筆界特定制度とは?活用できる場面や申請の流れ、費用を解説

公開日:2023.09.06

筆界特定制度は、法務省が管轄する制度の一つです。本制度が定められるまで、土地の境界に関する紛争が起きた際、従来は裁判で解決するしかありませんでした。しかし、「筆界特定制度」を利用することで、裁判をしなくても問題を解決できる可能性があります。

この記事では、筆界特定制度の概要や活用できる場面、申請の流れなどを解説します。

筆界特定制度とは

筆界特定制度とは 、土地所有者の申請に基づいて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、筆界特定登記官が筆界についての判断を迅速に示せます。

筆界特定制度は裁判手続きによることなく、筆界をめぐる紛争の予防、早期の解決のために制定されました。また、当事者にとっても、臨時に対する訴えをすることなく、行政に職権で必要な調査を行ってもらえます。

筆界・所有権界・境界の違い

筆界特定制度への理解を深めるために、用語の意味を整理しておきましょう。

  • 筆界:土地が登記されたときにその土地の範囲を区画するものとして定められた線
  • 所有権界:土地所有者の権利が及ぶ範囲を画する線
  • 境界:筆界または所有権界と同じ意味で用いられる言葉

・筆界と所有権界

筆界と所有権界

出典)政府広報オンライン「土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る「筆界特定制度」」

筆界は、土地の所有者同士の合意によって変更することができません。一方で、所有権界は自由に移動させることができます。通常、筆界と所有権界は一致しますが、「土地の一部を売買・贈与した」「時効によって所有権を取得した」などの理由で一致しないことがあります。

筆界特定が必要になる場面

筆界特定は、以下のような場面で必要になります。

  • 土地の境界で隣人と揉めたとき
  • 筆界がはっきりわからないとき

例えば、隣人との間で土地の境界の認識が異なり「ブロック塀が越境している」と言われて揉めてしまう場合などが考えられます。また、土地を売却する際、売主はその土地の筆界を明示しなくてはなりません。そのため、売却を検討している土地の筆界がわからない場合にも、筆界特定が必要です。

筆界特定制度のメリット

裁判は判断が示されるまでに約2年かかるのに対し、筆界特定制度を利用すれば、半年~1年と短い期間で判断が示されます。ただし、問題の内容が複雑な場合は、判断までに長期間を要する場合もあります。

公的機関が専門家の意見を踏まえて判断するため、証拠価値が高いのもメリットです。また、相手が話し合いに応じてくれなくても、一方の土地所有者だけで申請でき、裁判なしで土地の筆界を明らかにすることができます。

筆界特定制度の利用の流れ

筆界特定制度を利用する場合、全体の流れは以下のとおりです。

  1. 法務局へ筆界特定を申請
  2. 法務局の筆界特定登記官による審査
  3. 筆界調査委員による調査
  4. 筆界調査委員による意見の提出
  5. 筆界特定登記官による筆界特定

筆界調査委員は、土地家屋調査士や弁護士などの専門家から任命されます。周辺の実地調査や測量などを行い、筆界に関する意見を筆界特定登記官へ提出します。

申請人や関係人は、筆界特定の前に筆界特定登記官に対して意見や資料提出が可能です。また、筆界調査委員の実地調査に立ち会う機会も付与されます。

筆界特定制度の申請却下事由

筆界特定を法務局に申請するにあたり、「申請が却下されたらどうしよう」と不安になる人もいるかもしれません。却下事由は不動産登記法第132条にて明記されており、大まかに要約すると以下の内容です。

  1. 筆界特定を行う土地が申請した法務局の管轄外であった
  2. 申請者が筆界特定を申請する権限を持たないものであった
  3. 申請情報(申請者に関する情報、筆界特定の目的など)の記載に不備があった
  4. 申請した土地の境界が既に筆界特定もしくは民事訴訟によって確定されていた
  5. 手数料等の納付が行われなかった

出典)e-Gov法令検索「不動産登記法」

もし申請に不備があった場合でも、不備が補正可能なものであれば一定の期間内に補正を行うことで、再申請が可能です。

申請が却下された件数

参考までに、実際に申請が却下された件数についての統計データを見てみましょう。法務局が公表している統計によると、各年の処理がなされた申請のうち、却下された申請の割合は以下のとおりです。

・却下された申請の割合

却下された筆界特定制度申請の割合

出典)e-Stat(法務局及び地方法務局管内別 筆界特定事件の受理,既済及び未済件数 )

この結果から、却下された割合は減少傾向にあり、割合としては100人に1人未満と、かなり少ないことが分かります。全体の件数でいうと、処理がなされた申請の年平均件数が約2,483件に対し、却下された件数が約63件です。

却下されている件数も少なく、万が一却下されても基本的には再申請が可能なので、安心して手続きを進めましょう。

筆界特定制度の利用にかかる費用

筆界特定制度を利用する際は、土地の価格に応じて「申請手数料」がかかります。

・筆界特定申請手数料の一覧

筆界特定申請手数料の一覧

出典)政府広報オンライン「土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る「筆界特定制度」」

土地の合計価格は、固定資産課税台帳に登録された土地の価格に基づいて算出します。例えば、対象土地(2筆)の合計価格が5,000万円の場合、申請手数料は9,600円です。

また、現地調査で測量が必要な場合は、申請手数料とは別に測量費用を負担する必要があります。測量費用は一律ではなく、個別の事案によって変わってきますが、数十万円程度が目安です。

筆界特定制度を利用しても解決できない場合

筆界特定制度の利用によって筆界が明らかになっても、所有権界をめぐる境界トラブルを解決できない場合があります。例えば、所有者でない人が土地の一部を長年利用し、時効によって所有権を取得している場合は、筆界と所有権界が一致しません。

筆界と所有権界が異なる土地について、所有権の範囲を明らかにするには「土地家屋調査士会ADR(境界問題相談センター)」を利用すると良いでしょう。

・筆界特定制度と土地家屋調査士会ADRの比較

筆界特定制度と土地家屋調査士会ADRの比較

出典)政府広報オンライン「土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る「筆界特定制度」」

土地家屋調査士会ADRは、各地の土地家屋調査士会が運営している制度です。土地家屋調査士と弁護士が調停人として、当事者間の話し合いをサポートしてくれます。裁判のような強制力はありませんが、和解契約書の履行という法的効力が付与されます。状況に応じて、最寄りの土地家屋調査士会ADRに相談してみましょう。

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まとめ

土地の境界をめぐって隣人と揉めてしまった場合、筆界特定制度を利用すれば裁判なしで問題を解決できる可能性があります。境界トラブルで困ったら、最寄りの法務局・地方法務局に相談してみましょう。

執筆者紹介

「住まいとお金の知恵袋」編集部
金融や不動産に関する基本的な知識から、ローンの審査や利用する際のポイントなどの専門的な情報までわかりやすく解説しています。宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、各種FP資格を持ったメンバーが執筆、監修を行っています。

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