公開日:2024.08.07
公共事業のために土地が必要な場合、その事業の施行者である起業者から立ち退きを求められることがあります。補償などで合意できない場合は、土地収用法による手続きが行われ、最終的には、土地を明け渡さなくてはならない場合がほとんどです。
この記事では、土地収用法の概要や手続きの流れ、補償内容について解説します。
土地収用法とは、土地を収用するための要件や手続き、損失の補償などを規定した法律です。公共の利益と私有財産の調整を図ることを目的としています。収用とは、国や地方公共団体などの起業者が、公共事業のために必要となる土地などを土地収用法に定められた手続きに基づいて取得することです。
公共事業のために土地を取得する場合、通常は起業者が土地所有者と話し合い、契約を締結してその土地を取得します。これを任意交渉といいます。
しかし、補償内容や土地の所有権などに関する話し合いがうまくいかず、同意が得られないこともあります。その場合、起業者が土地収用法に基づく手続きをすることで、土地の取得が可能になります。
出典)
・福島県収用委員会「土地収用のあらまし」
・徳島県「収用」って何ですか?」
土地の所有者に立ち退きを要求する前に、施行者は「事業認定手続」と「収用裁決手続」の2つの手続きを行います。
事業認定手続とは、国土交通大臣または知事が、起業者から申請された事業に公益性があるかを判断する手続きです。申請事業が認定されると、起業者は土地を収用する権利が付与されます。
収用裁決手続とは、収用委員会が土地所有者に対する補償金の額、起業者が土地の権利を取得する時期、土地所有者が土地を明け渡す期限を裁決する手続きです。
収用委員会とは、土地収用法に基づいて各都道府県に置かれている行政委員会です。知事から独立し、公正中立な立場で審理や調査を行って裁決を下す権限を付与されています。収用裁決手続の流れは以下のとおりです。
起業者が、収用委員会に対して裁決申請と明渡裁決申立てを行います。裁決申請は土地の所有権などを取得するため、明渡裁決申立ては土地にある建物を移転させて、土地の明け渡しを求めるために行われるものです。
収用委員会は申請書や申立書の内容が法令に適合していれば受理し、審理において起業者や土地所有者、関係人の意見を聞きます。明らかになった争点を整理し、必要な調査・検討を行ったうえで裁決を行います。
権利取得裁決の裁決事項は、「収用する土地の区域」「土地に関する損失の補償」「権利取得の時期」の3つです。権利取得裁決により、起業者は権利取得の時期までに補償金を支払い、土地の所有権を取得します。
一方、明渡裁決の裁決事項は、「明け渡すべき土地の区域」「明渡しに関する損失の補償」「明渡しの期限」の3つです。明渡裁決により、起業者は明渡し期限までに補償金を支払います。権利者は土地にある建物を移転し、期限までに土地を明け渡す必要があります。
土地収用の補償は、「土地に関する補償」と「明渡しに関する補償」の2つに分けられます。
土地に関する補償には次のようなものがあります。
土地補償 | 収用する土地の対価に当たる補償。 補償金の額は近傍の類似した土地の取引価格などを考慮して算定する。 |
借地権などの権利消滅補償 | 収用により所有権以外の権利は消滅するため、その権利に対する額が補償される。 補償金の額は権利の取引価格や契約内容などを考慮して算定する。 |
残地補償 | 土地収用によって残地が生じたとき、利用価値の低下によって 損失が生じる場合は元の価格との差額が補償される。 |
金銭による補償が原則ですが、替地の取得が難しく、これまでの生活が維持できないなど特別な事情がある場合に限り、替地による補償が認められます。
明渡しに関する補償には次のようなものがあります。
建物補償 | 建物を移転するための費用 |
工作物補償 | 塀、門扉など建物以外の物件を移転するための費用 |
立竹木補償 | 庭木などの樹木を移植するための費用 |
動産移転補償 | 引越しに要する費用 |
借家人補償 | 建物の賃借人が家主との契約関係を続けるのが難しい場合に、 同種同等の建物を賃借するのに必要な費用 |
営業休止補償 | 営業休止期間中の収益減少額などの費用 |
仮住居補償 | 建物の居住者がいる場合、仮住居に必要な費用 |
家賃減収補償 | 建物の家主が賃貸していて、移転期間中に得ることができない賃料などの費用 |
移転雑費補償 | 新たに土地を取得し、建物を移転する場合、移転先の選定に必要な費用 |
収用する土地に建物がある場合、通常は移転するための費用が補償されます。ただし、事業認定後に建物を新築・増築した場合は、原則として損失の補償を請求することはできません。
起業者から明け渡しを求められた場合、権利取得裁決前の交渉段階であれば拒否できます。「補償金の額に納得がいかない」など、受け入れられない理由があるなら拒否することも可能です。しかし、拒否し続けても、権利取得裁決および明渡裁決後は強制的に明け渡しとなります。
補償内容に異議がある場合、基本的には裁決前に交渉しなければなりません。ただし、裁決後も裁決書の正本の送達を受けてから6か月以内であれば、裁判所へ損失の補償に関する訴えを提起できます。その際、訴訟の相手方は起業者となります。
土地収用を求められた際には、補償金額などの交渉ができる場合もあるので、弁護士などの専門家に相談しておくと安心です。
公共事業のために立ち退きを求められた場合、交渉段階であれば拒否できます。しかし、収用委員会による裁決が行われると、最終的には土地を明け渡さなくてはなりません。起業者から立ち退きの交渉があった場合は、土地収用の手続きを見据えたうえで、どのように対応するかを検討しましょう。
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