公開日:2022.06.01
生産緑地は、良好な生活環境を確保するために自治体が指定する農地です。生産緑地には「2022年問題」があり、今後の不動産価格に影響を与える可能性があります。住宅や賃貸不動産などの売買を検討している場合は、生産緑地について理解しておくことが大切です。
この記事では、生産緑地の制度概要やメリット・デメリット、2022年問題について詳しく解説します。
生産緑地とは、1992年の改正生産緑地法によって制定された農地のことです。無秩序な開発によって緑地が減少すると、住環境の悪化や土地機能の低下、災害発生などの恐れがあります。
そのため、良好な生活環境の確保に効用がある農地を「生産緑地地区」として都市計画に定め、都市部にある農地の計画的な保全を図っています。生産緑地には固定資産税などの税制優遇がある一方で、土地利用にさまざまな規制が設けられています。
国土交通省の調査によれば、2020年3月31日現在、全国の生産緑地は12,332.3haです。その半分以上を関東が占めており、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)や愛知、大阪といった都市部に集中しています。
出典)国土交通省「令和2年都市計画現況調査(生産緑地地区)」
市街化区域内にある農地で、以下3つの要件に当てはまるものを生産緑地に指定できます。
自治体が都市計画を決定し、生産緑地地区を定めます。
生産緑地のメリットは以下のとおりです。
生産緑地に指定されると、固定資産税が軽減されます。固定資産税における農地区分は以下4つで、評価方法や課税方法が異なります。
農地区分 | 評価方法 | 課税方法 | |
---|---|---|---|
一般農地 | 農地評価 | 農地課税 | |
市街化区域農地 | 生産緑地地区農地 | 農地評価 | 農地課税 |
一般市街化区域農地 | 宅地並評価 | 農地に準じた課税 | |
特定市街化区域農地 | 宅地並評価 | 宅地並課税 |
生産緑地は、固定資産税の評価や課税の取り扱いは一般農地と同様です。農林水産省の資料によれば、10aあたりの税額は一般市街化区域農地が数万円、特定市街化区域農地が数十万円であるのに対し、生産緑地は数千円に抑えられています。
農業を営んでいた者から生産緑地を相続し、その生産緑地で農業を続ける場合は相続税の納税が猶予されます。亡くなるまで一生農業を続けた場合は、猶予されていた相続税は免除となります。
ただし、あくまでも猶予である点に注意が必要です。「途中で農業をやめる」など納税猶予の要件を満たさなくなると、猶予されていた相続税に加えて、猶予期間に応じた利子税を納めなくてはなりません。
生産緑地には以下のようなデメリットもあります。
生産緑地に指定されると、30年間の営農義務が生じます。長期にわたって継続的に、農地として維持管理を行わなくてはなりません。また、生産緑地であることがわかるように掲示する必要もあります。
指定から30年経過後または主たる従事者の死亡・身体故障が生じた場合は、自治体に対して買取り申出が可能です。
生産緑地には行為の制限があり、建物の増改築や宅地の造成、土石の採取などを自由に行うことはできません。「公共施設の設置・管理に係る行為」「非常災害のために必要な行為」といった例外はありますが、基本的には自治体の許可が必要になります。
無断で開発行為をすると生産緑地の指定が取り消され、税制優遇を受けられなくなる恐れがあります。
生産緑地の2022年問題とは、大量の生産緑地が2022年に指定解除されることで地価暴落の可能性があることです。
現在の生産緑地は1992年に一斉に指定されており、2022年に約8割の生産緑地が指定から30年を経過します。指定解除された生産緑地が宅地化されて大量に供給されることにより、地価暴落の発生が懸念されています。
ただし、この2022年問題に対応するため、2017年に生産緑地法は改正されています。主な改正内容は以下のとおりです。
面積要件引き下げにより、これまで要件を満たさなかった小規模農地も生産緑地に指定可能となりました。また、一定の要件を満たす販売施設や農家レストランの設置も認められます。この法改正により、農地所有者の営農意欲や収益性の向上が期待できます。
所有者の意向をもとに、自治体が「特定生産緑地」として指定できる制度も導入されました。特定生産緑地に指定されると、買取り申出ができる期間が10年延期されます。10年経過後は、あらためて所有者の同意を得たうえで繰り返し10年の延長が可能です。
上記の対応により、2022年問題の影響緩和が期待できます。2022年4月時点で地価暴落は発生していませんが、今後の不動産価格の動向を注視する必要はあるでしょう。
出典)国土交通省 生産緑地制度
生産緑地は税制優遇措置を受けられる一方で、30年間の営農義務や行為の制限が課されています。法改正により2022年問題の影響緩和が期待できますが、不動産価格への影響は不透明な部分もあります。不動産を売買する予定がある場合は、不動産価格の動向を確認しておきましょう。
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