作成、変更してくれます。家族は、本人の普段の様子や家族の要望などを伝えましょう。なお、ケアプラン作成には利用者負担はありません。 セルフケアプランという方法 ケアプランは、ケアマネジャーに依頼して作成してもらうケースがほとんどですが、自分でも作成することができます。複雑なサービスをコーディネートする必要がない場合などは、利用する本人が各種の介護サービスを自ら選択して調整したケアプラン(いわゆるセルフケアプラン)を作成することが可能です。セルフケアプランはあらかじめ市区町村に届け出て、認められた場合に介護保険の給付が受けられます。 図:ケアプラン作成の流れ 介護サービスの種類 サービスの種類(在宅・施設・地域密着型) 介護保険で利用できる介護サービスは、介護を受ける場所によって、大きく3つのスタイルに分けることができます。ひとつは自宅で生活しながら利用できる在宅サービス、もうひとつは施設に入所して受ける施設サービスです。さらに、在宅と施設の両方で受けられる地域密着型サービスもあります。 在宅で利用できるサービス 住み慣れた自分の家で受けられる在宅サービスには、「訪問」「通所」「宿泊」の3つの柱があり、これに福祉用具貸与など、その他のサービスを組み合わせます。サービスを利用することで介護する側とされる側、両方の負担が軽減されます。 訪問系サービス ・訪問介護 訪問介護事業所のヘルパーが自宅を訪問。身体介護や生活援助など日常生活のサポートを受ける ・訪問リハビリテーション 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が訪問。自宅で機能回復訓練を受ける ・訪問入浴介護 専用浴槽や巡回入浴車で、入浴時のバイタルチェックも含め自宅での入浴をサポート ・居宅療養管理指導 医師や歯科医師、薬剤師などの専門家が自宅を訪問。指導やアドバイスを受ける ・訪問看護 看護師や保健師などの専門家が自宅を訪問。かかりつけ医の指示に合わせた医学的な世話や処置を受ける 通所系サービス ・通所リハビリテーション ・通所介護(デイサービス) 日帰りで施設に通い、食事や入浴など、日常生活上の介護や機能訓練などを受ける 短期滞在系サービス ・短期入所生活介護(ショートステイ) 短期的に施設へ入所し、日常生活の介護や機能訓練などの介護を受ける ・短期入所療養介護(医療型ショートステイ) 短期的に施設へ入所し、必要な医療を受けつつ日常生活の介護や機能訓練などを受ける 福祉用具をレンタル・購入するサービス 住宅の一部を改修したり、必要な福祉用具をレンタル・購入することで在宅での介護環境を整える ➡介護用品の支給や貸与(詳細はこちら) ➡住宅改修費の支給(詳細はこちら) 施設・居住系サービス ・特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウスなど) 介護が必要になった場合に、指定を受けた有料老人ホームなどの施設(自宅扱い)に入居したまま介護サービスを受ける 施設を利用できるサービス 介護保険制度で利用できる「施設サービス」には、さまざまな種類や入居の条件があります。専門家による介護を受けられることや、緊急時にも安心できる対応など、多様なニーズに応えています。 介護老人保健施設 老人保健施設、いわゆる「老健」。病状が安定期にあり、入院治療の必要はないが介護や医療を必要とする人を対象に、家庭復帰に向け介護、医療ケア、リハビリテーションを行う施設 介護老人福祉施設 特別養護老人ホーム、いわゆる「特養」。常に介護が必要で在宅介護が困難と認められた人のための生活施設。入浴、排せつ、食事などの介護、そのほかの日常生活上の世話、機能訓練、健康管理および療養上の世話を行う施設 介護療養型医療施設 病院または診療所であり、要介護者のために必要な医療などを提供する長期療養施設。療養病床などに入院する人に、療養上の管理、看護、医学的管理下での介護やケア、リハビリテーションなどの機能訓練、そのほか必要な医療を行うことを目的とする施設 介護医療院 長期療養が必要な人を対象とした施設で、2018年に創設。長期療養のための日常的な医学管理や看取り、ターミナルケアなどの医療機能と、日常生活上の世話(介護)を提供する生活施設としての機能を兼ね備えた施設。プライバシーに配慮した環境整備などが特徴 特定施設 該当する施設は、有料老人ホーム、軽費老人ホーム(ケアハウス)、養護老人ホーム、有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅。入居者を対象に特定施設入居者生活介護(日常生活上の世話や機能訓練、療養上の世話)が受けられる。特定施設入居者生活介護の指定を受ける特定施設を「介護付きホーム」という 地域密着型サービス 認知症高齢者や一人暮らしの高齢者が要介護状態になっても、できる限り住み慣れた地域で生活が継続できるように支援を行うサービスです。在宅と施設利用の両方のサービスがあり、地域密着で介護を支えます。居住している市区町村が提供しているサービスを利用することができます。 在宅サービス ・定期巡回、随時対応型訪問介護・看護 日中・夜間を通じて1日に複数回の定期訪問と随時対応を受けられる ・小規模多機能型居宅介護 日帰りの施設へのデイサービス、ショートステイ、訪問の3つのサービスを組み合わせて利用。自宅での生活の支援を受けられる ・看護小規模多機能型居宅介護 訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた、介護と看護を一体的に利用できるサービス。施設への「通い」を中心に、短期間の宿泊や訪問介護、訪問看護を利用者のニーズに応じて組み合わせて利用することができる。かかりつけ医との密接な連携のもと、医療行為も含めた多様なサービスが24時間365日受けられる ・夜間対応型訪問介護 夜間に定期的に自宅を訪問。おむつの交換やトイレ介助の支援を受けられる ・認知症対応型通所介護 日帰りで施設に通い、認知症に対応した介護や支援を受け、機能訓練を行う 施設サービス ・認知症対応型共同生活介護(グループホーム) 認知症の高齢者が9人以下の少人数で入居し、入居者同士の交流など家庭的な雰囲気の中で共同生活をしながら、入浴や食事などの介護や支援、機能訓練などを受けられる 生活環境を整えるサービス 福祉用具貸与(レンタル) 加齢や疾病などで身体機能が低下した際、歩行器や車椅子などが必要になります。介護保険では、ケアプランで必要とされている福祉用具に限り1割(一定以上所得者の場合は2〜3割)負担でレンタルすることができます。担当のケアマネジャーに相談して、福祉用具の利用を検討しましょう。レンタル料金は、その他の介護サービス提供費用と合算して計算されます。 レンタルできるもの ・手すり ・歩行器 ・車いす ・特殊寝台(介助用ベッド) ・床ずれ防止用具 ・認知症老人徘徊感知機器 ・自動排せつ処理装置 ・スロープ ・歩行補助つえ ・車いす付属品 ・特殊寝台付属品 ・体位変換機 ・移動用リフト 特定福祉用具の購入 直接肌に触れるシャワーチェアなど、レンタルに不向きなものは購入する必要があります。「特定福祉用具」に定められているものであれば、1割(一定以上所得者の場合は2〜3割)負担で購入できます。費用の限度額は年10万円(毎年4月1日から翌年3月31日まで)。10万円を超えた額については全額自己負担となります。また、同じ種目の用具の再購入は、用途や機能が異なる場合や破損した場合には可能です。 購入できるもの ・腰掛け便座 ・自動排泄処理装置の交換可能部品 ・入浴補助用具 ・簡易浴槽 ・移動用リフトの釣り具の部分 住宅改修 在宅で介護をする際に「バリアフリーにしたい」「段差を解消したい」「手すりをつけたい」という要望が出てきたら、要介護者がより安全・快適に生活できるよう住宅改修を検討しましょう。保険給付の対象となる住宅改修費の支給があり、利用が可能です。費用の限度額は20万円で、自己負担は1割(一定以上所得者の場合は2〜3割)。 費用を支払った後に、市区町村から給付費分が支給される、いわゆる「償還払い」が一般的です。要介護度が3段階以上重くなった場合や引っ越しした場合は、再度申請が可能です。 2021~2023年度の主な改正内容 今回の見直しの背景 介護保険制度は円滑に保険給付を実施していくため、3年ごとに見直しを行い、介護保険事業計画を策定、運営しています。新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で、2021年度からの制度改正が施行されました。 今回の見直しでは、日本の人口構造の急速な変化を見据えた対応がとられています。現在は75歳以上の高齢者の急増が目立ちますが、2025年以降には局面が変化し、現役世代の急減が予想されます。それは介護保険事業の支え手が減少していくことを意味します。高齢人口がピークを迎える2040年には、介護サービスの需要の増加が予想されます。 また、各地域の高齢化の状況は異なるため、利用者数の増減など個々の特性に 沿った対応も必要です。こうした状況に対応できるよう、3年に1度の見直しが行われています。 今期の改正のポイント 介護サービスを利用するうえで関わりの深い改正項目について、見ていきましょう。高齢化が進むなかで、負担の公平性と制度の持続可能性を高めるために、それぞれの状況に応じた負担を求める見直しが行われました。 介護保険施設における負担限度額の見直し 令和3年8月から、介護保険施設(介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型医療施設、介護医療院)や短期入所施設(ショートステイ)を利用する際の食費・居住費の助成制度が変更になりました。食費・居住費については自己負担が原則ですが、低所得の人への助成(補足給付)を行い、食費・居住費の負担が軽減されています。今回の改正で、助成の認定要件および食費の負担限度額が変更になりました。 『認定要件の変更』では、単身・夫婦それぞれの預貯金額が変更になりました。今回の変更により補足給付の対象外となる場合も、預貯金額が減少して認定要件を満たしたときは申請することで負担軽減の対象となります。負債(借入金・住宅ローンなど)は、預貯金額から差し引いて計算します。預貯金等に含まれるものがある場合は、申請書に預貯金や負債額を記載して、必要な書類を添付します。その後、保険者が必要に応じて金融機関などに照会を行います。預貯金等に含まれるものは以下の①〜⑤になります。 ①預貯金(普通・定期)は、通帳などの写しで確認(インターネットバンクであれば口座残高ページの写し) ②有価証券(株式・国債・地方債・社債など)は、証券会社や銀行口座残高の写しで確認(ウェブサイトの写しも可) ③金・銀(積立購入を含む)など購入先の口座残高によって時価評価額が把握できる貴金属の確認は、購入先の銀行などの口座残高の写しで確認(ウェブサイトの写しも可) ④投資信託は、銀行、信託銀行、証券会社などの口座残高の写しで確認(ウェブサイトの写しも可) ⑤現金は自己申告。なお、預貯金等に含まれないものは、生命保険、自動車、腕時計、宝石といった時価評価額の把握が難しい貴金属、絵画、骨董品、家財などになります。 また、不正に受給した場合には、それまでに受けた給付額に加え、最大2倍の加算金(給付額と併せて最大3倍の額)の納付を求められる場合があります。『食費の負担限度額の変更』では、施設入所者、ショートステイに対する助成が見直されました。 年金収入など一定額以上の収入や預貯金がある人は、食費の負担額が変更になりました。平均的な食事の費用額(基準費用額)は、1日1,392円から1,445円に変わりました。居住費の負担限度額は変更ありません。生活保護受給者や老齢福祉年金受給者等(第1段階)の負担限度額は、食費・居住費ともに変更ありません。 高額介護サービス費の負担限度額 介護サービスを利用した際は、自己負担割合に応じた利用料を負担しています。1か月に支払った利用料の合計が負担限度額を超えた場合は、高額介護サービス費として差額分が払い戻されます。 負担限度額は一般的な所得の人は月額44,400円です。令和3年8月から、医療保険の高額療養費制度の負担上限額に合わせて、負担限度額が見直され一部変更になりました。対象になるのは一定年収以上の高所得者で、介護サービスの利用者または同一世帯に課税所得380万円(年収約770万円)以上の65歳以上の人がいる場合です。 それ以外の市区町村民税非課税世帯の場合は、負担上限額に変更はありません。また、医療費や介護サービス費ともに高額で、高額介護合算療養費制度(年間の医療費・介護サービス費が負担限度額を超えた場合に払い戻しを行う制度)による払い戻しを受けている人の場合は、収入や介護サービス費などに変更がなければ、実質的な負担額は変わりません。 知っておきたい今期の見直し 介護報酬は0.7%引き上げ 法改正とともに、3年ごとに介護報酬改定が行われています。2021年4月に施行された改定では2期続く引き上げとなり、全体で0.7%のプラス改定となりました。そのうちの0.05%は、新型コロナウイルス感染症に対応するための経費として、2021年9月末までの半年間、介護サービス事業者を支援するものでした。 介護報酬とは、介護サービス事業者が利用者に、介護保険が適用されるサービスを提供した際に支払われる費用です。介護事業者は利用者からサービス費用の1割(原則)を受け取り、自治体に残りの9割分を請求、介護報酬が支払われます。介護報酬は利用者の状況やサービス提供体制に応じて、サービスごとに設定されています。介護報酬の引き上げによって利用者の負担額が増えるサービスもあり影響があります。 介護職員の賃上げがスタート 介護人材の確保は、介護保険制度を持続していくうえで非常に重要です。介護職員の離職防止・定着促進を図ることは喫緊の課題です。そのため介護の現場では、介護職員の処遇改善や職場環境の改善に取り組んでいます。 処遇改善については「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(2021年11月19日閣議決定)に基づいて、2022年2月から9月までの間「介護職員処遇改善支援補助金」により、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置が実施されます。10月分以降については、臨時の報酬改定を行い、収入を引き上げるための措置を講じる方向で調整が行われています。このほか、介護現場を革新するために、テクノロジーの活用や人員基準・運営基準を緩和することで業務を効率化し、負担の軽減を目指しています。 遠距離介護 離れて暮らす親の介護が必要になったときは、電話やビデオ通話などを使ってコミュニケーションを密にし、親の健康状態などに気を配ることが大切です。親の要介護度が進んだときには、食事介助やトイレ介助などの身体介護を誰がどのように担うのかといった問題が生じてきます。介護のために子どもが親元に戻るか親を呼び寄せるか、そんな悩みを抱える人も出てきます。親の介護に直面する世代は、40〜50代の働き盛りが中心です。 現在、介護を理由とする離職者が年間約10万人を超えています。国は、一億総活躍社会を実現するため、必要な介護サービスの確保や働く環境の改善、家族への支援を行い、介護離職ゼロを目指しています。育児・介護休業法で定められているのが「仕事と介護の両立のための制度」です。この制度を利用することによって、介護を行う期間だけでなく、仕事と介護が両立できる体制を整えるための期間にも介護休業を取ることが可能です。 介護保険サービスを受けるための準備期間への活用で、家族の介護をしながら仕事を続ける体制づくりが行えます。制度の内容には、通算して93日まで休業でき、休業前の賃金の67%が支給される「介護休業制度」、介護休業や年次有給休暇とは別に、時間単位で休暇の取得ができる「介護休暇制度」、短時間勤務や時差出勤が可能になる「介護のための短時間勤務等の制度」、残業を免除する「介護のための所定外労働の制限」があります。※ 育児・介護休業法は2021年に改正され、2022年4月から施行されます。雇用形態にかかわらず育児・介護休業を容易に取得できるよう、有期雇用労働者について「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が廃止されます。なお、労使協定を締結した場合は、雇用期間が1年未満の人は対象から除外されます。 ※育児・介護休業法に関する相談窓口:都道府県労働局雇用環境・均等部(室) 出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行 『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用 お悩みや疑問は解決できましたか? 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不動産所有者の氏名や住所などに変更があった場合の、法務局での住所等の変更登記はこれまで任意でしたが、不動産登記法の改正により登記申請が義務化されることになりました。変更登記をしないと罰則を科される恐れもあるため、制度内容を理解しておくことが大切です。 この記事では、住所変更登記等の申請義務化の概要や注意点について解説します。 住所変更登記等の申請義務化の概要 住所等の変更登記とは、不動産の所有者である登記名義人の氏名や住所などに変更があった際に行う登記手続きのことです。2021年(令和3年)4月に成立した不動産登記法の改正により、住所等の変更登記の申請が義務化されました。2023年11月現在も施行日は確定していませんが、2026年(令和8年)4月までに施行されることは決定しています。 申請が義務化された理由 住所等の変更登記の申請が義務化された背景には、所有者不明土地問題があります。近年では、所有者やその所在が分からない「所有者不明土地」が増加傾向です。 国土交通省の調査によれば、全国の土地のうち所有者不明土地は24%で、発生原因の33%を「住所変更登記の未了」が占めています。これまで住所等の変更登記は任意であり、そのまま放置されることが多くありました。そのため、所有者不明土地の解消や発生予防に向けて申請が義務化されました。 関連記事はこちら所有者不明土地の解消に向けた法改正とは?2つのポイントを解説 申請義務の内容 所有不動産の売却や転居などにより、登記名義人の住所等に変更が生じた場合は、その住所等の変更日から2年以内に変更登記の申請をしなくてはなりません。正当な理由なく申請義務を怠った場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。 正当な理由の具体的な類型、過料を科す手続きの詳細については、通達や省令等で明確化される予定です。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要 P.2」 住所変更登記等の申請義務化の注意点 住所変更登記等の申請義務化については経過措置があり、施行日前に住所等の変更が発生していたケースについても適用されます。施行日前の住所等変更については、以下のように施行日から2年間が申請義務の履行期間となります。 施行日前に住所等の変更が生じた場合でも、申請義務が発生することに注意しましょう。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」 住所等の変更登記の手続き方法 住所等の変更登記は、自分で行うか司法書士に代行してもらうかの二択で手続きを進めます。自分で行う場合は、「登記簿謄本(登記事項証明書)」「住民票」「登記申請書」などの必要書類を準備して法務局で申請手続きをします。その際は、登録免許税額分の収入印紙も必要です。 関連記事はこちら登記簿謄本(登記事項証明書)とは?取得方法や記載内容を解説 司法書士に代行してもらう場合は、手続きをすべて司法書士に任せることが可能です。ただし、司法書士報酬を支払う必要があるため、自分で行うよりもコストはかかります。司法書士によって報酬は異なるので、ホームページなどで料金を確認した上で、依頼するといいでしょう。 出典)法務局「不動産登記の申請書様式について」 法務局が職権で住所等の変更登記をする仕組みも導入される 法務局が職権で住所等の変更登記をする新たな仕組みも導入予定で、2026年(令和8年)4月までに施行されます。法務局の登記官が、個人の場合は「住基ネット」、法人の場合は「商業・法人登記システム」から取得した情報に基づき、職権で変更登記ができるようになります。職権で変更登記が行われた場合は、個人・法人ともに「住所変更登記等の申請義務は履行済み」とみなされます。 登記漏れや手続きにかかる手間などの理由から、基本的には職権による変更登記を了承しておくといいでしょう。一方で、詳細な手続きや費用について言及されていないので、今後の動向を注視しておきましょう。 職権による住所等の変更登記の手続き方法 個人はDV被害者等への配慮や個人情報保護の観点から、登記名義人の了解を得た場合に限り、職権による変更登記がされます。事前準備として、施行後に新たに登記名義人となる場合は、登記申請時に検索用情報を提供する必要があります。施行前に登記名義人であるケースでは、任意で検索用情報の提供が可能となる予定です。 一方、法人については、職権による変更登記の際に意思確認はありません。不動産登記法の改正に伴い、2024年(令和6年)4月1日から、登記名義人が法人の場合は会社法人等番号が登記事項となります。そのため、会社法人等番号を検索キーとして職権による変更登記を行うことが想定されています。 登記名義人への意思確認や検索用情報の提供など、具体的な手続き方法はインターネットの活用を含めて今後検討されます。現時点では、住所や氏名等の変更が生じる場合は自ら変更登記を行うと安心といえます。 出典)法務省「不動産登記法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について P.13~P.15」 まとめ 所有中の不動産について住所等の変更があった場合、今後は変更登記の申請が義務化されます。2026年(令和8年)4月までに施行される予定で、施行日前の変更も適用対象です。申請義務を怠ると罰則が科されるので、必要な場合は忘れずに手続きを行いましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説 「維持管理の費用がかかる相続した土地を手放したい」と悩んでいませんか。相続土地国庫帰属法の成立により、今後は相続した不要な土地を国に引き取ってもらえるようになります。ただし、対象となる土地に...記事を読む
老齢年金は、老後の生活を支える重要な収入源です。公的年金に加入している人は、一定の年齢に達すると老齢年金を受け取れます。老齢年金はどんな仕組みで、いくら受け取れるのでしょうか。 この記事では、老齢年金の受給要件や年金額、請求手続きについて詳しく解説します。 老齢年金とは 老齢年金とは、公的年金制度の加入者だった人に対して老後の保障として給付される年金です。原則65歳から支給開始となり、一生涯受け取れます。ただし、保険料納付済期間と保険料免除期間などを足した資格期間が10年以上あることが受給要件となります。 老齢年金は、加入していた年金制度により、国民年金の「老齢基礎年金」と厚生年金保険の「老齢厚生年金」の2種類が支給されます。 老齢基礎年金 老齢基礎年金は、国民年金もしくは厚生年金保険や共済組合等に加入していた人が受け取れます。20歳から60歳になるまでの40年間の国民年金加入期間などに応じて年金額が計算されます。 国民年金保険料を納付した期間のほか、会社員として厚生年金に加入していた期間や保険料の免除を受けた期間も年金額の計算に含まれます。 原則65歳から受給開始ですが、60歳から75歳の間で受給開始年齢を選択する「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢厚生年金 老齢厚生年金は、会社員や公務員など厚生年金保険や共済組合等に加入していた人のみが対象です。厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて年金額が計算されます。老齢厚生年金も原則65歳から受け取ることができ、老齢年金と同様に「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢年金の受給要件(資格期間) 老齢年金を受給するには、10年以上の資格期間が必要となります。資格期間とは、以下3つを合計した期間のことです。 保険料納付済期間 保険料免除期間 合算対象期間 国民年金保険料を納めた期間や厚生年金加入期間はもちろん、国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた期間も資格期間に含まれます。厚生年金加入期間は、加入した月から加入をやめた日(退職日の翌日など)の前月までの月単位で計算します。 合算対象期間は、海外在住者が国民年金に任意加入しなかった期間、または任意加入したが保険料を納付しなかった期間などが該当します。保険料免除期間や合算対象期間は資格期間の対象にはなりますが、年金額には反映されない点に注意が必要です。 老齢年金の年金額 老齢年金の年金額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金で異なります。 老齢基礎年金は、保険料の納付状況に応じて年金額が決定され、20歳から60歳の40年間の保険料をすべて納めると、満額の年金を受け取れます。令和5年度(2023年度)の年金額(満額)は年795,000円(月66,250円)です。 老齢厚生年金は、「報酬比例部分」と「定額部分」の合計が年金額となります。 報酬比例部分は、平均報酬月額に一定の給付率と加入期間の月数を乗じて計算します。定額部分は「1,657円×被保険者期間の月数」で計算します。ただし、昭和31年4月1日以前に生まれた方は、1,652円となります。老齢厚生年金は基本的に収入が高く、加入期間が長い人ほど年金額は増えます。 令和3年度(2021年度)の老齢年金受給者の平均年金月額は、国民年金の56,479円に対し、厚生年金は145,665円です。 厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあるため、65歳から老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。国民年金のみの自営業者に比べて、厚生年金に加入する会社員の年金額は手厚い傾向にあります。 出典)厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 老齢年金の請求手続き 老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取るには請求手続きが必要です。手続きの流れは下記のとおりです。 「年金請求書」が自宅に届く 「年金請求書」を年金事務所や市区町村に提出する 「年金証書」「年金決定通知書」などが自宅に届く 1~2ヵ月後に年金の受け取りが開始される 老齢年金の受給権が発生する年の誕生月の約3ヵ月前に、日本年金機構などから年金請求書が届きます。必要事項を記入して、受給開始年齢の誕生日の前日以降に提出しましょう。 提出先は、年金加入期間が国民年金のみの人は住所地のある市区町村、それ以外の人は最寄りの年金事務所です。 請求時には、戸籍抄本や住民票などの添付書類が必要です。同封されているパンフレットを確認し、添付書類を準備しましょう。年金請求書の提出から1ヵ月程度で年金証書や年金決定通知書が届き、その約1~2ヵ月後に年金の受給が開始されます。 年金の請求をせず、年金を受けとれるようになったときから5年を過ぎると、5年を過ぎた分の年金については時効により受け取れなくなる恐れがあるので、注意しましょう。 出典)日本年金機構「年金の時効」 繰り上げ受給と繰り下げ受給 老齢年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば65歳より前に年金を受け取る「繰り上げ受給」、受給開始を65歳より後に受け取る「繰り下げ受給」も選択可能です。 繰り上げ受給は60歳から65歳の間に請求でき、「繰り上げた月数×0.4%」の年金額が減額されます。たとえば、60歳時点では最大で24%の減額となります。年金を早く受け取れますが、減額された年金額は生涯変わらない点に注意が必要です。 繰り下げ受給は65歳から75歳の間に請求でき、「繰り下げた月数×0.7%」の年金額が増額されます。たとえば、70歳時点では42%、75歳時点では84%の増額となり、増額された年金は生涯変わりません。65歳以降も一定の収入があり、当面は年金なしでも生活できるなら、繰り下げ受給を利用して年金額を増やすのも選択肢の一つでしょう。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 在職老齢年金 在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入して働きながら受け取る老齢厚生年金のことです。給与や賞与の額と老齢厚生年金の額によっては、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。 老齢厚生年金(比例報酬部分)の月額である「基本月額」と、給与や賞与をもとに計算する「総報酬月額相当額」の合計が48万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。 なお、「老齢基礎年金」は支給停止の対象外で全額支給されます。 まとめ 老齢年金は10年以上の資格期間が受給要件で、原則65歳から受け取れます。日本年金機構などから年金請求書が届いたら、忘れずに手続きを行うことが大切です。状況に応じて、繰り上げ受給や繰り下げ受給も検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む
「相続登記が行われない」などの理由で、所有者が分からない土地が増えています。この所有者不明土地問題を解消するために、2つの法律が成立して不動産のルールが見直されました。 罰則規定も設けられているため、変更点を理解しておくことが大切です。この記事では、所有者不明土地を解消するために成立した2つの法律のポイントを解説します。 所有者不明土地とは 所有者不明土地とは、以下のいずれかの状態になっている土地のことです。 不動産登記簿によって所有者が直ちに判明しない土地 所有者が判明しても所在が不明で連絡がつかない土地 国土交通省の調査によると、全国の土地のうち所有者不明土地の割合は24%で、その面積は九州本島の大きさに匹敵する規模に拡大しています。 出典)法務省民事局「民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要」 所有者不明土地の問題点 所有者不明土地の問題点は下記のとおりです。 土地所有者の探索に多大な時間と労力を要する 土地の利用が円滑に進まない 土地が適切に管理されず、周囲に悪影響を及ぼす 転居や相続の際に登記(名義変更)が行われず、長期間そのままになっていると、所有者の特定が困難になります。所有者の探索自体にコストがかかるほか、公共事業や民間取引における土地の利活用が阻害されます。また、土地の管理不全により、近隣の土地へ悪影響を及ぼす恐れもあります。 高齢化の進展による死亡者数の増加などによって、早期に対策を講じないと所有者不明土地問題が深刻化する恐れがあります。 所有者不明土地の解消に向けた3つの見直し 所有者不明土地の解消に向けて、2021年(令和3年)4月21日に以下3つの軸から法制の見直しが行われることとなりました。 不動産登記制度の見直し 土地利用に関する民法の見直し 相続土地国庫帰属法の創設 不動産登記制度の見直しと相続土地国庫帰属法の創設は「所有者不明土地の発生予防」、土地利用に関する民法の見直しは「土地利用の円滑化」を目的としています。 不動産登記制度の見直し ここでは、不動産登記制度見直しのポイントを紹介します。 相続登記の申請義務化 相続登記はこれまで任意でしたが、所有者不明土地の発生予防のために申請が義務化されました。施行日は2024年(令和6年)4月1日です。申請義務に関するルールは以下2つです。 相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなくてはならない 遺産分割によって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記の申請をしなくてはならない いずれも正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。 相続人申告登記の新設 相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで、相続登記の申請義務が履行できる「相続人申告登記」が新設されました。2024年(令和6年)4月1日に施行されます。 現在は、法定相続分の割合を確定するために、すべての相続人を把握できる資料を準備しなくてはなりません。一方、相続人申告登記では、自分が相続人であることがわかる書類(戸籍謄本など)を提出するだけで済みます。1人の相続人が、相続人全員分をまとめて申し出ることも可能です。そのため、簡易に相続登記の申請義務の履行が可能となります。 ただし、あくまでも相続登記の申請義務を履行するための登記制度であり、遺産分割が成立した場合は従来どおりの相続登記が必要です。 住所等変更登記の申請義務化 現在、住所等変更登記は任意であり、行われないことが多いのが現状です。所有者不明土地の発生要因の1つとなっているため、登記申請が義務化されます。2026年(令和8年)4月までに施行される予定です。 今後、登記簿上の所有者は、その住所等を変更した日から2年以内に住所等変更登記の申請をしなくてはなりません。正当な理由なしに義務に違反した場合は、5万円以下の過料の適用対象となります。 関連記事はこちら住所変更登記等の義務化はいつから?手続き方法や注意点も解説 土地利用に関する民法の見直し 続いて、土地利用に関する民法見直しのポイントを紹介します。 土地・建物の財産管理制度の創設 所有者不明・管理不全状態の土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理特化した財産管理制度が創設されました。施行日は2023年(令和5年)4月1日です。 調査しても所有者やその所在が不明な土地・建物については、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、弁護士や司法書士などの中から管理人を選任してもらえます。裁判所の許可を得れば、管理人は所有者不明土地の売却等が可能です。 所有者の管理が不適当で、他人の権利・法的利益が侵害される(またはその恐れのある)土地・建物については、利害関係人が地方裁判所に申し立てることにより、管理人を選任してもらえます。これによって、補修工事、ごみ・害虫の駆除などを管理人に依頼できるようになります。 共有制度の見直し 共有物の利用や共有関係の解消がしやすくなるように、共有制度全般について見直されました。2023年(令和5年)4月1日に施行されます。共有物の利用については、共有物の軽微な変更に必要な要件が緩和されました。全員の同意は不要で、持分の過半数で決定できるようになります。 所在不明な共有者がいる場合は、裁判所の許可を得れば、管理行為や変更行為が可能となります。管理行為は残りの共有者の持分の過半数、変更行為は残りの共有者全員の同意が必要です。 共有関係の解消については、所在不明の共有者の持分の取得、その持分を含めた不動産全体の第三者への譲渡が可能となります。その際は、持分に応じた時価相当額の金銭供託が必要です。 その他のポイント 上記のほかに、以下2つのルール変更が予定されています。 遺産分割に関する新ルール導入 相隣関係の見直し ※いずれも2023年(令和5年)4月1日施行 被相続人の死亡から10年経過後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うことになります。相隣関係については、「隣地の所有者やその所在が分からない場合は隣地が使用できる」などの仕組みが設けられました。 出典)法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わります。P5~7」 相続土地国庫帰属法の創設 相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。今後は、相続で取得して管理や処分に困っている土地を国に引き取ってもらえるようになります。 相続土地国庫帰属法の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。 関連記事はこちら相続土地国庫帰属法とは?制度の概要や相続放棄との違いなどを解説 まとめ 不動産登記法・土地利用に関する民法の改正、相続土地国庫帰属法の創設によって、不動産ルールが大幅に変更されます。特に相続登記や住所等変更登記の申請義務化は、違反すると過料の対象となるため要注意です。不動産を取得・売却する可能性がある場合は、今回の不動産ルール変更の内容を理解しておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 不動産相続について徹底解説!知っておきたい手続きや費用 不動産を相続することになった場合、さまざまな手続きが必要になります。不動産相続では、相続税や遺産分割で、トラブルが発生することもあります。不動産相続をスムーズに進めるには、手続きの流れを理解...記事を読む
公的年金は、国民が安心して日常生活を送るために不可欠な制度です。老後だけでなく、病気・ケガで障害が残ったときや加入者が死亡したときも給付を受けられます。老後生活に備えて公的年金の仕組みについて理解を深めておくことが大切です。 この記事では、公的年金の概要や受け取り方、注意点などの基礎知識を解説します。 公的年金の仕組み 公的年金とは、国が運営する年金制度です。日本では、20歳以上60歳未満のすべての人が公的年金に加入する「国民皆保険」を採用しています。 公的年金は、現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てる「世代間扶養」が基本です。保険料収入を基本財源とし、そこに国庫負担金(税金)を組み合わせる「社会保険方式」によって、安定的に年金を給付できる仕組みになっています。 公的年金は国民年金と厚生年金の2種類 公的年金は、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。 国民年金 国民年金とは、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金です。自営業や無職の人などは国民年金の保険料を自分で納める必要があります。 厚生年金 厚生年金とは、会社員や公務員が加入する公的年金です。厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあります。厚生年金保険の被扶養者は、勤務先などの事業主が支払いを行うため、年金の加入者が保険料を直接納めることはありません。 公的年金の受け取り方は3種類 公的年金は老後だけでなく、障害や被保険者の死亡も給付対象です。具体的には、「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3種類があります。それぞれの内容は以下のとおりです。 老齢年金 老齢年金とは、公的年金の加入者が一定の年齢に達したときに一生涯受け取れる年金です。 国民年金は、受給資格期間が10年以上ある場合に65歳から老齢基礎年金が支給されます。年金額は保険料の納付状況によって計算され、40年間(20~60歳)の保険料をすべて納めると満額の老齢基礎年金を受け取れます。 厚生年金では、65歳から老齢基礎年金に上乗せして厚生老齢年金が支給されます。そのため、老齢基礎年金の受給資格があることが要件です。年金額は厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて計算されます。 関連記事はこちら老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説 老齢基礎年金と老齢厚生年金は、どちらも受給開始年齢の「繰り上げ」や「繰り下げ」が可能です。繰り上げは、受給開始を60~65歳に早めることで年金額が減額されます。繰り下げは、受給開始を66~75歳に遅らせることで年金額が増額されます。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 障害年金 障害年金とは、病気やケガなどで生活や仕事が制限される場合に受け取れる年金です。国民年金からは「障害基礎年金」、厚生年金からは「障害厚生年金」が支給されます。年金額は、保険の種類や障害の程度、家族構成などによって変わります。 障害基礎年金は、以下のすべての要件を満たしているときに支給されます。 障害の原因となった病気・ケガの初診日が以下のいずれかに該当する 1. 国民年金加入期間 2. 20歳前または60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間 障害の状態が障害等級1級または2級に該当する 被保険者期間のうち3分の2以上の納付済み期間があること 障害厚生年金は、以下のすべての要件を満たしているときに支給されます。 障害の原因となった病気・ケガの初診日が厚生年金保険の被保険者である間 障害の状態が障害等級1級から3級に該当する 被保険者期間のうち3分の2以上の納付済み期間があり、直近1年以内に未納がないこと 出典)※詳細はこちら(日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」)をご確認ください。 遺族年金 遺族年金とは、公的年金の被保険者(または被保険者だった人)が亡くなったときに、その人に生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。年金額は、保険の種類や家族構成などによって変わります。遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。 遺族基礎年金では、「子のいる配偶者」と「子」に遺族基礎年金が支給されます。子は18歳到達年度の3月31日まで(または20歳未満で一定の障害状態にあること)が条件です。 遺族厚生年金の場合は、「①配偶者・子」「②父母」「③孫」「④祖父母」のうち、優先順位が最も高い遺族に遺族厚生年金が支給されます。もし亡くなった人に配偶者や子がいなければ、第2順位の父母が受け取ります。 公的年金の被保険者の分類 公的年金の被保険者は、働き方によって以下の3つに分類されます。 第1号被保険者 第1号被保険者は、自営業者や学生など国民年金のみに加入する人です。国民年金保険料は、納付書や口座振替を利用して自分で納めます。令和5年度(2023年度)の1ヵ月あたりの保険料は16,520円です。 第2号被保険者 第2号被保険者は、会社員や公務員などの厚生年金加入者です。厚生年金保険料は、事業主と加入者で半額ずつ負担します。保険料は給与や賞与から天引きされ、事業主が納めてくれるので、納付手続きは不要です。 第3号被保険者 第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている、20歳以上60歳未満の配偶者(年収130万円未満)です。保険料は、配偶者が加入する年金制度が負担するため、個別に納める必要はありません。 公的年金の注意点 公的年金について、以下の注意点を把握しておきましょう。 保険料を納めなければ受給できない 年金の受給資格を満たすには、保険料を納めなくてはなりません。厚生年金は給与や賞与から天引きされますが、国民年金は自分で納めるので納付漏れがないように注意が必要です。 保険料を納めるのが難しい場合は、最寄りの年金事務所で免除や納付猶予について相談し、自己判断での未納は絶対に避けましょう。保険料の納付状況については、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。 関連記事はこちら「ねんきんネット」はこんなに便利!使い方を詳しくご紹介 自営業者は老齢年金が少ない 国民年金のみの自営業者は、会社員(厚生年金加入者)に比べて老齢年金が少ない傾向にあります。老後の生活資金に不安がある場合は、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「国民年金基金」などの私的年金に加入して年金額を増やすことを検討しましょう。 関連記事はこちら個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 まとめ 公的年金は老後だけでなく、病気やケガ、配偶者の死亡で仕事や生活が制限される場合にも給付を受けられます。ただし、保険料を納めていないと年金を受け取れないため、納付漏れのないように注意が必要です。 老後やもしものときに安心して生活できるように、公的年金への理解を深めておきましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む
2022年5月に宅地建物取引業法が改正されました。押印義務が廃止され、交付書面の電子化が可能となったため、今後は不動産取引のデジタル化が進む可能性があります。今回の改正によって、不動産事業者にはどんな影響があるのでしょうか。 この記事では、不動産事業者向けに2022年宅建業法改正のポイントを解説します。 宅建業法が改正された背景 今回の宅建業法改正は、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」に基づいて行われたものです。本法律は2021年5月19日に公布、2022年5月18日に施行されました。 デジタル社会の形成により、日本経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与することを目的としています。 不動産取引においては、改正前の宅建業法で義務付けられていた押印や書面手続きがデジタル化を阻む要因となっていました。そのため、デジタル社会形成整備法の施行に伴い、押印や書面交付に関する宅建業法の改正が行われました。 2022年宅建業法改正のポイント 今回の宅建業法改正のポイントは「押印義務の廃止」と「交付書面の電子化」の2つです。それぞれの内容を確認していきましょう。 宅地建物取引士の押印義務の廃止 不動産取引に必要な以下の書類について、これまでは宅地建物取引士の押印・記名が必要でした。 重要事項説明書 売買・交換・賃貸借契約締結後の交付書面 今回の法改正で押印義務が廃止され、今後は記名のみで可能となります。ただし、媒介契約・代理契約を締結したときに交付する書面については、引き続き押印が必要です。 交付書面の電子化 以下4つの不動産取引関連書類について、電磁的方法による交付が可能となりました。 媒介契約・代理契約締結時の交付書面 レインズ(指定流通機構)登録時の交付書面 重要事項説明書 売買・交換・賃貸借契約締結後の交付書面 依頼者の承諾は必要ですが、今後は紙による書面の交付が義務ではなくなります。電磁的方法による提供において、満たすべき主な基準は以下のとおりです。 依頼者が書面の状態で確認できるよう、出力可能な形式で提供する 電子署名等の方法で、記載事項が改変されていないことを依頼者が確認できるようにする 電磁的方法により書面を提供する場合、不動産事業者は依頼者が確実に受け取れるようにしなくてはなりません。 具体的には、電磁的方法の内容や記録方式を示した上で、出力可能な方法(電子メール、Web上での承諾など)や書面(以下、「書面等」という)で依頼者の承諾を得ます。たとえ事前に承諾を得た場合であっても、依頼者から書面等で「電磁的方法で受け取らない」と申出があれば紙の書面を交付する必要があります。 出典)宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方 不動産取引のデジタル化のメリット 不動産事業者にとって、不動産取引のデジタル化は以下のようなメリットがあります。 取引にかかる時間や手間が省ける 不動産取引のデジタル化は、取引にかかる時間や手間が省けるのがメリットです。依頼者と対面で会う必要がなく、オンライン上で契約手続きを完結できるようになります。また、書類の押印や郵送が不要になるため、事務手続きの効率化が期待できます。 印紙税の節税になる 不動産取引では、取引金額が大きくなるほど印紙税の負担が増える仕組みになっています。しかし、書類を電子化して紙の書面を発行しない場合は印紙税が発生しません。不動産取引のデジタル化を進めれば、印紙税の節税になります。 コスト削減が期待できる 不動産取引では、さまざまな書類のやり取りが発生します。関連書類を電子化すれば、書類の郵送料や保管スペース、ファイリング業務が不要となります。閲覧したい書類は検索ですぐに見つけられるため、業務の効率化や書類管理コストの削減につながります。 宅建業法改正が不動産取引に与える影響 今回の宅建業法改正により、不動産取引のデジタル化が加速する可能性があります。ITを活用した重要事項説明(IT重説)は、すでに2017年10月から不動産賃貸で運用が開始されています。2021年4月からは不動産売買においても認められました。 従来はIT重説でも契約は対面や郵送で行う必要がありましたが、今回の宅建業法改正で交付書面の電子化が可能となり、不動産事業者との契約がデジタルで完結できるようになりました。不動産取引のデジタル化は「契約手続きの簡素化」「コストの削減」など、不動産事業者にとって大きなメリットがあります。 一方で、デジタル化を進めるにはITシステムだけでなく、業務のオペレーションの整備が必要です。個人情報の流出を防ぐため、セキュリティ対策にも取り組まなくてはなりません。ITのノウハウを持たない中小不動産業者の場合、自社だけでデジタル化を進めるのが難しいケースがほとんどでしょう。 また、不動産業界は対面での説明や紙の書面交付が一般的であるため、長年の商慣行が変わるか不透明な部分もあります。制度開始直後は、トラブルが起こる可能性もあるため、今回の宅建業法改正が不動産取引に与える影響を注視することが大切です。 なお、ITを活用した重要事項説明や書面の電子化については、不動産事業者に向けて国土交通省がマニュアルを公表しています。不動産取引のデジタル化を進める際の参考にするといいでしょう。 出典)国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」 まとめ 2022年宅建業法改正によって宅建士の押印義務が廃止され、交付書面の電子化も可能となりました。今回の改正によって不動産取引のデジタル化が加速するかもしれません。不動産事業者は変化にすばやく対応できるように、不動産取引に与える影響を注視しておくと良いでしょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 物件の仕入れは資金確保とネットワークが重要?! ーー不動産事業者インタビューvol.1(1) ひとくちに不動産業といっても、さまざまな事業分野があります。その中でも、不動産の物件の仕入れというのは、もっとも基本的かつ重要な業務といえるでしょう。どうすれば優良な物件を入手することができ...記事を読む