更新日: / 公開日:2023.07.05
日本は「地震大国」と言われており、過去には巨大地震が発生して住宅が倒壊するなどの被害が生じています。地震による建物や家財の被害に備えるには、地震保険を付帯するのが有効です。万が一被害にあった場合は、保険金が生活再建の助けとなります。
この記事では、地震保険の仕組みや火災保険との違い、補償内容について解説します。
地震保険とは、地震や噴火、それらによる津波を原因とする住宅や家財の損害を補償するための保険です。「地震保険に関する法律」に基づき、政府と民間の保険会社が共同で運営しています。
大地震が起こった場合は多額の保険金が発生し、民間の保険会社だけで引き受けるのは困難となります。そのため、政府が再保険を引き受けることにより、大地震の際は政府も保険金支払いを分担する仕組みになっています。なお、再保険とは、保険会社が再保険料を支払い、保険金の支払い責任の一部を他に転嫁する仕組みです。
地震保険は単独では契約できないため、火災保険と一緒に加入します。また、地震保険は火災保険に原則自動付帯となっています。
しかし、火災保険加入時に地震保険を付帯しているか覚えていない場合は、念のため契約内容を確認しておくといいでしょう。火災保険のみに加入している場合は、途中から地震保険を加えることも可能です。
地震保険と火災保険には、以下のような違いがあります。
火災保険は、火災や自然災害などで損害を受けた建物や家財を補償する保険です。一方で、地震保険は、地震や噴火、これらによる津波を原因とする火災や損壊、埋没、流失などの損害を補償しています。この補償内容の違いが、火災保険と地震保険の大きな違いです。
火災保険の保険料は、保険会社が自由に設定できるため、保険会社によって異なります。それに対して地震保険は、前述のとおり政府と民間の保険会社が共同で運営しているため、保険料の設定方法が統一されています。(地震保険の保険料についてはこの後詳しく解説します。)つまり、地震保険は火災保険と異なり、保険会社ごとに比較検討する必要がありません。
火災保険は所得控除の対象外ですが、地震保険は対象内です。(地震保険の所得控除についてはこの後詳しく解説します。)火災保険も過去に所得控除の対象でしたが、平成18年の税制改正によって平成19年分から廃止されました。
地震保険は、以下のような場合に支払い対象となります。
以下のような場合は、保険金支払いの対象外となります。
地震保険で支払われる保険金は、建物や家財の損害状況によって変わります。損害の程度を「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つに区分し、その区分に応じて保険金が決まる仕組みです。損害の程度は保険会社が判断します。
出典)政府広報オンライン「被災後の生活再建を助けるために。もしものときの備え「地震保険」を。」
地震保険の契約金額(保険会社が支払う保険金の限度額をいいます。)は、火災保険の30~50%の範囲内で自由に決められます。ただし、建物は5,000万円、家財は1,000万円が上限です。
地震保険の保険料は、保険対象の建物の構造や所在地によって決められています。地震の発生確率は地域によって差があり、人口分布や建物の強度により被害の程度も異なるためです。
表:契約金額1,000万円あたりの年間保険料(割引適用なし)の例
出典)政府広報オンライン「被災後の生活再建を助けるために。もしものときの備え「地震保険」を。」
北海道と東京都を比較すると、建物が同じイ構造(主として鉄筋、コンクリート造り)であっても、年間保険料は東京都のほうが約3.7倍高くなります。また、同じ東京都でも、ロ構造(主として木造)はイ構造より約1.5倍高くなっています。
地震保険の保険期間は短期契約(1年未満)、1年契約および長期契約(2~5年)があります。長期契約の保険料は、前述の年間保険料に対して以下の長期係数を乗じて算出する仕組みです。
期間 | 係数 |
---|---|
2年 | 1.90 |
3年 | 2.85 |
4年 | 3.75 |
5年 | 4.70 |
仮に1年間の保険料が1万円の場合、保険期間5年の一括払いであれば、計算式は「1万円×4.70」となり、4万7,000円が契約金額となります。係数は期間に応じて割り引かれていくので、長期契約にしたほうがお得になる設計になっています。
地震保険には、建物の免震、耐震性能に応じた保険料の割引制度があります。詳細は以下のとおりです。
出典)政府広報オンライン「被災後の生活再建を助けるために。もしものときの備え「地震保険」を。」
保険対象となる住宅が上記割引制度の要件を満たしていれば、保険料の負担軽減が期待できます。ただし、割引制度の適用を受けるには、所定の確認資料を提出する必要があります。また、各割引制度の重複適用は認められません。
支払った地震保険料のうち、一定額は「地震保険料控除」として所得から控除できるため、所得税や住民税の負担が軽減されます。控除額は以下のとおりです。
年間支払保険料の合計 | 控除額 | |
---|---|---|
所得税 | 5万円以下 | 支払金額の全額 |
5万円超 | 一律5万円 | |
住民税 | 5万円以下 | 支払金額×1/2 |
5万円超 | 一律2万5,000円 |
所得税は最高5万円、住民税は最高2万5,000円が所得から控除されます。勤務先の年末調整または確定申告で控除を受けることが可能です。
地震保険の加入を検討する際に、「地震保険は必要ない」という意見を見かけた人もいるのではないでしょうか。その理由は、「保険料に対して被災後に受け取る保険金が小さい」と言われるためです。
確かに、地震保険の契約金額は火災保険の30~50%の範囲内であるため、損害の程度が全損壊であったとしても、同じ家を建て替えるだけの保険金が支払われることはほとんどありません。
加えて、損害の程度が低ければ支払われる保険金も小さくなるので、「保険料を払った割にあまり保険金を受け取れなかった」となる恐れもあります。以上の理由から「地震保険は必要ない」という意見が間違っているとは言い切れません。
結局のところ、地震保険が必要かどうかは、自分が地震によって大きな被害を受けるリスクをどう捉えるか次第です。どちらを選択するとしても、判断は慎重に行いましょう。
地震保険に関連して、「地震による損害を支払い対象とした少額短期保険」を紹介します。この少額短期保険は、本記事で解説した「地震保険」とは別の商品として扱われ、火災保険と一緒に加入する等の制約がありません。
少額短期保険は、地震保険とより保険金の限度額が少なくなるものの、支払う保険料も少なく済みます。「保険料を抑えたいが、何も保険がないのも不安だ」という人は、地震保険には加入せず、少額短期保険に加入するのも選択肢のひとつです。
また、少額短期保険は地震保険と併用も可能です。そうすることで、地震保険の保険金をある程度補うことが期待できます。「備えが地震保険だけでは不十分だ」という人は、併用を検討してもいいでしょう。
ただし、支払った少額短期保険の保険料は所得税の控除対象外です。地震保険と違って税制面でのメリットは享受できないので、注意しましょう。
火災保険のみでは、地震による火災や地盤沈下で建物や家財に被害が出た場合に補償の対象外となってしまいます。日本は地震が多く、過去には巨大地震も発生しています。マイホームなどの不動産を購入する際は、火災保険に地震保険を付帯しておき、あらかじめリスクに備えておきましょう。
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