更新日: / 公開日:2019.10.15
企業の働き方改革や副業の解禁など、今は会社員として給与収入のみの人も、独立開業を考えている人もいるでしょう。とはいえ、開業を考えるとき、気になるのは資金面ではないでしょうか?
この記事では、今まで会社員として勤めてきたが、開業を考えている45歳のKさんの事例をご紹介します。Kさんは、犬のしつけ教室を開いて、将来的にはトレーナーの育成やペットフードの販売なども展開していきたいと考えているようです。
[ご相談者 Kさん]
45歳男性 現在は会社員。配偶者あり、子なし。
無類の犬好きで、大型犬・小型犬含めて3頭を飼っている。
自宅は近くに山もある郊外の一軒家。実家もそばにあって、犬を走らせる庭もある。
今後、自分のライフワークとして、犬のしつけ事業を展開したい。
Kさん: 毎日の通勤を負担に感じるようになり、このまま身体が疲弊するくらいなら、いつかやりたいと思っていた事業を始めようと思うようになりました。と考えてはいるものの、一番心配なのは、事業を始めるにあたっての資金面です。預貯金は生活費として残したいので、事業資金を調達できるところがあればと思っています。銀行からの融資はどうなのでしょうか?
FP吹田:そうですね。銀行の融資の審査基準は各行様々ですが、一般的に決算2期分など数年間の決算書をもとにしており、黒字であることが前提になっています。その上で、収益性、成長性、安全性、などを審査されるようです。
Kさん: やはりそうですか。赤字決算では厳しいと聞いたことがありますが、開業はもっとハードルが高いですね。他に何か候補はあるのでしょうか?
FP吹田:日本政策金融公庫は一般の金融機関を補完する役目として位置づけられています。日本の中小企業・小規模事業者等を支援する公的機関なので、金利も安定的に固定金利が基本です。
Kさん: 公的機関と聞くと、安心できますね。私のような「開業資金」という用途でも借りられるのでしょうか?
FP吹田:日本政策金融公庫にも、いくつかの融資の種類があります。今回のご相談では、その中でも「新創業融資」と「新規開業資金」の融資が該当しますね。新創業融資は、Kさんのように新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方が対象です。新規開業資金は、新規事業を始める方や事業開始後7年以内の方が対象です。ただし、どちらも事業に関して、一定要件を満たすことが求められています。
Kさん: 「一定要件」とはどのようなことでしょうか?
FP吹田:日本政策金融公庫のホームページでは、「雇用創出等の条件」と「自己資金要件」という表現が明記されています。また、自己資金は1割以上必要とされていますが、実際は3割程度が目安になっているようです。
Kさん: なるほど。人を雇用できるかという観点も必要なのですね。上限としては、どのくらいの額まで融資を受けられるのでしょうか?
FP吹田:融資限度額は上限数千万円とされていますが、実際は、300万円から1000万円台くらいと言われています。より多くの金額を借り入れるためには、コンサルタントを通じて申し込むようです。
Kさん: コンサルタントに頼むのですか?
FP吹田:創業時に無担保融資で1,000万円を上回る借り入れを行うことは、現実的には難しいと言われています。特に日本政策金融公庫の創業融資が通る確率は1~2割と言う意見もあります。そのため、審査が通りやすい事業計画書の作成や、面接のコツなど、コンサルタントに依頼する方もいるようです。
Kさん: なるほど…。コンサルタントに依頼したら、報酬も支払うでしょうし、簡単にはいかなそうですね。他に資金調達できる手段はないのでしょうか?
FP吹田:不動産を所有している方であれば、不動産を担保にして融資をしてもらう方法があります。
Kさん: 不動産を担保にですか?それは自分の不動産でないといけないのでしょうか?
FP吹田:いえ、本人が所有している不動産でなく、ご両親などの親族様名義の不動産でも可能です。
Kさん: それなら可能性があるかもしれません。私のように法人格をもっていなくても大丈夫でしょうか?
FP吹田:はい、法人だけでなく個人事業主でも対象となります。不動産という担保があるので、返済能力についての審査が通れば、銀行や日本政策金融公庫よりも可能性があるかもしれませんね。
Kさん: なるほど。受けられる融資額はどのように決まるのでしょうか。
FP吹田: 不動産担保ローンの融資可能額は、担保物件の評価額の7~8割程度と言われています。ただし、返済比率なども審査された上でですが。
Kさん: 私の自宅だけでなく、実家の土地もあるので、両親に相談のうえ検討してみようと思います。ちなみに費用はどれくらいかかるのでしょうか?
FP吹田:不動産担保ローンでは、融資の際に抵当権設定登記を行うので、抵当権設定費用や収入印紙、更に不動産調査費用などの事務手数料がかかります。実際にかかる費用は、借りる金融機関や金額次第になると思いますが数万円から数十万円になると思います。
Kさん: なるほど。「コンサルタントに頼む」よりはちょっと気楽になりました。
FP吹田:気楽と言っても、不動産担保ローンでも事業計画を審査されるので、ご自身で綿密に計画することが大事ですよ。ここまで話に挙がってきた、民間の銀行や日本政策金融公庫、そして不動産担保ローンを提供する金融機関の特徴や違いを一覧にしたので、参考にしてください。
事業資金の調達に使える手段(これから事業を始める場合)
不動産担保ローン | 日本政策金融公庫の融資 | 銀行の事業用融資 | |
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特徴 | 不動産を担保にし、使途も比較的自由 | 一般の金融機関を補完することを目的とする | 事業の実績や返済能力を審査し、融資を行う |
申込者の要件 | 個人・法人 | 個人・法人 | 一定以上の業歴や債務超過でない法人 |
自己資金 | 不動産評価による | 平均は3割程度 | 一定以上必要 |
担保 | 家族や本人名義の不動 | 原則不要 | 場合によって本人名義の不動産 |
保証人 | 代表者の保証は必要 | 原則不要 | 代表者の保証は必要 |
借入上限額 | 物件評価額の7~8割程度 | 新創業融資の上限:3,000万円 新規開業融資の上限:7,200万円 | 平均300万~1,000万円台 |
※2019年10月時点で筆者作成
ここまでの内容を振り返ると、新規開業という時点で、銀行からの融資は難しいことがわかりました。そうすると、日本政策金融公庫か民間の不動産担保ローンが選択肢となります。上図を参考にしながら、ご自身の状況の中で良い方法を選択するようにしましょう。
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