2024.07.24

三為契約とは?不動産仲介との違いや注意点を解説

公開日:2024.07.24

三為(さんため)契約は、不動産売買で用いられることがある契約形態の1つです。一般的な不動産仲介とは仕組みが異なるため、不動産を売買する予定があるなら三為契約の仕組みを理解しておくと安心です。

この記事では、不動産売買における三為契約の概要や不動産仲介との違い、注意点について解説します。

三為契約とは

三為契約とは、「第三者の為にする契約」という言葉の略称で、民法537条および538条に規定されています。

  • 民法537条(第三者のためにする契約)
    契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
    2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
    3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
  • 民法538条(第三者の権利の確定)
    前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
    2 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第一項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。

出典)民法(e-Gov法令検索)

不動産売買では、売主と買主で売買契約を締結するのが一般的です。しかし、三為契約では売主と買主の間に不動産業者が入り、売主と不動産業者、不動産業者と買主がそれぞれ売買契約を締結します。

三為契約を用いた不動産取引を扱う不動産業者は「三為業者」と呼ばれます。

三為契約の仕組み

上述のとおり、三為契約では売主と買主の間に三為業者が入り、それぞれと売買を行います。不動産売買が行われると、通常は所有権の移転登記を行います。しかし、三為契約では不動産業者への所有権移転登記を省略し、買主に直接所有権の移転登記を行う点で異なります。

三為契約

※筆者作成

このように、間に入っている不動産業者を省略し、売主から買主へ直接所有権を移転することを「中間省略登記」といいます。

中間省略登記について

中間省略登記は、原則禁止されています。これは取引の当事者をそれぞれA、B、Cとしたときに、物件の所有権がA⇒B⇒Cと移転しているのであれば、不動産登記もA⇒B⇒Cと移転していることを明示すべきであるという考えからです。

しかし、これには例外があり、法務省から法務局、地方法務局に対する通知がされています。(平成19年1月12日法務省民二第52号民事第二課長通知)

出典)一般社団法人 不動産適正取引推進機構「最近の判例から(5) 登記情報と登記原因証明情報の不一致を理由とする中間省略登記申請の却下処分が適法とされた事例」

不動産登記の申請情報(A⇒Cへの所有権移転)と登記原因証明情報(A⇒B⇒Cの取引の経緯)の合致という基本理念を踏まえつつ、A、B、C三者間で「第三者のためにする契約」又は「買主の地位の譲渡」により、AからCへの直接の所有権移転があったと認められる場合は、直接AからCへの所有権移転登記が可能とされています。

三為契約と一般的な不動産仲介との違い

不動産仲介は、不動産仲介会社が売主と買主の間に入って両者の売買契約を成立させる方法です。売主と買主とをつなぐという意味では、三為契約と不動産仲介は同じです。

しかし、三為契約は不動産業者が売主と買主それぞれと売買契約を行うのに対し、不動産仲介は売買契約ではなく媒介契約を行います。不動産仲介にも売主と買主それぞれの仲介となる「両手仲介」、一方の仲介となる「片手仲介」が存在します。

両手仲介
片手仲介

※筆者作成

なお、不動産仲介では不動産業者が受け取れる仲介手数料は以下のように上限額が決められていますが、三為契約では不動産業者の売買差益の上限は定められていません。

仲介手数料の上限額

契約金額(税別)仲介手数料の上限額
200万円以下(契約金額×5%)+消費税10%
200万円超 400万円以下(契約金額×4%+2万円)+消費税10%
400万円超(契約金額×3%+6万円)+消費税10%

三為契約における三為業者のメリット

三為契約を用いた不動産売買は、三為業者にとって以下のようなメリットがあります。

仕入コストを下げられる

一般的な買取再販事業の場合、物件を仕入れする際に仕入資金が必要となります。しかし、三為契約の場合、仕入れにあたっての手付金は必要ですが、残金は買主が決済時に支払うことで精算されるため、仕入れにかかる費用を大幅に削ることが可能です。

売買に係る諸費用を軽減できる

一般的な買取再販事業の場合、物件の仕入れ時と販売時に登記費用等の諸費用が発生します。しかし、三為契約であれば、物件の登記費用が発生しないため、費用を抑えることができます。

在庫の保有リスクがない

一般的な買取再販事業の場合、在庫の売れ残りリスクを抱えます。在庫が売れ残ると、仕入資金をローンで賄っている場合には、大きな赤字となるリスクを抱えます。しかし、三為契約では、物件を所有することがないので、在庫の保有リスクがありません。

三為契約における買主の注意点

三為契約を用いた不動産売買は、買主にとって以下のような注意点があります

利用できる融資が限られる

一般的な不動産取引では、物件の売買と同時に登記が行われるため、仕入れや販売、最終的な買主への決済、登記までの一連の取引が明確です。

一方で、三為契約の場合、不動産業者は売買契約を締結するものの、所有権登記は行われません。売主から買主へ物件の所有権が直接移転することから、取引全体の流れが把握しにくいという特徴があります。

このような特徴から、金融機関によって三為契約への融資を取り扱わないことも珍しくありません。

通常より割高な物件を購入する恐れがある

一般的な不動産取引では、売主と買主が双方確認できる売買価格にて合意して取引が行われます。

一方で三為契約の場合、買主は売主の売却価格を把握できず、売主も買主の購入希望価格を知りません。そのため、売主と買主の双方が適正価格を把握していないと、売主は割安に売却し、買主は割高に購入してしまう恐れがあります。

本人確認を徹底する

売主と買主の間に三為業者が入ることで、売主に疑義がある(身元詐称、行為能力制限者)ことを悪意で隠される、過失で見逃す場合でも所有権自体が覆る恐れがあります。売主の顔が直接見えない分、司法書士などにしっかりと双方の本人確認をしてもらいましょう。

また、宅建業者が三為業者として入ることで、不動産の隠れたる瑕疵は三為業者が負うことになるため、不動産取引における売主、買主双方のメリットにもなり得ます。

まとめ

不動産売買における三為契約は、違法な契約ではありません。ただし、一般的な不動産仲介とは仕組みが異なり、買主に不利益が生じる恐れもあります。不動産を購入する際は売買契約書の内容を十分に確認し、不明点を解消してから契約を締結しましょう。


執筆者紹介

「住まいとお金の知恵袋」編集部
金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。