相続時の不動産評価方法は?評価に関する特例も併せて解説

更新日: / 公開日:2021.06.16

不動産の評価は一物五価とも呼ばれ、同じ不動産でも指標によって評価額は変化します。そして、相続の際の不動産評価額のことを、「相続税評価額」と言います。では、この相続税評価額はどのように算出すればよいのでしょうか。

この記事では、相続税評価額や特例について解説します。

相続税評価額の評価方法

不動産の評価額を考えたときに、最初にイメージするのは、おそらく実勢価格でしょう。実勢価格とは、実際に市場で取引される土地や建物の価格を指します。一方で、不動産の相続税評価額は、実勢価格とは異なり、以下のように算出されます。

土地

土地の相続税評価額の算出方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。

まず、路線価方式とは、路線価が定められている地域の評価方法です。路線価は、道路に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価格のことで、国税庁が毎年7月に公表しています。なお、公表は7月ですが、あくまで基準日は毎年1月1日です。

次に、倍率方式とは、都市郊外など路線価が定められていない地域の評価方法です。その年の固定資産税評価額に、一定の倍率を乗じて計算します。厳密に言うと方式は異なるのですが、路線価方式、倍率方式ともに、評価額は公示価格の8割程度が目安となります。

建物

建物の評価額の算出方法は、「固定資産税評価額×1.0」です。つまり、建物の評価額は固定資産税評価額と同じです。

固定資産税評価額は、固定資産税を計算する際の基準となる価格のことで、公示価格の7割程度が目安となります。固定資産税評価額を調べるには、固定資産税の納税通知書を確認するか、自治体の担当部署に問い合わせるといいでしょう。

その他の不動産

土地や建物でも、借地権がついていたり、賃貸に出していたりする不動産は、権利関係に応じて評価額が調整されます。たとえば、借地権が設定されているマンションやアパートなどの貸宅地や貸家は、通常の評価額から借地権割合や借家権割合などが調整され、評価額は下がります。

出典)国税庁「No.4602 土地家屋の評価」

相続税評価の評価事例

ここでは、相続税における土地家屋の評価事例を確認しましょう。ここで紹介するのは以下2つの事例です。

  • 戸建(自用地)を路線価方式で求める場合
  • マンション(自用地)を路線価方式で求める場合

戸建(自用地)を路線価方式で求める場合

まずは自用地の戸建における、評価事例です。土地の評価額を求める計算式は以下のように計算します。

土地の評価額:路線価(㎡) × 面積

例えば、1㎡あたりの路線価が3万円、土地の面積が150㎡だった場合、450万円(3万円×150㎡)が評価額となります。路線価を求める際には奥行の長さにより評価額を補正する「奥行価格補正率」などありますが、ここでは、補正はないものとします。

次に、家屋の評価額を求める計算式は以下のように計算します。

家屋の評価額:固定資産税評価額 × 1.0

例えば、固定資産税評価額が1,000万円の家屋だった場合、1,000万円(1,000万円×1.0)が評価額となります。上記を足し合わせると、土地450万円、家屋が1,000万円で合計1,450万円が評価額となる計算です。

マンション(自用地)を路線価方式で求める場合

マンションについては、戸建と同じ自用地であったとしても、若干計算方法が異なる点に注意が必要です。土地の評価額は以下のように計算します。

土地の評価額:路線価(㎡) × 面積 × 敷地権割合

について、敷地全体の価格に区分所有する建物に係る敷地権の割合を掛けて算出する必要があります。なお、敷地権の割合については、登記簿謄本で確認できます。

例えば、1㎡あたりの路線価が3万円、土地の面積が10,000㎡、敷地権割合が100,000分の5,000だった場合、1,500万円(3万円/㎡×10,000㎡×5,000/100,000)が評価額となります。

建物については、戸建と同様に「固定資産税評価額×1.0」で求めます。つまり、建物の固定資産税評価額が1,000万円だった場合、評価額は1,000万円×1.0=1,000万円です。上記を足し合わせると、土地1,500万円、建物1,000万円で2,500万円が評価額となる計算です。

相続税評価額は不動産利用状況に応じて変わる

評価額は利用状況によって変わることを前述しましたが、評価の異なる土地の利用状況には、次のようなものがあります。

  • 借地
  • 貸宅地
  • 貸家建付地
  • 農地
  • 私道
  • 貸駐車場

借地

借地とは、他人から借りている土地のことを言います。また、土地を借りて、その土地の上に建物を建てた時には、建物の所有者には土地を使用する「借地権」という権利があり、この借地権にも相続税が発生します。しかし、借地にはさまざまな制約があるため、その権利に応じて一定の割合で減額される仕組みになっています。

借地の評価額は、路線価方式によって算出した評価額に、一定の借地権割合を乗じた価格が借地権の評価額となります。借地権割合は、路線価図や評価倍率表に割合に応じてアルファベットで表示されており、国税庁のホームページで確認できます。

たとえば、路線価20万円、面積100㎡、借地権割合B(80%)の借地の評価額は、1,600万円(20万円×100㎡×80%)となります。

貸宅地

建物を建てて使用するための土地として、他人に貸している土地のことを貸宅地と言います。貸宅地では「建物を建てる土地」「貸している土地」である必要があるため、駐車場などの建物が建っていない土地や、無償で貸している場合は該当しません。

貸宅地は、賃貸借契約を貸主側から解除することができないほか、建物に人が住んでいると立ち退き料の支払いが必要となるなど、貸主には負担が大きくなります。そのため、自分で土地を利用するよりも評価額が低くなる仕組みとなっています。

貸宅地は、土地の評価額に1から借地権割合を減じた価格が評価額となります。たとえば、上記の借地の条件である路線価20万円、面積100㎡、借地権割合B(80%)の土地の場合は、400万円(20万円×100㎡×(1-80%))となります。

貸家建付地

土地の上に、アパートやマンションといった賃貸用の物件を建てた土地を「貸家建付地」と言います。貸宅地と似ていますが、貸宅地が建物を建てたのが他人であるのに対し、貸家建付地は自分で建物を建てて他人に貸しているという違いがあります。

貸家建付地は、賃貸物件に住む人に借家権などの権利があるため、貸主の権利が制限されます。そのため、土地の評価額も低くなるように設定されています。貸家建付地の評価額の計算方法は次のとおりです。

貸家建付地の評価額=土地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

借家権割合は、全国一律で30%と定められており、賃貸割合とは入居率のことですが、部屋数ではなく床面積での計算になります。たとえば、1,000万円の土地で借地権割合90%・賃貸割合80%の場合は次のとおりです。

貸家建付地の評価額=1,000万円×(1-90%×30%×80%)=784万円

農地

継続的な耕作のための土地を農地と言います。農地は、宅地に転用できないなど制限が多い土地でもあり、都市計画によって地価も大きく異なるため、土地の評価額が低くなるように考慮されています。

農地の評価額を計算するうえでは、次の4つの区分に分けて、それぞれの評価方法で評価する必要があります。

  • 純農地…倍率方式
  • 中間農地…倍率方式
  • 市街地農地…宅地比準方式または倍率方式
  • 市街地周辺農地…市街地農地である場合の評価額の80%

宅地比準方式とは、その農地が宅地である場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法をいいます。

(宅地である場合の価額* – 宅地に転用する場合にかかる造成費*) × 地積

※1㎡あたり

私道

所有地の一部が私道になっている場合、その利用状況に応じて私道の評価方法が異なります。利用状況は次のように分かれます。

  • 不特定多数の人が利用する公共としての私道
  • 近隣住民などの特定の人のみが利用する私道
  • 所有者のみが利用する私道

公共として利用している場合の私道は評価しません。また、特定の人のみが利用する場合は、その宅地が私道でないものとして路線価方式又は倍率方式によって評価した価額の30%相当額となります。所有者のみが利用する場合は、宅地の一部と見なされるため評価額の減額がないので注意しましょう。

貸駐車場

貸駐車場の場合、運営方法によっても評価額が異なります。一般的に運営方法としては次のような方法があります。

  • 自分で運営
  • 運営会社に土地を貸している

自分で運営する貸駐車場の場合、とくに減額措置はありません。この場合、駐車場の状態が舗装されても、舗装されていない青空駐車場であっても評価額に変わりはありません。

一方、運営会社などに土地を貸している場合、貸地となり貸主の権利が制限されるため減額される仕組みになります。貸している場合の評価額は次のとおりです。

貸駐車場の評価額=土地の評価額×(1-借地権の残存期間に応じた割合)

借地権の残存期間に応じた割合は次のとおりです。

借地権割合

残存期間借地権割合
5年以下2.5%
5年超10年以下5%
10年超15年以下7.5%
15年超10%

土地の相続税評価額を下げる「小規模宅地等の特例」

小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた土地や事業を営んでいた土地などを相続したときに、一定の要件を満たすことで、その土地の評価額を最大80%減額できる特例です。本特例によって評価額が下がれば、相続税を節税できます。

適用対象となる宅地の種類と評価額の減額割合、限度面積は以下のとおりです。

  • 特定居住用宅地:80%減額(330㎡まで)
  • 特定事業用宅地:80%減額(400㎡まで)
  • 貸付事業用宅地:50%減額(200㎡まで)

たとえば、実家の土地(特定居住用宅地)を400㎡相続し、その土地の評価額が3,000万円だった場合、減額後の評価額は以下のように計算します。

3,000万円×(1-330㎡÷400㎡×80%)=1,020万円

特定居住用宅地の限度面積は330㎡であるため、相続した400㎡のうち、330㎡について評価額が減額されます。

本特例の適用を受けるには、相続税の申告書に特例を受けようとする旨を記載した上で、「小規模宅地等に係る計算の明細書」「遺産分割協議書の写し」などの一定の書類を添付する必要があります。

自身で手続きをするのが難しい場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。

出典)国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

まとめ

相続した不動産は、路線価や固定資産評価額などで評価されます。「小規模宅地等の特例」の適用を受ければ評価額が減額されるため、相続税の節税が可能です。不動産の評価方法や税制特例について、自身で判断するのが難しい場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。

執筆者紹介

「住まいとお金の知恵袋」編集部
金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。

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