<介護と保健ガイドブック>介護におけるコミュニケーション

公開日:2022.12.21

介護におけるより良いコミュニケーションとは

介護される人の心理状態を理解しよう

より良い介護を行うためには、介護される人、介護する人、この両者間のコミュニケーションが非常に大切なものになります。介護をされる人の心理状態を知っておくことはとても重要です。相手がどういう心理状態なのかを理解できれば対応の方法もわかり、お互いの関係を良好に保つことにつながります。

一見わがままだと思えることも、介護されることへの申し訳ないという思いや家族に負担をかけることへの罪悪感、今までできていたことができないことへのいら立ちなどからくるものなのかも知れません。ここでは介護を受ける人が一般的にどのような気持ちを持つことが多いのかを紹介します。

ただし、実際にはひとりひとりに個人差がありますので、紹介する心理状態が必ずしも当はまる訳ではありません。介護される人と介護する人がよく話し合い、お互いの気持ちを知り、思いやりを持って接することが大切です。

【介護を受ける人の心理状態】

  • それまで、できていたことができなくなることによるイライラ、焦り、不満などを抱えていることがある。
  • 自由にできていたことが人の手を借りないとできなくなることによる欲求不満から、攻撃的になる場合もある。
  • 介護してもらうことに申し訳ないという罪悪感を持っていたり、負い目を感じていたりする場合もある。
  • 排泄や入浴などの介助を受ける場合、恥ずかしいという意識をもつ場合もある。

高齢者の一般的な心理背景

高齢者の一般的な心理背景

介護を受ける人との接し方のポイント

介護を受ける人と接する場合、具体的にどのようなことに配慮して、どのような心がまえ、態度で対応したらよいのでしょうか。そのポイントを紹介します。

傾聴、受容、共感が大事

相手の気持ちや考え、状態を理解するには、まず相手の話にじっくりと耳を傾ける「傾聴」が大事です。また、話を聞いたら否定せず、ありのままを受け入れる「受容」、そして、相手の喜怒哀楽に「共感」する姿勢を持つことも大切です。相づちを打ちながら聞く、相手の言ったことに質問をしたり、聞いた言葉をそのまま繰り返したりするなど、相手の話をよく聞いているということを示すようにしましょう。相手と目線の高さを合わせ、相手の表情も見ながら話すように心がけると、より良いコミュニケーションにつながります。

非言語コミュニケーションも大事

コミュニケーションは、言葉だけで行われるものではありません。例えば、声の大きさや発し方にも気を配りましょう。「高齢者は耳が遠いから大声で話す」と思いがちですが、十分に聞こえている人もいます。相手の状態を見て、声の大きさは調整するようにします。一般的に、少し低めの声で、ゆっくり、はっきりと話すと聞き取りやすいといわれています。また、言葉で説明するだけでは伝わりにくいと思う場合、身ぶりや手ぶりを交える、文字で書いて示す、現物を見せるなどの工夫も有効です。さらに、肩に手を置く、手を握るなど、スキンシップも有効な場合があります。このように相手の状態をよく観察しながら、上手にコミュニケーションがとれるように工夫しましょう。できるだけリラックスして話せるように静かな環境を整えることも大切です。

「できることは本人にやってもらう」のが基本

介護というと、なんでもかんでもお世話をするものと思いがちですが、手を出し過ぎるとその人の機能低下を招くことにもなりかねません。「できることは本人にやってもらう」のが基本です。そのためには、衰えた機能ばかりに目を向けるのではなく、その人ができることは何かを見つけて、その能力を引き出すような援助を心がけましょう。また、介護を受ける人は、それまで自力でできていたことが他人の手を借りなければできなくなっていることに負い目を感じている場合もあります。その人ができることを見つけ、何かの役に立っているという自己有用感を持ってもらうことも大切です。それが生きる喜び、生きたいという意欲にもつながります。いたずらに「頑張れ」と励ますだけではなく、その人の意に沿った具体的な目標を決め、達成できたらそれを一緒に喜び合うという姿勢を持ちましょう。

その人らしさ、その人らしい暮らしを大切に

ここに挙げたのは一般的にいわれていることです。人にはそれぞれ個性があります。杓子定規に考えて決めつけることはせず、一人ひとりに合った対応を心がけましょう。本人の意志、その人らしい暮らし方を尊重することが、より良い関係を築くためにとても重要です。

よくある事例への対応

物を盗られたと訴える

物を盗られたと訴える「物盗られ妄想」は、アルツハイマー型認知症に多く見られる症状で、一番身近な介護者を疑うことも多いのです。このような場合、本人に理屈を説明しても納得してもらうことはむずかしく、介護者が見つけるとより疑いが強まる場合もあります。一緒に探し、本人が見つけるように誘導しましょう。

入浴や着替えをいやがる

服を脱がされることが恥ずかしくて拒否していることも考えられます。その場合は、同性の家族が一緒に服を脱いであげると抵抗感がなくなることもあります。また、入浴は浴室でするということにこだわらず、部分的な清拭を行ったり、ベッドサイドで足浴をしたりすることでもよいでしょう。無理をすると思わぬ事故につながることもあるので、介護サービスなどの入浴サービスを利用することも一案です。

知らない間に出て行き、帰れなくなる

昔住んでいた家や思い出深い場所に行ってみたくなり、知らない間に出て行き、帰る場所がわからなくなって徘徊し保護されるケースも…。このような場合は無理に止めず、一緒に出かけて近所を一周すると落ち着くこともあります。また「今日はもう遅いので、明日にしましょう」などと声がけをし、延期してもらうことで落ち着くこともあります。声がけで止めるのがむずかしい場合、玄関などにセンサーをつけておく、夜間などは二重ロックをかけるなどの対応策をとることも考えましょう。

介護をする人自身が健康を損なわないように

まじめな人ほど、介護の手を抜いたり他人任せにすることに罪悪感を感じ、頑張ってしまいがちです。しかしそれが続くと、介護をする人が体調を崩したり、精神的に追い詰められたりしてしまいます。ここでは、介護をする人の心身を守るために心がけておきたいことを紹介します。

周りに協力を求め、一人で抱え込まない

もっとも大切なのは、ひとりで抱え込まないことです。協力してくれる人を周りにたくさんつくっておくことで精神的な余裕が生まれます。家族内で分担をする、それが無理ならば離れている兄弟や近所の人、あるいは介護ヘルパーなどのプロの手もぜひ借りましょう。

介護を支援する制度をうまく利用する

介護保険制度だけではなく、その他の公的なサービスも徐々に増加しています。まずは自治体の窓口で、どのようなサービスが利用できるのかを相談してみましょう。各自治体ごとに提供されるサービスが異なりますので、情報収集をしっかりと行うことが大切です。また、福祉用具や機器の貸し出しなど、経済的な負担を軽減する制度もあるので上手に利用しましょう。

家族だからできる介護とは?

介護のための技術を習得しているプロの手を借りたほうが安全であったり、介護される人も気が楽だったりする場合もあるでしょう。しかし家族には、苦楽をともにしてきた経験や時間という、他人には共有できないものがあります。あるベテランのヘルパーは「私たちがどんなに頑張っても、家族の間でのやりとりから生まれる自然な笑顔を引き出すことはできない」と言います。公的サービスも大いに活用すべきですが、家族だからこそできることを同時に考えていくことが、より良い介護につながります。

広がり始めた「見守りサービス」

超高齢社会を迎え、一人暮らしの高齢者や高齢の夫婦のみといった「高齢者だけの世帯」が増えています。離れて暮らす家族にとって、高齢の親や親族の安否をつねに確認できることは、安心につながります。高齢者が住み慣れた土地で自立して暮らし続けるには、周囲の見守りが欠かせません。現在、地方自治体や多くの民間事業者などが、効果的な高齢者の「見守りサービス」に取り組んでいます。

見守りサービスには、安否の確認や通報、駆けつけを代行してくれるものなど、さまざまなタイプがあります。自治体が実施している見守り関連事業には「安否確認」「緊急通報システム」「配食サービス」「コミュニティ活動や学習活動」「サロンの運営・管理」などがあります。介護保険によるサービスに加え、多くの自治体では、民生委員や地域包括支援センターによる一人暮らしの高齢者への見守り活動、民間事業者と連携した支援の提供などに取り組んでいます。

サービスの情報

新型コロナウイルスの影響により、離れて暮らす高齢の家族を訪ねることが困難な状況の中で、カメラ型やセンサー型などの見守り装置の設置が注目されています。パソコンやスマホを使って、遠隔で家族を見守ることが可能です。

自治体が行う支援やサービスについては、内容や要件などが各自治体によってそれぞれ異なります。利用する際は、居住する市区町村の福祉課や地域包括支援センターなどに問い合わせてください。民間事業者が手がけるサービスについては、企業の公式サイトなどで情報を入手することができます。自治体と連携しているサービスでは、機器の設置などが助成対象になる場合があります。

出典)一般社団法人日本保健情報コンソシウム発行
『介護をする家族のための介護と保健ガイドブック』より引用

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