起き上がりと移動の介助
寝返りや起き上がり、ベッドから車イスへの移乗など、「移動」は、日常のさまざまな場面で必要となる介助です。力任せに動かそうとすると、介助する人が腰を痛める原因にもなってしまいます。無理な力を使わず、介護をする人にとっても介護をされる人にとっても安心で楽な方法を覚えましょう。
起きて座ることの意味
人にとって「起きる」ということは非常に重要な意味を持っています。まず、「起きて」「座る」ことは「食べる」「歩く」といった日常生活の基本となる行動です。起きて髪をとかす、座って食事をとるなど、自分でできることを自分で行えることは、自信の回復や生きる意欲にもつながります。
また、「起きて」「座る」ことは、意識を覚醒させるため、脳の活性化にもつながります。さらに、「起きる」ということは、重力に逆らって姿勢を保つ筋力を使います。寝たきりになってしまうと、この筋力が衰え、骨の弱化、換気障害なども起こしやすくなります。
体の一部にずっと重みが加わることによって褥瘡(床ずれ)の原因にもなります。生活にメリハリとリズムをつけるためにも、少しでも「起きて」「座って」過ごす時間を増やすような介助を行いましょう。
【2時間に1回を目安に】
寝返りの介助は、床ずれを防止するためにもとても大切です。できれば2時間に1回を目安に、こまめに体の向きを変えるようにしましょう。
【本人に動作を説明し、協力してもらう】
介助をされる人にも、始めようとする動作を説明し、協力してもらうとスムーズになり、お互い楽に動くことができます。
寝返りの介助-仰向けから横向きに
起き上がりの介助
生活の質を保つためには、できるだけ離床時間をつくることが大切です。近年は、介助する人が腰を痛めぬよう、高さの調整機能、背上げ機能があるベッドを利用することも多くなっています。自身で動ける場合はできるだけ自分の力で起き上がってもらうようにして、介助者は最低限の手助けをするようにします。
介助用ベッドを使用する場合
【動作と動作の変わり目には声がけを!】
「移動」は一気にしようとすると転倒などの恐れがあります。動作と動作の変わり目では必ず動きを止め、安定してから次の動作に移るようにしましょう。次の動作を言葉で伝えることも大切です。
【座ることは自立した生活への第一歩】
移動が楽にできるようになれば、ベッドで寝たまま過ごす時間が短くなり、生活の行動範囲も広がります。座ることによって大脳が刺激され、表情が生き生きとしてくることもあります。
【腰を痛めないコツと注意点】
起き上がりの介助は腰痛の原因になりがちです。腰痛を防ぐコツと注意点を紹介します。
- 足を広げて、重心を低くする。
- 腕の力や背筋の一部ではなく、全身の大きな筋肉を使う。力で動かそうとするのではなく、てこの原理を利用したり、体重移動で動かす。
- 水平移動、平行移動を心がけ、体を変な方向にねじらないようにする。
介助用ベッドを使用しない場合
ベッドから車いすに移乗する
ベッドから車イスに移動する場合、少しでも自分で動ける場合はトランスファーボードの使用がおすすめです。全介助の場合はスライディングシートを使う方法もあります。
トランスファーボードを使った移乗
- ベッドを車イスよりも5センチ程度高くし、ベッドに座ってもらう。この時、足の裏がしっかり床についているか確認。 車イスのアームバーは外しておく。
- 体を前に傾け、片方に体重をかけ、お尻を浮かせる。その隙間にトランスファーボードを差し込む。
- 骨盤を前傾させ、進行方向に体重を移動させる。
- 本人ができなければ、後ろから骨盤を持って移動を介助する。または、前から膝を押さえて移動を介助する方法もある。
- ボードを抜く前に姿勢を直す。ボードを立てるようにして引き抜く。
これがコツ!
- 力まかせにしない!身体の自然な動きを考えよう。
- 動作と動作の間は、必ず1回止まってから!
- これから行う動作について、言葉で伝えることも大切!
【リフトで移動する福祉用具も上手に利用しよう】
持ち上げなければ移動が難しくなった場合、リフトを利用する方法もあり、介護者の腰痛防止にもなります。リフトにはベッド固定型、レール走行型、床走行型などがあり、目的、要介護者・介護者の状態、部屋の状況、費用などを考慮して選ぶことが大切です。
食事の介助
「食べること」は栄養をしっかりとることも大切な目的ですが、生きるうえでの大きな楽しみのひとつでもあります。加齢とともに噛む力や飲み込む力は低下しがちですが、食材選びや調理法をよく考え、楽しくおいしく食べられる工夫を心がけましょう。
気を付けたい「低栄養」と「過栄養」
高齢者で注意すべきポイントのひとつは「低栄養」です。低栄養とは身体に必要なエネルギーやたんぱく質などが不足している状態。それは噛めない、飲み込めない、偏食や食欲不振などにより食べる量が減る、また、あっさりした食事が中心で肉や卵、脂質が十分に摂取できていないことなどによって起こります。そしてもうひとつ注意したのは「過栄養」です。
加齢によりどうしてもエネルギー消費は低下し、過栄養となりがちです。過栄養は、肥満、脳卒中、心疾患を引き起こす要因にもなります。量よりも質を考えて、バランスのよい栄養を摂取することが大切です。
低栄養化どうかをチェック
□最近、急に体重が減ってきた
□食事がおいしいと感じない
□食事はあっさりしたものが中心で、卵、肉はあまり食べない
□脂っぽいもの、揚げものなどはあまり食べない
□お菓子ばかり食べて、ちゃんとした食事をしていない
□お酒とおつまみで食事を終えている
□食事は好きなものばかり食べている
□歯や歯茎が痛くて食べられない
食べる環境を整える
生活にメリハリをつけるためにも、食事はベッドから離れ、テーブルで食べるようにしたいもの。また、おいしく、楽しく食べるには姿勢も大切です。そのためにはテーブルやイス、食事の道具など、食べるための環境を整えることが重要です。そのポイントを紹介しましょう。
【注意したいポイント】
・寝たままでの食事は、誤嚥の危険性あり!できるだけ上体を起こすように。
・食器は手の届くところに置きましょう。
・テーブルに置かれた食器と口との距離が遠い場合は、食器の下に台を置きましょう。
・こぼしやすい場合には、ナプキンやタオルを。
【介護用の食器、道具をうまく活用しよう】
食事は使い慣れた食器、道具を使えれば良いのですが、つかみにくい、使いにくいなど、食べることがめんどうになってしまっては本末転倒。柄や色がきれいなものも増えていますので、介護用の食器、道具を上手に取り入れましょう。
食事をするときの姿勢
・イスと背もたれの間にクッションなどを入れ、身体を安定させる
・姿勢は、イスの背にもたれず、少し前かがみがよい
※イスの背にもたれて食べると、食べ物が気管に入りやすくなるので注意
・テーブルは、座ったときに肘をつけられる高さに調節する
・イスが高く、足が床に届かない場合は、雑誌や新聞などを重ねて置き、その上に足を置くようにすると安定する
これはやっちゃダメ
食べるのが遅かったり、手が震えてこぼしたりしているのを見ると、つい、食べさせてあげたくなってしまうもの。でも、自分でできることは自分でしたほうが本人の機能維持にも役立ちます。自分のペースで食べられるよう、見守ることが大切です。
誤嚥を防ぐ
食事の介助でとくに気をつけたいのは「誤嚥」です。「誤嚥」は飲み込んだ食べ物が、食道ではなく気管に入ってしまうこと。肺炎や窒息の原因にもなりかねません。注意するポイントを紹介しましょう。
【誤嚥を防ぐためのポイント】
ポイント 1
ゆっくり噛んで食べるようにする。噛む力が落ちている場合、食材を細かくきざむ、すりつぶした状態にするなどの工夫をする。
ポイント 2
水のようにサラサラとしたものは誤嚥しやすい。食べ物にとろみをつける、すぐに飲み込まないで、一度、口の中にためてから飲み込むようにする。
ポイント 3
食べたものが逆流する場合もある。食後1〜2時間は上体を起こした姿勢にする。
嚥下体操
- 舌を出したり、引っ込めたりする。それを3回くらい繰り返す。
- 舌で左右の口角をさわるようにする。これも3回くらい繰り返す。
- 首をゆっくり左右に曲げる。3 回繰り返す。
- 顔をゆっくり左右に向ける。3 回繰り返す。
- 最後に唾をゴクンと飲み込んでみる。
出典)『今スグ役立つ!よくわかる!家庭の介護ハンドブック』(鎌田ケイ子監修、新星出版社)
食事中の事故への対応
食事中、急に元気がなくなり息が荒くなった、何を聞いても答えない、けわしい表情をしている、咳が止まらない…などの状態が見られたら誤嚥の可能性があります。その場合は次のように対処しましょう。
・口を下に向ける。
・口を大きく開き、咳や痰と一緒に吐き出すように促す。咳やむせを我慢させない。タオル やティッシュを渡して、咳や痰を吐くのを遠慮しなくてよいようにするという配慮も。
・大きな咳払いを数回するように促す。
調理の工夫
飲み込む機能が低下している場合、選ぶ食材や調理法を工夫することによって、食べやすくすることができます。ただし、食べることは楽しみのひとつ。例えば、魚の場合は魚の形のままお皿にのせ、本人が食べやすい大きさを確かめながら、本人の前で切り分けるようにすることも一案です。
【嚥下障害のある人が食べにくいもの】
・ベタベタと粘り気のあるもの
例)もち、団子 など
・水分がなくてパサパサとしたもの
例)パン、クッキー、ゆでたまご、のり など
・固くて噛み切りにくいもの
例)タコ、イカ、厚切りの肉、ゴボウ、寒天 など
【嚥下障害のある人が食べやすいもの】
・のどごしがよいもの
例)ゼリー、プリン、卵豆腐、茶碗蒸し など
・とろみのあるもの
例)おかゆ、カレー、シチュー など
・口の中で、バラバラになりにくいもの
例)うどん
・
適度な水分、油分が含まれているもの飲み込みにくい症状のほか、「むせやすい」「口の中が乾いている場合」など、その人の状態によって食べやすいもの、食べにくいものがあります。避けたほうがよいものを挙げましょう。
◎むせやすいとき
酢の物、麺類(すすって食べるのでむせやすい)
細かくきざんだもの
◎口の中が乾いているとき
パン、クッキー、ゆでたまご など
排泄の介助
排泄の介助は、介護する人にとっても介護される人にとっても精神的、肉体的に大きな負担になりがちなケアです。介護される人の尊厳を保ちつつ、介護する人の負担を軽減するためにも、適切な介助のポイントを心得ておきましょう。
トイレ介助のポイントとは?
「排泄」はデリケートな問題です。排泄の機能が正常で、トイレまで歩行や車イスによって移動が可能な場合は、できるだけトイレで排泄が行えるようにします。そのためには、トイレの環境を整え、トイレまで行きやすいようにすることを考えましょう。 一方、身体が不自由でベッドから動くことができない、排泄障害があるという場合は、排泄用
具を適切に選んで使用することを考えます。
排泄障害とは?
排泄障害とは、排便、排尿に関して、何らかの問題がある症状をいいます。具体的には「尿失禁」「便秘」「下痢」などの症状が挙げられます。「尿失禁」は加齢によって尿道を締める筋肉が弱まり、くしゃみやお腹に力を入れることで尿漏れを起こしてしまう、尿意が大脳に伝わらずに漏れてしまう…などのケースがあります。
「下痢」は神経性のもの、アレルギー性のもの、細菌によるものなど、さまざまな原因が考えられます。それぞれの原因によって適切な対応が必要です。「便秘」は加齢により腸の働き、腹筋などが弱くなることによって起きやすくなります。また、食事や水分、あるいは運動が少ないことでも起きやすくなります。
負担を軽減するために環境を整備する
トイレまで行きやすいようにする環境整備
自力歩行ができる、車イスや介助があればトイレまで行けるという場合は、トイレまで行きやすくするための環境を整えましょう。下図に示すような点がポイントです。
トイレ内の環境整備
トイレの中で、立ったり、座ったりしやすいようにすることが大切です。例えば、下図に示すような点に気をつけましょう。
排泄用具を使う
ポータブルトイレを使用する場合
ベッドから起き上がることはできるけれど、トイレまで行くことがむずかしい場合は、ポータブルトイレをベッドサイドなどに用意し、使用するとよいでしょう。
・ひとりでズボンや下着を下ろせない場合、自分に寄りかかってもらい下ろしてあげる。あるいは、壁や手すりにつかまり立ってもらい、後ろから脱がせてあげる。
・自分に寄りかかってもらい、抱きかかえるようにして便座の中央に座らせる。
・ひとりで排泄ができる場合は、便座に身体が安定して座っているのを確認したら、カーテンや衝立などで囲い、排泄中はプライバシーが守れるようにする。排泄が終わったら声をかけてもらうようにする。
ベッド上で排泄する場合
- 腰のあたりに防水布を敷き、肛門の中央にくるように差し込み便器をあてがう。腰を浮かせることができない場合は、本人に横向きになってもらい、便器をあてて、仰向けになってもらう。
- 女性の場合は、尿が飛び散らないように、トイレットペーパーを股の間に挟んでおく。あらかじめ便器の中に2〜3枚、トイレットペーパーを入れておくと後始末がしやすい。
- 排便が終わったら陰部の洗浄をする。便器を取るときは、腰を浮かせることができる場合、声がけをして腰を上げてもらう。上げられない場合は、本人の膝を片方の手で手前に倒すようにして横に向ける。このとき、便器のふちをもう片方の手で押さえるようにすると、排泄物がこぼれない。
ここがポイント
- 陰部の洗浄は手際よく。尿でおむつが汚れた場合、 汚れたおむつの上でシャワーボトルにお湯を入れ て陰部を洗い流します。
- 便の場合は、ウェットティッシュで便を拭き取り、新しいパッドを敷いてから洗浄するとよいでしょう。
おむつの交換
まったく動けない、尿意がない、尿もれの量が多いなどの場合は、おむつの使用を考えます。使用する人の状態、尿の量、使用する時間帯、ベッドで過ごす時間の長さ、介助する人の負担などを考えて選びます。
おむつの種類
・テープ式おむつ
寝たきり、あるいは介助があれば起き上がれる人の場合。
・パンツタイプおむつ
介助があれば座れるが、昼間の排泄は主におむつでするという人の場合に使用する。中に尿取りパッドを重ねるとよい。介助があれば立てる、トイレまで行ける、ポータブルトイレで排泄ができるという人の場合も、パンツタイプのおむつを単体で使用する。心配な場合は、尿取りパッドを併用する。
・軽失禁パッド
尿もれはあるが、量が少ない人 の場合に使用する。
【ニオイが気になるとき】
- 汚物は、確認したら手早く処理する。 部屋の換気も忘れずに。
- 差し込み便器、尿器、ポータブルトイレなどに、 あらかじめニオイを防ぐ薬剤などを入れておく。また、時間をおくとニオイがとれなくなるので、こまめに洗浄する。
- 使用済みのおむつは小さく丸め、テープで止めてから処理する。フタ付きの容器を使用するなどしてニオイを防ぐ。
- 消臭剤、脱臭剤などを活用する。
ここがポイント
排泄介助を受ける人は、恥ずかしい気持ち、申し訳ない気持ちを持っていることが多いもの。おむつ交換のときは、腰のあたりをバスタオルで覆うなどの配慮を。そして、作業は手早くすることが基本です。
パンツタイプのおむつ交換
テープ式おむつの交換
入浴の介助
入浴は身体を清潔に保つだけではなく、血行を良くしリラックス効果もあるため、介護される人にとっては楽しみのひとつです。しかし、急激な温度変化が身体に負担をかけたり、浴室内での転倒は大きなケガにつながる恐れもあります。つねに安全を保つよう、十分に配慮しましょう。
安全な環境づくり
【入浴をする前に気をつけること】
・体調の確認をする(体温、脈拍、血圧、顔色、 呼吸数などをチェック。心配な点がある 場合は、取りやめる判断も大切)。
・食前・食後の1時間は避ける。
・お湯の温度を確認する。適温は40度ぐらい。 心臓病、高血圧がある場合は40度以下に。
・入浴は体力を消耗するので、入浴時間は10〜 15分程度に。
・すべり止めマットを敷くなどして転倒しないように気をつける。
ここがポイント
・あらかじめ浴槽のフタを開けておく。
・温水のシャワーを流すなどして、浴室を前もって温めておく。
・バスボードには、あらかじめお湯をかけておくとヒヤッとしないですみます。
・浴槽内は浮力があるので、姿勢が不安定になる恐れがあります。頭が後ろにいくとバランスが崩れるので、足の裏を浴槽の壁に当ててもらいます。また、両手で風呂のふちを持ち、前かがみの姿勢になってもらうと安定します。
浴槽に入るときの介助
- 浴槽の横にシャワーチェアを置いて座ってもらう。片マヒがある場合、マヒのない側から入ってもらうようにする
- バスボードに腰を移す。介助する人は腰を支え、腰を回転させながら、片足ずつ湯船の中に入れる。
- バスボードに腰を移す。介助する人は腰を支え、腰を回転させながら、片足ずつ湯船の中に入れる。
!
出るときは逆の動作で。マヒした側を先に出すことになるので、介助する人は気をつけること。
湯船に入れないときは、シャワー浴や足浴も
シャワー浴
浴槽に入れない場合や浴槽に入ると体力を消耗する場合など。
- シャワーイスに座ってもらう。お湯を張ったバケツを用意し、足を入れてもらう。
- 肩、腰にタオルをかける。
- シャワーのお湯は、手足にかけてから胴体へ。石けんで洗う場合、手が届く範囲は本人に。届かない部分は介助する。
足浴
お風呂まで行けず入浴できない場合、ベッドサイドでもできる。
- バケツ、または洗面器にお湯を張る。
- 防水マットかタオルを敷き、その上にお湯を張ったバケツ・洗面器を置く。
- 足を入れてもらう。
身体の清潔のための介助
洗髪や洗顔、着替えなど、身体を清潔に保つための介助は衛生面だけではなく、介護される人にとって、さっぱりとした気持ちで心地よく過ごすためにもとても大切なケアです。上手なコツを覚えて、できるだけこまめなケアを心がけましょう。
洗顔(ベッドから起きることができない場合)
- 目頭から目尻に向かって拭く。
- 額と頬を顔の内側から外側に向かって拭く。
- 鼻は上から下に向かって拭く。鼻のわきも内側から外側に向かって拭き取るように。
- 口のまわりを円を描くように拭く。
※仕上げに熱めの蒸しタオルを当てるとさっぱりする。
※しわとしわの間、耳、あごの下も忘れずに。
※耳の中もときどき掃除を。綿棒に植物油をつけて掃除をすると、耳垢がやわらかくなり掃除しやすい。
【蒸しタオルのつくり方】
タオルを水でぬらして軽く絞ってからポリ袋に入れて電子レンジで加熱(加熱時間の目安はハンドタオル1本の場合500Wで30秒程度)。相手の身体に当てる前に、必ず自分の手に当てて熱さを確かめましょう。
洗髪(ドライシャンプー)
- ケープをかけたり、タオルなどで肩から下を覆う。
- 蒸しタオルを1本用意し、頭部を覆う。
- 1〜2分蒸した後、ドライシャンプーを髪につけ、頭皮をマッサージするように洗う。
- 蒸しタオルでシャンプーを拭き取る。これを何度か繰り返す(頭部を蒸しタオルで蒸すのは最初だけでOK)。
- 最後に、乾いたタオルでよく拭き取る。
- ブラシで整髪する。
ベッドから移動できない場合の洗髪は、用意する道具も多く大変です。通常は、入浴サービスのときに行うのがよいでしょう。家族が洗髪を行う場合は、お湯で流す必要のないドライシャンプーが手軽でおすすめです。
全身を拭く〜清拭〜
- 室温は22〜24度ぐらいにしておく。拭き始める前に、熱い蒸しタオルで身体を包み、温める。タオルの温度は43度ぐらいが適温。
- 仰向けになってもらい、顔→両腕→首〜胸〜腹→両足の順に拭いていく。手は指先から心臓に向かって拭く。指の間、脇の下も忘れずに。お腹は強く押さえず、下腹部は「の」の字を書くように拭く。
- 横向きになってもらい、背中→腰→臀部を拭く。背中は円を描くように、下から上に向かって拭く。臀部は、外側から円を描くように内側に向かって拭いていく。背中、腰、臀部は褥瘡(床ずれ)ができやすいので、マッサージも兼ねて拭くように心がけるとよい。
- もう一度、仰向けになってもらい、足のかかと→下腿部→太もも→陰部を拭く。膝の後ろは汚れやすいのでていねいに拭く。
- 最後に乾いたタオルで水分を拭き取る。
※拭いている部分以外は寒くないよう、また羞恥心を感じさせないよう、タオルで覆っておくとよい。
口腔ケア
口の中は雑菌が繁殖しやすい環境なので、朝と食後には、必ずケアを行いましょう。むし歯や歯周病を防ぐことはもちろん、繁殖した菌を食べ物、あるいは唾液と一緒に誤嚥し、肺炎を発症するリスクを減らすという目的もあります。
入れ歯の場合
毎食後外して、ブラシでしっかり水洗いをする。研磨剤が入っている練り歯みがきは使用しない。外すときは下から、装着するときは上から先に入れる
寝たまま行う口腔ケア
片側にマヒがある場合、マヒしている側に食べ物のカスが残っていることがあるので、割り箸にガーゼを巻いたものなどを用意し拭き取るようにする。
イスに座って行う口腔ケア
介護される人が上向きになると、あごが上がり、誤嚥の恐れがある。介護される人があごを引く姿勢になるように、介助する人は立つ位置を調節する。
介護される人の歯を磨くときは角度や方向などがむずかしく、少し時間がかかります。そんなときは短時間で上手に磨ける電動歯ブラシがおすすめです。また、使用する介護者にとっても楽な姿勢でブラッシングができ、腰痛などの予防にもなります。
介助される人が寝た状態でのシーツ交換
- 介助する人が立つ側と反対側に転落防止柵を立てる。介助される人には、介助する人と反対側のベッドの端に移動してもらう
- ベッドの手前側から、古いシーツをはずし、扇子折りにして介助される人の下に入れていく。
- シーツをはがしたマットレスを掃除したら、その上に新しいシーツを広げ、マットレスと角を合わせてマットレスを包み込む。反対側の端は古いシーツの下に入れ込む。
- 手前の転落防止柵を上げてから、介助される人に新しいシーツの上に移動してもらう。古いシーツをはずし、マットレスを掃除してから新しいシーツを広げ、同じように角を合わせてマットレスを包み込む。
ここがポイント
- 新しいシーツが敷けたら各コーナー部分を持ち、対角線の方向に引っ張るようにするとしわが伸びます(シーツは角にゴムが入ったものを利用すると便利です)。
- マットレスの掃除は、ガムテープを使うとほこりを立てずにゴミを取ることができます。
- 介助する人が腰を痛めないように、ベッドの高さを調整してから作業するとよいでしょう。
着替え
ズボンをはかせる(寝たきりの場合)
- 仰向けになってもらい、扇子折りにしておいたズボンを足に通す。片足ずつ、かかとを支え、ひざまでズボンを上げる。
- 片手でズボンのすそをくるぶしの位置で押さえ、もう片方の手でズボンを足のつけ根まで引き上げる。反対側も同じように。
- ひざを立て、ハの字になるように両足を開いてもらう。お尻の下に手を入れ、ズボンの後ろの中心線に沿って扇子折りにする。
- 介助される人に足でベッドを踏み込んでもらい、腰を浮かせる。その間にズボンをお尻の側から引き上げる。踏み込めない場合はひざをくっつけ、足のつま先の方に押すと腰を浮かせることができる。
座れる人の場合は、49ページで紹介した「パンツタイプのおむつ ! 交換」と同じ要領でズボンをはかせる。
服を着替えることは生活にメリハリをつけるためにとても大切です。寝ている間にも人はかなり汗をかくもの。着替えを行うことでベッド周りも清潔に保つことができます。なお、片マヒがある場合は、マヒのある側から着て、マヒのない側から脱ぐのが原則。マヒのない側がズボンやシャツなどに通っていない方が、動きが制限されにくいためです。
前あきのシャツを着る(寝たきりの場合)
- 袖を扇子折りにし、介助する人の腕に通してから介助される人と握手をするようにして袖を通し、肩まで上げる。
- 介助する人に背中を向ける姿勢で横になってもらい、シャツの中心線と背骨を合わせる。反対の身ごろを体の下に入れる。
- 介助する人の側に顔を向けてもらい、体の下に押し込んだ部分を引き出す。❶と同じように、袖に手を通す。
- 腕が通ったら仰向けになってもらい、ボタンを留める。両脇の下の部分を足の方向に斜めに引っ張ると、背中側に寄ったしわが伸びる。
【ここがポイント】
着替えは、マヒがあったり認知症だったりする場合、動作がゆっくりになりがちです。つい手伝いたくなることもありますが、時間がかかっても、本人ができたり、やる気があれば、できるだけ本人にやってもらうことが基本です。ボタンを留めたりする動作はリハビリにもなるので、必要以上に手伝わないことも大切です。
老老介護・認認介護
日本では、配偶者の介護をする高齢者夫婦や、年老いた子がより高齢の親を介護するというような高齢者が高齢者の介護を行うケースが増えています。65歳以上の要介護者を 65歳以上の人が介護している場合を、いわゆる「老老介護」といいます。
厚生労働省の「令和元年国民生活基礎調査」によれば、老老介護は 59.7%と介護全体の 5割を超えています。老老介護の増加は介護者と要介護者がともに高齢化しているためです。
主な介護者は配偶者で、全体の約4分の1を占めています。介護の担い手が高齢の場合は、経済的、肉体的な負担はもちろん、精神的にも大きなストレスを抱えてしまうことが多く、「生活の質」の維持が心配されます。
また、さまざまな事例がある老老介護の中には、認知症の高齢者を介護する高齢者自身が認知症になり、適切な介護ができなくなる「認認介護」もあります。この場合は、第三者による早急なケアが必要です。いずれにせよ、老老介護を続けるにはひとりで抱え込まないことが大切です。
介護者自身の健康を守るためにも、周囲の人に頼ったり、身近な公的機関を活用することが必要です。最近では、介護者や要介護者を支える在宅サービスの整備も進んできています。介護で困ったときは、地域包括支援センターに相談しましょう。
常駐しているケアマネジャーや保健師などの専門家から適切なアドバイスや支援策を受けることができます。必要に応じて、レンタル用品やデイサービスなどの介護サービスの情報提供もあります。相談する際は、介護の悩みや気づいたことなどを書いたメモを持参することが大切。専門家の視点により、問題を解決する方法が見つかる可能性が高くなります。
出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行
『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用