公開日:2023.10.25
地籍調査は、土地の境界や面積を明確にするために、法律に基づいて実施される調査です。土地を所有していると、地籍調査の案内が来る可能性があります。地籍調査にはどんな目的があるのでしょうか。
この記事では、地籍調査の概要や得られる効果、調査の流れについて解説します。
地籍調査とは、一筆ごとの土地の所有者や地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査です。国土調査法に基づく「国土調査」の1つで、市町村が主体となって実施します。
地籍とは、「土地の戸籍」です。土地の現況を示す基礎的な情報が記録されており、土地課税や土地の有効活用など、行政のさまざまな場面で活用されています。
現在、登記所に備えられている地図や図面の多くは、明治時代の地租改正のときに作成された地図に基づくものです。時間経過や当時の測量技術が原因で、境界や形状が現在の土地と異なる場合があります。そのため、登記簿に記載された土地の面積も、正確さを欠いているのが現状です。
地籍調査を行うことで、調査結果をもとに地図が更新され、登記簿の情報も修正されます。
地籍調査は、市町村が主体となって行われます。市町村の職員が直接実施する場合と、委託された民間会社が実施する場合がありますが、どちらも以下の流れで進められるのが一般的です。
市町村が地籍調査の関係機関と調整を行い、住民からの要望も踏まえて地籍調査の実施計画を作成します。その後、調査実施地域の住民に対して説明会を行い、調査内容や必要性、日程などについて説明します。
土地所有者の立ち合いのもと、現地で一筆地ごとに所有者や地番、地目を調査します。確認した境界には、各筆の土地の境界がわかるように杭を打ちます。この杭は測量の基準となる重要なもので、破損しないように保存する必要があります。
土地所有者などに確認してもらった土地の境界の測量(地籍測量)を行います。測量結果をもとに正確な地図(地籍図)を作成し、各筆の面積を計算します。そして、一筆地調査と地籍測量の結果をまとめて地籍簿を作成します。
地籍調査をもとに作成された地籍図と地籍簿は、誤りがないかを土地所有者などに確認してもらいます。通常は市町村役場で閲覧でき、期間は20日間です。調査結果に誤りがあった場合は、申し出ることが可能です。必要に応じて修正が行われ、地籍調査の結果が確定します。
地籍調査によって作成された地籍図と地籍簿の写しが、登記所に送付されます。登記所では、これまでの地図の代わりに地籍図が備え付けの正式な地図となり、地籍簿をもとに登記簿が修正されます。
地籍調査によって、以下のような効果が期待できます。
土地の境界が不明確な地域では、土地の売買や相続などをきっかけに、隣人との間で境界を巡るトラブルが発生することがあります。地籍調査を実施し、土地所有者の立ち合いのもと境界を確認することで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
地籍が不明確であることは、土地取引の円滑化や開発事業を妨げる要因です。一部の地籍の問題で、再開発事業がなかなか進まない事例もあります。地籍が明確化されることで、土地取引や開発事業用地の取得を円滑に行うことが可能です。
地震や土砂崩れ、水害などにより土地の形状が変わってしまった場合、土地の境界に関する正確な記録がないと、復旧計画の作成などに時間がかかります。地籍調査により土地の境界を正確に記録することで、万が一災害が発生した場合は円滑に復旧活動を行うことが可能です。
土地の所有者に対して課税される固定資産税は、必ずしも正確ではない登記簿や公図のデータを参考にしています。そのため、正確な土地の実態が反映されず、課税について不公平な取り扱いとなっている場合があります。地籍調査で土地一筆ごとの正確な地目と面積を把握することで、課税の適正化や公平化が図れます。
地籍調査は昭和26年から実施されていますが、思うように進んでいないのが現状です。令和4年度末における進捗率は、対象地域全体で52%、優先実施地域で80%です。なお、優先実施地域とは、調査対象地域から以下2つを除いた地域のことをいいます。
地籍調査は、特に都市部と山村部で進捗が遅れています。
都市部は、他の地域より一筆ごとの土地が細かく分割されています。土地の権利関係が複雑であるため、多くの費用と時間がかかっています。また、都市部の住民はトラブル回避のために隣人との接触を避ける傾向にあり、調査への協力を得られないことが多いのも調査が進まない理由です。
山村部は、土地取引が少なく調査に費用がかかるため、市町村にとって調査の優先度が低いです。急傾斜地など調査が困難な地域が存在すること、土地所有者の高齢化が進行していることも調査を困難にしています。
国土交通省は、地籍調査をより迅速に進めるための取り組みを、都市部と山村部それぞれで以下のように進めています。
都市部では、地籍調査の先行調査の位置づけで官民境界等先行調査(街区境界調査)が創設されました。道路等に囲まれた官民境界(街区境界)のみを先行して調査します。この調査によって、未着手だった地域の災害復旧の迅速化や土地所有者の情報更新など、一定の効果が期待できます。
この官民境界等先行調査について国土交通省が行ったアンケートによると、官民境界等先行調査を、先行調査の成果としてではなく地籍調査の成果として扱うべきとの意見が多いことが分かっています。
都市部で地籍調査を実施する困難さから、官民境界等先行調査の位置付けが変更されるかが、今後の焦点となりそうです。
山村部では、航空レーザ測量などを活用し、測量に立ち合いもなく立地にも左右されない手法が開発されました。広域の詳細な地形や樹高分布、樹種の把握を短時間で行うことができます。
この新手法について国土交通省が行ったアンケートによると、新たな手法に対する不安やノウハウ不足から、活用意欲を示す市町村が少ないことが分かっています。一方でこの手法は山村部で地籍調査が進まない原因をほとんど解決できる手法ではあるため、市町村への理解が得られて普及していくかが、今後の焦点となりそうです。
出典)
・国土交通省「地籍調査について」
・国土交通省「地籍調査の実施主体に対するアンケート調査結果①」
地籍調査は、境界トラブル防止や土地の有効利用、災害復旧の迅速化といった効果を得られるため、重要な調査といえます。土地を所有していて地籍調査の案内が来た場合は、隣人とのトラブルを防ぐためにも調査に協力しましょう。
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