2022年に宅建業法が改正!不動産取引のデジタル化は進むのか?

公開日:2022.08.10

2022年5月に宅地建物取引業法が改正されました。押印義務が廃止され、交付書面の電子化が可能となったため、今後は不動産取引のデジタル化が進む可能性があります。今回の改正によって、不動産事業者にはどんな影響があるのでしょうか。

この記事では、不動産事業者向けに2022年宅建業法改正のポイントを解説します。

宅建業法が改正された背景

今回の宅建業法改正は、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」に基づいて行われたものです。本法律は2021年5月19日に公布、2022年5月18日に施行されました。

デジタル社会の形成により、日本経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与することを目的としています。

不動産取引においては、改正前の宅建業法で義務付けられていた押印や書面手続きがデジタル化を阻む要因となっていました。そのため、デジタル社会形成整備法の施行に伴い、押印や書面交付に関する宅建業法の改正が行われました。

2022年宅建業法改正のポイント

今回の宅建業法改正のポイントは「押印義務の廃止」と「交付書面の電子化」の2つです。それぞれの内容を確認していきましょう。

宅地建物取引士の押印義務の廃止

不動産取引に必要な以下の書類について、これまでは宅地建物取引士の押印・記名が必要でした。

  • 重要事項説明書
  • 売買・交換・賃貸借契約締結後の交付書面

今回の法改正で押印義務が廃止され、今後は記名のみで可能となります。ただし、媒介契約・代理契約を締結したときに交付する書面については、引き続き押印が必要です。

交付書面の電子化

以下4つの不動産取引関連書類について、電磁的方法による交付が可能となりました。

  • 媒介契約・代理契約締結時の交付書面
  • レインズ(指定流通機構)登録時の交付書面
  • 重要事項説明書
  • 売買・交換・賃貸借契約締結後の交付書面

依頼者の承諾は必要ですが、今後は紙による書面の交付が義務ではなくなります。電磁的方法による提供において、満たすべき主な基準は以下のとおりです。

  • 依頼者が書面の状態で確認できるよう、出力可能な形式で提供する
  • 電子署名等の方法で、記載事項が改変されていないことを依頼者が確認できるようにする

電磁的方法により書面を提供する場合、不動産事業者は依頼者が確実に受け取れるようにしなくてはなりません。

具体的には、電磁的方法の内容や記録方式を示した上で、出力可能な方法(電子メール、Web上での承諾など)や書面(以下、「書面等」という)で依頼者の承諾を得ます。たとえ事前に承諾を得た場合であっても、依頼者から書面等で「電磁的方法で受け取らない」と申出があれば紙の書面を交付する必要があります。

出典)宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方

不動産取引のデジタル化のメリット

不動産事業者にとって、不動産取引のデジタル化は以下のようなメリットがあります。

取引にかかる時間や手間が省ける

不動産取引のデジタル化は、取引にかかる時間や手間が省けるのがメリットです。依頼者と対面で会う必要がなく、オンライン上で契約手続きを完結できるようになります。また、書類の押印や郵送が不要になるため、事務手続きの効率化が期待できます。

印紙税の節税になる

不動産取引では、取引金額が大きくなるほど印紙税の負担が増える仕組みになっています。しかし、書類を電子化して紙の書面を発行しない場合は印紙税が発生しません。不動産取引のデジタル化を進めれば、印紙税の節税になります。

コスト削減が期待できる

不動産取引では、さまざまな書類のやり取りが発生します。関連書類を電子化すれば、書類の郵送料や保管スペース、ファイリング業務が不要となります。閲覧したい書類は検索ですぐに見つけられるため、業務の効率化や書類管理コストの削減につながります。

宅建業法改正が不動産取引に与える影響

今回の宅建業法改正により、不動産取引のデジタル化が加速する可能性があります。ITを活用した重要事項説明(IT重説)は、すでに2017年10月から不動産賃貸で運用が開始されています。2021年4月からは不動産売買においても認められました。

従来はIT重説でも契約は対面や郵送で行う必要がありましたが、今回の宅建業法改正で交付書面の電子化が可能となり、不動産事業者との契約がデジタルで完結できるようになりました。不動産取引のデジタル化は「契約手続きの簡素化」「コストの削減」など、不動産事業者にとって大きなメリットがあります。

一方で、デジタル化を進めるにはITシステムだけでなく、業務のオペレーションの整備が必要です。個人情報の流出を防ぐため、セキュリティ対策にも取り組まなくてはなりません。ITのノウハウを持たない中小不動産業者の場合、自社だけでデジタル化を進めるのが難しいケースがほとんどでしょう。

また、不動産業界は対面での説明や紙の書面交付が一般的であるため、長年の商慣行が変わるか不透明な部分もあります。制度開始直後は、トラブルが起こる可能性もあるため、今回の宅建業法改正が不動産取引に与える影響を注視することが大切です。

なお、ITを活用した重要事項説明や書面の電子化については、不動産事業者に向けて国土交通省がマニュアルを公表しています。不動産取引のデジタル化を進める際の参考にするといいでしょう。

出典)国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」

まとめ

2022年宅建業法改正によって宅建士の押印義務が廃止され、交付書面の電子化も可能となりました。今回の改正によって不動産取引のデジタル化が加速するかもしれません。不動産事業者は変化にすばやく対応できるように、不動産取引に与える影響を注視しておくと良いでしょう。

執筆者紹介

大西 勝士(Katsushi Onishi)
金融ライター(AFP)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで年間200本以上の記事執筆を行っている。得意領域は不動産、投資信託、税務。
<運営ブログ>
https://www.katsushi-onishi.com/

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