経済的な負担を軽減するために、年金受給が始まる65歳以降も働き続ける人が増えています。仕事をしながら老齢年金を受け取る場合、その年金額はどのように計算するのでしょうか。この記事では、在職老齢年金の仕組みや年金額の計算方法、確定申告の必要性について解説します。 在職老齢年金制度とは 在職老齢年金制度とは、一定以上の収入を得ている60歳以上の人が老齢厚生年金を受け取る際に、年金額や給与・賞与の額に応じて年金の一部または全部が支給停止となる仕組みです。この制度には、主に次の2つの目的があります。 年金が支給されている人が働いても不利にならないようにする 現役世代とのバランスから、一定以上の賃金を得ている人には年金制度の支え手に回ってもらう 在職老齢年金制度とは厚生年金に加入しながら働く人、厚生年金の加入事務所で70歳以降も働く人を対象とした制度のため、個人事業主やフリーランスは対象外です。また、支給停止となるのは老齢厚生年金のみで、老齢基礎年金(国民年金)は給与等にかかわらず全額受給できます。 出典) ・日本年金機構「在職中の年金(在職老齢年金制度)」 ・日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ」 公的年金(国民年金・厚生年金)の仕組みについては、以下の記事で詳しく説明しています。 関連記事はこちら公的年金の仕組みとは?国民年金・厚生年金の基礎知識を解説 定年後の就業者数が増加 内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、労働力人口比率の推移は下図のとおり増加傾向にあります。 出典)内閣府「令和6年版高齢社会白書」 令和5年(2023年)は65~69歳が53.5%、70~74歳が34.5%、75歳以上が11.5%となりました。 年金は原則65歳から受給開始となります。しかし、65歳以降も働き続ける人は増加傾向にあり、60代後半は男性の6割以上、女性の4割以上が就業している状況です。この結果から、年金を受け取りながら働く人は増えているといえるでしょう。 在職老齢年金の計算方法 以下は、在職老齢年金の計算方法のフローチャートです。 ※令和6年度の支給停止調整額 出典)日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」 <用語説明> ・基本月額:老齢厚生年金の月額(加給年金額を除く) ・総報酬月額相当額:(その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12 老齢厚生年金と給与等の合計が50万円(支給停止調整額)以下であれば、老齢厚生年金は全額受給できます。50万円を超える場合は、上記の計算式に基づいて老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。 <具体例:給与等50万円(月額:賞与含む)、老齢厚生年金14万円(月額)の場合> (50万円+14万円-50万円)÷2=7万円 ※老齢厚生年金14万円のうち7万円が支給停止となる(老齢基礎年金は全額受給できる) なお、令和4年(2022年)3月以前の65歳未満の年金支給停止基準は28万円でしたが、制度改正によって、令和4年4月以降は65歳以上と同じ基準に見直されました。 出典) ・日本年金機構「働きながら年金を受給する方へ Bさんの場合」 ・日本年金機構「令和4年4月から年金制度が改正されました」 支給停止期間や支給停止額の変更時期 在職老齢年金の支給停止期間は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額(令和6年度は50万円)を超えている期間です。なお、支給停止調整額は年度が切り替わるタイミングで変更される場合があります。 支給停止額の変更時期は、総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月となります。ただし、退職日の翌月については、退職後1カ月以内に再就職して厚生年金に加入した場合を除きます。 老齢年金を受給した際の確定申告の要否 働きながら年金を受け取る場合、確定申告が必要なのか気になる人もいるでしょう。 老齢年金は、所得税法の「雑所得」として課税対象となりますが、一定額以上を受給するときは税金が源泉徴収されます。次の2つの要件にすべて当てはまる場合は、「確定申告不要制度」によって確定申告を行う必要がなくなります。 <確定申告不要制度の対象者> ・公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、その全部が源泉徴収の対象 ・公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下 確定申告不要制度の対象であっても、医療費控除の適用などにより所得税の還付を受ける場合は確定申告が必要です。 出典)政府広報オンライン「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」 また、参考までに老齢年金の税金に関するよくある質問を紹介します。 老齢年金の受給額と所得税の課税基準 老齢年金は、雑所得として所得税の課税対象となります。65歳未満でその年の支払額が108万円以上、65歳以上で158万円以上の場合は原則として所得税がかかり、支払時に源泉徴収されます。 しかし、これらの金額を超える場合でも、65歳未満で月額9万円まで、65歳以上で月額13.5万円までの受給額の場合は所得税が差し引かれません。 出典) ・日本年金機構「Q年金から税金が差し引かれています。どうしてですか。」 ・日本年金機構「Q年金から税金が差し引かれていません。どうしてですか。」 年金に課される所得税の計算方法 年金から差し引かれる税金は、支払う年金額から社会保険料や住民税など各種控除を行った残額に5%(復興特別所得税を含めて5.105%)の税率を掛けて計算します。年金から各種控除を受けるには、年金受給者に送付される「扶養親族等申告書」に必要事項を記入して提出する必要があります。 出典)日本年金機構「年金から差し引かれている税金の計算方法を教えてください」 まとめ 年金を受け取りながら会社で働く場合、老齢厚生年金と給与・賞与の月額合計が50万円を超えると、在職老齢年金制度によって老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。老齢基礎年金は制度対象外のため、給与等にかかわらず全額受給できますが、老齢厚生年金は繰下げ受給ができないため、どのくらい働くかを決めることも重要になります。 経済的な不安を解消し、より豊かな老後生活を送るためにも、在職老齢年金制度への理解を深めておきましょう。 老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説 老齢年金は、老後の生活を支える重要な収入源です。公的年金に加入している人は、一定の年齢に達すると老齢年金を受け取れます。老齢年金はどんな仕組みで、いくら受け取れるのでしょうか。 この記事では...記事を読む 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。
ねんきんネットは、自身の年金情報をインターネットで簡単に確認できるサービスです。将来の年金見込額もわかるので、老後の資金計画を立てるのに役立ちます。うまく使いこなせば、将来のお金に対する不安を解消できるでしょう。 この記事では、ねんきんネットでできることや年金見込額を調べる手順、注意点を紹介します。 ねんきんネットとは ねんきんネットとは、インターネットを通じて自身の年金情報を手軽に確認できるサービスです。日本年金機構が運営しており、パソコンやスマートフォンから年金に関するさまざまな情報を閲覧できます。 日本年金機構のホームぺ―ジまたはマイナポータルから登録すれば、すぐに利用可能です。 ねんきんネットの利用対象者は、基礎年金番号を持っている人です。ただし、1986年(昭和61年)4月以前に年金受給権が発生した老齢年金受給者は利用できません。 ねんきんネットでできること ねんきんネットでは、将来の年金見込額や年金記録をはじめ、年金に関するさまざまな手続きができます。具体的には以下のとおりです。 将来の年金見込額の確認 ねんきんネットには、将来の年金額を試算する機能が2つあります。 かんたん試算:現在の加入条件が60歳まで継続すると仮定して見込額を自動的に試算 詳細な条件で試算:職業、収入および期間、受給開始年齢などの条件を入力して試算 試算結果では、年齢ごとの年金見込額や金額の内訳を表やグラフで確認できます。まずは「かんたん試算」で大まかに試算したうえで、必要に応じて「詳細な条件で試算」も利用してみましょう。 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による年金見込額試算」 年金記録の確認 「年金記録の確認」機能では、「国民年金や厚生年金の加入履歴」「国民年金保険料の納付状況」などの最新の記録が確認できます。 加入していた年金制度の種類や納付状態が月別に記録されており、確認が必要と思われる月はアイコンなどでわかりやすく表示されます。 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」によるご自身の年金記録の確認」 「ねんきん定期便」「通知書」の内容確認 ねんきん定期便とは、毎年誕生月に保険料納付の実績や将来の年金給付に関する情報をハガキや封書で通知するものです。 ねんきんネットを使うと、電子版「ねんきん定期便」をダウンロードできます。パソコンやスマートフォンから内容を確認できるので、紛失の心配がありません。 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による電子版「ねんきん定期便」」 また、以下の通知書もねんきんネット内で確認できます。 年金振込通知書 年金支払通知書 年金額改定通知書 年金決定通知書、支給額変更通知書 公的年金等の源泉徴収票 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による年金支払いに関する通知書の確認」 通知書の再交付申請 ねんきんネットでは、以下の通知書の再交付申請が可能です(本人分のみ)。 年金振込通知書 公的年金等の源泉徴収票 支給額変更通知書 年金額改定通知書 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書 年金事務所などに訪問する必要がないため便利です。 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による通知書再交付申請」 届書の作成 ねんきんネットを使って、年金の手続きで必要となる各種届書を作成できます。作成したい届書を選択し、必要な情報を入力して自宅のプリンターで印刷する仕組みです。基礎年金番号などの情報が自動で反映されるため、作成の手間を省くことが可能です。ただし、電子申請ではないため、印刷して作成した届書は最寄りの年金事務所へ提出する必要があります。 具体的には、以下の届出書を作成することができます。 国民年金保険料に関する届書 年金を請求している方、受給している方向けの届書 年金を受給している方が亡くなったときの届書 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による届書作成」 持ち主不明記録検索 持ち主不明記録検索とは、国が保存している年金記録のうち、現在持ち主がわからなくなっているものを検索できる機能です。例えば、年金加入状況に記録漏れがあった場合に、持ち主不明記録検索で自身のものと思われる記録がないかを確認する、といった活用法が考えられます。検索条件と一致する年金記録があった場合は、最寄りの年金事務所などが調査を行い、探している年金記録と本当に合致しているかを判断します。 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による持ち主不明記録検索」 通知書のペーパーレス化 マイナポータルからねんきんネットを利用すると、日本年金機構から送付される以下の通知書のペーパーレス化が可能です。 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書 公的年金等の源泉徴収票 ねんきんネットにログインし、トップページの「通知書のペーパーレス化(入力)」で設定を行うと、マイナポータルの「お知らせ」で電子データを受け取れます。 出典)日本年金機構「通知書の電子データをマイナポータルで受け取る設定」 ねんきんネットで年金見込額を調べる手順(画像付き) ここでは、ねんきんネットで将来の年金見込額を調べる手順を画像付きで説明します。なお、手順の説明に用いる画像はすべて日本年金機構のホームページからの引用です。 ▼まずはねんきんネットにログインし、トップページにある「将来の年金額を試算する」を押しましょう。 ▼次に「かんたん試算」を選びます。「詳細な条件で試算」を選び、職業などの条件を入力して試算することも可能です。 ▼試算条件を確認し、問題がなければ「試算する」ボタンを押します。 ▼年金見込額が表示されました。「金額の内訳」ボタンを押すと、年金見込額(月額)の詳細内容を確認できます。 出典)日本年金機構「「ねんきんネット」による年金見込額試算」 ねんきんネットの2つの利用登録方法 ねんきんネットは、以下2つの利用登録方法があります。 マイナポータルと連携する ユーザIDを取得する マイナンバーカードがある場合は、マイナポータルにログインするとねんきんネットにアクセスできます。マイナポータルにログインし、トップページにある「年金記録・見込額を見る(ねんきんネット)」を押して利用規約等に同意すると連携されます。 マイナンバーカードがない場合は、基礎年金番号とメールアドレスを用意し、ねんきんネットにアクセスしてユーザIDを取得しましょう。「ねんきん定期便」などに記載されている「アクセスキー」があると、ユーザIDの即時発行が可能です。 ねんきんネットを利用する際の注意点 ねんきんネットを利用する際の注意点は以下の2つです。 第三者との共有PCを使わない 利用端末のセキュリティ対策を行う ねんきんネットでは、年金記録という重要な情報を扱うため、第三者による不正利用を防ぐ必要があります。 入力・閲覧した情報が残ってしまうことがあるので、第三者との共有PCを使わないことが大切です。また、利用端末から情報が流出しないようにセキュリティ対策を行いましょう。 まとめ ねんきんネットを利用すれば、年金記録や年金見込額を簡単に確認できます。また、電子版「ねんきん定期便」の確認、届書の作成、通知書のペーパーレス化なども可能です。 公的年金は老後の重要な収入源となるので、今のうちにねんきんネットの使い方を押さえておきましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 公的年金の仕組みとは?国民年金・厚生年金の基礎知識を解説 公的年金は、国民が安心して日常生活を送るために不可欠な制度です。老後だけでなく、病気・ケガで障害が残ったときや加入者が死亡したときも給付を受けられます。老後生活に備えて公的年金の仕組みについ...記事を読む
老齢年金は、老後の生活を支える重要な収入源です。公的年金に加入している人は、一定の年齢に達すると老齢年金を受け取れます。老齢年金はどんな仕組みで、いくら受け取れるのでしょうか。 この記事では、老齢年金の受給要件や年金額、請求手続きについて詳しく解説します。 老齢年金とは 老齢年金とは、公的年金制度の加入者だった人に対して老後の保障として給付される年金です。原則65歳から支給開始となり、一生涯受け取れます。ただし、保険料納付済期間と保険料免除期間などを足した資格期間が10年以上あることが受給要件となります。 老齢年金は、加入していた年金制度により、国民年金の「老齢基礎年金」と厚生年金保険の「老齢厚生年金」の2種類が支給されます。 老齢基礎年金 老齢基礎年金は、国民年金もしくは厚生年金保険や共済組合等に加入していた人が受け取れます。20歳から60歳になるまでの40年間の国民年金加入期間などに応じて年金額が計算されます。 国民年金保険料を納付した期間のほか、会社員として厚生年金に加入していた期間や保険料の免除を受けた期間も年金額の計算に含まれます。 原則65歳から受給開始ですが、60歳から75歳の間で受給開始年齢を選択する「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢厚生年金 老齢厚生年金は、会社員や公務員など厚生年金保険や共済組合等に加入していた人のみが対象です。厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて年金額が計算されます。老齢厚生年金も原則65歳から受け取ることができ、老齢年金と同様に「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。 老齢年金の受給要件(資格期間) 老齢年金を受給するには、10年以上の資格期間が必要となります。資格期間とは、以下3つを合計した期間のことです。 保険料納付済期間 保険料免除期間 合算対象期間 国民年金保険料を納めた期間や厚生年金加入期間はもちろん、国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた期間も資格期間に含まれます。厚生年金加入期間は、加入した月から加入をやめた日(退職日の翌日など)の前月までの月単位で計算します。 合算対象期間は、海外在住者が国民年金に任意加入しなかった期間、または任意加入したが保険料を納付しなかった期間などが該当します。保険料免除期間や合算対象期間は資格期間の対象にはなりますが、年金額には反映されない点に注意が必要です。 老齢年金の年金額 老齢年金の年金額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金で異なります。 老齢基礎年金は、保険料の納付状況に応じて年金額が決定され、20歳から60歳の40年間の保険料をすべて納めると、満額の年金を受け取れます。令和5年度(2023年度)の年金額(満額)は年795,000円(月66,250円)です。 老齢厚生年金は、「報酬比例部分」と「定額部分」の合計が年金額となります。 報酬比例部分は、平均報酬月額に一定の給付率と加入期間の月数を乗じて計算します。定額部分は「1,657円×被保険者期間の月数」で計算します。ただし、昭和31年4月1日以前に生まれた方は、1,652円となります。老齢厚生年金は基本的に収入が高く、加入期間が長い人ほど年金額は増えます。 令和3年度(2021年度)の老齢年金受給者の平均年金月額は、国民年金の56,479円に対し、厚生年金は145,665円です。 厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあるため、65歳から老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。国民年金のみの自営業者に比べて、厚生年金に加入する会社員の年金額は手厚い傾向にあります。 出典)厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 老齢年金の請求手続き 老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取るには請求手続きが必要です。手続きの流れは下記のとおりです。 「年金請求書」が自宅に届く 「年金請求書」を年金事務所や市区町村に提出する 「年金証書」「年金決定通知書」などが自宅に届く 1~2ヵ月後に年金の受け取りが開始される 老齢年金の受給権が発生する年の誕生月の約3ヵ月前に、日本年金機構などから年金請求書が届きます。必要事項を記入して、受給開始年齢の誕生日の前日以降に提出しましょう。 提出先は、年金加入期間が国民年金のみの人は住所地のある市区町村、それ以外の人は最寄りの年金事務所です。 請求時には、戸籍抄本や住民票などの添付書類が必要です。同封されているパンフレットを確認し、添付書類を準備しましょう。年金請求書の提出から1ヵ月程度で年金証書や年金決定通知書が届き、その約1~2ヵ月後に年金の受給が開始されます。 年金の請求をせず、年金を受けとれるようになったときから5年を過ぎると、5年を過ぎた分の年金については時効により受け取れなくなる恐れがあるので、注意しましょう。 出典)日本年金機構「年金の時効」 繰り上げ受給と繰り下げ受給 老齢年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば65歳より前に年金を受け取る「繰り上げ受給」、受給開始を65歳より後に受け取る「繰り下げ受給」も選択可能です。 繰り上げ受給は60歳から65歳の間に請求でき、「繰り上げた月数×0.4%」の年金額が減額されます。たとえば、60歳時点では最大で24%の減額となります。年金を早く受け取れますが、減額された年金額は生涯変わらない点に注意が必要です。 繰り下げ受給は65歳から75歳の間に請求でき、「繰り下げた月数×0.7%」の年金額が増額されます。たとえば、70歳時点では42%、75歳時点では84%の増額となり、増額された年金は生涯変わりません。65歳以降も一定の収入があり、当面は年金なしでも生活できるなら、繰り下げ受給を利用して年金額を増やすのも選択肢の一つでしょう。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 在職老齢年金 在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入して働きながら受け取る老齢厚生年金のことです。給与や賞与の額と老齢厚生年金の額によっては、年金の一部または全額が支給停止となる場合があります。 老齢厚生年金(比例報酬部分)の月額である「基本月額」と、給与や賞与をもとに計算する「総報酬月額相当額」の合計が48万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。 なお、「老齢基礎年金」は支給停止の対象外で全額支給されます。 まとめ 老齢年金は10年以上の資格期間が受給要件で、原則65歳から受け取れます。日本年金機構などから年金請求書が届いたら、忘れずに手続きを行うことが大切です。状況に応じて、繰り上げ受給や繰り下げ受給も検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む
公的年金は、国民が安心して日常生活を送るために不可欠な制度です。老後だけでなく、病気・ケガで障害が残ったときや加入者が死亡したときも給付を受けられます。老後生活に備えて公的年金の仕組みについて理解を深めておくことが大切です。 この記事では、公的年金の概要や受け取り方、注意点などの基礎知識を解説します。 公的年金の仕組み 公的年金とは、国が運営する年金制度です。日本では、20歳以上60歳未満のすべての人が公的年金に加入する「国民皆保険」を採用しています。 公的年金は、現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てる「世代間扶養」が基本です。保険料収入を基本財源とし、そこに国庫負担金(税金)を組み合わせる「社会保険方式」によって、安定的に年金を給付できる仕組みになっています。 公的年金は国民年金と厚生年金の2種類 公的年金は、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。 国民年金 国民年金とは、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金です。自営業や無職の人などは国民年金の保険料を自分で納める必要があります。 厚生年金 厚生年金とは、会社員や公務員が加入する公的年金です。厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者でもあります。厚生年金保険の被扶養者は、勤務先などの事業主が支払いを行うため、年金の加入者が保険料を直接納めることはありません。 公的年金の受け取り方は3種類 公的年金は老後だけでなく、障害や被保険者の死亡も給付対象です。具体的には、「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3種類があります。それぞれの内容は以下のとおりです。 老齢年金 老齢年金とは、公的年金の加入者が一定の年齢に達したときに一生涯受け取れる年金です。 国民年金は、受給資格期間が10年以上ある場合に65歳から老齢基礎年金が支給されます。年金額は保険料の納付状況によって計算され、40年間(20~60歳)の保険料をすべて納めると満額の老齢基礎年金を受け取れます。 厚生年金では、65歳から老齢基礎年金に上乗せして厚生老齢年金が支給されます。そのため、老齢基礎年金の受給資格があることが要件です。年金額は厚生年金加入時の報酬額や加入期間などに応じて計算されます。 関連記事はこちら老齢年金とは?受給要件や年金額、請求手続きについて解説 老齢基礎年金と老齢厚生年金は、どちらも受給開始年齢の「繰り上げ」や「繰り下げ」が可能です。繰り上げは、受給開始を60~65歳に早めることで年金額が減額されます。繰り下げは、受給開始を66~75歳に遅らせることで年金額が増額されます。 関連記事はこちら老齢年金の繰り上げと繰り下げ、どっちがお得? 障害年金 障害年金とは、病気やケガなどで生活や仕事が制限される場合に受け取れる年金です。国民年金からは「障害基礎年金」、厚生年金からは「障害厚生年金」が支給されます。年金額は、保険の種類や障害の程度、家族構成などによって変わります。 障害基礎年金は、以下のすべての要件を満たしているときに支給されます。 障害の原因となった病気・ケガの初診日が以下のいずれかに該当する 1. 国民年金加入期間 2. 20歳前または60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間 障害の状態が障害等級1級または2級に該当する 被保険者期間のうち3分の2以上の納付済み期間があること 障害厚生年金は、以下のすべての要件を満たしているときに支給されます。 障害の原因となった病気・ケガの初診日が厚生年金保険の被保険者である間 障害の状態が障害等級1級から3級に該当する 被保険者期間のうち3分の2以上の納付済み期間があり、直近1年以内に未納がないこと 出典)※詳細はこちら(日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」)をご確認ください。 遺族年金 遺族年金とは、公的年金の被保険者(または被保険者だった人)が亡くなったときに、その人に生計を維持されていた遺族が受け取れる年金です。年金額は、保険の種類や家族構成などによって変わります。遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。 遺族基礎年金では、「子のいる配偶者」と「子」に遺族基礎年金が支給されます。子は18歳到達年度の3月31日まで(または20歳未満で一定の障害状態にあること)が条件です。 遺族厚生年金の場合は、「①配偶者・子」「②父母」「③孫」「④祖父母」のうち、優先順位が最も高い遺族に遺族厚生年金が支給されます。もし亡くなった人に配偶者や子がいなければ、第2順位の父母が受け取ります。 公的年金の被保険者の分類 公的年金の被保険者は、働き方によって以下の3つに分類されます。 第1号被保険者 第1号被保険者は、自営業者や学生など国民年金のみに加入する人です。国民年金保険料は、納付書や口座振替を利用して自分で納めます。令和5年度(2023年度)の1ヵ月あたりの保険料は16,520円です。 第2号被保険者 第2号被保険者は、会社員や公務員などの厚生年金加入者です。厚生年金保険料は、事業主と加入者で半額ずつ負担します。保険料は給与や賞与から天引きされ、事業主が納めてくれるので、納付手続きは不要です。 第3号被保険者 第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている、20歳以上60歳未満の配偶者(年収130万円未満)です。保険料は、配偶者が加入する年金制度が負担するため、個別に納める必要はありません。 公的年金の注意点 公的年金について、以下の注意点を把握しておきましょう。 保険料を納めなければ受給できない 年金の受給資格を満たすには、保険料を納めなくてはなりません。厚生年金は給与や賞与から天引きされますが、国民年金は自分で納めるので納付漏れがないように注意が必要です。 保険料を納めるのが難しい場合は、最寄りの年金事務所で免除や納付猶予について相談し、自己判断での未納は絶対に避けましょう。保険料の納付状況については、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。 関連記事はこちら「ねんきんネット」はこんなに便利!使い方を詳しくご紹介 自営業者は老齢年金が少ない 国民年金のみの自営業者は、会社員(厚生年金加入者)に比べて老齢年金が少ない傾向にあります。老後の生活資金に不安がある場合は、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「国民年金基金」などの私的年金に加入して年金額を増やすことを検討しましょう。 関連記事はこちら個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 まとめ 公的年金は老後だけでなく、病気やケガ、配偶者の死亡で仕事や生活が制限される場合にも給付を受けられます。ただし、保険料を納めていないと年金を受け取れないため、納付漏れのないように注意が必要です。 老後やもしものときに安心して生活できるように、公的年金への理解を深めておきましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 夫婦の老後資金はいくら必要?足りない時の対処法も紹介 「人生100年時代」や「老後2,000万円問題」などに起因して、「老後資金」という言葉が注目を集めています。老後破産に陥らないためにも、夫婦で必要な老後資金を把握し、なるべく早くから準備して...記事を読む
老齢年金の受給開始年齢が近づいてくると、受給開始年齢の繰り上げや繰り下げを検討する人も多いのではないでしょうか。受給開始年齢を変更することで、受け取れる年金の見込み額は大きく変わります。 この記事では、受給開始年齢の変更でもらえる年金額が、どのように変わるのか解説します。 老齢年金制度について 老齢年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類があります。老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に、65歳から受け取れます。また、20歳から60歳になるまでの40年間の全期間保険料を納めた人は、65歳から満額の老齢基礎年金を受け取れます。 老齢厚生年金は、厚生年金の被保険者期間があって、老齢基礎年金を受け取るのに必要な受給資格期間を満たした人が65歳になったときに、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金を受け取れます。 出典)日本年金機構 老齢年金 老齢年金の受給開始年齢の変更と増減率 老齢基礎年金を65歳から受け取れる人は、月単位で65歳より前への繰り上げや66歳以後への繰り下げによる受給もできます。ただし、繰り上げた場合には受給額が減額され、繰り下げた場合には受給額が増額される点を考慮する必要があります。増減額される金額の詳細は、以下のとおりです。 <昭和37年4月1日以前生まれの場合> 繰り上げの減額率:(繰上げ請求月から65歳に達する日の属する月の前月までの月数)×0.005 繰り下げの増額率:(65歳到達月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.007 <昭和37年4月2日以降生まれの場合> 繰り上げの減額率:(繰上げ請求月から65歳に達する日の属する月の前月までの月数)×0.004 繰り下げの増額率:(65歳到達月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.007 出典) ・日本年金機構 65歳前に老齢年金の受給を繰上げたいとき ・日本年金機構 66歳以後に老齢年金の受給を繰下げたいとき 想定される老齢基礎年金額 前述のとおり、老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が10年以上である場合、65歳になったときに受け取れます。また、保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が10年に満たない場合でも、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が10年以上である場合には、老齢基礎年金を受け取れます。 なお、令和5年4月分からの年金額は満額の場合795,000円です。つまり、老齢基礎年金が満額もらえる場合に、想定される受け取れる年金の見込み額は下記の計算式によって求めることができます。 受け取れる老齢基礎年金の見込み額 = 795,000円 × 受給期間(年) 次項で具体的に計算していきましょう。なお、昭和37年4月2日以降生まれの場合を想定して計算します。 65歳から老齢基礎年金を受け取った場合 まずは、受給開始年齢を変更しなかった場合、もらえる年金額は795,000円です。しかし、受給期間が何年になるかはわからないため、ここでは男性と女性の平均寿命から計算していきます。 厚生労働省の発表する『令和4年簡易生命表』によると、平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳です。つまり、65歳から年金を受け取る場合、受給期間は男性が16.05年、女性が22.09年です。そして、前述の計算式によって、もらえる見込み額は下記のように求めることができます。 男性の場合:12,759,750円(795,000円 × 16.05年) 女性の場合:17,561,550円(795,000円 × 22.09年) 60歳から老齢基礎年金を受け取った場合 次に、受給開始年齢を60歳まで繰り上げた場合を考えます。60歳まで繰り上げた場合、繰り上げ年数は5年(60か月)のため、減額率は24%(0.004 × 60)です。つまり、老齢基礎年金額は604,200円(795,000円 × 76%)です。一方で、受給期間は5年長くなり、男性が21.05年、女性が27.09年となるので、もらえる見込み額は下記のように求めることができます。 男性の場合:12,718,410円(604,200円 × 21.05年) 女性の場合:16,367,778円(604,200円 × 27.09年) 70歳から老齢基礎年金を受け取った場合 最後に、受給開始年齢を70歳まで繰り下げた場合を考えます。70歳まで繰り下げた場合、繰り下げ年数は5年(60か月)のため、増額率は42%(0.007 × 60)です。つまり、老齢基礎年金額は1,128,900円(795,000円 × 142%)です。一方で、受給期間は5年短くなり、男性が11.05年、女性が17.09年となるので、もらえる見込み額は下記のように求めることができます。 男性の場合:12,474,345円(1,128,900円 × 11.05年) 女性の場合:19,292,901円(1,128,900円 × 17.09年) 出典) ・日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金 ・厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況 最もお得な選択は? これまで説明してきたように、受け取れる年金の見込み額はもらえる年金額と何歳までもらえるかという受給期間の二つの要素の掛け合わせによって決定します。仮に平均寿命まで生きると仮定した場合、上述の3つのシミュレーションを加味すると下記のような結果が得られます。 受給開始年齢別の受け取れる年金の見込み額(単位:円) 60歳からの受給65歳からの受給70歳からの受給 男性の場合(81.05歳)12,718,41012,759,75012,474,345 女性の場合(87.09歳)16,367,77817,561,55019,292,901 このように上記3つの受給開始年齢の選択の中では、男性の場合は受給開始年齢を変更しない時、女性は受給開始年齢を繰り下げた時に受け取れる年金の見込み額が最大であることがわかります。ただし、受給開始年齢は月ごとに変更できるため、何歳まで年金を受け取れるかによって、最大化される受給開始年齢が異なる点には注意が必要です。 受給開始年齢の選択と受け取れる年金の見込み額 下図は年金をいつから受け取るかによって、どのように受け取れる年金の見込み額が変化するかを表した図です。 ※筆者作成 図のように何歳まで年金を受け取れるかによって、受け取れる年金の見込み額は大きく異なります。シミュレーションすることで、下記のようなことがわかります。 75歳11か月まで年金を受け取る場合は、60歳から受給すると受け取れる年金の見込み額が最大である 96歳10か月以降も年金を受け取る場合は、75歳から受給すると受け取れる年金の見込み額が最大である 76歳~96歳9か月の間まで年金を受け取る場合は、寿命が長くなるほど、受給を遅らせると受け取れる年金の見込み額が最大になる 何歳まで年金を受け取るかにかかわらず、62歳6か月~66歳10か月(繰上30か月~繰下22か月)の間から受給した場合は、受け取れる年金の見込み額が最大になることはない まとめ いかがでしたでしょうか。年金を受け取るにあたって、受給期間が何年か仮定する事で、受け取れる年金の総額を最大化することは可能です。一方で、年金を請求する時点では、自身が何年間受け取れるかは誰にもわかりません。自身の貯蓄の状況や何歳まで働くかなどを加味して慎重に判断するようにしましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 老後の一人暮らしに生活費はいくら必要? 近年、未婚率の増加や子どもとの同居の減少により、一人暮らしの高齢者のは増えています。一人暮らしと言っても、未婚の独身者だけではなく、現在は家族と暮らしていても、配偶者との死別などで一人暮らし...記事を読む
自営業者やフリーランスは、会社員に比べて年金が少ないと言われています。しかし、国民年金に上乗せして国民年金基金に加入すれば、年金額を増やすことが可能です。 国民年金基金について名前は聞いたことがあっても、どんな制度なのかはよくわからないのではないでしょうか。国民年金基金にはデメリットもあるため、加入する前に特徴を理解しておくことが大切です。 そこでこの記事では、国民年金基金の仕組みやメリット・デメリットについて詳しく解説します。 国民年金基金とは 国民年金基金とは、自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者が安心して老後を過ごせるように、国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。掛金を納めた期間に応じた年金が将来支給されます。 国民年金のほかに厚生年金や企業年金に加入している会社員に比べると、国民年金のみに加入している自営業者の年金額は少ない傾向にあります。厚生労働省の資料によれば、2019年度の平均年金額は厚生年金が月額146,162円に対し、国民年金は月額56,049円です。 自営業者が国民年金基金に加入すれば、会社員との年金格差の解消が期待できます。 出典)厚生労働省「令和元年(2019年)度 厚生年金保険・国民年金事業の概況P8、P20」 国民年金基金に加入できる人 国民年金基金の加入資格は以下のとおりです。 20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者 60歳以上65歳以下または海外居住者で、国民年金に任意加入している人 上記要件を満たしていれば、学生や主婦でも加入可能です。しかし、国民年金保険料を免除されている人は、国民年金基金には加入できません。 国民年金基金の成り立ち 1980年代後半に国会で「自営業者にも2階建ての年金を整備すべき」との議論が行われ、1989年に国民年金基金制度の導入が決定し、1991年に施行されました。当初は全国47都道府県で地域型国民年金基金、25の業種で職能型国民年金基金が設立されました。 その後の2019年には、加入員・受給者の利便性向上や運営基盤の安定性を図るために全国国民年金基金が成立し、全国47都道府県の地域型国民年金基金と22の職能型国民年金基金が合併しました。 国民年金基金の運営状況 2020年度末の国民年金第1号被保険者数(任意加入を含む)は1,449万人です。それに対して、国民年金基金の加入員数は2003年度末の約78万人をピークに減少が続いており、現存加入員数は約34万人にとどまります。 国民年金基金連合会の運用報告書によれば、2020年度の運用実績は国内外の株価上昇などもあって、年度ベースの収益率は24.44%で、1997年以降の累積実績では年率4.24%の収益率です。また、2021年3月末時点の積立金の運用残高は4兆6,679億円です。 足元の収益率の上昇の一方で、責任準備金は直近10年以上の不足が続いており、財政状況が好調とは言い難い状態が続いています。このまま加入員数の減少や財政運営の悪化が続くようであれば制度が破綻する可能性も低いとは言えなくなる恐れがあります。 出典) ・厚生労働省「令和2年(2020年)度の国民年金の加入・保険料納付状況P1」 ・国民年金基金「事業の概況・状況(現存加入員数の状況)」 ・国民年金基金連合会「2020年度 運用報告書」 国民年金基金のメリット 国民年金基金には以下3つのメリットがあります。 終身年金である 国民年金基金は、65歳から一生涯受け取れる終身年金が基本です。掛金によって将来受け取る年金額が確定するため、老後の資金計画を立てやすいでしょう。 終身年金のほかに、受取期間が決まっている確定年金も用意されています。終身年金に確定年金を組み合わせるなど、ライフプランに合わせて年金額や受取期間を自由に設計できます。 掛金の上限額は月額68,000円で、加入後も口数単位で年金額や掛金額の増減が可能です。iDeCo(個人型確定拠出年金)と併用できますが、その場合は国民年金基金とiDeCoを合わせて月額68,000円が掛金の上限額となります。 万が一のときには家族に一時金が出る 国民年金基金の掛金は掛け捨てではなく、万が一早期に亡くなったときには家族に遺族一時金が支給されます。年金受給前や保証期間中に亡くなった場合は、保証期間に応じた一時金を遺族に残すことができます。 税制優遇がある 国民年金基金には以下3つの税制優遇があります。 掛金は全額社会保険料控除の対象 受け取る年金も公的年金等控除の対象 遺族一時金は全額非課税 掛金は全額が所得控除の対象となるため、確定申告によって所得税・住民税が軽減されます。将来受け取る年金には「公的年金等控除」が適用され、一定額までは非課税で受け取れます。万が一のときに支給される遺族一時金も全額非課税です。 国民年金基金のデメリット・注意点 国民年金基金には以下のようなデメリット・注意点もあります。 任意脱退、中途解約ができない 国民年金基金への加入は任意ですが、自己都合での脱退や中途解約はできません。途中で掛金を払えなくなった場合は、払い込みの一時中断が可能です。年金額は未納期間に応じて減額されます。未納分は後から納付することも可能です(納付可能期間は2年以内)。 なお、自己都合の解約は認められませんが、国民年金第1号被保険者でなくなるなど、加入資格を失う場合は脱退となります。脱退した場合は加入期間の長さを問わず、納めた掛金は将来年金として給付されます。 加入期間中の死亡時には、遺族一時金が掛金を下回ることがある 国民年金基金は年金受給前や保証期間満了前に死亡すると、遺族に一時金が支給されます。しかし、遺族一時金の額は掛金を下回ることがあります。そのため、あらかじめ加入前に遺族一時金の額を確認しておきましょう。 破綻リスクがある 国民年金基金は国民年金法に基づいて運営されている公的な制度ですが、解散する可能性もあります。 上述のように好調な相場環境もあって、直近では収益率や積立金の額は上昇しています。しかし、加入者数は減少が続いており、ピーク時の半分程度に落ち込んでいます。財政運営も一時的に回復していますが、令和2年度の責任準備金の不足分は約8,000億円となっており、今後の状況によっては破綻リスクもゼロとはいえません。 もし解散する場合は、解散時点の残余財産を加入員および受給者で分配することになっており、分配額はそれまで支払った掛金額を下回ることがあります。 まとめ 国民年金基金は一生涯受け取れる終身年金であり、税制優遇を受けられるのが魅力です。国民年金に上乗せして加入できるので、自営業者やフリーランスの年金対策として活用できます。 ただし、任意脱退や中途解約はできないので、メリット・デメリットをよく比較した上で加入を検討しましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...記事を読む
年金生活者支援給付金についてご存じでしょうか。この制度を利用することで、一定の条件を満たした方は、受け取れる年金の額が多くなる可能性があります。年金生活者支援給付金について知らない方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてください。 年金生活者支援給付金とは? 年金生活者支援給付金は、生活の支援を図ることを目的に、年金に一定額を上乗せして支給する制度です。本給付金を受けるためには、以下のような要件を満たさなければなりません。 年金を受給していること 所得が一定額以下であること 年金生活者支援給付金の給付対象 年金生活者支援給付金の給付対象は下記3種類の年金受給者です。 老齢基礎年金 障害基礎年金 遺族基礎年金 年金生活者支援給付金の給付額と受給要件について、年金の種類ごとに見ていきましょう。 老齢基礎年金 老齢基礎年金受給者における給付金は月額5,140円を基準に、保険料納付済期間等に応じて算出します。また、老齢基礎年金の受給者が年金生活者支援給付金を受けるための要件は以下のとおりです。 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること 同一世帯の全員が市町村民税非課税であること 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が878,900円以下であること 障害基礎年金 障害基礎年金受給者における給付金は障害等級2級が月額5,140円、障害等級1級が月額6,425円です。また、障害基礎年金の受給者が年金生活者支援給付金を受けるための要件は以下のとおりです。 障害基礎年金の受給者であること 前年の所得が4,721,000円以下であること* ※ただし、扶養親族等の数に応じて増額 遺族基礎年金 遺族基礎年金受給者における給付金は月額5,140円ですが、2人以上の子が受給している場合には、5,140円を子の数で割った金額です。また、遺族基礎年金の受給者が年金生活者支援給付金を受けるための要件は以下のとおりです。 遺族基礎年金の受給者であること 前年の所得が4,721,000円以下であること* ※ただし、扶養親族等の数に応じて増額 年金生活者支援給付金の留意事項 ここでは、年金生活者支援給付金を受けるにあたり、確認しておきたい留意事項をお伝えしていきます。 給付額の改定について 年金ごとの給付額については上述のとおりですが、こちらは令和5年10月時点の金額です。毎年物価の変動による改定が行われるため、確認するようにしましょう。なお、給付手続きをした後に、給付額の改定が行われると「年金生活者支援給付金支給金額改定通知書」が送られてきます。 給付金が受給できないケース 以下のようなケースでは、給付金は受給できません。 日本国内に住所がない 年金が全額支給停止されている 刑事施設等に拘禁されている 手続きできない人はどうする? 目が見えない方や認知症の方など、自筆で書くことが困難な場合には、代理人による代筆が認められています。また、耳や発生が不自由な方はファックスなどで問い合わせすることも可能です。 年金生活者支援給付金の手続き方法 年金生活者支援給付金は請求手続きしなければ受給できませんが、請求手続き自体は非常に簡単に済ませることが可能です。日本年金機構から送られる封筒の中に、はがき型の請求書が入っているので、太枠内の必要事項(提出日や氏名、電話番号のみ)を記入し、切手を貼って送付すれば手続き完了です。 請求書を紛失した場合の手続き 請求書を紛失した場合、日本年金機構のホームページからダウンロードできる請求書に必要事項を記入し、近隣の年金事務所に持参する形で手続きができますが、以下のような内容を記入しなければなりません。 マイナンバーまたは基礎年金番号 氏名 生年月日 住所 届出年月日 はがき型と比べると記入内容が増えますが、いずれにせよ簡単に手続きできます。なお、本人が窓口で手続きする場合はマイナンバーカードやマイナンバーの分かる書類、身元証明書などの書類が必要です。 請求に関するよくあるご質問 最後に、請求に関してよくある質問について見ていきましょう。 所得はどう証明するの? 給付金を受けるには、所得の条件を満たす必要があります。この所得の判定は、市町村から所得情報等の提供を受けて行われるため、基本的には書類の提出は不要です。ただし、所得情報等を確認できない場合には、別途提出しなければならないこともあります。 給付金請求書はいつ届くの? 給付金請求書は、令和5年分については9月1日より順次発送が開始されています。万が一手元に届いていない場合は給付金専用ダイヤルか近隣の年金事務所に問い合わせするとよいでしょう。 毎年手続きが必要なの? 一度給付金の手続きをした場合、給付金の要件を満たしていれば、2年目以降の手続きは原則不要です。ただし、一度給付金の手続きをしたものの、所得が増えた等の理由で給付金の支給が停止された方が、再度要件を満たした場合には、改めて支給手続きをしなければなりません。 まとめ この記事では、年金生活者支援給付金についてお伝えしました。この制度は、簡単な手続きで利用を開始できるので、要件を満たしているのにまだ給付金を受けていないという方は、本記事の内容を参考に、手続きを進めると良いでしょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...記事を読む
iDeCo(イデコ)は、公的年金だけでは不足する老後資金を準備するための制度です。iDeCoについて聞いたことはあっても、その特徴はよくわからない方もいるのではないでしょうか。iDeCoは2022年に制度改正が予定されているため、その内容を理解しておくことも大切です。 この記事では、iDeCoの仕組みやメリット・デメリット、加入手続きの流れ、制度改正の内容について詳しく解説します。 iDeCo(イデコ)とは iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自分で掛金を拠出し、商品を選んで運用する私的年金です。運用した掛金は、原則60歳以降に一時金または年金として受け取ることができます。 iDeCoには税制上の優遇措置が講じられており、一般的な貯蓄や運用では得られない節税効果が期待できるのが特徴です。公的年金(国民年金・厚生年金)に上乗せして加入できるため、老後資金を準備する手段として活用できます。 加入資格 iDeCoの加入資格は以下のとおりです。 自営業者や会社員、公務員など多くの人が加入対象となっています。ただし、会社員は勤務先の年金制度によっては加入できない場合があります。詳しくは、勤務先の担当者に確認するといいでしょう。 出典)iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の仕組み 掛金の上限額 iDeCoの掛金額は、加入資格に応じて以下のように上限額が決まっています。 加入資格掛金の上限額 自営業者月額6.8万円(年額81.6万円)※国民年金基金または付加保険料との合算 企業年金がない会社員月額2.3万円(年額27.6万円) 企業型DCに加入している会社員月額2.0万円(年額24.0万円) DB(確定給付年金)のみに加入している会社員DBと企業型DCに加入している会社員公務員等月額1.2万円(年額14.4万円) 専業主婦(夫)月額2.3万円(年額27.6万円) 国民年金のみの自営業者は、会社員や公務員に比べて掛金の上限額が大きくなっています。ただし、国民年金基金または国民年金付加保険料との合算となる点に注意が必要です。たとえば、付加年金に加入している場合、iDeCoの掛金上限額は月額6.7万円となります。 iDeCoは月々5,000円から始められ、1,000円単位で自由に設定できます。掛金額は1年(12月分~翌年11月分)に1回のみ変更可能です。 運用商品 iDeCoは、金融機関が提示する運用商品の中から、自分で商品を選んで運用する必要があります。運用商品は投資信託が中心ですが、定期預金や保険などの元本保証商品も用意されています。 運用商品を選定する際は、自分の運用方針に沿って配分比率(どの商品に掛金の何%を振り向けるか)を決めます。 掛金の給付 iDeCoの掛金は、原則として60歳以降に老齢給付金として受け取れます。受け取り方法は以下3つから選択可能 です。 一時金として一括で受け取る 年金として受け取る 一時金と年金を組み合わせて受け取る 一時金は、70歳までの間に受け取ります。年金は、5年以上20年以下の期間で金融機関(運営管理機関)が定める方法で受け取ることになります。金融機関によっては、一時金と年金を組み合わせて受け取ることも可能です。 iDeCoの通算加入期間が10年以上の場合は、60歳から受給を開始できます。通算加入期間が10年に満たない場合は、加入期間に応じて受給開始年齢が61~65歳に繰り下げられます。 出典)iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の給付(受取方法)について 年金制度間の移換(ポータビリティ) iDeCoは、転職や離職の際に年金制度間での移換(ポータビリティ)が可能です。たとえば、会社員から自営業者になる場合、加入していた企業型DCやDBの資産をiDeCoに持ち運ぶことができます。移換手続きについては、金融機関の窓口で相談しましょう。 iDeCoの3つの節税メリット iDeCoは税制上の優遇措置が講じされており、節税効果が高いのが魅力です。具体的には、以下3つの節税メリットがあります。 掛金は全額所得控除 iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税と住民税が軽減されます。たとえば、掛金額が月額1万円で、所得税率と住民税率がそれぞれ10%だとすると、年間2.4万円の節税となります。 ただし、もともと税金を払っていない専業主婦(夫)は、所得控除のメリットを受けられないので注意が必要です。 自営業者は、国民年金基金連合会が発行する「小規模企業共済等掛金払込証明書」を使って確定申告を行いましょう。会社員は勤務先で年末調整を受けることが可能です。 運用益は非課税 投資信託などの金融商品の利益には、通常約20%の税金がかかります。しかし、iDeCoの運用益は非課税であるため、税金はかかりません。通常なら差し引かれる税金分を投資に回せるので、効率的に資産を増やせます。 受取時は所得控除の適用対象 iDeCoは、60歳以降に給付を受け取るときにも所得控除が適用されます。一時金で受け取るときは「退職所得控除」、年金の場合は「公的年金等控除」が適用されるため、一定額は非課税になります。 受け取り方法によって控除額が変わるため、状況に応じて有利な方法を選択することが大切です。自分で判断できない場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。 出典)iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の3つの税制メリット iDeCoのデメリット・注意点 iDeCoは老後資金づくりに適した制度ですが、以下のようなデメリット・注意点もあります。 原則60歳まで引き出せない iDeCoの掛金は原則60歳まで引き出せません。掛金を無理に増やすと、手元資金が不足する恐れがあります。将来への備えは大事ですが、無理のない範囲で掛金を設定することが大切です。 運用成績によっては給付額が減少する iDeCoは、運用成績によって将来もらえる給付額が変動します。投資信託には価格変動リスクがあるので、運用がうまくいけば給付額は増えますが、資産価格の下落によって元本割れする可能性もあります。 運用のリスクを軽減するには、国内外の資産に分散投資ができる低コストの投資信託を選び、短期の値動きに一喜一憂せずに積み立てを長く続けることが大切です。 金融庁の資料によれば、資産や地域を分散した積立投資を長期間続けることで、結果的に元本割れの可能性が低くなる傾向にあります。どうしても元本割れを避けたい場合は、定期預金などの元本保証商品を検討しましょう。 出典)金融庁「つみたてNISA早わかりガイドブック」 手数料がかかる iDeCoは加入時や運用期間中に手数料がかかります。手数料は国民年金基金連合会に支払うものと、金融機関(運営管理機関)に支払うものの2種類があります。国民年金基金連合会の手数料は以下のとおりです。 加入・移換手数料(初回1回のみ):2,829円 加入者手数料(掛金納付の都度):105円 金融機関の手数料は、各機関によって異なります。比較検討した上で、なるべく手数料が安い金融機関を選ぶといいでしょう。 出典)iDeCo公式サイト 国民年金基金連合会の手数料について 金融機関によって運用商品が異なる iDeCoは投資信託や定期預金、保険商品などで運用できますが、金融機関によって運用商品の種類や数が異なります。特に投資信託は、商品によって投資対象資産や手数料(信託報酬など)に違いがあります。 複数の金融機関を比較して、自分の運用方針に合った商品を扱っている金融機関を選びましょう。iDeCoの金融機関は途中で変更も可能です。 iDeCoの加入手続きの流れ iDeCoの加入手続きの流れは以下のとおりです。 事前準備を行う 取扱金融機関へ申込書類を提出する ID・パスワードを受け取る 運用開始 まずは加入資格を確認し、掛金額や運用方針を決めます。複数の金融機関に資料請求を行い、手数料や商品ラインナップを比較しましょう。加入する金融機関が決まったら、申込書類を提出して加入手続きを行います。 国民年金基金連合会で確認・手続きが完了すると、加入者サイトにログインするためのID・パスワードが発行され、運用が開始されます。手続きについてわからないことがあれば、金融機関のコールセンターなどに確認しましょう。 企業型DC加入者は注意! 企業型DCに加入している会社員がiDeCoに加入するには、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金、これらの合計額について以下の要件を満たす必要があります。 企業型DCに加入している人がiDeCoに加入する場合企業型DCとDBに加入している人がiDeCoに加入する場合 企業型DCの事業主掛金(①)55,000円以内27,500円以内 iDeCoの掛金(②)20,000円以内12,000円以内 合計(①+②)55,000円以内27,500円以内 実際にiDeCoへの加入を検討する場合は、まず勤務先の担当者に確認するといいでしょう。 出典)厚生労働省「令和4(2022)年10月から企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります」 iDeCoの制度改正予定 iDeCoは法改正により、2024年12月1日から以下の制度変更が予定されています。 掛金上限の見直し 現状企業型DCやDBなどに加入している人がiDeCoにも加入する場合、iDeCoの掛金上限は12,000円となっています。この上限が、2024年12月1日より20,000円まで引き上げられることが決まっています。 ただし、企業型DC、DB、iDeCo等の合計金額の上限は55,000円です。そのため、iDeCo以外の制度での掛金合計額が35,000円を超えてしまう場合には、iDeCoの掛金の上限が20,000円を下回ってしまうので、注意が必要です。 出典)iDeCo公式サイト「2022年の制度改正について」 まとめ iDeCoは「掛金が全額所得控除」などの税制優遇があり、節税効果が高いのが魅力です。原則60歳まで掛金を引き出せませんが、公的年金だけでは不足する老後資金を確保できます。老後の生活費に不安がある場合は、iDeCoの活用を検討しましょう。 執筆者紹介 大西 勝士(Katsushi Onishi) 金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。 <運営ブログ> https://www.katsushi-onishi.com/ 個人事業主などの自営業者は年金が少ない?年金対策も解説 個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が...記事を読む
個人事業主などの自営業者は、会社員に比べて年金が少ないと言われます。しかし、具体的にはどのくらい異なるのでしょうか。年金額が少ないと言われる理由は、自営業者と会社員では、適用される年金制度が異なるためです。 この記事では、個人事業主などの自営業者がもらえる年金額や年金対策について解説します。 自営業者の年金制度 個人事業主などの自営業者の年金は、基本的に国民年金のみです。日本に住んでいる20歳以上60歳未満の自営業者は、国民年金の第1号被保険者に該当します。 国民年金保険料は、収入や所得に関係なく1ヵ月あたり16,520円(令和5年度)で、国民年金に加入することで以下のような給付を受けられます。 老齢基礎年金 障害基礎年金 遺族基礎年金 第1号被保険者の独自給付(付加年金・寡婦年金・死亡一時金) 短期在留外国人の脱退一時金 出典)国民年金に加入することで受けられる給付の種類 一方、会社員は勤務先で厚生年金に加入します。厚生年金保険料は給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)の18.3%で、被保険者(従業員)と事業主との折半負担となっています。厚生年金には国民年金が含まれるため、同一加入期間であれば、会社員のほうが年金額は多いでしょう。 出典)日本年金機構「国民年金保険料」 年金制度の基礎知識 日本の年金制度は下図のような3階建て構造になっています。 図:年金制度の仕組み ※著者作成 まず、被保険者については以下のとおり3種類に分類されます。 第1号被保険者 日本国内に在住の20歳以上60歳未満の自営業者、農業者、学生および無職の人とその配偶者(厚生年金保険や共済組合等に加入しておらず、第3号被保険者でない人)。 第2号被保険者 厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の人(65歳以上の老齢基礎年金などを受ける権利を有している人は除く)。 第3号被保険者 第2号被保険者に扶養されている配偶者で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の人(厚生年金保険の加入要件にあてはまる人を除く)。 1階部分の国民年金は、日本在住の20歳以上60歳未満の人はすべて加入する公的年金のひとつで、「基礎年金」とも呼ばれます。 2階部分は、1階部分に上乗せされて支払われる公的年金で、第2号被保険者を対象とした厚生年金と、厚生年金に加入できない第1号被保険者のために創設された国民年金基金が該当します。なお、国民年金基金は任意加入であることから、3階部分と解釈される場合もあります。 3階部分は私的年金にあたり、任意で加入することによって1階、2階から更に上乗せして加入できる年金です。確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金などが該当します。 出典)日本年金機構「国民年金の「第1号被保険者」、「第3号被保険者」とは何ですか。」 自営業者の年金はいくら? 個人事業主などの自営業者が受け取る老齢基礎年金は、令和6年度に満額受け取れる場合、月額68,000円(令和5年度は66,250円)です。 日本年金機構の主要統計(令和4年度版)によると、国民年金の平均年金月額は55,422円となっています。一方で、厚生年金の平均年金月額は144,982円です。このように、国民年金と厚生年金では年金額に2.6倍程の差があることがわかります。 出典) ・日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」 ・日本年金機構「日本年金機構の主要統計(令和4年度版)」 老齢基礎年金の算出方法 老齢基礎年金は、保険料の納付済期間と免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に65歳から支給されます。40年間(20~60歳)すべての保険料を納めると、老齢基礎年金を満額受け取れます。保険料を全額免除された期間は年金額が2分の1、半額免除は4分の3で算出します。 将来もらえる年金見込額を知りたい場合は、日本年金機構の「ねんきんネット」を利用するか、最寄りの年金事務所に確認しましょう。 出典)日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法」 関連記事はこちら「ねんきんネット」はこんなに便利!使い方を詳しくご紹介 自営業者が受け取れるその他の年金 公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準額以下の場合、生活支援を目的に以下の給付金が年金に上乗せして支給されます。(令和5年時点) 老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金 老齢年金生活者支援給付金は、以下の支給要件をすべて満たす人に支給されます。 65歳以上の老齢基礎年金の受給者 同一世帯の全員が市町村民税非課税 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が881,200円以下 関連記事はこちら年金生活者支援給付金とは?給付対象や手続き方法を解説 出典)日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」 障害年金生活者支援給付金 障害年金生活者支援給付金は、以下の支給要件をすべて満たす人に支給されます。 障害基礎年金(※1)の受給者 前年の所得(※2)が「4,721,000円+扶養親族の数×38万円(※3)」以下 ※1 旧法の障害年金、旧共済の障害年金であって、政令で定める年金についても対象です。 ※2 障害年金等の非課税収入は、年金生活者支援給付金の判定に用いる所得には含まれません。 ※3 同一生計配偶者のうち70歳以上の者または老人扶養親族の場合は48万円、特定扶養親族または16歳以上19歳未満の扶養親族の場合は63万円となります。 障害年金などの非課税収入は、前年の所得には含まれません。所得基準額は扶養親族の人数に応じて変動します。給付額は、障害等級1級が月額6,638円、2級が月額5,310円です。 出典)日本年金機構「障害年金生活者支援給付金の概要」 遺族年金生活者支援給付金 遺族年金生活者支援給付金は、以下の支給要件をすべて満たす人に支給されます。 遺族基礎年金の受給者 前年の所得(※1)が「4,721,000円+扶養親族の数×38万円(※2)」以下 ※1 遺族年金等の非課税収入は、年金生活者支援給付金の判定に用いる所得には含まれません。 ※2 同一生計配偶者のうち70歳以上の者または老人扶養親族の場合は48万円、特定扶養親族または16歳以上19歳未満の扶養親族の場合は63万円となります。 所得基準額などの考え方は障害年金生活者支援給付金と同様で、給付額は月額5,310円です。ただし、2人以上の子が遺族基礎年金を受給している場合は、5,310円を子の人数で割った金額がそれぞれ支給されます。 出典)日本年金機構「遺族年金生活者支援給付金の概要」 自営業者の年金対策 会社員より年金が少ない自営業者は、どのような対策を取ればよいのでしょうか。ここでは、自営業者ができる年金対策を4つ紹介します。 国民年金基金 国民年金基金とは、自営業者と会社員の年金額の差を解消するために創設された制度です。自営業者(国民年金第1号被保険者)は任意で加入でき、掛金を納めた期間に応じて年金が上乗せされます。国民年金基金には以下のようなメリットがあります。 掛金は全額社会保険料控除の対象 受け取る年金も公的年金等控除の対象 遺族一時金は全額非課税 国民年金基金の掛金は全額が所得控除の対象で、年金を受け取るときにも所得控除が適用されるため、所得税や住民税が軽減されます。また、年金受取前や保障期間中に亡くなった場合は、遺族に一時金が支払われます。一方で、以下のようなデメリットもあります。 一度加入すると脱退できない(減額は可能) 死亡時に遺族一時金が掛金額を下回ることがある 国民年金基金は一度加入すると脱退できないため、加入は慎重に判断する必要があります。また、国民年金基金は国民年金法に基づいて設立されていますが、解散する恐れもあるので注意しましょう。解散する場合は、基金の解散時点での残余財産額を加入員および受給者等で分配され、分配額は支払った掛金額の合計を下回ることがあります。 出典)国民年金基金「重要なお知らせ」 関連記事はこちら自営業者が加入可能な国民年金基金とは? 付加年金 付加年金とは、国民年金保険料に付加保険料(月額400円)をプラスして納付すると付加年金が上乗せされる制度です。住所地の市区町村役場で申し込みできます。 付加年金のメリットは、保険料に対して受け取れる額の割合が高いことです。付加年金は「200円×付加保険料納付月数」で算出します。計算上は2年間で元が取れるため、お得な制度といえるでしょう。 付加年金のデメリットは、年金支給前に死亡すると付加保険料が戻ってこないことです。また、国民年金基金との併用ができない点にも注意が必要です。 出典)日本年金機構「付加年金」 iDeCo(個人型確定拠出年金) iDeCoとは、自分で掛金を拠出して運用を行う私的年金です。掛金は将来給付として受け取れるため、年金の不足分を補うことができます。iDeCoには以下のようなメリットがあります。 自分で運用先を決定できる 年金が上乗せされる 掛金が全額所得控除などの税制優遇がある iDeCoは、保険商品や投資信託などから自分で運用先を選べるため、運用次第で給付額を増やすことも可能です。掛金は全額所得控除で、運用益は非課税などの税制優遇も用意されています。 一方で、iDeCoは運用損が生じる場合があるのがデメリットです。運用がうまくいかなければ、給付が掛金を下回る場合があります。また、原則60歳まで掛金を引き出せないため、資金繰りにも注意が必要です。 関連記事はこちらiDeCo(イデコ)の仕組みとは?メリット・デメリットを解説 個人年金保険 個人年金保険は、保険会社が提供する保険商品の一種です。個人年金保険は、積み立てた保険料を原資に一時金もしくは年金受取が可能で、以下のようなメリットがあります。 保険料控除を受けられる 年金が上乗せされる 「生命保険契約者保護機構」によって一定の契約者保護がある 毎年40,000円を上限に、保険料控除を受けられます。保険料控除を受けることで、所得税や住民税の税金対策ができます。また、一定期間にわたって保険料を払うことで、年金の不足分を補うことが可能です。 万が一保険会社が破綻した場合は、生命保険契約者保護機構によって一定の補償を受けられます。商品を検討する際には、保険会社ごとに年金の受取期間や保険料が異なる点に注意しましょう。 出典)国税庁「No.1140 生命保険料控除」 年金が不足した際に活用できる商品・サービス 前述のような対策を講じた上でも老後の生活費が不足する場合、持ち家であれば不動産が資金源となるかもしれません。自宅を担保に融資を受けたり、売却したりすることで、まとまった資金が手に入ります。具体的には、以下3つの方法があります。 不動産担保ローン 不動産担保ローンとは、不動産を担保にお金を借りることができるローンです。自宅を所有している場合、まとまった資金を準備する手段として活用できます。不動産担保ローンには以下のようなメリットがあります。 無担保のカードローンより低金利で利用できる 借入限度額が大きい(不動産評価によって億単位の借り入れも可能) 最長35年など長期間にわたって借りられる 資金使途は原則自由 関連記事はこちら不動産担保ローンとは?メリット・デメリットを解説 リースバック リースバックとは、不動産売買と賃貸借契約が一体となったサービスです。自宅をリースバック運営会社に売却後、その会社に家賃を払うことで、同じ家に住み続けることができます。リースバックには以下のようなメリットがあります。 自宅を売却した後も同じ家に住み続けられる 自宅の売却でまとまった資金が手に入る 月々の支出が定額化される 家の所有リスクを無くせる 関連記事はこちらリースバックとは?仕組みやメリット・デメリットを解説 リバースモーゲージ リバースモーゲージは、自宅を担保に老後資金の融資を受けられます。毎月の支払いは利子のみで、債務者の死亡後に自宅を売却して元本を返済する仕組みです。リバースモーゲージには以下のようなメリットがあります。 自宅に住み続けながら資金を調達できる 毎月の支払いが利子のみで返済負担が少ない 関連記事はこちらリバースモーゲージとは?メリット・デメリットや仕組みを解説 自営業者の年金に関するよくある質問 自分の基礎年金番号の確認方法を教えてください。 基礎年金番号は下記の書類で確認が可能です。 基礎年金番号通知書 青色の年金手帳 国民年金保険料の口座振替額通知書 国民年金保険料の納付書、領収書 年金証書 各種通知書等(年金額改定通知書、年金振込通知書等) ねんきん定期便 国民年金の保険料はいくらですか。 令和5年度は月額16,520円です。なお、国民年金の保険料は毎年見直しが行われています。 出典)日本年金機構 国民年金保険料 年金手帳や基礎年金番号通知書をなくした場合、どうすればいいのですか。 年金制度改正法(令和2年法律第40号)等の一部施行により、令和4年3月31日をもって年金手帳が廃止されたため、令和4年4月1日より基礎年金番号通知書の発行が行われます。 年金手帳から基礎年金番号通知書への切替えにともない、令和4年3月31日までに「年金手帳再交付申請書」をご提出した場合であっても、処理状況によって交付年月日が令和4年4月1日以降となるものについては、基礎年金番号通知書が発行されます。 出典)日本年金機構 基礎年金番号通知書の再交付を受けようとするとき 65歳になると年金は自動的に受けられるのですか。 年金は自動的に支払われるわけではなく、手続きが必要です。この年金を受ける手続きを決定請求といいます。国民年金の決定請求の手続きは市・区役所または町村役場の国民年金の窓口(第3号被保険者期間がある場合は年金事務所または街角の年金相談センター)で行います。65歳の誕生日が過ぎてから決定請求を行ってください。 出典)日本年金機構 国民年金に若いときから加入しています。65歳になると年金は自動的に受けられるのですか。 住所が変わった場合に何か手続きは必要ですか。 住所表示の変更のため、番地が変わった場合でも、日本年金機構にマイナンバーが収録されている人は住所変更届出は原則不要です。 日本年金機構にマイナンバーが未収録の人や住民票の住所と違う場所に住んでいる場合や、成年後見を受けている人等は、「年金受給権者 住所変更届」に、新しい住居表示、マイナンバーカードに記載されているマイナンバーまたは、年金証書に記載されている基礎年金番号と年金コード、生年月日などを記入して年金事務所または街角の年金相談センターに提出が必要です。なお、市区町村名のみの変更の場合、日本年金機構が対象の人の住所を一括して変更しますのでこの届は必要ありません。 出典) ・日本年金機構 住居表示が変わったとき。 ・日本年金機構 年金Q&A まとめ 個人事業主などの自営業者は国民年金のみであるため、老後の生活費を年金だけでカバーするのは難しいでしょう。ただし、国民年金基金やiDeCoなど、年金対策として利用できる制度が用意されています。将来の年金見込額を確認し、なるべく早く老後資金の準備を始めましょう。 執筆者紹介 「住まいとお金の知恵袋」編集部 金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。 小規模企業共済とは?メリット・デメリットと加入までの流れを解説 小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者向けの退職金制度です。自営業の方が、国民年金以外の老後資金を準備する手段として活用できます。一方で、小規模企業共済は、状況によっては損をする恐...記事を読む