更新日: / 公開日:2022.08.17
期限の利益とは、住宅ローンを借り入れた際などに生じる債務者の利益のことです。債権者は期限が到来するまで履行を請求できず、債務者にとっては債務に猶予が生まれるため“利益”となります。一方で、契約どおりに返済を行わないと期限の利益を喪失し、債務の一括返済を求められる恐れもあります。
この記事では、期限の利益の意味や喪失事由、注意点について解説します。
期限の利益とは、借り入れなどの債務に期限がつけられることによって生じる利益のことです。民法では、“期限”について以下のように定めています。
住宅ローンの借り入れで考えてみましょう。「返済期間35年で融資額3,000万円、毎月10万円を返済する」という契約を締結したとします。仮に、債権者から「すぐに全額返済してほしい」と言われたとしても全額を払う必要はありません。債務者には期限の利益があるため、毎月10万円を支払い続け、35年で3,000万円返済すればいいのです。
一方で、債務者は期限の利益を放棄することもできます。民法では、期限の利益の放棄について以下のように定めています。
条文に「相手方の利益を害することはできない」とあるように、民法上は期限より早く返済されても、債権者は利息を受け取る権利があります。一方で、金融機関からの借り入れであれば、繰り上げ返済によって利息が減額されるのが一般的です。
期限の利益の喪失とは、期限の利益が失われることです。つまり、債権者は期限の利益によって猶予されていた債務の履行を、債務者に請求できるようになります。期限の利益の喪失事由は契約ごとに定められており、期限の利益を喪失すると、債務の一括返済を求められる場合があります。
期限の利益を喪失したとしても、必ずしも一括返済を求められるわけではありません。一方で、期限の利益を喪失した事由によっては、即時返済を求められる恐れもあります。そのため、期限の利益の喪失事由は必ず契約前に確認し、回避するようにしましょう。
期限の利益の喪失事由は、「民法上で該当するか」「契約書上で該当するか」の2つで判断されます。民法では、期限の利益の喪失事由について以下のように定めています。
民法で定義されている喪失事由は、破産手続きの開始や担保の滅失・損傷など、いずれも債権回収が困難となる場合です。一方で、実務では民法上で定めている事由より広範に、喪失事由を定めていることが多くあります。
住宅ローンなどで締結する金銭消費貸借契約では、「期限の利益の喪失条項」を定めます。確実に債権回収を行うため、民法の規定よりも幅広く喪失事由を定めていることが一般的です。具体例は以下のとおりです。
民法の規定に加えて、返済の滞納や、虚偽の申告や資金使途違反といった契約違反が発覚すると、期限の利益を喪失します。
民法では自己破産について定めていますが、多くの契約では、自己破産以外の債務整理も期限の利益の喪失事由に含まれます。また、別の債権者に財産を差し押さえられると債権回収が困難となるため、差押えを受けたときも期限の利益を喪失します。
借入金の返済では、一度でも期日に遅れたら期限の利益を喪失することも珍しくありません。残高不足で返済が遅れることがないように、引き落とし口座の残高管理などを徹底しましょう。
例えば、住宅ローンが残っている自宅を、債権者の許可なく不動産投資に利用する行為も期限の利益の喪失事由となります。ただし、あくまで債権者に無断で行うことが違反であるため、やむを得ない事情がある場合は債権者が承諾してくれる可能性もあります。あらかじめ必ず金融機関に相談しましょう。
他にも、不動産を担保に借り入れをしている場合、担保価値の変動が生じるような変更をする際は、あらかじめ金融機関の承諾を得るよう記載がされています。“担保価値の変動”というと、リフォームやリノベーションも該当する可能性もあります。
消費者との契約のあり方として、消費者の権利の制限は「必要性からみて合理的かつ必要最小限と考えられる範囲に止められるべき」という見解があります。相談の結果、全く問題がないことも考えられますが、あらかじめ金融機関に連絡しておいた方が無難でしょう。
出典)一般社団法人全国銀行協会「消費者との契約のあり方に関する留意事項」
債務者には期限の利益があるため、住宅ローンなどでまとまったお金を借り入れたときに分割返済が認められます。ただし、返済期日に遅れると期限の利益を喪失し、債務の一括返済を求められる恐れがあります。金銭消費貸借契約を締結する時には必ず「期限の利益の喪失条項」を確認し、抵触しないように注意しましょう。
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