2024.07.17

契約不適合責任とは?請求できる権利や期間について解説

公開日:2024.07.17

不動産取引において、物件の引き渡し後に不具合が発覚する場合があります。物件が契約内容に適合しない場合、売主は買主に対して契約不適合責任を負います。不動産の購入を考えているのであれば、契約不適合責任について理解を深めておくことが重要です。

この記事では、契約不適合責任の概要と買主と売主の権利関係について解説します。

契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、売主から買主に売買の目的物が引き渡されたときに、契約に基づいて果たすべき義務が守られていないことを理由とする責任です。

契約内容に適合していないことは債務不履行に当たるので、債務不履行を利用とする契約の解除・損害賠償請求ができます。これに加えて、追完請求、代金減額請求の2つが認められており、全部で4通りの方法があります。詳細は後述します。

出典)
独立行政法人 国民生活センター「誌上法学講座第2回 契約の内容が守られないとき(2)」
法務省「売買,消費貸借,定型約款などの契約に関するルールの見直し」

契約不適合責任によって買主が請求できる権利

契約不適合責任により買主が請求できる権利は次の4つです。

  1. 追完請求権
  2. 代金減額請求権
  3. 損害賠償請求権
  4. 解除権

契約不適合責任特有の権利は、追完請求権と代金減額請求権です。損害賠償請求権と解除権については、債務不履行を理由とした請求権となります。それぞれの内容を確認していきましょう。

出典)独立行政法人 国民生活センター「誌上法学講座第2回 契約の内容が守られないとき(2)」P.32~33

追完請求権

追完請求権とは、引き渡された目的物に欠陥があるなど契約内容に適合しない場合に、売主に対して修補(建物の修繕など)や代替物・不足分の引き渡しを請求できる権利です。

買主に不相当な負担を課さなければ、売主は買主が請求した方法とは異なる方法で追完することも認められています。なお、買主の責めに帰すべき事由(買主の故意や過失)によって契約に適合しない場合、追完請求権は認められません。

・民法562条(買主の追完請求権)
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。(後略)

・民法564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

出典)
民法(e-Gov法令検索)
独立行政法人 国民生活センター「誌上法学講座第2回 契約の内容が守られないとき(2)」P.33

代金減額請求権

代金減額請求権とは、引き渡された目的物が契約に適合しない場合に、適合しない分の代金の減額を請求する権利です。

基本的には、買主は契約不適合を知った時から1年以内に売主に履行の追完請求を行い、その期間内に売主が追完請求に応じなかったときに代金減額請求ができます。ただし、履行の追完ができないときは、催告せずに代金減額請求が可能です。

追完請求権と同様に、買主の責めに帰すべき事由によって契約に適合しない場合は、代金減額請求権は認められません。

民法563条(買主の代金減額請求権)
前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

出典)民法(e-Gov法令検索)

損害賠償請求権および解除権

引き渡された目的物が契約に適合せず、売主に帰責事由がある場合は損害賠償を請求できます。買主は契約不適合を知った時から1年以内に売主に追完請求を行い、その期間内に売主が追完請求に応じない場合は契約解除が可能です。

民法541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

出典)民法(e-Gov法令検索)

債務の全部が履行されないなど、契約不適合の内容によっては催告することなく、直ちに契約を解除できます。

民法542条(催告によらない解除)
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

    1. 債務の全部の履行が不能であるとき。
    2. 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(後略)

出典)民法(e-Gov法令検索)

なお、損害賠償や契約解除は債務不履行の一般則に従って行えることが明示されました。

民法564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

出典)民法(e-Gov法令検索)

買主の救済方法

買主に帰責事由あり双方とも帰責事由なし売主に帰責事由あり
損害賠償できないできないできる
解除できないできるできる
追完請求できないできるできる
代金減額できないできるできる

※赤字は2020年に法改正がされた部分

出典)法務省「売買,消費貸借,定型約款などの契約に関するルールの見直し」P.3

契約不適合責任の対象と期間

例えば、不動産売買契約後、住宅の引き渡しを受けてから床が傾いたり、雨漏りがしたりするなど後から建物の欠陥に気が付いた場合、買主は下記の期間であれば、売主(請負業者)に対して前述の1~4の請求権を行使できます。

請負業者は、契約どおりに建物や土地の工作物等を作り、注文者に引き渡す義務があり、一定の期間、瑕疵(不完全な点)があれば対応しなければなりません。

民法562条(買主の追完請求権)
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

(後略)

出典)民法(e-Gov法令検索)

なお、住宅の場合は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」及び「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」により、住宅の構造耐力上主要な部分等については瑕疵担保責任を追及できることとなっています。

法律契約不適合責任の対象と期間契約書で定めた期間との関係
住宅の品質確保の促進等に関する
法律第95条、同法第97条
新築住宅の構造耐力上主要な部分等
(基礎、屋根、柱、床、壁、雨水侵入防止部分など)について、
業者に対して10年の瑕疵担保責任を義務付け。
瑕疵担保責任の期間は20年まで延長できる。(延長は任意)
構造耐力上主要な部分等は、
契約で10年より短い期間を定めても無効。
民法166条(債権等の消滅時効)債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1.債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2. 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から
20年間行使しないときは、時効によって消滅する
民法637条
(目的物の種類又は品質に関する
担保責任の期間の制限)
注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、
注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、
報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

出典)埼玉県庁「契約不適合責任(瑕疵担保責任)」

契約不適合責任における売主の免責

契約時に特約を締結している場合は、売主の契約不適合責任の免責(責任の免除)が認められます。ただし、不適合があることを売主が知りながら、契約までに買主に説明をしなかった場合は無効です。

民法572条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

出典)民法(e-Gov法令検索)

契約不適合責任の免責条件は売主によって異なります。売主が宅建業者の場合は、2年間は免責が無効となります。

ただし、売主が個人の場合は契約不適合責任をそのまま負うことが困難な場合もあることから、一般的に不動産売買契約書の契約不適合責任の条項に以下のように定めることが一般的に行われています。

民法の規定と異なる契約条項の例※1

  • 売主の契約不適合責任を負う期間※2を一定期間(あるいは負わない※3)とする旨
  • 売主が負う契約不適合責任は、修補請求に限り、買主は、代金減額請求、損害賠償請求ができないとする旨
  • 買主の契約不適合による契約解除は、買主の契約目的が達成できない場合に限る旨
  • 買主が契約時に契約不適合を知っていた場合、売主は契約不適合責任を負わない旨

※1 売主が宅建業者の場合、担保責任を負う期間について目的物の引渡しの日から2年以上となる特約を除き、買主(買主が宅建業者の場合を除く)に不利となる特約を付すことはできない(宅地建物取引業法40条)
※2 買主は、契約不適合があることを知ってから1年以内にその旨を売主に通知しなければ、担保請求(履行の追完、代金の減額、損害賠償、契約の解除)をすることができない。また、請求権は、権利行使ができることを知った時から5年、目的物の引渡し時から10年で時効消滅する(民法566条、166条)
※3 売主が契約不適合責任を負わない旨の特約を置くことは可能。ただし契約不適合があることを知りながら買主に告げなかった場合には、売主はその責任を免れることはできない(民法572条)

出典)独立行政法人生活国民生活センター「第8回 不動産売買契約書(その2)」

免責条項が多いほど売主が有利となるので、契約時は特約の内容を確認しておくことが重要です。

まとめ

引き渡された目的物が契約内容に適合しない場合、売主は買主に対して契約不適合責任を負うことになります。民法改正により、従来の瑕疵担保責任から買主の権利や期間制限などが見直されています。契約後のトラブルを防ぐためにも、不動産取引を行う際は契約不適合責任の免責条項を必ず確認しましょう。


執筆者紹介

「住まいとお金の知恵袋」編集部
金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。

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